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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第八章 グラマダ動乱
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第190話 グラマダ防衛戦②



 ブキイイイイイイ


「う、うあああああ!」


 ざくりとオークの持つ大剣が倒れた冒険者へと突き立つ。無慈悲な一撃は容易くその命を奪う。大剣が突き刺さったままの骸は恐怖からか無念からなのか目尻に涙を浮かべたまま苦悶の表情を浮かべている。


 防衛戦が始まって既に一日が経過していた。

 開始当初こそ圧倒していたグラマダ側だが時を重ねるごとに疲労も蓄積され被害が拡大している。怪我に倒れるもの。魔力の使いすぎで気絶するもの。誰かが倒れれば隙間なく攻め立ててくる魔物の対応しなければいけない範囲が広がる。それだけ残ったものへの負担が重なるのだ。





「……死んで」


 背後に回りこんだ影が首筋へと短刀を突きこむ。即座に引き抜かれたそれは向かいにいた魔物へと向けられた。するりと影に溶け込むように近寄れば心臓、こめかみ、首筋、喉元と人型の魔物の急所を寸分違わず一撃で突き入れるのはミタマ。本職の暗殺者もかくやという活躍を見せる。距離をとったら今度は小型の複合弓で目、口と急所ばかりを狙い打つ。小型化したことで威力は落ちたもののその分、狙いを絞ることでそれを感じさせないでいた。


「ははっ、ミタマに負けてはおれんの。さぁさ、残りは妾が叩き潰そうぞ!」


 担ぎ上げられた金棒が大地を割るかの如く勢い良く叩きつけられ魔物を圧死させる。スライムは砕け散りスケルトンは粉と化しローパーは触手を使う間も無く肉片となる。見つけたオークの股間は一匹も逃がすことなくぐしゃりと潰されていた。


 大人の体重ほどもある金棒を担ぎつつもその動きに鈍重な印象は無い。直線的ではあるが爆発的な突進力をも見せ付けていた。


 だが二人がどれだけ活躍しようとも数の差は大きい。脇をすり抜けたドラゴンフライたちが後方に位置する魔術師たちへと向かう。動きの鈍いいい得物にギチギチギチと笑みにも似た何かを浮かべながら。


 ベチン


 向かっていたのだが目に見えぬ何かに阻まれ一定の距離から進めなくなっている。ギチギチと無機質な牙を突き立てようと足掻くが無常にもそれが続けられることはなかった。


「はいさぁ!」


 捻じりを加えられた両手棍がドラゴンフライの眉間へと叩き込まれる。めきゃりと頭蓋を砕かれ無残に地面へと落下した。


「うちかて魔法ばかりやないんやで。それに魔力は節約せなあかんのよ」


 結界で行く手を阻みつつこちらからは一方的に攻撃する。ずるく見えるかもしれないが戦術の基本を守った行動だ。先達てのダンジョン探索の間、近距離戦に不安を抱いていたフツノは両手棍の研鑽を積んでいたのだ。


「それにしてもこれはきっついかもしれんなぁ。んでもグダグダ言ってもはじまれへんか。はい、次、次ぃ!」


 カグラのような派手さはないものの最小限の動きで攻撃を当てていく。そこら辺は姉妹で似ているのであろう。


 彼女らが頑張って数を減らしても攻め込んでくる魔物の波に終わりは見えない。そしてそれは街の外側だけでなく内側でも顕著に現れていた。






 防衛隊が打ち漏らしてしまった魔物はそのまま人の多く集まる場所を蹂躙すべく降り立つ。


 商業区域の一角に避難場所となる大ホールがあった。そこは地下に避難施設が作られており戦えない非戦闘員が避難している。臭いなのか感覚なのかそれを探り当てたインプが群れをなして広場へと降り立つ。


「フレイムタップ!!」


 降り立ってすぐ回転する独楽のような炎の塊が曲線を描きながらインプの顔へぶつかる。ぶつかった炎は顔の周りを滑るように転がりゴウと燃え盛った。


 待ち構えていたのは商店街の有志達。戦闘経験のある者達が前面に出て皆を守る。着込んだ防具は使い込んでるものから新品同然のものまで。マウリオの店から無償で提供された。


 先ほどの魔法を放ったのはストーム。出会い頭の一撃で怯んだところにマウリオの両手斧とドヌールの鉄拳が唸りを挙げて襲い掛かる。ドヌールの拳には分厚い鉄塊のようなカイザーナックルが握られておりポグシャアという小気味いい音を立ててインプの頭蓋骨が砕ける。血飛沫が後方へと飛び散り追随する魔物たちの中に動揺が走る。

 かくてインプたちは僅かな時間の間に全てが撃墜されその場は一時の平穏を取り戻した。


 他にもキリシュナのところから戦闘奴隷たちと鉄板入りの前掛けを身にまとったドルヌコが槍を構えている。とはいえドルヌコの腰は引けており久しぶりの戦闘なのが良く判るだろう。それでも前に出て守ろうとする姿勢を見せていた。周りの人もその心を無碍にすることができなかったため扉の前で最後の防衛を任されている。それは手放してしまった息子への自責の念がそうさせるのだろうか。



「再び来るのは間違いないだろう。ストーム、休んで魔力を回復しておけ」


「ああ」


 そう言いつつストームは東の空を見上げた。火の矢などの魔法が飛び交い打ち落とされた魔物が落下していく様が小さく見て取れる。水を口に含みつつ先の見えない戦いに眉を顰めるのだった。




 ◆◆◆




 タタタタと薄明かりの中をひた走る小さな影がある。それを追うように幾多の影が連なっていた。


 それらは走る。走る。ひた走る。


 光差す地上へと向けて。


 立ち塞がるものは蹴散らし。


 驚いて逃げ去るものは蹴散らし。


 動けずその場に固まったものも蹴散らした。


 駆け出すその先には……。




 ◇◇◇




 左翼、中央共に一進一退を繰り返している状況で右翼の状況が思わしくなかった。B級の冒険者パーティの一つが盾役の戦線離脱により雪崩式に瓦解したからである。拮抗状態を保っていたのも彼らが無理をして耐えていたお陰だがそれが失われた今、穴は徐々に広がりつつある。


 相手も悪かった。こちらに集まってきている魔物の多くはスケルトンや昆虫類が主なものであり痛覚がなかったり多少の部位破損なぞ気にしないものばかりなのであった。


 近くにいたアフロのパーティはそれを埋めるべく必死に武器を振るう。ブライトンが両手に持った大盾で魔物の進行を防ぎつつアフロの剣がそれを薙ぐ。剣で届かぬ相手にはベルチカからのサンダーが放たれる。チェインは皆を支えるべく神聖魔法を途切れさせることなく使い続けていた。持てる力を十全に出しているもののそれだけに疲労もどんどん蓄積されている。だが、周りの冒険者も似たようなもので交代で休みに入るも僅かな時間だけしか確保できていなかった。


 そんな最中、疲労から来る眩暈なのか一瞬の脱力から足をもつれさせ転倒してしまうアフロ。その隙を見逃すことなくすかさず剣を振り上げるスケルトン。通常のスケルトンならばそこまで動きが俊敏ではないのだが彼らの相手をしていたのは一つ先に進化したスケルトンナイトだった。


「いやああああ、アフロォォォォ!」


 ベルチカの悲鳴があがる。ブライトンは転んだアフロを庇うべく走り出していたがそれは重量級の装備のため自分でも間に合わぬことを感じていた。


 シュトン!


 何かがアフロの横を過ぎ去った。人にしては小さくそして素早い影。


 ゴトン、ゴトン


 スケルトンナイトの振り上げられた右手と盾を構えし左手が肘の辺りからすっぱりと切れ地面へと落下する。それと同時にシュタっとアフロのすぐ側に小柄な影が降り立った。


 その姿はまごうことなき子猫。その後ろには二十匹からの同様の猫がずらりと並んでいた。そう、ノブサダの従魔となったウミネコ大将『ウズメ』とその配下のウミネコたちである。


「あるじ、との、約束により、お前たち、援護する」


「あ、主!?」


 倒れこむアフロに向けて子猫から途切れ途切れだがエターニア標準語が紡がれる。ウミネコという魔物のことは知っていたが今目の前に居るこれがそれと同じ個体なのかどうか彼には判断がつかず戸惑いが隠せないでいた。


「そう、わたしの、あるじ、ノブサダ。あの方が、いない、あいだ、わたし、街守る」


「ノ、ノブサダさんの従魔ってことなのか?」


「肯定。では、いく!」


 にゃーーーーんと声高くひと鳴きすれば背後に控えたウミネコたちが二手に別れ連なりひとつの生き物のように流動しつつ魔物の中へと切り込んで行く。にゃいにゃいにゃいと先頭のものから順にドラゴンフライの翼を引っ掻かき地面へと落下させる。次いでその後ろのウミネコは比較的柔らかそうな部分へと噛み付いたと思えばそのまま体を錐揉み高速回転させ関節部分から食い千切る。体液が飛び散りびくんびくんと痙攣した後、やがてその生命活動は停止した。


 ウズメはといえばすうっと息を吸い込んだかと思えば目の前のスケルトンの群れへと向けて一気に解き放った。


『ニ゛ャアアアアアアアア』


 ウズメの口から幾重にも重なるような鳴き声が放たれると正面にいた両手を落とされたスケルトンナイトの体がボロボロと崩れ落ちていった。指向性を持った魔力を含む鳴き声を反響させることで分子結合を弱め破壊するウミネコ特有の固有技である。特に相手が骨や金属などの硬い個体であるほど威力は上がる代物であった。

 これはウミネコにとって奥の手であり消耗も激しいのでそうそう使えはしないのだがウズメはノブサダの従魔となってから供給される魔力を使い練度を上げていたのだ。時には階層を下がって研鑽を積んでおりウズメ自身のレベルも上昇しているため魔力の保有量も跳ね上がっている。


 ウミネコ達が奮起している中、呆然としていたアフロたちも我へと返り僅かながら空きの出来た魔物の壁に切り込みつつ叫ぶ。


「ウミネコたちは味方だ! 間違っても攻撃するなよっ!」


「「「おおおお」」」


 押され気味だったところを助けられたからかその叫びは皆へと受け入れられる。特に味方が増えたことによる士気の高揚が見て取れた。



 だが、それも戦場の一角での出来事。魔物は次々とやってきており未だ襲来が止む気配はない。

 触手を30年間使わなかったローパーは魔法を使えるようになるといった伝説が……あったりなかったり。

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