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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第八章 グラマダ動乱
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第196話 『光よ、あれ』



 エレノアさんたちと別れてから休憩する間も惜しみ眠気はリポビタマアゲインを服用することで無理矢理押さえ込みつつグラマダへと急行したがなんとか間に合ってよかった。いやはや現地についてみれば押し寄せる魔物に傷だらけの冒険者たちだもの。間に合わなかったんじゃないかと焦った焦った。


 万里の長城もどきを作り上げている間こんなことを考えておりました。毎度、ノブサダです。士気が上がればと思い態々声に出して詠唱しているけれどやっぱり少々恥ずかしいものです。だったらあんな詠唱にしなきゃいいだろうって? いやなんとなくイメージができるもんじゃないとうまく魔法が発動しないんですよ、これが。


 それはともかく対軍隊用に考えていた防衛用魔法をぶっつけ本番で試しましたがうまいこといって良かったですわい。ちなみにこの石壁ただの石じゃない。『地壁補強ダグ』で補強した後、無機物にもかけられるかと試行錯誤していたプロテクション、マナシールドもオマケされている。絶えず魔力消費してないと効果きれるけども。ま、回復量も尋常じゃないので誤差の範囲ですがね。俺の魔力回復量ってどうも他の人と違うみたいで一定の割合で回復するんだがそれは総量から換算されるようでレベルが上がるたびに上昇してるんだよ。


 おっといけない。まずはこの魔物共に対しての手を打ってから色々やるとしようか。先程、行きがけの駄賃でフレアボムを108発ぶちかましたがまだまだ足りないようだしおかわりといこう。


 ストンと地面へと着地した後、魔力を練り上げ詠唱を開始する。


 ――飛べよ大地! 落ちよ綺羅星! 親父の怒りよ全てを押しのけ天より降れ! 全ての悲しみを乗せて!


「『流星卓袱台返し(ブロークン)夕飯時の悲劇(シューティングスター)』!」





 なんてことない日常の一コマ。

 その日、ちゃぶ台の上に並んでいたのは彼の大好物であるマグロの刺身だった。今日は上の姉が帰ってくるからと母親が奮発したのだ。彼は今か今かと姉が帰ってくるのを楽しみにしていた。

 そして時計が18時を回った頃、待望の姉が帰ってきた。


 隣に線の細いメガネの男を連れて。


 姉は言った。


「ただいま。お父さん、紹介したいヒトがいるの」


 彼はその日の光景を忘れない。

 赤身が、中落ちが、滅多に口にできない中トロが。姉のその言葉をきっかけに彼の大好物は宙を舞い無残に飛び散った。昔気質の父親に大きく放り投げられしちゃぶ台と共に。



「そおおおおい!」


 そんな友人の悲しい過去(?)をイメージしながら改良された『流星卓袱台返し(ブロークン)夕飯時の悲劇(シューティングスター)』を発動し東門前の地面を大きく抉り魔物たちの真上へと放り投げる。その大きさたるや体育館ほど。以前のままであれば強化された巨大な土塊がそのまま落下するところだが改良されたこの魔法は細かく分解した土塊(とは言え一つ1メートルほどもある)が雨のように降り注ぐのだ。まさに絨毯爆撃である。


 広範囲に撒き散らされた土塊により叩き潰されるもの、運よく生き残っても土に埋もれて身動きがとれないものが続出していた。


 だがこれで終わりではないのだよ、ワト○ン君。

 なぜUの字に壁を張り巡らせここ東門前だけ開けておいたか。それの謎解きをしようじゃあないか。


 ――城へと通じる悪夢の難関。赤き池よ、全てを飲み込む罠となれ。龍の顎の如く!


「『真・龍神池(マグマポンド)』!」



 魔法が発動すると急激な変化が起こる。あら不思議、先程の『流星卓袱台返し(ブロークン)夕飯時の悲劇(シューティングスター)』で抉り取られた大地の底から真っ赤なマグマがゴボゴボと勢いよく溢れてくるではないか。底は見る見るうちにマグマの池と化した。挑戦者の行く手を阻む難関の如く。尚、渡りきる為の浮島はありませんのであしからず。


 こんな近くにマグマ溜まりができれば以上な熱気に包まれるはずだがそこは調節済みです。それに面白い仕掛けも施してあるしね。


 リパルションを解除すれば堰を切ったかのように魔物たちが再び進行を開始する。それも真っ直ぐにこちらを目指してだ。それはそうだろう。グラマダに入るにはここを目指すしかない。その為にやたらと長い防壁を建造したしここだけ開けておいたんだからさ。


 ドボン ドボン ジュワアアアア


 迫り来る魔物が次々と溶岩の池へと飛び込み餌食となる。奴らには先ほどなど穴など無いまっさらな大地に見えているはずだからだ。結界をスクリーン代わりに幻術をかぶせ3DCGのように見せている。結界は随分と応用が利くようで俺の魔法改変との相性はすこぶる良い。


 それにしてもまさに孔明の罠状態だな。魔物の入れ食いによりどんどん経験値が貯まっていく。折角だからと普段使わないクラスに変更しておいたら先ほどから駄女神のレベルアップアナウンスが五月蝿いくらいだ。ここはこのまま維持しておくとして次の一手を打つとしよう。



 ――あー、駄女神、いやレベリット。真面目な話があるんで至急回線を繋いでくれるか?


 神託のスキルを意識しながら駄女神へのメッセージを思い浮かべる。


『あろーあろー、こちらあなたの愛しき麗しの女神レベリットちゃんですよー♪ どーしましたかノブサダ君。いよいよデレましたか? デレたんですかー?』


 これでもかってくらいニヨニヨした駄女神の顔が脳裏に浮かび思わず即切りしたくなる。落ち着け、俺。後々の事を考えたら必要なことだ。


 ――あー、デレはいいのでお前さんに頼みがある。魔力を肩代わりするんでちょちょいとこの場に降臨してくれるか?


『は?』


 素っ頓狂な声を出すレベリット。そらそうだ。使徒とはいえ出前を取るかのように女神の降臨を求めるなんて不敬の極みと言われても否定はできないわな。


『……一体なにをするつもりですか?』


 いつもの間延びした話し方ではなく少し警戒した語り口。軽いだけの駄女神じゃないようで少し安心してしまうのは日頃のやつの行いのせいであろう。


 ――手短に説明するならピンチに女神の奇跡が起これば宗旨替えとはいかないまでもなぜかやたらと評価の低いお前さんの失地回復になるんじゃないかと思ってな。勿論、奇跡を起こせとは言わん。俺が魔法を行使するときにちょいとそれらしくセリフを言ってくれるだけでいいさ。


 しばし考え込んでいるのかうんともすんとも言わなくなる。


『…………分かりました。ノブサダくんには無理に使徒を引き受けて貰いましたしそれくらいならば姉様たちも過干渉とは言わないと思います』


 ――おーけー、交渉成立だ。あ、今回は威厳が大事なんで正装でよろしく。


『あいあいー。それじゃいつでもどうぞー』


 結局最後は素に戻るか。それでこそあいつだと思っておこう。この間、ほんの数秒たらず。高速化された思考を駄女神との会話に費やすという才能の無駄遣い。いよっし、ほんじゃいっちょやってみっか。


 大げさな身振り手振りを交えながら声を張り上げ厳粛に祝詞をあげる。


「我に加護を授けし女神レベリットよ。我は今あなたに乞い願う。天上よりこの場へと降り立ち奇跡の光を授けたまへ」


 俺の体から魔力が光の粒子となって次々と溢れ出して行く。一粒一粒が圧縮され濃厚な魔力球であった。それはそのまま頭上へと集まり徐々に女神の姿を形どっていく。


 うおお、以前に降臨したときよりも遥かに多く魔力を持っていかれる。腐っていても女神。やっぱり女性の正装は経費がかかるのね。



 誰しもが息を呑みその光景を見つめていた。突如外壁の近くより現れた女神の姿。その姿はグラマダのどこからでも視認できるほど大きく神々しかった。


 でかい。でかいよ、レベリットさん。明らかにやりすぎだっての。さっきまで渋々だったくせに随分とノリノリじゃないか。それに絶対胸盛ってるだろ!


『愛しき子らよ』


 ちぃ、こっちの苦情を無視して始めよった。レベリットの言葉に合わせ俺は大急ぎで空間把握を広げていく。グラマダを周辺含めて覆うまでにだ。一気に流れ込んでくる情報量に悲鳴を上げそうになる。一緒に酷い頭痛が襲ってきて膝を屈しそうになるも懸命に耐えた。


 今、俺の体は魔力にすっぽりと覆われていた。魔力纏の応用で体内含めて細部まで行き渡らせるのは理由がある。これは情報処理量が多すぎるために負荷がかかり血管が破裂したりするのを防ぐためだ。以前何処までできるかを試したら鼻の両穴から盛大に鼻血を吹いて倒れるという失策を犯したからね。脳の血管とかじゃなくて本当に良かったと安堵したもんだ。これにはヒールを流し込み細胞壁や血管の壁が破れる前に即治癒する仕様になっている。


『女神レベリットの名の元に』


 なんせこの大きな都市丸ごと全部の人を把握、識別するんだからその情報量たるや膨大すぎて目が回る。無謀と思えるがやらなきゃならん。俺は欲張りだから救える命がありそれを出来る力があるならやってやる。やぁってやるぜと叫ぶ野生的な人みたいにな!


『汝らに』


 頭痛が絶え間なく襲ってくるし鼓動の音が耳障りなほど大きく感じる。どよめく皆の声も耳で拾えるがそんなのを気にしている余裕はない。


 よし! 把握完了!


 続けざまに魔法の詠唱を開始する。


 ――光よ、集いて彼の者等に奇跡の癒しを与えん。奔放なる女神の気の向くままに!


『光よ、あれ!!』


 ――『駄女神の気まぐれ(ディバイン)癒しフルコース(ヒール)』!!


 巨大な女神の体が一気に霧散し光の粒子へと形を変えグラマダ全体に降り注ぐ。その光景は大氾濫の最中だというのに一瞬それを忘れさせるほど幻想的であり神々しかった。









 後の世にはこう伝わる。


 かくて魔物の驚異に曝されしグラマダへ

 女神の慈悲が降り注ぐ

 かの女神はレベリット

 どの神よりも慈悲深く

 どの神より民を愛した女神


 と。








 人々は知らない。女神と使徒が結託した人気取りの一環だったことを。

ノブサダが帰ってきた途端にこれだよ!

ジャンルはハートフルメタルなファンタジーの皮を被ったコメディだと思うの。自分でも何を言っているか分からない。とりあえず風邪薬を飲んで寝ておきます。

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