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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第八章 グラマダ動乱
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第192話 グラマダ防衛戦④

新年明けましたがおめでとうございますか?

どうも、ことぶきです。連載再開してはや一年ほど皆様のおかげで未だなんとか続いております。

今年もよろしくお願いしますです。


 大氾濫がグラマダを襲って早二日。

 絶え間なく押し寄せてくる魔物に負傷と疲労がどんどん蓄積されていく。数があまり多くない結界を張れる者たちが交代で維持することにより休む時間をある程度確保できてはいるが睡眠も碌に取れないため魔力の回復もうまくいかず薬頼りになってきていた。


 掘り込んであった三段の壕のうち最初の一つは魔物の死体で完全に埋まりその機能を果たさなくなっている。ぐちゃりと死体を踏み越えてくる魔物は数こそ減ったものの時間がたつにつれ個体のランクが上がり簡単に倒せるものではなくなっていた。


 そして前線で戦うマトゥダたちの下に急報が届けられる。


「で、伝令! 大変です! 北門、南門のほうに迂回してきた魔物の群れが襲来。残された兵力でなんとか維持しているもののこのままでは突破されそうです!」


 その報告を聞いてその場にいた面子は思わず眉を顰めた。しかし、すぐに対応を行動に移す。


「アミラル、儂が少数精鋭で北門へ向かおう。テムロ、南は任せて良いな?」


「はい。うちの部隊の半数を残し向かいましょう。そちらの指揮はホセーさんに任せる」


 テムロの後ろに控えていた巨漢の騎士がこくりと頷く。テムロの部隊で副隊長を務めるホセーさんである。


「よろしく頼む。マトゥダ、お前のほうの人選は?」


「そうじゃの。マッスルブラザーズとミタマの嬢ちゃんを借り受けられるかの。あとは衛兵から何人か選抜していくわい」


「マッスルブラザーズはともかくミタマ君かね?」


「うむ。防衛の要があやつらで殲滅の要が儂と嬢ちゃんじゃな。広範囲を素早く飛び回るにはそれ相応の機動力が欲しい。引き抜いてもなんとかなる中堅どころでその条件を満たすのはあの娘だけじゃ。マッスルブラザーズが抜けた穴は大きいじゃろうしこれ以上こちらの戦力を割く訳にもいくまいて」


 アミラルの頭の中で素早く編成を組み替え戦力の状況を把握する。マトゥダやテムロ、マッスルブラザーズたちが抜けた穴の補填と防衛網の縮小、目まぐるしく思考が切り替わっていく。思案の結果、どう考えても南北に割ける戦力は少数精鋭で耐え切ってもらうしかない。それに耐えられるのは彼らくらいなものだろう。だが彼らの抜けた穴は大きく現在第二壕で展開していた防衛戦は後退し第三壕まで下がり持ちこたえねばならなかった。


「それしかないか。二人ともすぐに仕度してくれ。伝令、騎士団と冒険者に第三壕防衛ラインまで下がるように伝えてくれ。第二壕は現時点を持って破棄。こちらでなんとか戦線を維持する」


 本来ならば騎士団の団長が指揮をとるところであるのだが現在その任についているはずの御仁は病のため現場に来ていない。それでも病床からグラマダ内部の指揮をとってくれているためテムロたちはこちらで自由に動けるのだった。

 最高責任者たるマトゥダは細かいことは気にせず全てをアミラルに丸投げしているため仕方なく指揮を取っている。昔からそうなので周囲もさして気にしていないようだ。それで責任追及などされないのだから不思議である。


 騎士団の第二第三部隊は今現在、前線にて奮闘していた。一撃離脱を得意とする第一部隊と違って粘り強い防衛任務に定評がある第二部隊と魔法兵を多く有し遠距離攻撃が得意な第三部隊。両翼が冒険者達などの混成部隊で構成されているが正面の要には彼らが配置されている。


 アミラルの指示にて更に一段階後方へと下がりまさに背水の陣での戦いに移行されようとしていた。まさに戦線は佳境。されど魔物たちが尽きる様相はいまだ見えない。




 ◆◆◆






 戦線が後退されている頃。


 街の中には北、南を経由し襲来してきた飛行系の魔物が各所を攻撃していた。魔物たちは獲物たる人の集まる一角を狙って舞い降りる。


 大半の人々は内部のダンジョンや避難用の施設へと逃げ込んでいたのだが大都市であるグラマダは広くそこまでいけぬ者は数多く存在していた。私兵を伴い己が屋敷で防衛するもの、ひっそりと息を殺しながら隠れて魔物が通り過ぎるのを待つもの、中にはこれを機に人気の無い民家に押し入るものなどもいた。


 そしてノブサダの自宅である和泉屋でもそういったものたちが身を寄せ合い避難している。


「そぉれっ!」


 思わず力の抜けそうな掛け声と共に飛来したインプへと槍を突き刺すセフィロト。穂先は眼球を貫き頭蓋骨をも貫通していた。フッっと振りぬけばインプの死体は地べたへと叩きつけられる。なにせ次から次へと飛来してくるのだから周りの目を気にしている余裕は無かったのだ。


 彼女らの後ろには近所の老人や子供が震えながら身を寄せ合っている。彼らの息子や娘は今頃、衛兵だったり冒険者として防衛の任に就いていた。残っているのは戦えぬ足の悪かったりする老人や未だ幼い子供達、中には中年の姿もあったがでっぷりとしたお腹でとても戦えるようには見えない。


 数日前よりタタカが動いておりいざと言う時のために和泉屋へと避難できるようご近所さんへ伝えていたのだ。皆が集まっている場所には和泉屋提供の結界石が配置されており最低限の防御を有している。それを守るため魔物へと立ち向かっているのはセフィロトを筆頭とした従業員の面々。


 中心で槍を携え迎撃するセフィロト。ガーナたち三連娘はそれに追随して前面に押し出て戦う。ディリット親子は弓にて援護を行い左右の守りはレコ、サーラで固めていた。上空にはタマちゃん、地中にはわかもとサンが待機しており状況に応じて遊撃している。ただし、ノブサダからの魔力の供給が途絶えているため自己回復できる範囲の攻撃のため一気に殲滅という手段は取れないでいた。


 当初は被害を出さず全て殲滅できていたのだが今になって魔物の攻勢が強まり四苦八苦している。攻撃が命中し火の手があがったのだ。現在は消し止めたもののその名残が後ろで無残な様を晒していた。


 ――ノブちゃんが嬉々として作っていた建物の模型、壊れちゃったわねぇ


 心の中でそう思いつつそっとため息を吐くセフィロト。直撃したのはノブサダの部屋であり簡易レベリット神殿は無残にも砕け散っていた。その中に安置されていた時空宝玉と共に。





 そんな折、再び魔物の群れが飛来する。

 インプ、ドラゴンフライ、そして見慣れぬ赤く蠢く球体状の魔物。見慣れぬ魔物に首を傾げる三連娘だがセフィロトにはそれが何か分かっており冷や汗を流している。


「あれは……フレイムマイト! アレに火魔法は使っちゃ駄目よぉ! 起爆したら危険だわぁ。ディリット、先にあれを狙って!」


 真っ先に仕留める様に指示を出したものの周りの魔物がそれを守るように動き本命のフレイムマイトには矢が当たらない。それを打開すべくセフィロトを筆頭にすぐさま切込みをかける。


「あん、もう!」


 ブンブンと細かく動くドラゴンフライに対してフェイントを交え的確に正中線上を貫くセフィロトの三つ又の矛。


「いきますわよー!」


 ガーナが振るった鞭がインプの体を絡めとりオルテアの前へと放り投げられる。


「っしゃおらぁぁぁぁぁぁ!!」


 それはそのままオルテアの持つ棍棒で天高く遥か彼方へと打ち上げられた。キラリと光りその姿は空へと消え去る。


 数を減らし本丸を攻めようとするも周囲を取り囲む魔物が幾重の壁となり立ち塞がった。そうしているうちにふと気付く。フレイムマイトの体が鈍く輝き一回り大きくなっていることに。周りに転がる魔物の死体から僅かに光るなにか……魔素を吸収しまるで鼓動するかの如く収縮を繰り返しながら徐々に大きくなっていた。


 どくんどくんと脈打ちしながら大きくなるそれを見て誰もが背筋を冷やりとさせている。本能が危険を警告しているのだろう。だが助太刀に入りたいレコ、サーラも波のように襲い来る魔物達に梃子摺りそんな余裕が無い。


 倒せど倒せど近づけぬことに焦りを感じる一同。築かれる死体の山に比例してぐんぐんとフレイムマイトは大きくなっていた。そこでセフィロトは己の失策に気付いた。そもそもフレイムマイトの生態を知らないが故なのだが仕方ないとは言ってられない状況である。アレは死体から立ち上る魔素を吸収しその膨張速度が跳ね上がっていたのだ。


 周りの魔物、最後の一匹を倒した頃にはもう破裂まで余裕などない状態になっていた。セフィロトは皆へと叫びすぐ様行動に移る。


「皆! 私の後ろに下がって!! 早く!!」


 切羽詰ったその声に従い駆け出す一同。


「――とこしえの」


 このままではこの辺一帯が焦土と化す。そう判断したセフィロトはリスクを度外視して即座に詠唱を開始した。


「――はばみし」


 一言一言言葉を発する度に彼女の体が明滅を繰り返す。


「――こほりの」


 輪郭が朧気になり人型から崩れていく。


「――かべなるかな」


 詠唱を終える頃、彼女は生来の姿であるラミアの姿となっていた。


永晶氷壁フリス・ゾルデ!!」


 力ある言葉を発すれば突き出したセフィロトの両の手のひらを中心に氷の壁が展開されていく。それと同時期に魔素を喰らい終えパンパンに膨れ上がりもはや臨界点に見えたフレイムマイトの体がカッと光った。


 ズドォォォォォォォォォン!!!


 一瞬収縮した矢先に閃光を伴いつつ一気に爆発四散する。ビリビリと氷の壁に衝撃が走った。今にも壊れそうになりそうなところを魔力を注ぎ込みなんとか維持する。後ろから見ていたガーナには真っ赤な爆炎が上がり業火が地形を変える様が目に焼きついている。消し飛んだ後に瞬間的にとんでもない熱量が加わったことから地面が抉れ溶けた挙句炭化し一面が黒ずんでいた。


 ピキピキピキピキ……パリン


 氷の壁が儚く砕け散るのと同時にセフィロトの体がトサリと地面へと倒れこんだ。


「セフィお姉様!!」


 慌てて駆け寄るガーナたち。近づいて分かるセフィロトの惨状に思わず言葉を失う。


 両手の毛細血管が破裂しズタズタになっており魔力もほぼ空になっていた。血が足りないからか体も冷たく息も絶え絶えである。慌ててポーションを取り出し体中に満遍なく振りかけていきマナポーションを口に含ませるも飲み込む力も無い様で体を起こしてなんとか少しずつ注ぎ込んでいた。特に状態の酷い両手に関しては元のようにちゃんと動くのか彼女らには不安で一杯である。


「う、うわああああ、魔族、魔族だぁぁぁ」


 空気を読めないのか読まないのか。先ほどまでの戦闘で気絶していた中年の男が目を覚ますや否やセフィロトの姿を見て騒ぎ出す。その狼狽具合は見てるものを不安に誘うこと請け合いでぐっと涙を堪えていた子供達に伝播し今にも零れ落ちそうになっている。


「落ち着いてください。セフィ様は皆さんを必死に守ったのですよ。それを……」


 ジャパネが皆の動揺を抑えるべく口を挟むがでっぷりした中年の男はそれを聞いてすらいない。


「その魔族が手引きしたからこうやって魔物がやってきたんじゃないのか!!?」


 口走る心無いその言葉はセフィロトの虚ろなる心に突き刺さる。周囲にいるガーナたちにも同様で思わず憎しみを込めた視線を中年へと向けてしまった。


「なんて馬鹿なことを「バッカモオオオオオオオオオオン!!」……えっ!?」


 ジャパネの言葉を遮り老婆の怒号が杖の殴打と共に中年の男へと炸裂する。


「この大馬鹿もんが! セフィ嬢ちゃんが体を張って儂等を護ってくれていたのは見て分かるじゃろう。お前のその目は何のためについておるんじゃ。子供達でさえ必死に我慢しておるのにあっさりと気を失いおってからに。だから未だに嫁もとれんのじゃわい」


 脳天に思い切り打ち当てられ頭を抱えた中年は涙目になりながら老婆へ視線を向ける。


「お、お袋。なんで……?」


「何でもくそもあるかい! 今ほどお前を産んで後悔した事は無いよ。この子等がここに受け入れてくれなんだら儂等年寄りはとっくにあの瓦礫の下敷きだったわい。嬢ちゃんが珠の肌を傷つけながら武器を振るい体を張って爆発から護ってくれたではないか。その気になれば儂等なぞ放って置いて逃げれるはずなのにじゃ」


 老婆の指し示す先には倒壊した家屋が広がる。その言葉に二の句もつげない中年。


「儂ら年寄りはみんなセフィ嬢ちゃんの味方じゃ。あんまり酷い事ばかり言っておると親子の縁を切るぞえ!!」


「ひっ、ごめんよぉ」


 老婆の勢いに押し切られでっぷりした体を縮こませる中年。


「謝る相手が違うじゃろが! のう、トメさん」


 老婆が振った先にはご老人がたむろしていた。一様に頷き各々口々に言葉を発する。


「そうじゃ。儂はセフィ嬢ちゃんとノブ坊がこさえた薬のお陰でこうして歩けるまでになったんじゃ。今となってはほんに命の恩人じゃわい」


「んだんだ。儂の娘の怪我を治してくれたポーションだって格安にしてくれた上、分割払いでいいと言ってくれたんだわ。そう言ってくれねば使わずに我慢してたかもしんねぇ。あれがなきゃ下手したら娘の腕は動かなくなってたって後から聞いたときは血の気が引いたわの」


 小刻みに震えながらコクコクと頷くお年寄りたち。


「「「セフィ嬢ちゃん。他の連中がなんて言おうと儂等はみんな嬢ちゃんの味方じゃからな。種族なんぞ関係ない大事な大事なご近所さんじゃよ」」」


 ご近所老人倶楽部の面々がセフィロトを庇いたて中年はもはや口答えすらできなかった。血の気が引いているため顔色は悪いが呼吸は落ち着きなんとか持ち直してきたセフィロトは老人方が自分を庇ってくれているのに涙が出そうなほど嬉しかった。ノブサダや家族に受け入れられたのとは違う、じんわりと心が温まる感じがしている。


「ありがとう、お婆ちゃん達。ガーナ、オルテア、マーシュ。今のうちに休んでおきなさい。これからが正念場になるわぁ。ジャパネ、タタカ。皆さんに軽くつまめる食事を出してあげて。レコとサーラは悪いけれど三人が休んでいる間の警戒をお願い。交代で休むようにしてねぇ。私は槍が持てないから魔力が回復次第魔法で援護するから、ね」


 指示を受けた皆がハイと大きな返事をして準備に取り掛かる。セフィロトの体は尻尾があるためかなり大柄になってしまっているが三連娘、ディリットたちが協力して運び結界の中に横たわるように寝かせた。因みに問題を起こした中年は老人たちの監視の下、正座して反省させられている。


 体を休めるセフィロトの下にとてとてと小さな女の子が駆け寄ってその体にぎゅっと抱きつきながらこう言った。


「あ、あのね。お姉ちゃん、まもってくれてありがとう。私、お姉ちゃんのこと綺麗だと思うよ?」


 そんな言葉に思わずキョトンとなってしまったもののすぐに気を取り直して優しく微笑みながら女の子の頭を撫でた。ラミアの姿でも怖がらずに触れ合ってくれるその姿は非常に健気であり受け入れてくれる存在というものはとてもありがたいと思えたセフィロトである。


(ノブちゃん。私、今幸せよぉ。絶対にここは守り抜くから。帰ってきたらぎゅっと抱きしめて欲しいかなぁ。うふふ、こんな時に不謹慎かしらね)

 ~うんちく♪~

 永晶氷壁フリス・ゾルデ

 かつてラミア族の中で最も優秀な氷魔導師と評された女傑ゾルデが創り上げた魔法。属性防御に特化した氷の壁を手のひらを中心に作り上げる。一枚の大きな氷の壁に見えるが薄い氷壁が幾層にも重なっており氷壁と氷壁の間には魔力による緩衝帯が挟まれていることで魔法などの侵攻を阻む。

 作中においてセフィロトの変身が解けたのは術の制御と魔力の消費を全て術に向けたため。


 余談であるがゾルデは魔法研究にのめり込む余り生涯独身で過ごした。ゾルデの魔法を習得しようとしたものは類に漏れず大半が婚期を逃しており行かず後家を量産することから一時期は習得を禁ずる動きがあったらしい。

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