第19話 はぢめてのだんぢょん
「荷物持ちするよー。半日300マニー!力仕事なら任せてくれーー」
「魔法を使える後衛さん募集してます。一緒にダンジョンの奥へと進みませんかー?」
「ポーション、キュアポーションあるよー。傷つく前に準備忘れずにー」
やって来ましたグラマダ中央のダンジョン入り口! 入り口付近には大きなクリスタルが設置されている。これはゲートクリスタルと呼ばれているもので途中階層のポートクリスタルとの行き来を制御しているものだ。
無論、これは管理下におかれたダンジョンのみ設置可能なものらしい。
このダンジョンの名前はフォンブランの迷宮。通称『育成の迷宮』と言われている。低階層にはさして強力な魔物は出ず駆け出しが通うにはもってこいなんだそうな。
現在おおよそ午後2時くらい。ダンジョン周りはそれなりにご盛況。入り口付近には雇われ待ちのポーター(荷物持ち)や薬品、地図などを売る売店、臨時パーティを組もうと勧誘する者などが溢れている。無論、俺はソロなんだけどな。
とりあえず右も左も分からんし売店で情報収集しようか。
「おっちゃん、景気はどうだい?」
「まぁまぁだな。新人は引っ切り無しだがまず突っ込んでいくもんだからなぁ。痛い目を見てから地図やら道具やらの重要性を感じるらしい」
「まぁ俺も初めてだから地図を見にきたんだけどさ。このダンジョンの地図ってないくらくらいするんだい?」
「1~5Fなら纏めると500マニー。6~10Fは700マニー。11~15Fは900マニーだな。最終フロアの16Fはランダムに内容が変わるから地図はないぜ」
「なるほどね。とりあえず1~5Fの地図を買うよ。あとは徐々にかな」
「あいよ、毎度あり」
羊皮紙が5枚丸められて手渡される。
「地図上の▼マークが下のフロアへ向かうフロアクリスタルだ。△が上のフロアに戻るやつだな。5Fごとにダンジョン入り口へ戻れるポートクリスタルがあるぜ」
「ほうほう、いたれりつくせりだね」
「ここは管理ダンジョンだが時々変化する部分もある。もしそれを見つけたら俺に報告してくれんか? 未確認情報ならそれなりの値段で情報を買うぜ。お前さんは始めから情報の重要性をわかってるっぽいから見所がありそうだ」
「あいよ、まぁまずは慣れる事から始めるさ」
「無事に帰ってこいよ。お前さんらは大事な飯の種だからな」
がははとおっちゃんは豪快に笑う。
「ははは、それじゃいってくるよ」
入り口には管理官と呼ばれる街の公務員がいてダンジョンへの入場料を徴収している。入場料は100マニー。高いか安いかはこれからの稼ぎ次第か。
入場料を支払い入り口からダンジョン内へと足を踏み入れる。
階段を降りると大きなフロアが広がっている。地図どおり1Fの大広間のようだ。
ちらほらとパーティやソロがいる。ざっと見渡すと皆初心者っぽいね。
とりあえず色々と試したい事もあるし地図を頼りに人気のないところへ向かおう。
ちなみにダンジョン内はどういうわけだか明るい。これなら不意をつかれなければ何とかなるだろう。
鉄の剣を構えゆっくりと前に進む。まだ何が出てくるか知らないし使い慣れたこいつのほうがいい。すぐに投げれるようにスローイングナイフも準備しておく。
耳を澄まし集中しながら進むと角を曲がった辺りから何かハァハァと息遣いが小さく聞こえる。
足音を消しつつ壁を背にちらりと覗き込むとそこには犬がいた。
ポーンドッグ Lv3
HP:15/15 MP:0/0
一番下っぱの犬。集団戦が得意なので大勢に囲まれると危険。
ドーベルマンみたいだがアレよりもちょっと痩せこけた感じがする。だが、とてもハングリーな印象も受ける。何にせよ気を引き締めていこう。
回りを確認し誰もいない。よし、初撃は魔法で削って次いで接近戦で仕留めよう。
こちらに背を向けたのを見計らって狙いを定める。
「ファイアアロー(小声)」
空中に生まれた火の矢が一直線にポーンドッグへ向かう。
ん、こっち向いた!? やっぱり声だしたから気づかれたか? 追撃としてスローイングナイフを投げる。すぐに鉄の剣を構えて相手の動きを待つ。
ぎゃわん
あ、火の矢当たった。ナイフも刺さった。あれ? 犬ってばポテンと倒れてしまった……。
ポーンドッグ Lv3
HP:1/15 MP:0/0
えーっと……とりあえず気をつけながら近づいて鉄の剣で止めを刺す。どうやら顔に火の矢が当たって酸欠になったところにナイフも刺さって涙目のコンボになってしまったようだ。
止めを刺すとポーンドッグの体は光の粒子になって散っていった。外と違って剥ぎ取りできないのか。魂石すら残さないとなるとドロップするであろうアイテムに期待かな。
マップを元に人気のなさそうな方向へ向かいながら着実に敵を狩っていく。
しかしながら出会うのはポーンドックばかり。すでに40匹は狩っているが魂石は3個だけ。しかも黒。魔力纏を使いながら被ダメージを減らしつつ鉄の剣を振るい魔法は火の矢を放っていく。安定して狩れてはいるが悲しいほどドロップが悪い。
突き進んでいくと左手に小部屋が見えた。奥には……ん? 箱がある?
これはもしかしてもしかしますかな?
期待に胸膨らませつつ手前で少し休憩してから行ってみようか。
現時点でポーションはフルで残っている。HP、MPは満タン。準備は万端だ。当方に襲撃の用意あり!
魔力纏を発動して不意に備えつつ小部屋へと足を踏み入れる。
小部屋に入って数歩進んだ途端、異変が訪れた。
ヴォンという何かしらの音とともにもと来た道は黒い霧のようなもので塞がれてしまう。その場から出ようとしてもなぜかその黒い霧より先には進めなくなっていた。
「嫌な予感だけは当たるんだよな、本当に」
くそっ、なにがくるんだ!?
箱を守るように黒い霧が湧きその中から何匹かの犬の集団が溢れ出てくる。
ポーンドッグ Lv3×4
HP:15/15 MP:0/0
ナイトドック Lv6
HP:30/30 MP:2/2
下っ端を従えるランクが上のドッグ種。
見たことないのが混じっている!?
毛並みの白い犬がナイトドックか。
とにもかくにも多対一ならまずは数を減らさないとな!
「ファイアアロー!」
狙いはポーンドック。次いで狙いを散らすために移動しながらスローイングナイフをあるだけ投げていく。
火の矢が一匹の胴体へ、ナイフはほとんど外れるも一本が別な犬の足に刺さった。
明らかに動きが鈍り機動力が削れたはず。
しかし、そこでナイトドックが激しく吼えた!
アォォォォォォォォォォォォン
ぐうっ、耳が痛ぇ。
咆哮を合図に動けるポーンドッグ3匹が一斉に襲い掛かってくる。
一匹は薙ぎ払って止めを刺すも残りの二匹の牙が左足と右腿に突き刺さる。
ってえぇぇぇぇぇぇ。
魔力纏があっても結構な痛みを感じる。例えるならスニーカーの底から釘踏んだ感じか。
痛みに耐えながらポーンドッグの頭を空いた手と剣の柄で殴りつけて振り払う。
だがその間にナイトドッグがこちらを急襲する。
体をよじってかわそうとするも牙が掠めていきざっくりと左手が切れている。
うあ、ポーンとは全然威力が違うじゃないか。
ヒールで回復しつつ移動を繰り返す。これ連携をガッチリとられるとかなりやばいぞ。
あ、そう思っている間に動き出した。俺の動きを窺うようにじわりじわりとにじり寄ってきている。
何かないか? ナイフはもうないし……火の矢じゃ止まらない……。
あ! あれってできないか? 発動するかすら未検証だがやってみるか。
やつらが飛び掛るのを見計らって後ろへ跳び下がりつつ力ある言葉を紡ぎ出す。
「フレイムウォール!」
俺の目の前の床から炎の壁が吹き上がる。
発動と共にがくんと力が一気に抜けていったきがする。かなりの魔力を使ってしまったようだ。
さもありなん、フツノさんのよりでかい炎の壁が完成しているのだから。
飛び掛ってきた犬達は炎の壁へと突っ込み全身を焼かれてのた打ち回っている。
が、ナイトドックだけは炎に包まれながらも戦意を失っていない!
鉄の剣を構え残りの魔力をつぎ込んで魔力纏を強化しナイトドッグを見据える。
咆哮を上げながらナイトドッグは一気に飛び掛ってくる。
だが、その動きはそこまで鋭くなく今の俺でもなんとか合わせられる!
俺へと噛み付こうと開けた口目掛けて横薙ぎに振り払う。
「はぁぁぁぁぁっ」
肉の抵抗を受けながらも口元より二枚におろされた格好になってナイトドッグは地面へべしゃりと落ちた。
何とかうまくいって安堵したいところだがまだポーンドッグが残っている。いまだ消えていないものを順に止めを刺していく。
そして音もなく犬達は光の粒子になって消えていった。
消えたその場には今までとは違いそこには小さな石が落ちていた。
「おお、赤いぞ。赤い魂石か」
たしか黒よりワンランク上の価値があるんだったか。その他にポーンドッグのうち二匹分の黒い魂石も落ちていた。どんな条件なのか判別はつかないがこれでタダ働きは回避されたか。あ、今までなにか忘れてるかと思ったら前に取ったゴブリンの魂石売ってなかったな。
てれれてってって~♪ ノブサダのレベルがあがりました。
名前:ノブサダ・イズミ 性別:男 種族:普人族?
クラス:戦士Lv9 状態:健康
称号:【マリモキラー】
HP:30/80 MP:12/82
【スキル】
エターニア共通語 異魂伝心Lv1 魔法改変Lv1 家事Lv5 農業Lv3 剣術Lv2 両手槍Lv1(new!) 投擲Lv2(up!) 回避Lv1 神聖魔法Lv1 属性魔法適性Lv2 生活魔法 偽装Lv2 魔力纏Lv2
【固有スキル】
識別の魔眼Lv3 レベリットの加護(小)
おお、これまでの蓄積もあったからか2つレベルが上がっている。レベ神の加護はちゃんと仕事しているようだ。今度、何か作ったらお供えしてやろう。
そして投擲が上がったのは地味に美味しい。
とりあえず自分にヒールをかけてHPを回復する。
戦闘ですっかり忘れていたが箱あったんだよな。
宝箱というか木箱のようなものがそこにあった。カギなどはないようだが罠はどうか? 悲しいかな、そういったスキルは持っていないのな。最悪に備えて小手で顔をガードしつつ開けてみるか。
ギーっと軋んだ音を出しながらあっさりと木箱は開いた。
中には小さな小瓶が入っていた。
なんじゃこりゃ?
訝しげに見ながら鑑定してみる。
ヒキコモリドクガエルの毒薬
品質:粗悪 賞味期限:すでに過ぎ去っている
穴倉の奥に引きこもっている為、なかなか見つかることないヒキコモリドクガエルの毒袋から加工された毒薬。品質が悪い為、販売には向かない。
なんかやばいもんでました!
取り扱い注意の物体Xですよ。これはあれだな、そのうちスローイングナイフに付着させて使うか。品質悪いから効果のほどはいまいちだろうが何かしら役に立つだろう。
小部屋を出て壁にもたれかかりながら体を休める。体力もだがかなり消耗したMPがきつい。
残り少ない果実を齧りつつ回復を図った。
ある程度回復したところでひたすら野犬狩りを繰り返す。
鉄の槍を使ったりもしていたんだがやはり実戦で使うと大分勝手が違う。だが、それでも犬程度ならなんとかなるようになってきた。弓も試しに使ってみたけどやっぱり練習不足からかまったく当たらない。今度、ミタマにコツでも聞いてみよう。
魂石だがどうにもドロップ率は低い。大体1割くらいだろうか。休憩後、30匹ほど狩って魂石は3個だけ。これはそういうもんなのか俺の装備するリアルラックが激低なのか……。後者じゃないことを祈りたい。いや、本当に切実なほどに。
ちなみにだがあれからナイトドッグとは遭遇していない。やはり特殊なポップなんだろうか?
てってれ~♪ 称号【ドッグハンター】を獲得しました。
お、なんか獲得したぞ。
【ドッグハンター】 犬狩人。数々の犬を追い詰めたものに与えられる称号。野良犬が怯えて近寄らなくなる効果あり。
なんとも微妙な称号だ。これってつけてしまうと狩りにならないんじゃなかろうか?
とりあえず放置しておこうか。
そしてお犬様を探しながらうろついているとまた小部屋へと突き当たった。あの時とは違う部屋である。
どうしようか? ポーションはまだ一個も使ってはいない。HPは8割、MPは7割ってとこだ。
あの時と同じ編成なら試してみたいこともあるんだけどな。
よし! 少し休んだらいってみようか。時間的にここが最後になりそうだし。
あ、遭遇戦になるかもしれないし折角だからあれもつけておこう。
小部屋の奥にはまた木箱がある。魔力纏を強めに展開して鉄の槍を準備しつつ部屋へと踏み込んだ。途端、入り口は通行不可能になり部屋の中央にまたもや黒い霧が立ち込める。
ポーンドッグ Lv3×5
HP:15/15 MP:0/0
ナイトドック Lv7
HP:35/35 MP:2/2
OH、増えてーら。しかもレベル上がってるよ。
ええい、先手必勝だ! コイツをくらえぇぇぇぇ!
俺はナイトドッグへ向かって……鉄の槍を渾身の力で投げつけた!!
ギャワン
いよっし! 鉄の槍はナイトドッグの胴へと突き刺さりました!!
その様子を見たポーンドッグが怯んでいる。これは好機だ一気にいくぞ!
「ファイアアロー!」
火の矢を放ちつつ移動しながらスローイングナイフを続けざまに狙い打つ。
ナイトドッグの顔面に火の矢は直撃。のた打ち回った際に刺さったままの槍の辺りから大量に出血している。これは無残。ナイフは2匹のポーンドッグへと突き刺さった。
これで我に返ったのかさらに狂乱したのかは分からないが別な2匹のポーンドッグが飛び掛ってきた。
が、その動きはどうにも緩慢で怯えの色が抜けていない。結構、効果があるんだな称号って。
そう、入室前に称号を【ドッグハンター】に変えていたのだ。
鉄の剣を抜き放ってカウンターぎみに斬りかかる。
飛び掛ってきた犬一匹の首を胴体とさよならさせるももう一匹は俺の左足へと噛み付く。いたたた、前よりも食い込んでるよ。ボールは友達怖くないよとばかりに思いっきり蹴飛ばして引き剥がした。
ギャウン
悲鳴をあげて宙を舞うポーンドッグ。飛んでいった先は見事に怯えた残りの連中の傍。止めとばかりに魔法をぶっ放す。
「フレイムウォール!」
本来なら敵の突進を防ぐ為の魔法ではあると思うが今は殲滅に使わせていただきましょう。
咄嗟の事だったが前に使ったときより炎の壁の横幅が縮まって縦幅が広くなっている。無意識の内に殲滅しやすいように制御したんだろうか? もしかしたら使用者の意思次第で形状変化できるのかもしれない。これは今後の要検証だな。あ、ヒールかけないと。
炎の壁が収まるとそこには丸焦げになった犬達が転がっていた。自分でやったことながら実に無残なり。
てれれてってって~♪ ノブサダのレベルが上がりました。
てってれ~♪ クラスレベルが10を超えたためセカンドクラスが解放されました。
てってれ~♪ 新たなクラスが解放されました。
おおう、なんかキター!
名前:ノブサダ・イズミ 性別:男 種族:普人族?
クラス:戦士Lv10 状態:健康
称号:【ドッグハンター】
HP:46/85 MP:30/82
【スキル】
エターニア共通語 異魂伝心Lv1 魔法改変Lv1 家事Lv5 農業Lv3 剣術Lv3(up!) 両手槍Lv2(up!) 投擲Lv2 魔力纏Lv2 回避Lv2(up!) 神聖魔法Lv2(up!) 属性魔法適性Lv3(up!) 生活魔法 偽装Lv2
【クラススキル】
挑発
【固有スキル】
識別の魔眼Lv3 レベリットの加護(小)
レベ神様だいぶ奮発してくださったようで色々とあがっております。セカンドクラスってことは2職同時に経験値が入るってことなのかな。これはイイ! クラススキルってのはクラス特有のスキルってことか。あと神聖魔法と属性魔法適正が上がったのは大きい。明日はギルドの資料室辺りで魔法についての勉強しようかな。いい加減ぶっつけ本番はやばいし。
職業設定と念じ未設定のところにクラスをねじ込もうとすると開示された情報が増えていた。
異世界人、拳士、修道士、魔術師、呪術師、商人、農家、主夫、シーフ、狩人
狩人は弓使ったからだろうけどシーフは箱を開けたからか? 呪術師に関しては皆目見当がつかん。強いて言うならあの黒い霧の部屋が関係してるのかいな。
とりあえずファーストをシーフにしてセカンドを異世界人にしておこう。シーフは気配察知系のなにかがあれば御の字、異世界人はMPの底上げが目的だな。実験するにせよMPが高いほうがいい。
そしてお楽しみのドロップは……ナイトドッグの赤い魂石げっとぉぉぉ!
他はなし……俺のリアルラックはどん底のようです。
気をつけつつ開けた木の箱の中には……ど、銅貨が3枚だと!?
子供のお使いかぁぁぁ。
若干の虚しさを噛み締めつつ帰路についた。くそぅ、必ずリベンジしちゃる。
次回あたりから以前とはストーリーなどがまるっと変わります!
お楽しみに!?




