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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第一章 ノブサダ大地に立つ
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第21話 ド根性ノブサダ

本日2話目! キリがいいとこまで書きたかった!


 ここは『ソロモン亭』の入り口前の道。


 そんな人通りがある道で俺は今、チンピラっぽい冒険者と対峙している。相手は明らかに格上。だが、挑発したことを後悔はしていない。けもっ娘を見捨てるほど人間腐ってないです。

 周りには野次馬が集まり俺らをぐるっと囲んでいる。


 ――さぁ、盛り上がってきた! どっちに賭ける? オッズは今のところ1分持つが一番人気だ!! 次いで3分持つ、大穴で引き分けるだぜ!


 おいおい、賭け事に使うなよ。しかも、引き分けですら大穴かい。


「覚悟はいいかクソガキィ。公開処刑だぜ、くはは。人間サンドバックにしてやらぁ」


 うわぁ、趣味悪。舌なめずりしてるよ。

 今の内にファーストクラスを戦士に戻しておこう。少しでも勝率を上げる為だ。

 目の前のこのギアンの連れであるパーティメンバーは俺が逃げないようになのか四方を囲んでいる。


 ちなみに今、俺は鉄蟻の胴当てを着けていない。食事だからとはずしていたんだよ。まいったね。幸いにして小手と脚絆はつけたままなんで最悪ではないけど。

 魔力はすでに満タンになっているので薄く破れ難いコ○ドーさんのように魔力纏を練り上げる。

 そういえば魔力の回復がやたらと早いような気もするが他の人はどうなんだろうね。

 おっと考え事している場合じゃないな。こいつの動きに集中しないと。


「何ぼーっとしてやがる。今生への別れは済んだかぁ。いくぞおらぁ」


 空手のような構えから右ストレートを放ってくる。やば、速いぞ!?

 出来ることなら捌きたかったが間に合わない。小手を使って何とか受ける。


 ドゴォ


 いっつぅぅぅぅぅ。ガード越しにもずしんと響いてくる一撃。

 これが本職の拳士か。


「おらおらぁ、次々いくぞぉ。縮こまってんじゃねぇぞ、こらぁ」


 右、左、右とコンビネーションを絡めて攻め立ててくるギアン。

 一発は捌くも二発目はガードの上から三発目に至ってはもろに顔面へとヒットした。

 思わずのけぞり一瞬意識が飛びそうになる。

 そして時間差でずしんと痛みが襲い掛かる。左頬がじんじんと鈍い痛みを訴えていた。


 くそぅ、まったく動きについていけない。なんというか空手家とボクサーが混じったような動きだ。そもそも、俺は格闘技にそんな詳しいわけじゃないからどう対応するかってのもまだ考えつかない。

 とりあえずガードを固めて相手の動きを観察する。


「くははは、どうした。さっきまでの威勢はどうしたよ。亀のように縮こまってよぉ」


 ビッシビシと小手越しに痛みが押し寄せる。そもそもこいつこんだけ小手に打ち込んでるのに平気なんだ?

 そんな疑問を抱きつつも反撃の機会を窺いながら相手のテンポを計る。


「おらぁ、こいつでおねんねしなぁ!」


 ついにノブサダの手がだらりと下がり止めとばかりにギアンが大振りの一撃を見舞う。

 その右ストレートはノブサダの顔面を再び捉えた。


 その時、顔に向かって伸びていた右腕をノブサダの両手が押さえつけた。


「な、なにぃ!?」


 そのまま懐へともぐりこむように背を向け担ぎ上げるように跳び上がる。

 ギアンの視界がぐるんと回転した。外から見ればきれいな円を描いていたことだろう。

 そして、ズダァァァァァンと大きな音をたて地面へと叩きつけられる。次いで、ノブサダの体が圧し掛かった。


「がはぁっ!」


 肺が圧迫されたのか思い切り悶絶するギアン。


 周りのギャラリーもこの展開に驚いたのか歓声があがる。

 すでに戦闘開始から5分以上経過しておりすでに残っている賭けの対象は引き分けのみだった。

 負けが確定している者もその勝負に見入っていた。なにせDランク対Fランクである。ここまで粘るとはほぼ思われていなかったのだ。




 サンキュー、親友。体育の授業中にお遊びでやった『柔道垂直線ごっこ』が役に立つとは思わなかったよ。


 口の周りにべたりとついた血を袖で拭き取りつつノブサダは立ち上がって距離をとった。

 のそりとギアンも立ち上がる。

 ビキビキと額に青筋が浮き上がっているのが視認できるほど怒り狂っているのがわかる。


「殺す殺スコロスコロス」



 あちゃあ、火に油を注ぐとはこの事か。






 ◇◇◇






「よし、カイルよ。今日はよく頑張ったな。久々に儂が飯を奢ってやろう」


「あ、ありがとうございます。総隊長」

(か、帰りたい……)


 引きつった笑顔を浮かべながらカイルは頷くしかなかった。


「ん? なんじゃ。随分と通りが騒がしいようじゃな」


 マトゥダが見据える先には結構な人垣が出来ている。


「なんすかね? あれ? あいつはノブサダ!? なにやってんだあいつ」


 カイルが背伸びして見た先にはボコボコに腫れ上がった顔のノブサダが立っていた。


 バキィィィ


 相手をしている男の放った一撃がクリーンヒットしてノブサダが後方へ吹き飛ばされる。

 これで終わりかと思えるような有様だったがそれは覆された。

 のっそりと緩慢な動きではあるがノブサダは起き上がった。まるで幽鬼のようにゆらりゆらりと体を揺らしながらも戦闘態勢をとる。

 相手取る男も攻め立てているはずなのにその顔は青ざめていた。


「お、おい。これは一体なんの騒ぎなんだ!?」


 周囲の一人に詰め寄るカイル。


「あ、ああ、中の食堂であのギアンってのが給仕の一人に絡んでいるところをあの若いのが間に入ってな。その矛先があいつに向いて外で果し合いになったんだよ。なんせDランクの拳士とFランクの新人だろう? 始めは何分持つかって予想だったんだがもう開始から20分は経っているな。あの若いのが一度反撃したんだがそこからギアンがキレてボコボコだよ。だが、それでも勝負が決まらないのはあいつが何度も立ち上がってくるからさ」


 確かにあいつはしぶとかったがこれほどまでとは思ってもいなかった。

 カイルの背筋にヒヤッと汗が伝う。

 だが、なんでこんなにもしぶといんだ? とっくに気絶しててもおかしくない状態である。


「カイルよ、なんでノブサダが立ち上がれているか分かるか?」


 マトゥダはカイルへと問いかける。


「わ、分からないです。俺だったら……たぶんあっさり意識を手放していると思います」


「よっく見てみろ。あやつの体の表面。うっすらとだがぼんやりと光っておるだろう。あれは魔力を纏っているな。お前との模擬戦のときもやっとったぞ? それとこれは意識しているのか分からんがヒールも同時に使っておるようじゃな」


 なんと!? 言われてみれば本当にうっすらとだが光って見えなくもない。だが、言われなければ、それもこの暗がりだからこそ見えるレベルだと思った。それを至極あっさり見抜くんだから堪らんなぁ、この人は。


「だが、なんにせよそろそろ限界じゃろう。さて、儂らのやるべきことはわかるな?」


 そういってニカリと白い歯を光らせる総隊長がいた。なんでだろう、いい予感が少しもしない……。






 ◆◆◆






「くそっ手前はいったいなんなんだ!? なんだってこんなに起き上がってきやがる!」


 倒しても倒しても起き上がるノブサダにもはや化物でも見るような目つきのギアン。


 ノブサダの上半身は殴られていないところがないんじゃないかというくらい打ち込まれていた。ギアンの拳からも血が滲んでおりどれほど殴ったか分からない。本来ならば何本もの骨が折れ生死に関わる怪我を負っているのかもしれない。


 すっかり腫れ上がった両目の奥でその瞳だけが前を見据えていた。


「お前がぁ! ケダモノ風情と罵ったからだぁ! 獣人族だからなんだ! ひたむきに働いて美味しい物を提供してくれてる! 普人族に生まれたからといってそれを貶めて罵る資格があるのかよ! だから俺は絶対に倒れない! お前が彼女らを否定するなら俺がお前を全否定してやるよ!!」


 ノブサダの言葉に周りで騒いでいたギャラリーも一瞬言葉に詰まる。彼らの大半は普人族。多少なりとも獣人など普人族以外の種族に対して見下す視線を向けていた者もいるからだ。


 そんなしんと静まったところに怒号が降りかかった。


「馬っっっっっ鹿もぉぉぉぉぉん!! 天下の往来で何をしとるか貴様らぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 鼓膜にビリビリと響く大音量で叱り声が響き渡る。


「げぇ、あれは戦拳か!?」


 ギャラリーの一人がマトゥダを見て慄く。

 それが合図になったかのように周囲の連中はササーっと蜘蛛の子を散らすように去っていった。

 その場に残るのはノブサダ、ギアンとそのパーティ、うさ耳の女給、ミネルバ、マトゥダとカイルだけとなる。


「そこの! まだやる気か?」


 マトゥダがギアンへ向け問う。

 ギアンはおさまりの悪そうな顔で舌打ちをした。


「ちっ、やってられるか! お前らいくぞ!」


 背を向けて歩き出すギアン。慌ててパーティメンバーもそれについていった。


「くそっ、気持ち悪りぃ。何度も骨をへし折った感触があるってのに起き上がってきやがって。なんなんだアイツは、くそっくそっくそっ」


 そんな呻きのような声をマトゥダの聴覚は拾っていた。

 そしてノブサダへと向き直る。カイルが駆け寄っているがノブサダはピクリとも動かない。


「総隊長。こいつ立ったまま気絶してますよ? どんだけ負けず嫌いなんだか……」


「お前と模擬戦した時も思ったがなかなか面白い小僧じゃな。鍛えたら思い切り化けるやもしれんの」


 そう言いながらひょいと俵を担ぐかのごとくノブサダを担ぎ上げた。


「ドヌールの娘、ええと、確かミネルバ嬢ちゃんだったかな。こやつの部屋はどこだろうかね?」


「はっ、はい、ただ今案内いたします~」


 ぽつんと残され宿の中へ入っていく皆を見送るカイル。だがその目はちょっとだけ哀れみを向けていた。


「あいつも厄介な人に目をつけられちまったなぁ。あの目、俺を鍛えるときより絶対わくわくしてるぞ」


 ポツリと呟き、溜め息をつきながら宿へ入るカイルであった。



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