第178話 飛び立つものたち(高飛びともいう)
おいすー、決して女装癖があるわけじゃないノブサダさんだよ!
いやぁ、手元にあるものでなんとかした結果があれですよ。麗しの偽髪、変声のチョーカー、偽乳特選帯、翼と舞い降りる光は幻術とホーリーライトを組み合わせてみました。無論、無駄毛の処理やメイクなんかも完璧さ! やったのはエレノアさんだけどな! 全身つるっつるです。
空中で消えたように見えるのは空間迷彩を使ったから。姿を消したままふよふよと移動していたのだよ。
ノブサダさんは考えました。どのようにしたら彼らの面子をまるっと潰せるだろうかと。
アンサー。国民の前で大々的に執り行うなにかを潰せばいいんじゃね?
アルティシナの覚悟から近いうちになにかしらやらかすだろうということは予測できた。それは恐らく洗礼を行うときだろうということもだ。だって俺がやっちゃったしね。
だがそれは国民に知らしめるべく催した宰相にとっては面目丸潰れになるだろう。そして言う事を聞かない傀儡ならば押し込めておこうとすると思った。以後の権力確保もだが旗印となる血筋を残さねばならないだろうからだ。
放っておけばそうなるところ、得体の知れない何かに公王様の身柄をひょいと横から掻っ攫われたらどうなるか。それはそれはとても面白いことになると考え介入させていただきました。あの歯軋りする宰相の顔ったらなかったね。
「め、女神様の使者殿。余をどこへ連れていかれるのか!?」
「ああ、俺、俺、俺だよ俺。ノブサダだ。言ったろ、命を粗末にするなって。だから助けに入った」
「ノ、ノブサダ!? いや、その姿は」
「いやいつもの俺の姿だとどこの暗殺者だって疑われても仕方なかったのでちょっと演出してみた」
ぶっあははははははは。思わず噴出し笑い転げてしまうアルティシナ。こうやって笑ってれば歳相応に見えるんだな。
「いや、余はこれほど痛快に笑ったことはない。宰相があんな顔をするのを初めて見たぞ。民のことは気になるがノブサダがあの時言ったように一人一人が各々考えてもらわねば根本的に解決はせぬか。うむ、こうなれば仕方あるまい。余はノブサダに保護されるとしようか」
笑いすぎたのか目に涙を浮かべながらアルティシナはそう言った。
それから俺達はフミたん達と合流し遅ればせながらグラマダへと移動を開始した。連れて来たのが公王だったと知って驚き目を回していたけれども。そういえば誰を連れてくるか言ってなかった。てへ♪
俺専用と貸していた白米号の手前部分には初めて馬が繋がれておりフミたんの御者でひた走る算段だ。俺はいろいろとやることがあるので後部座席にて作業中である。まずは結界石の大量生産からだな。素材は気にしなくて良い。ちょいと拝借してきたので唸るほどあるのだ。
◆◆◆
公王が女神の使者を名乗るものにかどわかされてから宰相は各所へ指示を飛ばし緘口令を敷いていた。幸いにして闘技場に集まっていた民のほとんどは強硬派のシンパでありそこまで大きな混乱は起きていない。騎士団のほうも宰相に伏するものたちで多くを固めていたため情報統制は粛々として行われた。だがそれと並行していくつもの報告が上げられてくる。
「閣下。ツキジオンヌ地下のレベルメタフィン育成所より報告が上がりました。育成中だったレベルメタフィンが全て死滅するという事態に陥り所長は心労によって意識不明になっています。数日前にも同様の現象が起き調査するも原因不明であり今回も未だ不明。培養筒の中のものまで死滅しており新たに作り出すにはかなりの時間が必要になるかと思われます」
「ダンジョン・キケロ探索の任に就いていた獣人たちが姿を消しております。発覚してから断罪の塔地下にいる人質を確認したのですがどうやら着任していた兵士がやつらと通じていたのか思わぬ抵抗にあい負傷者がでる事態になってしまいました。最終的に切り伏せたのですが人質は全て連れ出されており未だ発見できておりません」
ディレンは報告を聞いてはいるがその表情は変わることなくそれに対応した指示をだしている。レベルメタフィンに関しては最低限の人員を配置し再生作業に就かせる。そこで余った者たちには元が錬金術師であるからポーションなどの作成に回す。キケロ探索については今まで確保していた分を流しつつ冒険者たちを国直属として引き上げ従事させる。いざとなれば奴隷の首輪を使用することも厭わないとまで考えていた。
「アガトー。追撃の部隊の編成を済ませているな。すぐに出立させよ。公王が雲隠れした今、あの小娘の身柄は確実に押さえておきたい」
「はっ、今すぐに!」
「テラーズ。勇者の状態は?」
「はっ、あの侵入者よりなにやら魔法が放たれて以来、全身の力を奪われ立つことすら困難な状態でございます。呪いや毒物の可能性を考え神官や司祭を動員して治療を試みておりますが未だ回復の見込みは見えず目途すら立っておりません」
眉間に皺を寄せるとそれを左手で押さえる。しばしの思案の後に冷たく言い放った。
「あれはキリシアに世話をさせて放置。それよりも予てより進言のあったあの計画を実行に移せ。道化師を呼び戻し手段は問わぬと伝えておくがいい」
「閣下、あれですか!? あれは被害が予測できないと中止されていたのでは……」
「仕方あるまい。いかなる手段を用いてもやつらを従わせよ。あの首輪を使ってでもだ。今後、戦拳と流星、剣王が相手となればそれ相応の手駒が必要になる。対抗馬として育ててきた勇者があのザマではな。弟子を3人も集めればいくらあれらとて足止めはなるだろう」
「畏まりました。すぐに連絡をつけ事にあたらせます」
側近の二人が部屋を辞した後、ディレンは此度の絵図を描いたものの姿を思い浮かべていた。状況を省みればあの小娘が一番の候補なのだがあれがその手の謀り事をするとは到底思えない。候補を次々とあげていくがどれもこれもカチリと犯人像に当てはまるものは見付からなかった。常人ならそこで思考の迷宮に嵌ってしまう所だがディレンはすぐに思考を振り払いグラマダ攻略の作戦の確認を行う。だが、それは切羽詰った急報により中断されることになる。
「た、たた、大変です! いえ、失礼しました。閣下に急ぎ報告の件があり参上いたしました」
「構わぬ。続けよ」
「はっ、武具保管庫に保管されていた予備の武器・防具の類が無くなっております! 大鎧からナイフに至るまで全てでございます。幸いにして出撃部隊や当直の部隊の装備は手元に持っていたため無事でした。少なくとも今朝まであることを確認しておりますのでその間の犯行と見られます」
流石のディレンにも動揺の色がみられる。青天の霹靂のような出来事。そして最悪の事態が導き出されるとすぐに指示を飛ばした。
「至急、大金庫と宝物庫、素材保管庫、食料庫の中身を確認させよ! 今すぐにだ!!」
「は、はっ!」
暫らくして上がってきた報告は最悪ではないものの予想された通りのものだった。大金庫、食料庫に保管されていたものは無事に残っていたのだが素材保管庫、宝物庫はそうではなかったのである。素材保管庫には軟禁しているドワーフたちに加工させるべく鉄や鋼、希少な金属や魔物の素材、様々な触媒が保管されていた。それらが欠片一つなくなっているのである。それに加え宝物庫の扉は堅く閉ざされ中へと入ることができなかったのだ。壁を破壊しようと金属槌や魔法を用いてみたのだが傷一つ付かなかったらしい。
報告に来た兵士は普段のディレンでは考えられない苦々しく歯軋りをする姿に退室することもできないまま驚き慄いていた。
◇◇◇
アルティシナを救出する前に地下から金属反応のでかいところへ侵入して色々と拝借してきた。武器防具は品質はそれほどでもないが大量に回収し宝物庫内部に保存されていた国宝やらなんやらも全部まるっと次元収納へと放り込んである。一番心が躍ったのは素材保管庫だけれどもね。
宝物庫はカモフラージュに扉を『天岩戸』で施錠しまわりの壁にも『地壁補強』を施した。これでいくらか時間を稼げるだろう。中身がないところを必死こいて取り出そうとしている宰相以下が涙目になってくれることを祈るばかりである。
あ、金庫と食料庫からは拝借してませんよ。あれらになにかあったら王都の民から搾取されそうだしね。シボックさんのパン屋にも手が入りそうだものさ。ただし、空間把握の熟練度アップによってできるようになったマーキングを食料各所に設置してきた。これで有事の際には荷駄隊の場所は俺に筒抜けってやつだ。いざって時にすっからかんになる食料……心を抉られること間違いなしさ!
念のため国宝なんかを持ち出したことについてはアルティシナには伝えてあるし無事に着いたら公爵様に託そう。下手にちょろまかしたと思われるのも嫌だしね。ただ、一つだけ気になる物があったので使ってもいいかアルティシナに聞いてみたのがある。
星犬
品質:高品質 封入魔力:28/28
扱うものによってその性能が変化すると言われる世に三振りしか現存しない活魂刀の一振り。その刀身を維持するだけでも非常に大きな魔力を消費するため扱えるものは殆どいないとされる。
天恵:【再生】【反応強化】【風刃】
みつけちゃったのよ。三振りしかない割にはこの国の宝物庫で。まあ宝物庫の中だし下手すれば一生見つけられなかったんだけれども。
「構わぬよ。ノブサダはそれを使いこなせるのであろう? であればその武器にとっても良いことである」
確認したらあっさり許可を貰えた。こいつも魔力を与えれば元の姿を取り戻すのだろうか? ちょっとだけ楽しみである。
あ、素材に関しては内緒だ。色々といいものがあったんでこれらを使って魔獣装備を新しく生まれ変わらせるのだよ。見たこともないような素材、触媒を拝借してきたのだがこれらを利用して色々強化もするのだ。返せといわれても知らぬ、存ぜぬ、省みぬを貫き通させていただく!
取りあえずここまでは上手くいったと思う。勇者におみまいしてやったのは全ての能力弱体魔法を呪いの形で永続させる改変魔法。永続させるためには決勝戦でやったように各所に呪いを打ち込む手間がかかるが効果のほどは見ての通り。これで旗印のひとつはしばらく立てないだろう。そう簡単には解呪できないくらいに魔力は込めたからね。ちなみに勇者の魔法を弾いたのはリパルションの斥力と極厚のストーンウォールである。
さてとこれから追撃の部隊がくるんだろうけどいつ来るかね。速度、規模ともに不明だからエト様たちに追いつかれる前になんとかしないとな。一応なんとかするプランも考えて改変魔法を組み上げておこうか。思案しているものは以前から作っていたものを改良すれば使えそうな気がする。
ちなみに対勇者への弱体魔法はこちら
「その力、その体力、その技能、全てを失い僅かな段差で死に逝け! 『無謀なる洞窟探検家!!』」




