第20話 君はウサ耳を守れるか!
「小~銭~♪ 小~銭~♪ 貯~めれば~大銭~♪」
某タラ○のCMの替え歌を口ずさみつつダンジョンから帰ってまいりました。
どうも守銭奴になりつつあるノブサダです。
どかんと稼ぎたいとは思いつつも小銭がたまっていくのに顔が緩むお年頃です。
帰り道、クラススキルは他のクラスで使えるのかっていうのも検証しながら来たんだけど問題なく使用できるっぽいです。挑発を使ってるぞーって感じで声をかけたら勢いよくこっちへ向かってきておりました。状態:激昂つきで。
只今わたくしギルドにおりましてよ?
……初ダンジョンのあとで気分が高ぶっていたようだ。なんかテンションがおかしい。
すでに日は落ちておりギルド内の人影もまばらだ。
何のことはない今まで手に入れた魂石を売り払おうということです。というわけで以前イノシシを卸した買い取りカウンターにきましたよっと。
「すいませーん、魂石の買い取りってここでよかったですか?」
声をかけると以前もいたごっついおっさんが出てきた。
「うむ、ここでよいのである」
「それじゃこれらの査定をお願いします」
「どれどれ、小粒の黒い魂石が7つに赤い魂石が2つであるか。内包魔力を考慮して……黒いほうが一つにつき90マニー、赤いほうが一つ520マニーといったところである。これはすでに手数料を抜いた金額であるからして合計1,670マニーであるな。これでよいか?」
ちなみに毒薬のほうはあとでセフィさんに見てもらおうと思ってるので今回は査定してもらっていない。
「はい、それで大丈夫です」
半日戦って16,700円。命を懸けたにしては多いのか少ないのか……。
まぁ、命は無事だし成長もできた。これで黒字なんだから問題なし。そう思おう。
あ、買い取りカウンターのおっさんはランバーさんっていうらしい。鑑定? してないよ、名札みただけです。今日はもうおっさん成分はお腹いっぱいです。
買い取りも済ませたし宿へ戻ってしっかり休もう。今日のシェフのオススメはなんだろな。収入もあったしなにかオプションつけるのもいい、自分へのご褒美って大事だよね!
一階の食堂は帰ってきた冒険者で溢れていた。具体的に言うと酔っ払いが多いな。
そんな中、ミネルバちゃんや他のウェイトレスは忙しそうに店内を駆け回っている。
「エール1はいりまーす。おつまみでフライドポテトもお願いします」
「串焼き3セットあがったよ。次いでもう2セットできるからどんどん運んでー」
「グリルセットはちょっとまって。手が足りないよー」
うむ、戦場であるな。
えーっとあいてる席は……あ、前に座ってたカウンター空いてる、ラッキー。
席に着くとウェイトレスの一人が駆け寄ってくる。12,3歳といったところの兎月族の娘さんである。うさ耳が可愛い彼女は副料理長のラコッグさんの娘さんらしい。昨日、ちょっと小耳に挟んだのだ。
ということはだ、ラコッグさん(頭頂部がちょっと寂しい40代っぽい)にもうさ耳があるということなのだよ、諸君!
おっさんのうさ耳! 誰得よ!!
だが、うさ耳の血筋を守るためならそれは仕方のないことなのである。あ、ちなみに普段はシェフ帽っていうのかあの背の高い帽子を被っているので耳は見えないぜ。
「お待たせしましたー。ご注文をどうぞ」
「おすすめ定食と果実水。あと串焼きをセットでお願い」
「はーい、少々お時間かかります。しばしお待ちください」
待つよ待つよ。俺のお腹はシェフの料理を待ってるよー。ああ、調理している間のこの匂いも堪らん。
しかし、ほんと忙しそうだな。厨房の中が見えるけどよくあの人数で回してるもんだと感心するね。一人でも倒れちゃったらどうなるんだか。
料理を待つ間暇つぶしに店内を見渡して見る。
やっぱり利用者は歳が若いのが多いね。げ、ロリコンパーティがいた。
ミネルバちゃんを引き止めているな。それは駄目だろう。この忙しいのに一人止められたら一気に滞るぞ。
あ、ミネルバちゃんにちょっと叱られて涙目になってやんの、ぷっ。
思わず噴出しそうになったところ、視線が合いそうになったので慌てて後ろを向く。
そういや、冷蔵庫とかないんだろうな、冷えた飲料とかなさそうだ。
気候的には暑くも涼しくもないすごし易い環境ではあるが四季とかあるのかね?
「お待たせしましたー。オススメと果実水です。串焼きはもうちょっとしたら持ってきますのでお待ちください」
わーい、飯きたー。
本日のオススメはチキンカツですか! あー、米食いたいなぁ。パンも嫌いではないんだがやっぱりカツは米にあわせて食いたいのが日本人である。米を思い出して若干ノルタルジックな感傷に浸りつつも串焼きが来る前に完食してしまったよ。シェフよ、うますぎる。
ガシャァァァァン
何かを落とした音がしたので皆がそちらへと振り向いた。
見れば先ほどのうさ耳ちゃんへ冒険者がぶつかった際に陶器のカップを落としてしまったようだ。
「も、申し訳ございません、お客様。只今、代わりの品をお持ちいたします」
「このケダモノ風情が! 新調したばかりの鎧に汚れがついたじゃねーか!」
見ればちょっぴりだがカップに入っていたであろうポタージュスープが鎧に付着している。
にしてもだ、ケダモノ風情だと! なんという暴言を吐くんだこいつ。
周りのパーティと思われる連中も止めるどころかにやにやと眺めている。うわ、絶対知り合いになりたくないタイプの人間だな。
「ひっ、も、申し訳ございません。すぐにお拭きいたします」
恐る恐るポケットから取り出したハンカチで冒険者の鎧を拭こうと手を伸ばすうさ耳ちゃん。
だが、その手が届くことはなく思いっきり叩き飛ばされてしまう。
「ケダモノが触るんじゃねーよ! 申し訳ないっつうんだったら新しく買いなおして貰おうじゃねぇの。レッドヘルムベアーの革鎧だから20,000マニーはするがなぁ」
そんなにいいもんには見えないけども……。
レッドヘルムベアーの革鎧(?)
品質:劣悪 封入魔力:0/0
備考:ウォッシュベアーの皮でできた鎧。感触や外見だけを無理矢理レッドヘルムベアーに似せた為、品質が劣悪になり防御力はほとんどない。
まごう事なきバッタもんだよ。ウォッシュベアー……ってアライグマか!?
っとこんな事してる場合じゃない。俺は人ごみを掻き分けてうさ耳ちゃんのもとへと急ぐ。
「ひっ、そんな。私のお給金じゃそんな額はとてもじゃ……」
「大体、気にくわねぇんだよ。ケダモノ風情が運んできてその毛でも入ったらどうするんだってんだ。あー、とにかくだ、さっさと出すもん出してもらおうか? なんだったら奴隷商にでも売り払ってやろうか!?」
男がうさ耳ちゃんに手を伸ばそうとしたところに俺の手が割り込む。ふぅ、間に合った。
「あぁん、何邪魔してくれてんだ、このガキぃ」
「まぁまぁ、落ち着きましょう、先輩。見たところランクの高い方のようですしここはその大人の器量で治めてあげましょうよ」
「やかましい! どっからでてきやがった。俺らをDランクパーティ『エィムエスヴィー』と知って突っかかってきてるんだろうなぁ」
いえ、まったく知りません。Dってことはミタマたちとランクが同等か。でも人間性は比べ物にならないが……。
「いや、この間きたばかりなんでまったく知らないんですよ、すいません。それとその鎧ですけどちょっとだけ目利きが効くんですが素材が違いますよね。どう見てもウォッシュベアーにしか見えないんで鎧の値段そんなにしないんじゃないかと」
――ウォッシュベアーだってよ。
――だったら1,000マニーもしないんじゃねぇの?
――ぷっ、さんざ威張り倒しといてバッタもん掴まされてやんの。
ギャラリーの皆さんから失笑が飛び交う。それはいいのだが他にも誰か止めに入ろうとはしないのでせうか? やっぱりDランクってみんな知ってるからかね?
指摘されたことに顔を真っ赤にして怒り狂う男冒険者。そう言えば名前すら知らなかったな。
名前:ギアン 性別:男 年齢:20 種族:普人族
クラス:拳士Lv18 状態:激昂
称号:なし パーティ名:『エィムエスヴィー』
【スキル】
拳術Lv3 窃盗Lv1 回避Lv1 生活魔法
おいおいおい、窃盗ってなんだよ。それもスキルなのか? 悔しいけど戦闘力は俺より格上だな。
「上っっっ等だぁ! 表へぇ出ろこのクソガキぃ。ここまで恥かかされたなぁ初めてだ。ぶっ殺してやるぁ」
てへ、ナチュラルに挑発しちゃったようです。ま、うさ耳ちゃんから注意を反らせられたから当初の目的は完遂したけども。
俺は生き延びることが出来るか! 次回、ノブサダ宙を舞う! ノブサダの跳びっぷりにご期待ください!
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