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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第七章 レェェェェッツ、王都インッ!!
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第181話 裏切るもの、守るもの

本日二話目。最新話でとんできたひとはご注意を。

 王都とグラマダを結ぶ山間の道でギインギインと金属同士がぶつかり合う音が響き渡る。


「囲め、囲めー! 絶対数じゃこちらのほうが多いんだ。包囲して前後左右から攻撃を仕掛けろ!」


 そう叫ぶのは傭兵団『マハル・マリーン』の団長であるアーサー・クーラ。彼に従う傭兵団員25名が山間の人通りの途絶えたところでその本性をあらわにし守るべき対象を捕らえるべく襲い掛かってきたのだ。宰相らの会話から聞き入れていた情報よりも遥かに多い寝返りに狼狽するエトワール。予想以上に巧みに団員を取り込んでいたようである。


「アーサー! お前達も! あんたら何しているのか分かっているのかい!!」


 エトワールが乗り込む馬車を守るように立ち塞がっているのは近衛騎士たち4名とエレノア、シャニア、そして今声を荒げたティーナとそれに付き従う6名である。


「ああ、勿論だ。『マハル・マリーン』は俺の傭兵団だ! 公爵家に擦り寄り取り込まれたお前らを切り捨て高みに昇る! そう、俺は故あらば寝返るのさ!!」


「清清しいほど屑ですね」


 得意満面でまくし立てたところにエレノアがきっぱりとそう言い放てばこめかみに血管を浮き上がらせ憤怒の形相を浮かべるアーサー。図星を突かれただけにぐうの音も出ないようだが怒りに震えていた。


「ふん、たとえ戦拳の娘だとてこれだけの人数で囲めばどうということはないさ。いいか、女! 下手に動いてみろ。後ろのお嬢様がどうなっても知らないぜ」


 エレノアの言ったとおり清清しいほどの屑であり小物である。それでも少しは効果があったようで一行は馬車の周りから動けないでいる。寄せては離れる波のように動く傭兵団の団員に思うような戦いができないでいた。手練れであるエレノアと慣れているはずのティーナ、その両名には常に複数であたり少しでもいいものをもらいそうになるとすぐに入れ替わり決して数を減らすような真似はしない。近衛騎士たちは手段を選ばない奔放な戦い方に苦戦しており防戦一方だった。馬車の周りはノブサダより譲り受けた結界石の効果で囲まれているため実質的な被害こそないがじりじりとその包囲網は狭まってきている。


「姐御ぉ、悪いこたぁ言うねえ。大人しく降伏しちゃあくれませんか?」


「そうだ。あんたにゃ世話になった。団長はああ言ってるが俺達ぁ目標さえ確保できりゃあそれでいいんでさ」


 寝返ったとはいえティーナを裏切ったという罪悪感からか複数の団員はつばぜり合いをしながらそう言い出す。だが、それを盾で思い切り弾き飛ばしながらティーナは声高らかに宣言する。


「寝返ったら寝返ったでそんな弱音なんか出すな! やられたいのかい! あたいはねぇ、あたい自身の矜持に従って生きているんだ! 寝返りなんてそんなふざけた事をいつまでも抜かしてるんじゃないさ! ぶつよ!!」


 ぶつよといいつつ近づき思い切り斬りつけるティーナに迷いの色は見えない。


「いいかい! もはやあんたらは敵! あたいは裏切り者に手心を加えるつもりなんて更々ないよ!」


 その声に応えるかのように寝返ることなくティーナに付き従った6人も雄たけびを上げつつ奮闘する。


「「「「「「姐御に逆らうやつぁたとえ同じ釜の飯を食った仲だとて容赦せんわぁぁ」」」」」」


 寝返った団員同様に三人一組で続けざまに攻撃を繰り出し僅かながら怯ませていく。三位一体の突撃戦法は明らかに周りの連中よりも練度が上だった。そしてそれを見て奮起するものがいる。


「お前達、二人一組で相対せよ。押し込まれてはならん。我らの後ろにはお嬢様がいらっしゃるのだ。公爵家の剣であり盾である我らがこれ以上無様な姿を晒す訳にはいかないぞ!」


 近衛騎士隊長ローヴェルである。部下の女性騎士達も目潰しや含み針などの俗に言う汚い攻撃や正規の部隊にはない荒々しい攻撃にも幾分慣れ始め二人一組で事に当たることにより少しずつ相手方に手傷を負わせ始めた。


 最も健闘していたのはまさかのシャニア。相手方としてもただの冒険者としてしか認識しておらずさほど気にしていなかった。最初に組したのは一人だけ。それをただの一撃で打ち倒したのである。


 ノブサダ一行とダンジョンへ潜った際に彼女のレベルは大幅に増加しておりスキルも成長した。そこで習得したウェポンスキルをフェイントの後に放てば油断していた団員の体を貫く。


「フィフス・ルナ・ストライクッ!」


 金色の剣閃が5つ吸い込まれるように突き刺さる。血反吐を吐きつつ倒れる傭兵を尻目に隣で近衛騎士と相対している傭兵へとターゲットを変更した。そのままコメット・ザ・レッドに付与されている加速を用いて三倍の速度のウェポンスキルを突き立てる。わき腹の辺りに突き立った刺突剣は内臓を抉り引き抜かれると鮮血が噴水のように溢れ出た。絶叫をあげて倒れこみのた打ち回る。トドメをさそうとしたのだが別な傭兵が引きずり下げ更に違うものがシャニアの前に立ち塞がった。


 確かに数は減ったように見えたのだが傭兵達は怪我をすればすぐさま下がりポーションを浴びて再び戦線に復帰している。どこから調達したのか知らないがそれなりに質のいいポーションを浴び倒すくらいに使えるほど数を揃えているのだろう。


 漠然とした違和感を感じていたエレノアはそこでおかしいと確信する。数で優勢なのに一気に攻め立てるようなことをせずただただ自分達の体力を削るだけの動き。そして導き出された答えは……。


「まさか増援待ちかい!?」


 ティーナも同様の答えに行き着いたようだ。


「恐らくそうでしょう。小物だけに大きな力を当てにしてるんでしょうね」


 図星を言い当てられたのだが遠くを見るアーサーの顔に怒りや焦ったようなものは見えない。むしろ口角を吊り上げ嘲笑うかのようである。


「ふんっ、気付いたか。だがもう遅いなぁ。見ろよ、あの遠くにあがる土埃を! 今に百名からの追撃隊が押しかけてくる。お前らは選択を間違えたのさ。たとえ犠牲を出してでも先へ進むべきだった。これで俺の勝ちだ!!」


 高らかにそう宣言するアーサー。ぐっと押し黙り悔しげに顔を歪めるティーナ。そうしている間にも土埃は迫ってきていた。



 近づくその部隊は随分と高揚しているようで離れていても何かを叫んでいるのがわかる。まるでこれから自分達を蹂躙するのを歓喜しているようにも聞こえた。背筋に冷たいものが流れる一同。だがそれは全く別な結果で裏切られることになる。




「おらーーー! 大将の嫁さんらを囲んでいるやつは皆敵じゃーーーい!!」


「いいか! 殺すなよ! だがこの世に生まれてきたことを死ぬほど後悔させてやれ!」


「ざんすざんすさいざんす。ミーの華麗な槍捌きで串刺しざんすよー!」


「ノブサダ様たちを裏切り楯突いた事をしっかりと後悔させてやるのです!」


 迫り来る一団の中には幌の上に陣取り叫ぶものが多数いた。中には馬車と並走するもの、空を飛び真上から見下ろすものまでいた。正規兵の武具を身に着けているのに明らかに異様な集団がどんどん迫ってくる。


 その姿を見て、そして聞いたエトワール一行と傭兵団のなかで先ほどまでと立場がぐるっと逆転したことを理解したのはどれ程いただろう。多くは理解する間もないまま一団の勢いに飲まれていったに違いない。公国正規兵の武具を身に着けた一団は迷うことなくアーサーたち裏切りの傭兵団へと踊りかかったのだ。


「ま、まて! なんで公国の兵が俺達を襲う!? 俺達は味方だ。公爵家令嬢を取り押さえるんだろおおお!?」


 味方だと思っていたはずの一団に襲い掛かられ顔を青くしてそう叫ぶアーサー。そんな彼の目の前に空から降り立つ見知った小柄な男。腰から刀を引き抜きつつビシっとアーサーを指差しながら宣告するかのように言い放った。


「公爵家令嬢を取り押さえる? ならば敵に変わりない! いよぅ、団長。黄泉路に旅立つ覚悟はいいかい? ガタガタ震えながら懺悔でもしてみるかい? ノブサダ、ここに百名からの援軍率いて遅ればせながら参上ってね!」


 予想だにしなかった介入に後ずさる。震える手を押さえ込むためか片手斧を握り締める手はくっきりと血管が浮き出るほどに力が込められていた。


「なっ、なんで貴様が!? 公国軍はどうしたぁ! なんでっ、なんで一介の冒険者にこんなことがあぁ」


「お前さんが頼みにしていた援軍の半数は俺の部下にもう半数は先にあの世でお前さんを待っている」


 極めて冷酷に、そして突き放すように言い切るノブサダ。その言葉を受けてただでさえ青かった顔は血の気が更に引き真っ白に変わっていく。今にも膝が折れそうに見えるのだが傭兵団団長としての矜持がそれを拒むのかその場に押し留まる。


「くそがああああ! 貴様さえ! 貴様さえいなければあああああああ!」


 がむしゃらに切りかかってくるアーサーはもはや泣き出しそうなほどのしかめっ面である。ノブサダは振り下ろされる斧をすいっと避け返す刀で胴を真一文字に切り裂いた。


 どばっと血が溢れ出し桃色の内臓がそこから顔を出している。誰の目に見てもそう長くはないだろうという重傷であった。


「ぢぐじょお。こ、こで死んでたまるかぁ。お、俺は上に行くんだ。こんなところで立ち止まるような男じゃないんだよぉぉぉ」


 意識も虚ろなのか世迷言を口にし始める。潔く散らせるのが慈悲だと言わんばかりに刀を上段に構えるノブサダ。


ティーナは白いシ○マさんってこんな感じなんだろうなと想像しつつ仕上げてみたり。

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