第168話 非常なる一撃
※ヨシオボンバーの件について
リア充たちにノブサダは含まれていないのかといったご意見承りました。あくまで詠唱でありほの暗い過去を思い出しダークサイドの力とするって解釈でお願いします。リア充に問答無用な効果があるとすれば確実にとんでいきます。神が許そうとも筆者が許さ……いやまてなにをするやめぐほぁ。
番組の途中ですがただ今不適切な表現があったことをお詫び申し上げます。かのナマモノは缶詰状態で延々と執筆活動をする刑、もしくは動物観察の刑に処されますのでご安心ください。以上事務局よりお送りしました。引き続き『新説・のぶさん異世界記』をお楽しみください。
闘技場のなかへと戻ると……非常に大事になっていた。俺には一切の効果を発揮しない魂石防護システム(仮)が先ほどの会場割りによって異常が発生したらしい。会場には魔術師ギルドの職員であろうローブを着た人たちが右往左往している。そのうちに全体放送のアナウンスが入った。
『皆様へ大会本部よりご連絡申し上げます。会場の破損により魔道具へ異常が出た模様であり修理と調整が必要なことが判明しました。協議の結果、準決勝第二戦は明日の午後へと延期されることになります。そして決勝は明後日の昼前開始となりました。お間違えなきようご注意ください。繰り返しご連絡申し上げます……』
OH、ひょっとしてベン・ケイノーがそそくさと帰ったのはこれを見越してなのか?
冷や汗をかきつつ思わず呆然と立ちすくんでしまっていた。
「あ、いたいた。おーい、ノブサ、いやノーヴ君ー!」
そんな俺に声を掛けてきたのはシャニアだった。うん、もうほとんど暴露したようなもんだよね。しかも大声で。勘弁してくれ。
目を声のした方向へ向ければ公爵家ご一行が勢揃いしていた。流石に会場がこんなになるのは想定外で色々とあった本日の予定は全てキャンセルとなり彼女達も今日、明日と時間が空いたとのこと。
全員連れ立って宿へと戻るとエト様がおもむろに口を開いた。
「よく決勝まで勝ち上がってくれました。ノブサダには感謝していますのよ? だからわたくしからのご褒美です。今日はこれからエレノアと一緒に出かけてらっしゃいな。軍資金はこちらを使うといいですわ」
ローヴェルさんがジャランと資金の入っているであろう小袋を台の上に置く。
「それと申し訳ないけれど明日一日はわたくしに付き合ってくださいませ。夜には宿のシェフが腕によりをかけて料理を準備してくれますわ。明後日への景気づけですわよ。是非とも勝利で飾ってあのいけ好かない女の鼻を明かしてくださいまし! あらやだわたくしったらはしたない」
これは宿へ着いてから明かされたのだがこちらの宿は公爵家で出資しており料理長もグラマダから来たベテランらしい。俺も美味しくいただいたがドヌールさんに劣らぬ料理の腕である。それは非常に楽しみなのであるが1日付き合えとは一体何事だろうか??
それとあのいけ好かない女とはどうやら宰相の娘のことらしい。魔法学院で同学年であり何かにつけてそりが合わず反目しあってきたのだという。
ま、それはそれとしてだ。エレノアさんと出かけられるというのはありがたい。色々な理不尽で俺のストレスがマッハなのだ。癒されたいと思ってもバチは当たるまいて。
「それじゃお言葉に甘えさせて貰います。エレノアさん、着替えて行きましょう」
「えっ、は、はい」
エレノアさんにも寝耳に水な話だったらしい。動揺が隠せないけれどもすぐ部屋へ戻って着替え始めた。俺のほうも普段着から一張羅へと着替えたが薄着なので念のためフルプロテクションを掛けておくのは忘れない。
エレノアさんのほうも着替え終わったようでマニワさんのところで来る前に仕立ててきた服を身につけていた。俺からの要望を余すことなく反映してくれた衣装は青のシャツの上に薄手のニット、下は白のスキニーパンツというちょっと大人っぽいもの。落ち着いたエレノアさんにぴったりだとチョイスしたが予想以上にお似合いである。エト様たちもその装いに興味津々であり後ほど質問攻めにあいそうな気がしないでもない。
手を繋ぎながら街中をゆっくりと歩いていく。こんなにゆったりした時間は久しぶりな気がする。
ふぅ、そんな気がしただけか……。
「エレノアさん?」
「はい、勿論。ですが放置して楽しみましょう。何かあってもすぐに動けるようにはしておきますね」
「了解。あ、そこの魔道具屋に入ってもいいですか?」
「はい」
そこで欲しかった魔法書やおふざけで声を変える変声の魔道具、『オーハタ』では見かけなかった付与魔法の触媒や珍しい薬草や素材を数多く買い込んだ。結構な散財だったがこれくらいじゃビクともしないぜ!
その後は向かいにあった小間物屋へ。
「これなんかフツノたち姉妹に似合いそうですね」
「本当だ。これもカグラさんの髪に映えそうじゃない?」
「あら確かに」
「いよっし、お土産に買っておこうか」
「ふふふ、優しい旦那様ですね」
「勿論ちゃんとエレノアさんの分もあるよ。ほら、これなんかどうかな?」
そっと銀のバレッタをつけてやれば顔を赤らめるエレノアさん。なんだかんだでこういった初々しい反応を見せる彼女は非常に可愛いったらない。俺は果報者だな、うん。
お次は少し行ったところにあった衣料品店へ。確かに一般的な衣料品店よりかは充実しているがやはりマニワさんのところほどではないな。あそこは俺が色々と入れ知恵しているからどんどん充実してきているんだ。マニアックな方向含めてな!
おっとそんなことを考えていたらエレノアさんの姿がない。遠目に眺めていたんだけどな……あ、いた。えーっとあそこは男子禁制ですわい。そう、女性用下着売り場。流石にあそこへ踏み込む勇気はないわー。店員さんたちに白い目で見られそうだもの。俺の瀬戸物ハートはあっさり砕けてしまうよ。
それから喫茶店で軽食をとった後は連れ立って散歩。日が暮れかけるころには人気が少ない公園へと辿り着いた。ここで何をするのかって? 言わせるなよ、恥ずかしい。
「エレノアさん、そろそろいいですか?」
「はい、旦那様」
お互い見つめあいそっと……奥の茂みへと石のつぶてを投げつけた。
ガサっと音がしたかと思えば茂みやそれ以外からもガサガサと人が現れる。どこにこれだけ潜んでいたんだと言われそうだが空間把握は常に展開していたのでそれはもうバッチリとつけて来る連中の姿を把握していた。黒装束に白い面をつけた連中はいかにもな雰囲気を漂わせており僅かに居たはずの民間人の姿もいつの間にか消えている。遠目では分からないが少なくとも空間把握の範囲内にはここに居るだけだ。さてどうしてくれよう。
チリチリチリ
「折角のラヴラヴタイムを最初っから見張ってさ。お前ら本当どうしてくれようかね」
魔力を練り上げ脳内で詠唱をしつつ展開するのを待つ。
「まったくです。あれだけ分かりやすい気配のくせに一端の工作員だとはとても言えませんね」
お、今日のエレノアさんはちょっと辛口である。なんだかんだで結構腹に据えかねているようだ。顔は見えないがピクリと反応を示す白い面。エレノアさんじゃないが結構分かりやすいな。
『……戦拳のご息女エレノア殿とそのお連れの方とお見受けいたします。願わくばご足労願えませんか? 我らが主が是非お招きしたいとお待ちでございます』
「だが断る!」
間髪いれずに一刀両断である。二十人で囲んでおきながらご足労だお招きだとちゃんちゃら可笑しくてへそで茶を沸かしますがな。これまたピクピクと震えているがこいつ結構沸点低いな。
『……それは残念です。でしたら少々手荒ではございますがご一緒していただきましょう。あなた方にはノーヴ殿を呼び出す生贄としてお出で頂きます』
いやさ、本人ここにいるんだがまったく気付いてないの? 正直あれくらいの変装ならバレるのも時間の問題だと思っていたんだが予想以上にポンコツなようである。ま、その口上の間にもうこちらの準備は完了しているんだがね。
――結界発動!
今回のは非常にシンプルな結界。音だろうが人だろうが誰も通さない姿すら見通させない堅固たる結界である。キインとがっつり張られたそれに動揺の色が隠せない襲撃者一同。さあ、溜まりに溜まったストレス、がっつり晴らさせてもらおうか。今日は手加減なしで暴れさせてもらおうじゃないの。次元収納から月猫とエレノアさんの手甲を取り出して投げ渡した。そしてシュコンとはめた後はお互い逆側に突っ込み蹂躙を開始する!
エレノアさんの姿は目で追うのが困難なほどの速度で白い面とたちを薙ぎ倒していく。
「せっかくの、旦那様との、お出かけだというのに、邪魔を、してくれてっ!」
言葉の合間合間で一人ずつ吹き飛ばしていく。一撃を喰らった白い面の面々は立ち上がるどころか目を回してピクピクと倒れこんでいた。流石エレノアさん、そこに痺れる憧れる。
「喰らえ、月猫! マナドレイン! ついでに武技『有揉不断』!」
月猫の魔喰らいと武技の同時発動の同時運用は武技の同時発動を実験している段階で既に検証済みである。マナドレインは吸い取ることなく周囲へ散り魔素へと還る。こうすることで月猫は魔力を散らすことにより外傷なしでの気絶を招く魔剣と化すのだ。ただし斬られる痛みはしっかりと残るので憂さ晴らしもしっかりできるという優れもの。
フッと消え去り真横から両断されるとビクビクっと痙攣したと思えばその場に倒れ伏す。その姿を見て一斉に俺へと切りかかってくるがそのまま瞬間転移を繰り返し背後、横、時には正面へと現れて一刀の元に切り倒していく。はぁっはぁ、未熟未熟、未熟千万。シボックさんたちの動きに比べればお庭ではしゃぐひよこのようなものだ。
一人また一人と間を置かず倒れていく。最初に話しかけてきた頭格は覚悟を決めたのか二刀のうち一刀を投げつけそれに重ねるかのように追いすがり武技を放つ。
『武技『鉄血一線』!』
だが、放たれた突きは空を切る。すでにそこに俺の姿はなく背を向け潜りこみ突き出した右手を軸に片手一本背負いで地面へと叩き落した。そしてそのまま『乙女傷心爆裂弾』を心臓へとぶち込む!
ふにょん
ほわっつ!?
掌から非常に柔らかな感触が伝わってくる。で、でかい。これはDはありそうなっていやいやいや、女だったのか。はっ! 殺気が!!
後ろを振り向けば死屍累々と積み上がった襲撃者をバックにエレノアさんがコキンコキンと手を鳴らしていた。
「エ、エレノアさん。コレは事故、事故なんです。わざとじゃないんです。やめて拳を握り締めないで」
うふふふうと冷ややかに浮かべる笑みは絶対零度の女王様のようである。
「いやもうばっちこい。あなたの全てを受け止めよう! ゴファ」
腹へ突き抜けるような衝撃を喰らい危うく酸っぱいものが逆流しそうになるが懸命に堪える。く、ふおお、気絶はしないぞぉ。流石に結界が切れたら不味いもの。がはっ……打たれ強くなったなぁ、俺。




