第184話 集ったもの、飛び立つもの
感想で指摘のあった前話のとこたしかに少し違和感あったのでちょこっと修正。
「エト様、ローヴェルさん、無事か!? エレノアさん、ティーナさん、フミたん。部隊の再編成を。それが終わり次第俺はグラマダに急行する!」
俺の言葉に応えるようにエレノアさんとティーナさん、フミたんがすぐさま動き始める。流石にエト様とローヴェルさんは先ほどまでの余韻から抜け切れていないようだ。少ししてはっと我を取り戻し動き出したけど。
とはいえこの人数をいきなり連れてきて合流と言われても戸惑うばかりなのでここまでの経緯を順を追って説明していった。その間にも獣人たちが引っ切り無しに訪れ俺の指示を仰いでいく。うん、御免。俺、そんなに指揮能力高い訳じゃないんでティーナさんに統括をお願いしよう。補佐にフミたんを配置すればきっとなんとかしてくれるはずだ、多分。
「事情は理解しましたわ。それにしても脱出からここまでの間に随分と慕われておりますのね。獣人や魔族、あ、いえ、亜人の方々は気難しい人が多いと伺っていましたのに」
それに関しては俺自身も戸惑うところがある。なぜか知らないが彼らの好感度みたいなものが爆上がりなのであった。
・捕らえられていた人質を助ける。 好感度↑
・家族を合流させて脱出の手配も行なう。 好感度↑
・理不尽な制約のあった奴隷から比較的自由なものへと変更下。 好感度微量↑
・欠損していた部位を再生した。 好感度↑↑
・ラミアの奥さんがいることを暴露した。 好感度↑↑↑
・三食温かい手料理を振舞った。 好感度↑↑↑↑↑
うん、色々とおかしい。特に下二つな。俺の手料理は桃の印の入っただんごのような効果でもあるのだろうか。でも、これらの後から異常に慕われている気がするんだよね。温かい目でみられつつも大将とか呼び出し始めるし。奴隷でない獣人の皆様もそんな彼らに同調しはじめたのか同じように呼んでいる。種族間の違いとかでもう少しひと悶着あるかと思っていたのだが皆々同じような境遇であり意気投合していたよ。亜人であるラクシャたちとも打ち解けており偏見とかそういうのが無かったのは良かったけども。
「兎に角も彼らは非常に心強い味方です。同行をお許し願えますか?」
「勿論ですわ。ノブサダたちがいなければどうなっていたか分かりませんもの。何より元々獣人に対して偏見などありませんわ。ただ、流石に亜人の皆様には驚きましたが」
それと懸念事項もあったな。これもエト様が判断せねばならない案件だろう。
「エト様、裏切ったものたちの中で生き残ったものはどうしますか? 傭兵を雇ったときの違約に関してはまったく知らないのですけども」
「それもありましたわね。ローヴェル、その辺はどうなっているのかしら」
先ほどから少しだけ腰の引けているローヴェルさんがびくりと肩を震わす。俺は何も見なかった。ローヴェルさんのお尻のあたりが濡れていたことなど……。俺はしらないもーん。
「ひゃ、いえ、はい。今回のような場合は傭兵ギルドの取り決めによれば恐らくですが死刑もしくは奴隷落ちとなるでしょう。とはいえ処分を有効化するにはグラマダへ行かねばなりません。グラマダは今だ遠く彼らをどう連れて行くのかという問題があります。今は大人しくしておりますが今後の道中を考えると些か不安がございますね」
うーん、そうだよね。アーサーを筆頭に裏切ったのが25名。アーサーは死亡、ノブサダ隊乱入後、14名が死亡、残り10名は重症も含まれるが生き残っていた。一応、縛った挙句、一まとめにしてあるがどうするかはエト様次第なところがある。
「檻がついたような馬車があったでしょう。アレに一纏めにして連れて帰りますわ。彼らを雇ったのはお父様ですし判断を仰いだほうがいいような気がしますの」
そういえばそうか。そんじゃ檻の中に突っ込んでてもらおう。それと最後に一番の大事も報告しなきゃな。
「あー、それとですね。こちらの方、保護してきちゃいました」
俺の言葉と同時にエレノアさんが彼と連れ立って姿を現す。その顔を覗き込んで自分の目が信じられないのかごしごしと擦ったあとにもう一度見つめ……驚愕に目を見開いた。
「ノ、ノノノノノノノ、ノブサダダダ。も、ももももしかして公王様でしょうか!?」
動転しつつもすぐさま跪き臣下の礼をとるエト様。その姿に驚きつつもその場にいた俺を除いた他の面子も跪く。
「ノブサダ! 何をしていますの! 公王様の御前ですのよ、不敬に当たりますわ。すぐに跪くのです」
「構わんのだ。ノブサダは余の友故にな。皆も楽にしてくれて構わぬよ。それにしても久しいな、エトワール。そなたの言葉、未だ忘れておらぬぞ」
友発言に驚きつつもアルティシナの言葉に震えるエト様。
「あの言葉のおかげで今の余がある。まあ宰相に幽閉されかかったところをノブサダに救われた力なき王ではあるがな。すまぬが、これより世話になる」
「勿体無きお言葉ですわ。アズベル公爵家嫡女エトワール、臣下として必ず無事にグラマダへとお届けいたします」
「あまり固くならんでくれ。余はあの時叱咤してくれたような自由なそなたが良い。色々と話も聞きたいしな」
「は、はい」
すっかり畏まってしまったエト様ではあるがその言葉が嬉しかったのだろう。頬が少し赤くなっていた。
それから色々とあったことを要点だけ押さえて説明する。俺がやらかした一部はぼやかしてだが。
説明しつつ考えなければいけないことが山ほどある為、頭の中では違うことを思考していた。
アーサーが飲んだアレは恐らく寄生粘菌の含まれた何かだろう。今日までにあいつが何かされたのか、それとも飲むだけでああなってしまうのか。増産されればとんでもない部隊が出来上がるだろうしあの連中ならやりかねない。対抗策も考えておかないといけないな。
あいつは魔法を受ければ受けるほどその姿を変えていった。その度にレベルが上がっていたようで身体能力が向上していたと思う。だけどそれを代償なしに行なえるとは考えられない。望むだけでレベルが上がるならあの駄女神はいらない子になってしまうだろう。死体すら残らず灰になるってのを考慮すればHPもしくは命そのものを燃やして燃料にしているのかね? しっくりくるが当てずっぽうだからこれは保留だな。
悪いことだらけだが良い変化もあった。星犬を取り込んだ月猫がなにやら変貌していたのである。
うん、ちょっと興奮しすぎだったのは否定できない。まさか折角手に入れた星犬を自分の手であっさり叩き折るとは思わなんだ。だがなんとか取り戻そうとやってる余裕はなかったんだよね。とにかく押せ押せで押し切ったって感じだもの。月猫が吸収したってのは本当に助かった。
月猫・半月
品質:伝説級 封入魔力:374/374
偽りの姿を脱ぎ去り現れた真の月猫の第二形態。扱うものによってその性能が変化すると言われる世に二振りしか現存しない活魂刀の一振り。その刀身を維持するだけでも莫大な魔力を消費するため扱えるものはほぼいないとされる。
天恵:【再生】【進化】【魔断】【反応強化】【光刃】【峰・不殺】
硬化、鋭化がなくなって進化になった? あとは星犬の天恵を取り込んで変化させたのか?
これ最後の一振りを吸収させて真の活魂刀になるっていうお約束でしょうか。能力だけでなくなんか刀身も青みがかかってなにかしらの魔法金属にしか見えないんだが……。まぁ縁があればいつか会えるくらいの気持ちで考えておこう。
そして3時間ほどして取り纏めが終わり再編成後の陣容がこれ。
黒玉号付き馬車
・公王 アルティシナ
・公爵家令嬢 エトワール
・近衛騎士 ローヴェル以下4人
・護衛冒険者 エレノア
非戦闘員部隊
・護衛冒険者 ポポト隊、シャニア、ヤツフサ
戦闘部隊
・総括 ティーナ
・補佐 フミルヌ
・斥候隊 蝙蝠族
・第一部隊 タマキチ(犬人族代表) 部下 犬人族
・第二部隊 チョノフディ(狼人族代表) 部下 狼人族他
・第三部隊 ポチョムキン(リザード族代表) 部下 その他の獣人の皆さん
・遊撃隊 ラクシャ 他亜人4人
・総括直属部隊(通称「姐御に萌え隊」)元マハルマリーン6名
ちなみに姐御に萌え隊は全員妻帯者であり子供もいるものが数人いる。姐御独り身なのに……。すごく涙目です。
アルティシナと亜人の間に確執ができるんじゃないかと合流したときは不安になったがいの一番にアルティシナが頭を下げてこれまでの政策を謝罪したことから表立って非難するものは今のところいない。そりゃ心の中では分からないが10歳の子供が王として間違っていたことを認め頭を下げていたらむしろ罪悪感も沸くのだろう。その分、その内に宰相やなんかに仕返しをしようぜって鼻息荒かったりしてたがね。
それと気になっていたのだがシャニアとアルティシナのご対面は叶っていない。どうやらシャニアがそそくさと行方をくらまして未だ顔を合わせていないようなのだ。正直行方不明になったアルティシナの姉って彼女のことだと思うのだが如何せんダイレクトに聞き出すのもデリカシーがないと二の足を踏んでいる。
とりあえずは後回しでいいか。公爵様の意向もあるだろうしな。むう、後回しなことがどんどん増えていくがどうしたものか……。考えていても埒が明かないので編成が終わったのだからエレノアさんに後事を託して一足先にグラマダへ向かおうとするか。
「エレノアさーん、準備が終わったみたいだから俺は先に空間転移で戻ることにするよ。ミタマたちが心配だしね」
「分かりました。エトワール様たちからもそれでいいと伺っています。あの、気をつけてくださいね。それと……旦那様に『俺のエレノア』って言ってもらって、その、嬉しかったです」
おおう、そう言いつつもじもじと頬を染めるエレノアさんが可愛らしくて思わず抱きしめてしまった。流石に昼間だしこれ以上はしないけれど俺の理性を苦しめる、エレノア恐ろしい子!
「それじゃ行って来ます。『空間転移』! ……あれ?」
おかしい。グラマダの次元宝玉を目標に転移するはずが反応がない。俺の様子を見てエレノアさんも首を傾げている。屋敷の簡易レベリット神殿Ver.3(姫路城型)に安置されているはずなんだが……。えもいわれぬ漠然とした不安を感じながら『高機動兵装』に切り替えふわりと浮き上がった。
「どうやら何かが起きているのは間違いないみたいだ。転移が使えない。エレノアさん、一足先に全力で飛んでいくんでこっちはよろしくね」
ある程度浮き上がったところでグラマダの方向へ向けて一気に加速した。多重結界を錐型に作り出して風と空気の抵抗を極限まで減らし持ちうる最大の加速をかけて空を進撃する。みんな、無事でいてくれよ。
狼人族。狼=ウルフ。ウルフといえば……年齢がばればれですがな。
次回からは新章になります。七章随分と長くなってしまった。元々は10話位で終わらす予定だったのに予想外の5倍に(´・ω・`)
ストックがもうないので少し書き溜めてから開始しようかと思いますよ。その前にまずはスタットレスタイヤに付け替えたりしなくちゃだわ……。




