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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第七章 レェェェェッツ、王都インッ!!
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第177話 天より降り立つもの

節々の痛み! 咳、熱、腹下しを乗り越え! 読者様よ私は帰ってきたぁぁぁぁ!

 


 私の分身、諸君らの愛してくれたノーヴは死んだ……なぜか! もうヤだからさ!!

 どうも、ノーヴの死亡届を出して普通のノブサダに戻りました。ここからは憂いなく反撃を企てるのですよ、くくく。








 深い闇の中、王都から僅かに離れたグラマダ寄りの森の中。数台の馬車の周りに佇む人影がある。


「ノブサダ様。一同揃いました。いつでも出れます」


 それを眺めていた俺に声をかけてきたのはフミたん。昨日接触を図っていた面々が出揃ったことを報告してくる。時間が勝負だったことから着の身着のままで急ぎ支度をしてもらい地下を走る俺の自作の穴より脱出してもらった。俺の目の前には幾人もの獣人、ドワーフが並んでいる。彼らは人質になっていた子供達の親族や同郷の者たちでちょっとした特殊能力や技術力を持っていたことからやつらに目を付けられ従わされていた。当初は奴隷としようとしていたが主人と設定したものを殺し自らを殺めるといった手段すらとったため手を焼いていたが人質をとることで大人しくなるという状況下にいたっていた。それだけ身内を第一に考えているものたちだけに助け出したことを報告したら目の飛び出る勢いで食いついて来たという。


 俺が負けてからすぐにエト様たちは傭兵団と共に王都を後にしている。ちなみにポポト君たちはこちらに同道してもらった。助け出した子供達はアリナに懐いいてしまったのであやすのを任せているのだ。さすが、子供達を纏めていただけはある。あふれ出すカリスマってやつだね。


 総勢60名に膨れ上がったのだが調達した馬車は8台にも及ぶため多少手狭ではあるが十分に運べる人数となっている。蝙蝠人族21人、犬人族14人、狼人族9人、リザード族10人、ドワーフが6人。それぞれに武器防具を渡して各々身につけていた。


 蝙蝠人族は情報収集の腕をかわれて諜報部隊に。犬人族、狼人族、リザード族は戦闘能力と探索能力に優れていたため金属採集のためダンジョンへ専属で潜る部隊へと配属されていた。ドワーフは鍛冶の腕から王城地下にて武具の作成に従事させられていたようだ。脱出してきた方法は簡単。所定の位置に待っていた皆を俺が地下から回収してきたのである。無論そこはすでに埋め直して封鎖した。


 残念ながら隷属されている獣人や魔族は別な場所に配置されているため接触ができずに終わっているがあの宰相たちの話ならば近々相対することになるだろう。できるなら解放して味方に引き入れたいところだ。無論、戦闘狂とかはお断り申し上げたいが。


 彼らにはフミたんを俺の代わりとしてエト様たちを追って先にグラマダへと向かってもらうつもりだ。俺はまだ王都でやり残したことがあるからな。事が終わってからでも俺自身の行軍速度ならすぐに追いつけるだろう。



「ノブサダ殿。此度は我らが息子を助け出していただき忝い」


「俺達一同あんたに感謝している」


「ミーたちを匿ってくれる話も伺っているざんす。感謝してもしきれないざんすよ」


 順に犬人族、狼人族、リザード族の代表の面々である。リザード族は中々特殊な話し方をするな。彼だけじゃなく皆がそんな感じだ。


「皆にはこれから出立してもらうけれど言ったとおり先行する公爵家の一団に突かず離れずの距離をとってくれ。あとは手筈通りに進めて欲しい」


「任せていただこう。装備も新調してもらったからには獅子奮迅の活躍をお見せいたす」


「犬ざんすけどね、しししし」


「そこは突っ込まないでやるのが礼儀だろう……」


 なんだかんだでこの三人仲いいな。悪いよりよっぽどましだけどもさ。彼らも御者ができるようなのでそれぞれの種族を中心に連れて行ってもらう。ポポト君たちの馬車には蝙蝠人族から御者を頼んだ。ポポト君を含めた男の子たちは彼に色々と質問しながら貪欲に御者技能を学ぼうとしている。俺には断たれた技能だから頑張って学んでくれたまえ。あ、護衛にヤツフサが乗っているのは仕様です。これ以上ないほどモフられてるけどな。



 夜が明けるか明けないかという時間帯に彼らは旅立って行った。俺と白米号、そしてフミたんの部下二名がその場に取り残されていた。さて手筈通りこっちも動きましょうかね! まずは地下からあそこへ入ってと……。







 武闘祭で沸いた会場は翌日の昼には厳かな雰囲気を醸しだす洗礼の場へと姿を変えていた。壇上にはアーレン神殿高司祭とオルディス神殿高司祭が神殿を模した台座にて洗礼の儀を行うために待機している。


『国民達よ! 我らが公王様は10の御歳をお迎えした。これより洗礼の儀を執り行う! 公王様にあってはアーレン神、オルディス神のどちらの庇護下を選んだとしてもその輝かしい才能を持って国民を導いてくれるであろう! この儀をもってこの国はさらなる発展を遂げるのだ!!』


 宰相であるディレンが声高らかに洗礼の儀を執り行うことを宣言する。彼が宰相の座に就いてからは半ば強行的に二神の強調策をとってきた。確かに剣に生きるもの、魔に携わるものは多く商人達も信仰してはいるのだが明らかに度が過ぎた政策である。それでも亜人排除の思想を植えつけられた若者が増えるにつれ狂信的な信仰を捧げる者すら出始めていた。公王様の顔を一目見ようと集まってきた興味本位な者意外に会場に集まっている者は若者が多くそれらで席は埋め尽くされていた。


 ジャジャジャジャーンと軍楽団が演奏を奏でればゆっくりとした足取りで公王アルティシナは会場の中央へと歩を進める。だがその歩みは高司祭のもとへと向かう途中でピタリと止まった。会場中が静まり返り困惑しているようだ。そして公王はどこからか持ち出した拡声の魔道具で声高らかに民全てに届けと語りかける。


『民達よ。余は現公王アルティシナ・タイクーンである。10の歳を迎え洗礼を済ませた今ここに余の想いを皆に聞いてほしい』


 予定外の行動に進行役だった者や高司祭たちにも戸惑いの色が浮かんでいる。普段無表情なアガトーやテラーズも目を見開き何事かと驚いていた。唯一、ディレンだけはピクリと瞼を動かすだけにとどまる。


『今我が国が行っている政策は間違っている。かつて我が祖先はアレンティア王国が普人族至上主義の政策を打ち出したことに反発し国として独立した。それを子孫たる我々が覆しこのような政策を打ち出していたことに余は心苦しくて仕方なかった』


 会場はシーンと水を打ったように静まり返りただただその様子を見ている。


まつりごとに口出しできぬ己の幼さを呪いもした。10の歳を重ね断罪の塔より解き放たれし余はここに宣言しよう。亜人を虐げ貶めるのは間違っていると。彼らは隣人であり友であり仲間なのだ。公国に住む者たちよ、どうか今一度思い返「衛兵! あれは穏健派より放たれし偽者だ。即刻捕らえよ!!」』


 アルティシナが振り返ればそこには宰相を中心に騎士団が詰め掛けていた。宰相の傍らには勇者の姿もある。優勝者へ贈られた新しき装備へと身を包み不機嫌そうに公王を睨みつけていた。


「宰相、分かってはくれぬか……」


「無論です。まさかこのような事をなさるとは思いもよらず狼狽しておりますよ。ですがこれまでです。余生は塔の中となりましたがお恨み下さるな。己が軽率な行動を悔いてくださいませ。やれっ!」


 その声にあわせて騎士達がアルティシナの下へと近づきぐるりと取り囲む。観客席の民衆達はもはや理解の範疇を超える出来事に戸惑い狼狽している。なにせ国が主体で行ってきた政策に公王自らが異を唱えたのだ。更にはその公王が偽物だと宰相が叫ぶ。だがその姿は国民の前へと度々姿を見せていた公王そのものである。何が正しいのか確たる情報も無いまま置いてけぼりの民衆達。これでは混乱しても仕方のない話である。


 一斉に手を伸ばす騎士達。固唾を呑んでその光景を見ている民衆。その手が触れるかと思った刹那、バチィっと全て弾き飛ばされた。公王自身も驚いていたがそれをしたのが何なのか理解しひとつの指輪を擦る。


 手を弾かれた騎士が鼻息荒く再度手を伸ばそうとしたとき会場に異変が起こった。


 天より降り注ぐ光あり。中空よりそれは舞い降りた。金色の髪より光の粒子を振りまきふわりと公王の傍らに降り立つ。背には光の翼。溢れんばかりの豊かな胸。顔はヴェールで隠されているものの神秘的な黒き瞳は見るものの目を打ち抜いた。


 光を放つそれが手をかざせば公王の周りにいた騎士たちが吹き飛び転がっていく。そしてそのまま公王の隣へと降り立ちその場に居た者達へと高らかに言い放つ。


「愛しき子らよ。我は女神の使者。女神達は大層心を痛めております。この幼き王が放てし言葉はまさに女神の慟哭。女神達にとって普人族であろうと亜人であろうと等しく愛しき子らなのです。それを貶め差別することは女神達が望むものではありません」


 不思議とその声は会場全体へと響き渡った。一言一句が耳へと入り込んでいく。


「よくお聞きなさい。仮に悪しき心に染まるものがいたとてそれが種族全体を憎んだりすることに繋がってはいけません。普人族の中にも善き者、悪しき者がいるように全てが同一のものではないのですから。この幼き王は私が保護しましょう。愛しき子らよ、今一度良くお考えなさい。そして自らの良心に問うてみるのです」


「ふざけるな! こんなまやかしの茶番など!! インフェルノバースト!!」


 皆がその声に耳を傾けていた中、空気を読まない勇者が間髪入れずに火球を作り出し公王と光放つものへと撃ち放った。


「愚かな」


 光放つものが手をかざせば火球は天高く舞い上がりやがて消えさっていく。自身が持つ最高の一撃をあっさりと無効化され絶句するもすぐに我に返り今度は火の弾丸を何十発も撃ち込み出す。


 再び手をかざす光放つもの。そこには高さ2メートル厚さ1メートルを優に超える石の壁が二人を守るように瞬時にせり上がって来る。火の弾丸は僅かに壁をへこませただけで消え去った。


「邪な心に染まりし穢れた異世界の者よ。そなたに災いあれ」


 そう注げた途端、尋常でないほどの魔力の奔流が会場全体を揺るがす。そして勇者の四肢と頭に不思議な紋様が浮かび上がったと思えばそこへと魔力が流れていきそれは闇色に染まっていった。


「な、なんだ!? 力が……抜ける!??」


 ガシャアアアアン


 鎧の重さに耐え切れずその場に突っ伏す勇者。そのままピクリとも動くことができず自身の体に何が起きたか理解する間も無く意識を失った。


「宰相よ。そなたの企みは全て打ち砕かれるであろう。過ちを正し正道に戻ることを我は願う。愛しき子らよ。あなたたちが考えを改め融和への道を歩み始めたとき公王は再びこの都へと舞い戻ることでしょう」


 公王を抱きかかえたままふわりと浮き上がったと思えばすーっと天へと昇っていく。光を撒き散らし飛び立つその姿は幻想的であり目を奪われたものは思わず放心してしまうほどだった。


 やがてその姿はシュンっと消え去り静寂が辺りを支配する。そしてどよめきが伝播すれば今起きたことが現実なのかと頬を抓る者が続出した。


 会場に取り残されたものたちは困惑一色に染まっていた。アガトーすら突然のことに絶句している。唯一、ディレンだけは自身の計画が無に帰したことに気付き歯噛みしていた。

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