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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第七章 レェェェェッツ、王都インッ!!
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第174話 さあ急いで仕込みだ!



 豪奢な応接室のソファにエトワールは着席していた。対面に座っているのは公国騎士団の騎士団長。名をアガトー・ホールベル。爵位は子爵ながらその指揮能力を宰相に抜擢され30歳の若さで騎士団長の座についた男である。そのため宰相に対する忠誠心は群を抜いており口さがない貴族の間では宰相の犬とまで囁かれていた。


「……という訳なのです。ですから武闘祭が終わり次第私どもはグラマダへ帰還させていただきたいのです。公王様の洗礼の儀に参列できないのは非常に心苦しいのですが父や民が苦境に立たされている中、少しでも戦力となるためどうかお許し願いたいのですわ」


 2メートル近くある巨体がエトワールの話を聞きつつ頷いている。横に控えていたエレノアは能面のように表情の変わらないこの男が何を考えているのかいまいち掴めないでいた。


「話は承りました。閣下へ確認して参りましょう。今は会議中ですのでその後お伺い致します」


「はい、お願いしますわ。アガトー様もお忙しい中、お時間をとっていただきありがとうございます」


「なに、構いませぬよ。領地の民を気遣うエトワール様のお心に打たれたまで。我々騎士団から救援を出さねばならないところですが生憎武闘祭と式典の警護の為、人員が裂けぬのです。人員に調整がつき次第救援を編成しましょう」


「それは心強いですわ。私どもでも冒険者ギルドなどで腕に覚えのある者を雇っていくつもりです。今、部下達が奔走しているところですの」


「左様ですか。む、そろそろ軍務に戻らなくてはなりません。結果のほうは宿へと使いを出しましょう」


「お願いいたします。それでは私どももこれで」


 スカートの端を持ち上げ礼をしエトワールたちは退室する。その足で彼女達は次の目的地へと向かうためすぐ様馬車へと乗り込んだ。御者はエレノア。まったく習得出来なかったノブサダを尻目にしっかりと学んでいたのだ。エレノアの合図に公爵家の誇る大きな馬体の血統種である黒玉号が力強く大地を踏みしめ駆け出した。






 そしてその姿を階上の執務室から見下ろし呟く姿がある。ご存知宰相ディレン閣下その人だ。


「ふむ、小娘は行ったか」


「はっ、帰還に関してはいかが致しますか?」


「構わぬ。仕掛けが一日二日早まるだけよ。式典に居らぬ方が後の細工もしやすかろう」


 道化師の通称で呼ばれている諜報部の長サーシェスから「かの令嬢に付き従ってきた者共の半数以上取り込むことに成功した」と報告が上がっている。数さえ減らしてくれれば後続で放つ追っ手が楽になるであろう。最も良いのは相打ちで共倒れになることだがなと無表情のまま思考するディレン。


 グラマダ所属の冒険者が勝ち上がってきたのは些か計算外ではあったが手筈通り毒の打ち込みには成功したようである。となればアレに任せておけば平気だろう。事、戦闘能力においてはテラーズ、アガトー両名を超えているのだから。


 武闘祭を勝利で飾った勇者を前面に押し出し大氾濫で弱った、もしくは壊滅したグラマダを接収する。領主たるあやつには退場してもらおう。不幸な事故なら仕方あるまい。その後、公王の鍵で神の力を引き出し侵略戦争の狼煙を上げるのだ。すでに神へと至る扉のある場所は目途がたっている。圧倒的な力で蹂躙していく様を想像し表情筋が死滅しているんじゃないかという無表情の口角が僅かに釣りあがった。


「アガトー、軍の編成はどうか?」


「はっ、公爵家令嬢を捕らえる部隊の編成は完了しております。隷属してある獣人と魔族、ならず者の混成部隊ですので後の『処理』も簡単でございましょう。令嬢以外は全てを無に返す指示を出してあります」


「よろしい。決して侮られるなよ。あやつが戦死でもしてくれればあの小娘を後釜に据える。無論、矯正し枷をつけてからだがな」


「はっ、万全の態勢を整えておきます」


「うむ、では行けい」


「はっ」






 彼らは気付かない。姿は見えないが近くにもう一人いたということに。






 ◆◆◆





「ただいまー」


「お帰りなさい、旦那様」


「よく戻りました。首尾はいかがでしたか?」


 宿の部屋へ空間転移で降り立てばそこには二人が待っていた。他の騎士やティーナさんとヤツフサは色々と動いてもらっているのでここにはいない。


「いやもう真っ黒です。傭兵団の半分以上干渉を受けていますね。ティーナさんがこっちにいたのが裏目にでたかもしれません。恐らく団長寄りの連中はほぼあっちに着いたかと。あとは何かしらの弱みを握られでもした可能性があります。道中で裏切るか足止めをしたあとに後続でエト様を捕らえる部隊が来ると言っていました」


 窓の外に空間迷彩で姿を消した俺がへばりついて聞き耳を立てていたのだ。防音魔法を逆転し集音していたから呟くような声でもしっかりと耳に届いていたよ。


「なんてこと……」


 押し黙ってしまうエト様。良かれと思ってティーナさんを傍に置いたことが裏目に出てしまったことを悔やんでいるのかそれとも宰相の所業に絶句しているのか。


「エト様、少なくとも残りの者は信用できるんじゃないですかね。お金を積んだりすれば冒険者や傭兵など寝返るものはよくある話だそうです。少なくともこっちにはローヴェルさんたちやエレノアさん、ティーナさん、それと不肖俺が居ますから大船に乗ったつもりで毅然として下さい」


「……そうですわね! 私がしっかりしないと皆が動揺してしまいますものね」


 少しだけ狼狽していた瞳にはっきりとした意思が戻ったようだ。しっかりしているように見えてもギリギリ十代である。海千山千のやつらと渡り合うには不安が大きいのであろう。エレノアさんしっかり支えてあげてねとアイコンタクトをすればコクリと頷いてくれた。


「それでは俺も次の行動に移ります。エト様はこのまま他の者が戻ってくるのをお待ちになってください」


「分かりましたわ。ノブサダも気をつけてくださいまし」


「はい、それでは行ってきます」




 そのまま俺は急ぎ魔道具屋を回る。


 ローヴェルさんたち騎士には分かれて物資の手配をしてもらっていた。馬車、食料品、装備品、衣料品、医薬品などである。予備の俺特製マジックリュックを預けてあるので荷物に関しては心配いらないだろう。資金はゴールドインゴットを換金してもらい使用していた。公爵家の名前での換金なのである程度大きな額も余裕で動かせると見込んで頼んだのだ。実直なローヴェルさんなら安心して任せられる。何処からこんなものをと驚いていたがダンジョンでですと誤魔化した。まあ誤魔化せていたかは別として先立つものは必要だから納得はしてくれただろう。


 ティーナさんとヤツフサにはポポト君たちへの伝言と護衛を頼んだ。俺からの個人的な報酬として俺製マジックリュックin大量の手料理を預けたら嬉々として動いてくださったよ。早々に食べきらないように気をつけていただきたい。


 あれからフミたんから使いが来て報告は無事に完了し部下のほうでも人質となっていた者の縁者などに接触できた模様。詳細は夜にでもお届けしますと言っていた。例の部隊編成に引っ張られているんじゃないかとちと不安になってきたが今考えても詮無きことか。





 大量の触媒やポーション類の素材を買い込んでは次元収納へと放り込んでいく。どこで作ろうかと思案した結果、昨夜掘り進んだ穴の中なら邪魔は入るまいという結論に至った。空間転移で真っ暗な中へと転移する。


 明かりをつけたらいつものように魔法を並列で発動し一気に加工を進めていく。出来上がったポーションは大きな石バケツへと保管し再び次元収納のなかへ。あとでポポト君たちの元へ届けて容器詰めの内職をしていただこうか。あっちへ着いた後の職業訓練にもなるしな。


 一通り加工し終わったらちょっと休憩。休憩がてら空間把握の範囲を広げつつみたらし団子を口に運んでいたらふと気付いた。先達ての貴金属の反応が戻っているということに。脳内に展開されたマップからするとどうやらツキジオンヌ地下あたりから反応がある。ふむと一頻り思案した後、ここまできたら毒を喰らわば皿までという結論に至った。


 ――きんきらきんにさりげなく集いて固まれ黄金の壁!


黄金創壁ゴールドウォール


 ボコオン!


 前回よりも増量された黄金の壁が俺の目の前に出現する。先と同様に気持ちよくレベルアップのファンファーレも鳴り響いていた。何かは知らないが予想以上に経験値になるらしい。ついでとばかりにミスリル、前回はやらなかったシルバーの壁も作り出せばツキジオンヌ地下の貴金属反応は無くなっている。見知らぬ何かに感謝を込めて『ごちそうさま』です。


 いよっし、あとはあれにつかう穴を掘り出しておくか。

バサリ


「ふんぬああああああああああ」


「しょ、しょちょおおおおお!?」


ノブサダの与り知らぬ所でどこかの誰かの少ない髪の毛が全て抜け落ちたとか……合掌。

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