第172話 断罪の塔潜入作戦③
「分かりました。洗礼を行いましょう。それとまだ時間がありますから普段身につけている装飾品や服などをお借りできますか?」
「構わぬが一体何をするのだ?」
「少しでもあなたへ害意が届かぬように付与魔法を施します。主に装飾品に状態異常への耐性を服には硬化をかけて少しでも堅固にしておきましょう」
「そのような事ができるとは女神の使徒とは凄いな」
いや、全ての使徒がこんなんって訳じゃないんですけどね。実際どうなのか知らないけど。それはさておき差し出された衣服や装飾品を見れば豪奢ではあるもののまったく持ってそういった類の強化をされていないものばかりである。王様だってのにその手の代物を預けないってのはやはりおかしい話だと思う。この塔の中にいるから心配していないのか。それともいつか手を下す時のために何もつけさせないのか。真相は闇の中ですな。宰相の心の内が分かる訳でもない。
そんな事を考えながらも順次出来うる限りの付与を施していく。素材が良くてうっかり遺産級のものができあがったりしたのはご愛嬌。
てってれ~♪ 付与魔法のレベルが上がりました。
お? 予想以上に経験値が美味しかったらしい。レベル5だとたしか結界を付与できるようになるんだっけか。確か結界石を作成可能になるのでここまで上がれば食うに困ることはないってジルーイさんが言ってたな。結界石とは結界術の使えないものでも使い捨てで簡易の結界を張ることが出来る代物。それなりに高額かつ使い捨てなため早々使えないが冒険者の格が上がるほどこういったアイテムをしっかりと揃えているようだ。
話が逸れた。最後の腕輪にしかと付与しておこう。エレノアさんと出かけたときに触媒買っておいて正解だったな。付与が終わり傍目にも生まれ変わったかに見える装飾品などを見て公王様も目が点になっていた。
「はは、宮廷魔術師が数人がかりで行うレベルの付与をはるかに超えつつ事も無げに行う。余は生まれてからここまで驚いたのは二度目である。感謝する、ノブサダよ。だが余にはお主へなんら見返りを返すことができぬ。未だお飾りの王故に」
「公王様のことが気に入ったからの気まぐれですよ。見返りをいただけるのなら砕けた口調でもお咎めなしにしてくだされば重畳です」
「ふむ、そんな事で良いのか。ならば今この時よりノブサダは余の友である。友ならば砕けた口調で話すのも当然であろう。余はこのような話し方しか知らぬ故許せ。それとこれを。公王家の紋章が入ったカフスボタンだが見るものが見れば余と友誼を交わした証拠と分かろうぞ」
そんな考え方がでてくるのは若いだけに柔軟な思考ができるからか。王の友人、面白いね。まあ悪用する気もする術もないから大丈夫だろう。ありがたく受け取ることにする。
「それは光栄だ。ありがたく受け取るよ。それと俺のほうもこんなじゃ誠意がないな」
しゅるしゅると装束を外し素顔を曝け出す。
「これが俺の素顔だ。そろそろ時間だ。準備はいいか?」
「うむ、お主の誠意しかと記憶した。そして余のほうはいつでも良い」
ならばアイツを呼び出そうか。今回はこの子の手前少しでも厳かなほうがいいかな。中身がアレなのをがっかりさせないようにさ。その前に魔力が漏れないように結界を張っておこう。
「成長と才能を司りし女神レベリットよ。使徒たるノブサダが希う。我が魔力と引き替えに今この場へと顕現せしめ給え」
包み込むような手の間に柔らかな光が集い来る。やがてそれは人形のように形をなしていきポンっと二頭身のあいつが顕現する。
めがみ れべりっと が あらわれた。
コマンド
>たたかう
ののしる
えづけする
なでまわす
俺の脳内にそんなコマンドが表示された。厳かにと思っていたのにこやつめ……。
『迷える子よ。あなたの祈りは私達に届きました。さあ、その場にて再度祈るのです。私からあなたへ洗礼と祝福を授けましょう』
驚きの表情からまるで跪くように腰を落としそのまま祈るような格好になるアルティシナ。
そんな彼へと向けパラパラと光を振りまき祝福を授ける駄女神。
元々俺が駄女神を選んだのはクラスが変えれることからスキルやなんやらの習得率が高いと踏んだからだ。とはいえ腐っても女神の祝福。至極真面目かつ研鑽を忘れぬこの若き公王ならばきっとその身に宿る才能が開花するだろう。ここで駄女神を褒めるとドヤ顔をしそうで癪に障るから言わないけどな。
『汝、アルティシナ。いかなるときも決して諦めてはいけません。生涯に一片の悔い無しと叫べるまでしかと生きなさい。あなたは未だ発展途上。これより先も様々な可能性が待っているのです。どのような成長を遂げるのか私は楽しみにしていますよ』
すううっとその姿が薄くなり最終的に消え去った。この子をどこの世紀末覇者にしたいのかと問いただしたい。
『あ、ノブサダ君。さんきゅーなのですよー。これでこの子の運命も変わったはずです。最悪の事態は避けれたと思うのですができたら今後も気にかけてくれたら嬉しいのですよー』
帰ったと思ったら内線が入った。いや駄女神からの直通神託だけれども。うん、友と宣言されたからには気にはかけるさ。なんせ俺には友達が少ない。いや、本当に。考えていただけで切なくなって来た……。
念のためアルティシナのステータスを確認したがしっかりと生活魔法が表示されていたしなんか固有スキルにレベリットの祝福も増えている。
「ありがとう、ノブサダ。そしてどうやってここへ来たか分からぬが事が成った以上すぐにこの場を離れた方が良い。余が10の歳を迎えた今いつ宰相の手のものが踏み込んでくるか分からぬ故な」
「分かった。アルティシナ、決して命を粗末にするんじゃないぞ。女神も言っていたように諦めるな」
「うむ、その言葉しかと心に刻もう。また会おうぞ!」
再び装束を纏い部屋を後にした。アルティシナに断りを入れて弱いシールを扉に施す。それこそ他者の封印解除の魔道具辺りでもあっさりひらくようにだ。
空間迷彩で身を隠しつつ一気に落下し詰め所まで降りる。駄女神が祝福している間に考えていたことがある。だがこれは一人でできることじゃない。エト様やローヴェルさん、エレノアさん、果てはフミたん達の力を借りねばならないだろう。協力を得る為にも急いで戻らないとな。
詰め所の様子を確認する為に耳を澄ませば……よしよし、未だ目覚めた気配はないようだ。よくよく考えたらこのまま戻るとクーネルたちが居なくなっていることで色々と疑われること請け合いだ。どうしようかと思案した結果、最初に縛った連中にカースで呪いをかけて『たとえどんな者が相手でも牢へと入ろうとする者は押しとめる』という行動をさせよう。そして毛布へと幻術をかけてあの子らがいるように見せかける。どれくらい持つか分からないが少しでも時間が稼げれば御の字だ。
あ、扉の封印は解除しておかないとな。危うく忘れるところだった。
地下まで戻りやつらを引っ張り出し牢の前に配置。武器を持たせて鉄格子に持たれかかる様にして放置する。起きたら呪いが発動して防衛をするだろう。これでよしといそいそと穴から外へと脱出完了。ストーンウォールでがっつり塞いで子供達の元にすいーっと飛んでいく。
「戻ったよ。良い子にしてたかな?」
「お帰りなさいませ。お待ちしておりました」
クーネルを筆頭に全員起きていたようだ。いや、涎の跡があるから少しは寝ていたらしい。思わずくすりとしてしまうが彼女らの名誉の為にも気付かないことにしておこう。
「不躾ながらあなた様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか? 恩人の名前も知らぬという訳にはいきません」
「そういえば言ってなかったか。俺の名前はノブサダ。グラマダからやってきたしがない冒険者だ」
「ノブサダ様……。さ、皆。まずはノブサダ様に感謝を伝えましょう」
「「「「「「ノブサダ様、ありがとうございます」」」」」」
6人が声を合わせて感謝を言葉にする。思わず微笑んでしまうのは仕方ないだろう。
「どういたしまして。よし、それじゃ急いでここから離れようか。全員荷台に乗り込むぞ」
子供ではよじ登るのも大変なようなのでひょいこらひょいこらと抱え上げて荷台に乗せた。落ちることの無いように後ろは塞いでおく。それでは白米号、いきまーす!
『高機動兵装』を起動し一定の速度で下降しながら子供達に話を聞いてみた。その子供達は子供ながらの怖いもの知らずからひゃーほーと落下するのを見てはしゃいでいる。
クーネルは蝙蝠人族なのは周知の通りだが残りの五人のうち三人は獣人で二人はドワーフだった。
犬人族、狼人族、リザード族の三人とドワーフ二人はクーネル同様、人質としてあそこに囚われていたようだ。彼らの親や同族がどのように扱われているかはフミたんに要確認だな。できるなら一緒に助け出したい。




