第180話 迷いなし、憂いなし
寝落ちして投稿できませんでしたん。なので二話一気に投稿。
ずいっと前に歩み出る異形の亜人の男性。
「一ついいだろうか。私は羅刹族のラクシャと言う。私は俗に言う魔族だがそれでもこのように自由に話したり動していいのか? 普人族は我らの見た目を醜いとあざ笑い虐げている。それでいて私達の力を恐れ弾圧してきた。あなたも普人族だろう。あなたの言い様では私も人として扱うような言い方だが……」
「ああ、そのつもりだが? あなた方にならぶっちゃけてもいいだろう。俺の奥さんの一人はラミア族だ。正直、種族で差別するのは嫌いなんだよね。寧ろその人となりで区別する。はっきり言えば普人族のほうが酷いことをしてるっていう自覚もあるしね。だからこそあなた方を奴隷のままにしているのは合法的にグラマダへ入れるようにするためだと思っててほしいかな」
ざわざわと皆が動揺している。それでも暗いものではなく少しは好感触なものだと思う。ラクシャ君もちょっと分かり難いが強張っていた表情が幾分和らいでいる気がするもの。
「ラ、ラミア族だと!? あの棒枯らしの一族を!」
「あの無音の暗殺者を手なずけたってのか!!」
「すげえ、ラミア族に連れて行かれたら干物になって帰ってくるっておっかあが言ってたのに!」
あるぇ? なんか違う方向でざわついてる? おかしいな、予想とちょっと違うぞ。ラミア族いったいなにしてきてんのよ。
「貴様っ! 普人族でありながら魔族に魂を売りおったか! この普人族の面汚しめ!」
後方から首だけの隊長がなんか吼えた。うん、ドーム型だけに声が漏れるのは仕方ないが首だけで随分と強気なもんだな。
「あのさ。普人族の面汚しっていうが汚いことや非道なことや心底反吐がでるようなことを最もやっているのは普人族だと思うんだが? 見ろよ、そこに埋まってるやつらを。【快楽殺人者】やら【死体愛好家】やら碌でもない称号もったやつらばっかりだ。それに隊長さん、あんたも横領とかやらかしているだろう。俺の鑑定にゃ一目両全なんだ」
「なぜ知って!? いや、儂がそんなことをする訳がないだろう! 馬鹿も休み休み言え」
ふーん、白を切るきか。ま、それでもいいけどね。取りあえず問答するのもアホらしいし口までどっぷりと浸かってもらおうか。ほーれ、どぷっとな。
「ぶがぼべぶぼぼぼぼうぶふ」
何を言っているか分からない隊長どのを尻目にもう一度彼らへと向き直る。
「邪魔が入ったが君達を虐げるつもりはない。ないんだが戦いには参加してもらうことになる。何でも宰相方の謀略でグラマダに危機が迫っているらしいんだ。君達には俺の私兵って扱いでいてもらう。勿論、錆びた武器で戦えなんてことは言わない。こちらの武具から好きなものを選んでくれていい。奴隷紋のほうの制限は俺と俺の周りの連中に害意を抱いたりしなければ苦痛を与えるとかもない。あ、物を盗んだりとかそういった犯罪のほうも駄目ってことでよろしく」
ガラガラガラと武具保管庫から拝借してきたものを次元収納から引っ張り出すと誰もがあんぐりと口を開けていた。やっぱり時空間魔法って珍しいんだろう。何もない虚空から山積みの武具が出てきたんだしね。
いくつになっても男の子は武器とかが大好き。って訳でもないのだろうが彼らは各々武具を手に持ち目を輝かせている。そうそう、この部隊には男ばかりしかいなかった。まぁ仮に女性が居たらあの横領おやじにいやんばかんされていた気がするしいなくてよかったということにしよう。
全員が着替えると一端の部隊に見える。全員が亜人だから非常に混合部隊なのが目立つけれども。
「それじゃ馬車のほうに乗ってくれ。檻のままってのもなんか嫌だったんで突貫で幌をかけておいたしさっきの半分だから余裕を持って乗れるだろ。御者ができる人はそのまま御者を頼む」
馬車のほうはフミたんの部下に大雑把だが俺の手持ちの布をあるだけ使って幌をかけてもらった。
全員が馬車へと乗り込んでいくがやはり納得がいっていないものもいるようで渋々乗り込むものもいた。まぁこればかりは仕方ない。それでも先ほどのラクシャ君やラミア族に反応していた人らはそれなりに好意的にとらえてもらっているみたいだから摑みはいいほうだと思う。
「ノブサダ様。彼らはいかがいたしますか?」
フミたんが跪きながら問いかけてくる。というかずっと傍で跪かれているとちょっと落ち着かないんだが。
「うん、もう決めてある。それは俺がやるからフミたんたちは先に進んでくれ。アルティシナ、いや公王様とエト様たちを早いとこ合流させたいしね。今、通れるようにするから」
渓谷の脇を『大地掘削』で掘り進みトンネルをあっさりと完成させる。どよどよと後でどよめいているが今更なのでするっとスルー。さあ、みなさん行っちゃってくださいな。
ガラガラと音を立てて馬車が動き出していく。そのまま最後の一台を見送るとくるーりと埋め込まれたままの連中へ向き直った。とはいえまともに話せるのは残った兵士数名だけだが。その数名も先ほどまで馬車を持っていかれることで喧々轟々と騒いでいたが全ていなくなる頃には声も枯れぐったりとしていた。
でもこれで終わりじゃないんだ。これから君達には情報を引き出した後に行方不明になってもらう。姿かたちも無くね。『私がやりました』で兵士達が知っていることを根掘り葉掘り聞きつくす。どうにも下っ端らしく大した情報はない。聞けるだけ聞き出したら術式に再び魔力を注ぎ込んだ。俺の魔力に反応した術式はすぐさま展開し彼らはずぶずぶと沈み始める。声がかれているが悲鳴と絶叫が渓谷に木霊した。
「いやだゃあぶあおががぶがぼ」
「トーネガゥワ隊長、隊長ぉぉぉ」
「はぶあぼあぶら」
やがてどぷんと全ての兵士達が沈み込み辺りはしんと静まり返った。そのまま魔法を解除しドライで周囲を丸ごと乾かし地面を元の状態に戻す。横穴はアースウォールで塞いでおいた。あとは道を塞ぐ土砂を『大地掘削』を使い掘る要領で消せば終わりだ。しとしとと降り続く雨で残る多少の痕跡は消えてしまうだろう。
このまま行方不明になる事で仮に後から追加の部隊が放たれるにしても時間が稼げるはずだ。報告が上がらなければうまくいってるもんだと思うだろうしな。
それにしても50人から殺めてしまったってのに罪悪感も沸きやしない。俺自身も随分と変質してきちまっているのかもなぁ。そんな事で少し沈みそうな意識をすぱんと顔を叩きつけることで引き上げる。駄目駄目、俺にゃ守るものがあるんだ。そのためならなんぼでもこの手を血で染め抜こう。俺、帰ったら皆と一週間はイチャイチャして過ごすんだ。いかん、これはフラグだね。前にもこんなこと考えてて結局休みが取れなかった気がする。阿呆なこと考えてないでさっさと合流せねば。
『高機動兵装』を唱えてふわりと浮き上がればヒュオンと空へと飛び上がった。飛行するのも随分と上達したもんだね。お、あっさり追いつきそうだ。それもそうか時速にして100キロ近く出てるもんな。
ふわりとフミたんが御者をする馬車へと飛び乗れば見ていた皆が目を丸くしていた。はっはっは、これも珍しいか。風魔法に飛行の魔法があるっぽいけどスキルレベル7で覚えたはずだしそうそう見る機会もないだろう。
さて合流したあとは部隊の編成と皆の聞き取り調査を行なわないといけない。指揮系統は確立しておかないと無駄に被害が増えるからね。ああそうだ。軍馬の治療もしておかないとな。とはいえ薬だけに心肺機能や免疫機能の強化を期待してバイタルアップをかけて断裂した筋肉組織を癒すためにヒールをかけるくらいしかできないけどもさ。
50人の集団だがそのうち5人が魔族でほかは獣人で全員に共通して言えることは皆傷跡だらけで体の欠損も目立つ。どれだけ酷い扱いを受けていたんだと少々頭にきていた。
5人の種族だが先に名前を聞いた羅刹族の他にレッドキャップ族、機人族、マンティス族、イエティ族となっている。
羅刹族はその戦闘能力の高さで色々と恐れられているらしいが逆鱗に触れさえしなければ比較的温厚らしい。だが一度怒らせれば真紅の四つの瞳が煌き四つの腕から渾身の一撃を振り下ろされることだろう。移動中、順々にだが欠損部位は治していくよと言ったら半信半疑だったのでラクシャ君の目と手を治したら皆一様に慄き腰が低くなった。本人も石像みたいに固まった後、フミたん並に畏まってしまったよ。
レッドキャップ族は赤い帽子をかぶった小鬼のような種族。シャザクさん39歳だがすごく小さいです。彼らの種族では額から生えた角の大きさで男としての価値が決まるとか。だが例に漏れず角が折られていて当初はオカマちゃんっぽくクネクネしていた。これを再生すると非常に男らしい姿に早代わり。例えるとKA○Aちゃんから渡○也さんに変化したようなもの。素早い動きと広い感知能力が特徴のいぶし銀でTHE・シーフって感じだ。
機人族は鋼の体を持つゴーレムに似た種族。人によって個体差がありサイボーグのように人と変わらぬ姿のものからスーパーロボットみたいなものまで多種多様なのだとか。この場にいるブングルは後者でロボットのような外見である。話してみたら非常にお調子者で聞いてもいないことまでペラペラ話してくれた。ちなみに食べ物は人と変わらないそうだ。良かった、ガソリン飲んだりするんじゃなくて。
マンティス族はそのまんま蟷螂と人が融合したような外見である。獣人とも考えられているのだが昆虫のような外見のせいで魔族の括りに入れられているらしい。顔はまんま蟷螂で両手は指がちゃんとあるのだが中国拳法の蟷螂拳の如く振るえばすっぱりと木の枝を切断していた。両手が凶器なのである。結構好戦的な性格をしておりこき使ってくれやがった公国軍には必ず報いを受けさせると息巻いていた。ところで気になったのだが彼らの種族ではナニをしたあと男衆は食べられてしまうのだろうか? さすがにスプラッタなので怖くて聞けなかった。真実は闇の中である。
イエティ族はふわふわもこもこの温厚なおっさんだった。雪山とかじゃないから暑いんじゃないかと聞いたら種族特性で常に冷気をまとっているのでこれくらいなら平気らしい。さすがにもっと暑い地方へ行くと危険みたいだけどね。遠距離では水魔法と冷気を操り近距離ではその腕力で敵をのしていく戦闘スタイル。協力するのは吝かではないが働き次第では解放を考えて欲しいと提案されそれを快諾した。ただ聞いた限りでは彼の故郷はオロシナ帝国のほうにあり今の情勢では解放しても辿り着くまでに同じような目にあわないという保障がないなぁ。安全に帰れる方法を考えないといけないね。
彼ら以外は獣人族だが犬人族15人、猫人族13人、熊人族6人、鹿人族5人、狸人族3人、虎人族3人となっている。半数ほどが冒険者あがり、もう半数は元一般人だった。依頼失敗による違約金を支払えずに奴隷落ちしたものから幼い頃にかどわかされたもの、貧しい寒村で口減らしのために売られたものなど様々な理由から奴隷になったようだ。
それにしても予想以上に大所帯になってしまったな。フミたんたちを含めた獣人たちが60名に今回50名が加わったことで総勢110名(ポポト君たちは除く)。増えすぎたと反省はしているが後悔はしていない。非戦闘員もいるけどこれだけいれば何かあっても対処できるでしょ。食事の用意とか大変だけどな!
哀れ中間管理職。




