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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第八章 グラマダ動乱
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第197話 大氾濫、最後の戦い①

 


 降り注ぐ光の粒子は夏に振る雪のように幻想的であり人々の目を奪う。それは染み込むようにグラマダ中の人間たちの体へと吸い込まれていった。




「熱い! 目が、目がぁぁぁぁぁ!」


「ジェリンド!? どうしたんだい!」


 視力を失った片目を押さえて悶えるジェリンドをナイナが気遣わしげに支える。一頻りのた打ち回った後息を荒くしながら恐る恐る左手を離した。


 するとどうだろう。ジェリンドの顎から額にかけての傷跡は綺麗さっぱり消え去り光を失っていたはずの左目は元のように視力が回復していた。


 担ぎ込まれていた周りの冒険者たちも同様である。手首から切断されていたもの、片足を失い化膿していたもの、内臓を傷つけられ余命幾ばくもないと思われていたもの、全てが一様に起き上がり自らの肉体の変化に驚いていた。


「こ、これは一体!?」


 あまりのことについていけず辺りを見回しながら怪訝な表情を浮かべるナイナ。治療に当たっていたものたちも同様で目の前で起きた奇跡とも言える状況に言葉を無くす。


「こ、こいつは……」


「はっ、ジェリンド。大丈夫なのかい!?」


「ああ、大丈夫だ、ナイナ。こいつはきっとあの女神様の起こした奇跡ってやつなんだろうさ」


「さっきのあれかい? でもなんでそれだと分かるのさ?」


 少しだけ複雑そうな顔をしつつ身に起こったことを話し出す。


「傷が癒えていくときの熱でうろ覚えの中、一つだけはっきりと覚えていることがあるんだ。なんとも小気味いい笑顔を浮かべた女神がグッっと親指を立てて右手を突き出していた。何を言ってるかわからねぇと思うが本当のことだ。なんとも言えない祝福を味わった気分だぜ」


 嬉しいような苦虫を噛み潰したようななんともいえぬ表情を浮かべるジェリンド。


 その後も街中で歓喜の声が次々とあがる。傷を半ば強制的に癒された皆々が一様にいい笑顔を浮かべサムズアップしながらドヤっとする女神を見たことから『レベリットの奇跡』と後世まで語られることになる出来事であった。







 それは普人族、亜人関係なく癒しの奇跡を与える。


 傷つき槍を持つことが叶わなかったセフィロトの周りには他の面々の3倍ほどの光が集まり周りの皆を驚かせていた。


「セフィお姉様、これは!?」


 それは念入りに念入りに染み込みセフィロトの傷を癒していく。


「うふふ、この暖かい光はきっとノブちゃんねぇ。あら、あらあら、両手の自由が戻ったみたい」


 三つ又のやりを持ち立ち上がったセフィロトはその姿を再び人のものへと戻すとまわりの皆へと激を飛ばした。


「さ! ノブちゃんが来たならきっとなんとかなるわぁ。私たちはこのまま近寄る魔物を倒しちゃいましょ」


「「「「「「「はいっ」」」」」」」


 従業員一同その言葉に強く頷く。彼女らに和泉屋の大黒柱が帰ってきたことを疑う余地はない。なぜならばセフィロトをこんな少女のような笑顔にするのはあの人をおいていないのだから。



 そんなセフィロトの下にすいーっと飛んでいく小さな影。その顔の前でホバリングをしながらふるふると震えている。セフィロトはそれにうんうんと頷いていた。


「うん、そうねぇ。ありがと、ここはもう大丈夫だからノブちゃんを助けに行って。お願いねぇ」


 ふるるんと一震えしたのちにシュオンと目にも留まらぬ速度で東門へと向けて飛び去るタマちゃん。まるで未確認飛行物体のようである。








 怪我を押して剣を手に取りカイルとルイスも街中を移動しながら転戦していた。カイルの動きに以前のキレはなく闘気も使えなくなっていたのだが不足分を補うようにルイスが動くことで耐え凌いでいた。


 そこへ降り注ぐ光の粒子。突然のことに驚き飛び上がるカイル。


「うおあ!?」


「カ、カイル!?」


「やべえ、なんか体調が一気に回復した気がする……」


「そ、そうなの!? 良かった、良かったね。きっと神様の奇跡だよ」


「そ、そうだな」


 涙を浮かべて喜ぶルイスには言えない。口元を押さえながら私は全部知っているのよと言わんばかりに近所のおばちゃんのような笑みでニヤリとする女神の姿が脳裏に浮かんだなどとは。なんとなくだがきっとあいつ関連なんだろうなと軽い溜め息をつきつつも体をなんとかして貰った事には感謝していた。少々、あとが怖い気もするが。


「いよっし! さっさとこいつらを殲滅してルイスとイチャコラするか!」


「ちょ!? そんなこと大きな声で言わないの!」


 カイルの口を両手で押さえながら慌てふためくルイス。完全に戦闘中だということを忘れている二人であった。







 ◆◆◆







 空間把握を展開したままだった俺は皆が回復する様をリアルタイムで受信していた。それだけに首を傾げる事態に陥っている。『駄女神の気まぐれ(ディバイン)癒しフルコース(ヒール)』に組み込んだのは各種状態異常回復とハイヒールにエリアヒールだけ。リジェネーションまでは追加していないはずなのになんで部位再生してるんだ?


 リジェネーションは今の俺では自分の体以外は直接触れた相手じゃないと効果がでないはずなんだがな。駄女神め何だかんだいいながら手を貸してるんじゃないか……。ふん、今度のお供えにはデリシャスフルーツパフェとデラックスミックスフライ定食をおまけしてやろう。



 それとカイルよ。イチャコラしてんの全部把握してますからー。騒動が終わったら以前俺のことをいじり回してくれた分、きっちりと仕返ししてやろうぞ、くくく。



 眼下では癒された連中が泣いたり感動に打ち震えていたりと忙しい。なにぶんおっさんの比率が高いので非常にもっさいけども。フツノさんとカグラさんがいたのでグっとサムズアップしておいたら二人も同じくやり返してくれた。うむ、いいノリである。


 すいーん


 おお、タマちゃんじゃないか。

 肩の上に乗り久々にふるふるしているタマちゃん。

 久しぶりのその姿は非常にぷるるんとしており思わず頬ずりしたくなる。つんつんと指先でつつけばここが戦場だということを忘れてしまうね。いや、忘れちゃ駄目なんだけどさ。





 そんな事をしている中でもドボンドボンと魔物たちはマグマに飲まれていく。『真・龍神池(マグマポンド)』を発動してから既に3時間ほどが経過していた。


 ノブサダさんの隠しトラップその2。グラビトンも組み込んであるので空中の敵も飲み込まれるように落下していくのだ。その3は魔物側にだけアトラクションの効果を発揮させている。そうまるで吸引力の変わらない素敵掃除機のようだね。あれは高いけれどそれだけの価値はある。あれを参考に今度掃除用の魔法を作ろうか。おっといけないそれよりも戦場だ。


 数すら数えていないが千や二千ほどは殺っただろうか? そらそうだ。阻むものも無くただただフライインザスカイのちマグマへとダイビングするだけだもの、殲滅速度は折り紙つきである。視線を彼方へ向ければそろそろ打ち止めだろうか。群れは疎らになりつつあった。


 そういえばマグマの中に魂石だけは溶けずに残っていた。あれって魔法などで加工することが可能なのに素のままだと異常に丈夫なんだよね。材質なども不明だしまさにファンタジーの産物だ。取りあえず勿体無いので『物質転移』を使って回収し次元収納へとダイレクトインしてある。あとで復興などの支援に差し出したり使い道は色々あるだろう。


 それと様子を見つつミタマやセフィさんたちの状況も空間把握で確認していたが皆の無事は確認してある。愛する奥様たちには念入りに癒しの光を送り込んであるので怪我をしていても完治しているはずだ。












 ん?










 なんだ? なんか……でかいのが来る!?


 ズシン!


 メキメキと森を踏み潰しそれはやってきた。


 収縮と隆起を繰り返しながらズリズリと進んでくる。道行く先にいる魔物を潰し取り込みながら。


 その姿はまさに異形。


 流動を繰り返す崩れた肉の塊。むき出しの筋組織らしきものやそこから破れ出る粘液状のものは見るものに嫌悪感を与えるだろう。それは腐っているかのような悪臭を放ち地面へと落ちればジュワっと溶かして抉る。


 フレッシュゴーレムかなんかになるのか? どちらかといえば進撃するあれか早すぎたあいつみたいだが……。


 だが少なくとも間違いなく寄生粘菌絡みだっていうのは分かる。さっきから体から生えた触手みたいなのが逃げ惑う魔物を取り込んで捕食しているし。よし、俺の中での呼称は『巨菌兵』で決定。とりあえず敵情調査だ。レベルの上がった識別先生、よろしくお願いしますよ。



 名前:『巨菌兵』 Lv78

 HP:12,200/13,200 MP:666/666

 寄生粘菌レベルメタフィアが数多の魔物を取り込み圧縮融合した塊。


  【スキル】

  触手 捕食 融合 分離 溶解 魔力吸収 破壊光線


  【固有スキル】

  ????の加護



 色々とやばーい! なんだ破壊光線って! まんますぎるだろう。


 オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛


 腹の底から震えがくるような重低音の叫び声がビリビリと空気を揺らす。口を大きく開いた中に光球が浮かび上がる。バチンバチンと魔力が集まりだし否応にも嫌な予感が背筋を襲いまくった。


「『リパルション』十三連!」


 慌ててリパルションを多重展開。層の間には干渉帯として結界も挟み込む。受け止めようとせずにいなして受け流すんだ!


 Powwwwwwww


 少しだけ気の抜けるような音と共に閃光が走る。『巨菌兵』から撃ち出された極太なビームは一直線にグラマダ目指して突き進んだ。


 ぐにん


 グラマダ手前の何も無い空間にてまるで滑るようにビームの角度が曲がり空へと向かっていった。


 ビームに圧力があるんだかないんだかは学の無い俺には分からないがガリガリと俺の作り出した斥力の障壁が削られていくのだけはよく分かる。削れた分を再構築しながら踏ん張って耐えるしかない。でも傍から見れば両手を挙げて一人でパントマイムをしているようにしか見えないだろう。非常に滑稽ではあるが俺としては至極真面目に防衛してるんだよ?


 ものの数十秒ほどの照射時間ではあるもののとんでもない迫力に後方で待機する街の皆も腰を抜かしていた。中には水溜りを作ってしまった人もいる。何も知らないでその場にいたのならそうなっても仕方ない。俺だって同じ立場なら上下から色々な液体を撒き散らしていたと思うよ。そらそうだ。あんなものが直撃したら一瞬で蒸発しちゃうだろうさ。

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