表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第八章 グラマダ動乱
208/274

第185話 動乱の始まり①

新章開始でござる。


 薄暗い部屋の中でローブを着込んだ男の周りに幾人もの男女が呆然と立っている。その年齢は千差万別であり共通するものは見られない。その瞳は暗く濁っており意思というものが感じられない。そして声一つ発することなくただ時を待っているかのようだった。


 その様子を見て満足そうににやりと不敵に微笑む。フードですっぽり覆われているため顔は隠れているが口元は非常に楽しげに口角を吊り上げていた。懐から角ばった宝石を取り出し魔力を流せば不意にその姿が消え去る。


 それを合図としたかのように一人の体から黄金色の小さな粒が浮き上がった。それは蛍のようにも火の粉のようにも見える。


 キュボッ


 途端、その体は激しく燃え上がる。皮膚は焼けあがり爛れたり炭化することもなくただただ燃え上がっていた。そんな中でも呻き声一つあげない。その体はまるで何かを搾り取られるかのようにやせ細り最後には灰になって消えていった。そこからまるで連鎖するかのように次々と燃え上がる人々。


 最後には灰だけを残し誰もいなくなった部屋。


 ドクン


 何かが脈動する音がする。ゴゴゴとなにかが揺れ動きそれはダンジョン全体へと広がりつつあった。蓄えられた魔力はダンジョンの中を吹き荒れ存在する全ての魔物を巻き込みいつ起爆するとも知れぬ火薬庫のようである。


 その目覚めのときはもうすぐそこまで来ていた。







 ▼△▼△▼




「くぅあふあぁぁぁ」


 眠い目を擦りながら仮眠室の堅いベッドから這い出る。ボサボサの髪は短時間の仮眠ながらひどい寝癖がついていた。


 俺の名はカイル。グラマダの衛兵隊に所属するナイスガイだ。本来ならグラマダ西部隊に所属しているのだが特別な辞令が出て今は東側の郊外にある臨時防壁にある詰め所にいる。いやぁ、出来る男は違うね。うん、すまん。そんなことなかった。


 真面目な話だととある有事に備えて急遽防壁が築かれた。いろいろな情報が倒錯していたんだがどうやらこの先にあるダンジョンで魔物の氾濫の予兆があるらしい。この事態に街のみんなを護るため俺が来たって訳。




 ごめん、本当はマトゥダ総隊長にちょっといってこいの一声で前線送りにされただけだった。悲しいけど俺下っ端なのよね。しかも、ついてないことに巡回のくじ引きで夜の巡回が当たるという始末。そんな訳で夜の帳が落ちたこの時間に目を覚ましたってのが今だ。


 ふう、ツいてないぜ。昔っからここぞというときに貧乏くじを引いちまうんだよなぁ。だから未だに結婚もできねえ。つーかこないだフラれたのが堪えるわ。酒場のダークエルフの姉ちゃんに声をかけるもあっさりと玉砕。くそう、ダチの野郎は5人も奥さん作ってるってのに……だめだ俺にはそこまでの甲斐性はねえや。ふうう、どこかにいい女いないかねぇ。



 ドゴオオオオオオオン



 ふあっ!?

 なんだ今の爆発音は!?? っておおおおおい。臨時で作られたとはいえ錬鉄木を加工して作った防壁だぞ。なんであんなにあっさり炎上してやがる!! ここでぼーっとしてる場合じゃねぇ。急いで着替えんと。



 机の上に置いてあった鎧を着込み愛用の剣を手に取る。


 バガン!


 その時、仮眠室の扉が乱暴に破られた。着替え中だったらどうすんだよ、おい。


「カイル! ソウ部隊長が呼んでる。急いで準備して」


 そう告げるのは同じ部隊に所属するルイス。小柄ですばしっこいのが売りな元気娘だ。結構気が合うのでよく飯を食ったりしている。


「おう。もう準備はできてる。というか扉を蹴破るな。着替え中だったらどうすんだ」


「ぷっ、カイルの裸を見たってボクはどうもしないさ。いいから行くよ。ただ事じゃない」


 くそう、思い切り噴出しやがって。剣を腰に佩きつつ何があるか分からないのでマジックバッグを背に背負い込む。それにしてもあいつも大盤振る舞いだったよな。まさかあの結婚式の引き出物とかでマジックバッグを寄越すなんてさ。おっといけね、急がんと。








 詰め所の中は蜂の巣を突いたような慌しさになっていた。原因不明の爆発と未だ消えぬ炎は混乱を加速させている。どこからか剣戟の音もする。一体何が起きているのか。不安ばかりが増大していく。そんな中に俺は詰め所の隊長室へと急ぎ向かっていた。



「衛兵西部隊所属カイル、ただ今参りました」


「同じくルイス、ただ今参りました」


 部屋に入るとここで最も位の上なソウ部隊長が待っていた。そして俺達のほかにもう二人、背の高い黒い肌の男達が立っている。


「よろしい。カイル、ルイス。そしてベンヌ、ジョンソン。君達にはこれからすぐにグラマダの本部へと急ぎ向かってもらう」


「わ、私達がですか?」


「そうだ。足に自信のある君達四人が選ばれたのは他でもない。先ほどの爆発で厩舎も被害を受け動ける軍馬がいないのだよ。となれば自力で走っていくしかあるまい。この非常事態だからな」


「それほどまでに拙いんですか?」


「拙い。この先のダンジョンがいつ氾濫するか知れない現状なのに先ほどの爆発で防壁の一部が吹き飛んだ。更に消火作業も芳しくない」


「一体なぜ?」


「それはこれが何者からかの襲撃だからだ。今現在隊の主だったものは襲撃者と相対している。問題はその襲撃してきたものたちなのだが。君達は覚えているかね? 二ヶ月ほど前だったか数十人が記憶を失ったり改ざんされていたりした事件だ」


「覚えています。たしか騎士団部隊長のご子息も巻き込まれたあの事件ですよね?」


「そうだ。そして今ここを襲っているのはその被害者たちだという報告が上がっている。それもただ襲うだけでなく体を炎上させながら特攻してくるのだ。先ほどの爆発音はその中の何人かが防壁に取り付き爆散したものだと聞いている。敵が何人いるか分からない以上、すぐにあちらでも対策をとらなければ取り返しのつかないことになるだろう」


「でもそれじゃここに残った皆は!」


「言うな。我々は衛兵だ。グラマダを、そこに住む皆を守らねばならん。だからこそ君達は行かねばならんのだ。そしてすぐに最終防衛ラインを構築せねばならん。有無は言わせんぞ。我らの意地を無駄にしてくれるな。さぁ、行け! 立ち止まることは許さん!!」


「「「「はっ」」」」






 ◆◆◆






 4人が詰め所の裏口から隠れるように駆け出した後を見届けて部隊長は生き残りの同胞と合流した。


 彼らの目の前には未だ勢い良く燃え上がる防壁がある。それを背にいくつもの蠢く影があった。

 ゆらりと緩慢な動きで前進してくるのは鎧も何も着込んでいないまったくの一般人。その目は光を失い虚ろで視点も定まっていない。あげるのはうめき声だけであり手に持つのは包丁や鉈など武器というには心もとないものばかりだ。


「怯むな! ここで彼奴等を放置すれば防壁は跡形もなく壊されるだろう。そうなればグラマダが直接脅威に晒されることになる。我等は衛兵。友を家族を民を守護するものだ。弓兵! 一斉に放てー!」


 後方に配置された弓兵から雨のように矢が放たれた。肩口や胸、果ては頭に矢が突き刺さる。だが、そのような状態になってもそれらは歩みを止めず一歩一歩こちらへと向かってきた。


「槍兵、間合いを詰めさせるな!」


 並んだ槍衾が近づくものへと突き立つ。しかし、次の瞬間、槍兵たちの瞳が驚愕に見開かれた。槍が突き刺さったものたちはずぶずぶと槍を遡るように貫かれたまま前へと突き進んでいる。人の姿をした人ならざるものの所業に槍兵たちは恐れおののく。その一瞬の隙にがばりと槍を突き立てられたまま兵へと抱きついたかと思えば……瞬時に体全体が煌く炎に包まれ兵諸共に燃え上がる。消えぬ炎は兵を渡り歩きあっというまに阿鼻叫喚の惨状と化した。さらにそこへと幾人も飛び込み発火どころか爆発し轟音がうなりを上げ周囲を跡形もなく消し飛ばす。


「こんなっ、こんな馬鹿なことがあるかぁぁぁ!」


 燃え行く同胞、爆散する同胞を見つめ思わず絶叫するものがいる。それは皆の同意見であろう。それでも彼らは引かず戦った。背に護る家族のために、恋人のために、友人のために。


 夜が明け朝露が辺りを濡らす頃、その場に動くものは無くなっていた。燻る炎が未だ防壁を焦がすくらいである。すでにそれは用途を成しておらず大きく穴を開け崩れ落ちていた。衛兵達詰めていた者、七十余名。悉くが討ち死にするも蠢いていたものたちを全てこの場で消滅させることに成功する。だがそれはこれから起こることの前哨戦でしかなかった。






 ◇◇◇






 詰め所を出てすぐ街道沿いをひた走る。ここからグラマダまで馬で2日。人の足ならその倍いくかいかないかってとこか。すでに爆発音や剣戟の音は聞こえない。聞こえるのはバクンバクンと急かすように聞こえる心臓の音と荒い息の音だけだ。


 ちくしょう。一体なんでこんなことになっちまったんだ。隣を走るルイスの息も荒い。いくら空気を吸っても吸い足りないのか顔が幾分白くなっている。


「少し歩くぞ。その間に息を整える」


 俺自身も一杯一杯なんだ。体の小さいこいつもやばいだろうと判断した。

 速度を落とし早歩きで進みつつバッグからまとめ買いしていた栄養剤を取り出し口に含む。あいつが売り出していた栄養剤は確かな効き目を俺の体にもたらした。もう一本取り出せばゼッハゼッハと呼吸の荒いルイスを落ち着かせるべく差し出した。一瞬戸惑うもそれを手に取り少しずつ口にしている。


 一緒に出発したはずのベンヌとジョンソンの姿はない。俺たちが走るのと歩くのを交互に繰り返している中、奴らは付き合いきれぬといった顔で抜き去っていったからだ。あいつらの所属は伝令だっただけに長距離走るのに慣れてるんだよな。こちとら足が多少速くともついていけねぇっての。

約半月ぶりでございます。この間執筆に……勤しむどころかウィルス性の胃腸炎なんぞをうつされましてしっちゃかめっちゃかでしたん。あんまり進んでないので自分を追い込む意味を込め投稿を再開します。少しは書き溜めもあるのでぼちぼち更新していきますよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ