第18話 グラマダの濃ゆい面子
「こんにちはー、おやっさんいますかー?」
「おう! 坊主、よくきたな。というかおやっさんてな俺のことか?」
「はっ、つい」
「がはは、かまわんかまわん。今までになかった呼ばれ方でな、何となくだが俺は気に入ったぞ」
「それじゃ、遠慮なくこれからおやっさんって呼ばせてもらいます。昨日お願いしていた防具の調整終わりました?」
「まだもう少し時間がかかるな。長いこと放置していたせいか留め具を付け替えたりしないといけなくてな」
「そうですか、それじゃ生活用品や服など揃えてなかったんでちょっと見てきます」
「そうか。服なら3軒隣の『マニワの店』が安くて丈夫だからオススメだぞ。正装用ではないが実用性を考えたつくりでな。俺が着ているこのツナギもやつのところで買ったものだ」
「なるほど、それはいいですね。早速行ってみます」
「おう」
マウリオさん改めおやっさんがお奨めするなら安心だろう。
3軒隣の……お、看板出ているな、確かに『マニワの店』ってなっている。
扉を開けて中に入ると機能性を重視した服が整然と並んでいた。これってワー○マン並だな。
俺も農家時代よく利用していたのでこの感じなんか懐かしいな。
服を見てみるとどれも装飾的な部分は見劣りするものの機能性と丈夫さを追及した仕上がりに見える。
「あら、お客さんかしら? 『マニワの店』へようこそ」
掛けられた声に反射的に振り返るとそこで俺は固まった。焼けた小麦色の肌。鍛えられ引き締まった体。惜しげもなく解放された胸元。
「どうしたの? お兄さんに見とれちゃった?」
そこにはオネェ言葉で喋るサングラスをかけたビキニパンツのマッチョメンが立っていた! この街はおかしい、うん、なんでこんなに濃ゆいのだろうか……。
「あら? この胸板に見とれちゃって声もでないのかしら? 肉体美って……罪よね」
そういった瞬間フッと店員の姿が掻き消える。
「さ、何を御所望? 服? 筋肉? それともワ・タ・シ?」
なにぃ! いつの間に後ろに立った!?
あ……ありのまま今起こった事を話すぜ。
『俺は服を買いに店に入ったらいつの間にか筋肉ムキムキのガチムチマッチョに背後から見つめられていた』
何を言っているのかわからねーと思うが俺も何をされたのか分からなかった……頭がどうにかなりそうだった……ヒュプノシスだとか加速装置だとかそんなもんじゃねぇ……もっと恐ろしいホモォの片鱗を味わったぜ……
俺は何を言ってるんだ。ここはさっさと買い物をして切り上げるところであろう。そうだそうしよう。
「マウリオさんから紹介されてちょっと服を買いにきたんですよ。戦闘でも使える普段着を上下一組と下着の上下を二組ほど買おうと思いますがお勧めってありますか?」
「あら~マウちゃんのご紹介? それは気合入れて見繕わないとネ。坊やの背丈からいくとここいらへんかしら?」
「なるほど、ちょっと見てみます。あ、ついでに針と糸って売ってますか? 修繕用に一組欲しいのですが?」
ずらっと並んだ商品から早急に選択しつつ店主に聞いてみる。
「糸はあるわよ、でも針はマウちゃんからの特注だから売り物ではないわねぇ。知り合いなら作ってもらったらどう?」
「なるほど。それじゃ糸を一組とこの黒の上下と白の下着二組を買います」
「あら、なかなか渋めのチョイスね。若いからもっと派手なものを選ぶと思ったのだけど」
無理無理。赤とか橙とか派手なの着るのは俺には無理。俺の好きな色は黒、紺、白なのだ。家での部屋着も手縫いの作務衣とかだったしな。あ、そのうち作務衣作ろう。
「爺様に育てられたもので地味な色の服しか着てなかったんですよ。他だとなんか収まりが悪くて」
「なるほどね、それじゃ糸が30マニー、黒の上下が600マニー、下着が二組セットで200マニー、締めて830マニーだけど坊やはマウちゃんからの紹介だからおまけして800マニーぽっきりでいいわ」
「ありがとうございます。それじゃこれで」
リュックから800マニーを取り出し会計を済ますと脱兎のごとく店を抜け出した。
ふぅ、恐ろしい目にあった。まだまだお昼までは時間あるな。
そういえばフツノさんたちの宿ってこの近くじゃなかったっけな。俺の登録とか済んだ事もあるし伝言でも頼んでおこうかな?
常設された案内板からフツノさんたちの定宿という『炎の狛亭』を探す。お、思ったよりも近い。早速いってみよっと。
「へいらっしぇーい」
宿へ入ると特徴的な店員が迎えてくれた。変なガラの赤い帽子に出っ歯が印象的だ。どこかで見たような気がするが気のせいだろう。
「すいません、ここ『風のしっぽ』の二人の定宿だと聞いてきたんですがあってますか?」
「あー、あの二人のファンかい? 悪いが取次ぎとかはできねーよ?」
「いや、本人から聞いてきたんです。いないときは言付け頼んでおいてやーと」
「ん? そういやこないだの依頼で少年に助けられたとか話してたっけな。坊主がそうかい?」
「たぶんそれです。俺はノブサダって言います。二人はいますか? いなければ言付けお願いしたいんですが」
「今はいないな。朝にどこか出かけていったよ」
「それじゃ『二人のおかげで冒険者登録など無事済みました。俺は『ソロモン亭』に泊まっているので何かあればそちらへお願いします。』って伝えてもらえますか?」
「はいよ、戻ってきたら伝えておくよ。『ソロモン亭』か。いい宿選んだな」
「ええ、ギルドから紹介されまして」
「初心者優遇の宿だったな。もしランクアップして宿を変えるようだったらうちがお奨めだぜ?」
「ミタマが食事がうまいと褒めてましたからもし出るようなら考えておきます」
「ははっ、ミタマが褒めてたか。俺はストームだ。そん時はよろしくな、ノブサダ」
昔はやんちゃしたっぽいが今は落ち着いて真面目に働いている的な人だな。フツノさんたちが定宿にするくらいだしいい人なんだろう。
名前:ストーム 性別:男 年齢:26 種族:普人族
クラス:商人Lv18 状態:健康
称号:???
【スキル】
格闘術Lv3 火魔法Lv3 交渉Lv2 接客Lv3 軽業Lv2 生活魔法
うほっ、カイルよりレベルが高い。あ、でも商人でも火魔法もってるな。これってなにかしら理由あるのかね。
「ストームさんは元冒険者なんですか?」
「ほう、よくわかったな。元々は魔術師で冒険者をしていたんだが親父が倒れてな。それを機にすっぱり足を洗って宿を手伝うようになったのさ」
なるほど。それでクラスと魔法が噛み合わないんだな。
「まぁノブサダも無茶はするなよ? まだいけるってときは引き際な事が多いからな」
「ご忠告肝に銘じます」
経験者の言葉は重みが違うな。あ、魔術師だったならあれ分かるかも?
「つかぬ事をお聞きしますが魔法具扱っているお店でどこかお奨めはありますか?」
「魔法具は高いぜ? 駆け出しに手が出るようなもんじゃないと思うが」
「いえ、実は形見でこの魔法のリュックを譲り受けまして相場とか知っておきたいなと思ったんですよ」
「ああ、それは知っておいたほうがいいだろうな。場合によってはそれを狙うやつもいるだろう。よし分かったほかならぬ冒険者の後人の為だ。俺の知り合いに紹介状書いてやろう」
「おお! ありがとうございます!!」
「前にパーティ組んだことがあってな。ちぃっと変わっているが腕は確かだぜ。ほれ、こいつを見せれば悪いようにはしないだろう。街の北西の外れにある『引きこもりのラミア』って変わった名前の店だ」
「早速行ってみます。またお邪魔しますね」
「おうよ、今度はうちの料理も食っていってくれ」
「はい、楽しみにしてます」
うーむ、普通にいい人だった。立て続けに変人に遭遇したから警戒していたがやっぱりそんな人ばかりじゃないよね。
で、歩くこと30分ほど……街のはずれに来ております。流石に閑散としているね。こんなところで商売になるんだろうか?
もしかして道を間違えたかと思い始めたところ大きな屋敷に併設するように小さな看板をつけた店舗があった。
たしかに開いているようなんだけど客の姿はない。
「ごめんくださーい、お店やってますか?」
扉を開けて声をかけるも返事はなし。店内には所狭しと道具が置かれている。
「はぁい、どなたぁ?」
少しして店の奥からぱたぱたと駆けてくる音がする。随分と艶っぽい声の店員さんだ。
奥から出てきたのは色白の背の高い女性だった。青いロングヘアを首の後ろで団子に纏めていてうなじが色っぽい。特徴的なのはモノクルをかけていて顔だけ見れば知的な美人に見えるものの着崩した服装のおかげでそれが台無しになっている。胸元が見えそうで視線が釘付けになりそうでやばいよ。
「ストームさんから紹介されて魔道具を見にきたんですが」
と紹介状を差し出す。
「ストーム? ああ、出っ歯ちゃんね……懐かしいわぁ」
おおう、ばっさりと特徴を言い切った。歯に衣着せぬ人なんだろうか?
「それで? 坊やは何が知りたいのかしらぁ?」
「まずは魔法のリュックの相場とポーションなど見てみようかなと」
「はいはい、それじゃこちらねぇ」
そこにはいくつかのリュックが並んでいた。
「持ち出しちゃだめよぅ。防犯用に呪いがかかってるからぁ」
うお、驚きの防犯対策でました!
値段はその容量に応じて上下しているようだね。驚きの鑑定結果と表示価格はこちら!
マジックリュック
品質:並 封入魔力1/1
備考:20kgまで収納可能
値段:20,000マニー
マジックリュック
品質:良 封入魔力1/1
備考:20kgまで収納可能 リュックの中に収納中のものは劣化が遅くなる。
値段:30,000マニー
マジックリュック
品質:並 封入魔力3/3
備考:60kgまで収納可能
値段:60,000マニー
どうやら封入魔力が1あがるごとに容量が20kg増えて値段も上昇。品質が上がると値段が1.5倍になっているようだ。つまり俺の持っているのは恐ろしいことに120,000マニーくらいの価値があるってことか。とんでもないな。
「えーと、店員さんポーションのほうも見せていただけますか?」
「私のことはセフィでいいわよぉ。坊やかわいいから特別ね」
一瞬食べられそうな気がしてぞくりとした。肉食獣の気配か!?
そんなお姉さん改めセフィさんの驚きの鑑定結果はこちら!!
名前:セフィロト・ネヴィア 性別:女 年齢:?? 種族:ラミア族(普人族へ変身中)
クラス:錬金術師Lv42
称号:???
【スキル】
両手槍Lv4 水魔法Lv6 風魔法Lv5 変身Lv4 錬金術Lv7 偽装Lv4 生活魔法
スリーサイズ まだ修行が足りないようだ!( ・᷄д・᷅ )
ほんとにおどろきやぁぁぁぁぁ!? あれぇぇ、変身とか偽装とか明らかに識別の魔眼よりレベル高いけど看破しちゃってるよ? 一体どういった仕組みになってるのこれ???
いやいや、それよりラミア族のほうだ。こんな街中にいて大丈夫なのか? そのための偽装なんだろうけどさ、俺も絶対に口を滑らせないようにしないとな。話した感じ全然人間と変わらないというか寧ろ話しやすい。
そんな人が俺が原因で迫害されるとか本気で勘弁だもん。
後ろ向きなことばかり考えても仕方ない。そういやポーションの素材になりそうな薬草あったっけか。買取してもらえるか聞いてみよう。
「セフィさん。これって買取とかやってます?」
リュックから以前採取したヒラ草とゲド草を取り出す。
「えーっと、初級ポーションの素材ねぇ。状態も良好。なにより根がついたままなのがいいわねぇ」
ほうほう、なんとなしにそのまま取ってきたがそういうもんなのか。
「根も混ぜ込むことで効果があがるのよぅ。それを知らない雑な扱いをする冒険者が多くてねぇ。だからあなたは見所があるわぁ」
「あ、俺はノブサダって言います。先日冒険者登録すませたばかりなんで色々教えてもらえると助かります」
「あらあら、初々しいわねぇ。坊やみたいな子、私好きよぉ」
そういって腕を絡めるセフィさん。ぽにょんとアレが腕に当たってる、当たってますから。嬉しいけれど別料金とかはないですよね?
「買い取りというか物々交換でもいいかしら? ちょっと作りすぎちゃってポーションの在庫があまっているのよねぇ」
「それで構わないです。俺のほうもストックが一つしかなかったので」
ポーション×4
品質:良 賞味期限:3ヶ月
効果:HPを少しだけ回復する。飲んでも患部に直接かけても効果がある。味はよくない。
キュアポーション×2
品質:良 賞味期限:4ヶ月
効果:簡単な毒を無効化する。飲んでも患部に直接かけても効果がある。味はよくない。
これらと交換してもらいました。何気に賞味期限の残り日数が分かるようになっています。なんて便利な主夫の味方! ってそんなとこばっかり進化しおってぇぇぇ。
「それじゃまたきます。何か素材になりそうなものあったら持ち込みますね。もし良かったら今度錬金術教えてください」
「はぁい、楽しみに待ってるわぁ。ま・た・ね?」
艶っぽい微笑みにドッキリしながら店を後にする。うん、また来よう。キャバクラとかに通う人の気持ちがちょっとだけ分かった気がした。酒が飲めない俺には縁のない世界だったからな。
さて、もういい時間だ。食事はさらっと買い食いですませておやっさんのところへ戻ろう。
「おやっさーん、戻りましたー」
「おう、いいところに戻ってきたな。丁度終わったところだ」
濃紺一色に統一された防具が机の上に並べられている。昼食もとらずに突貫でやってくれたのだろう。流石に疲れて見える。
無理してそうだったからおやっさんの分も串焼き買ってきてよかったよ。
「ありがとうございます。お昼まだでしょう? これ途中で買ってきたんで食べてください」
「おお、すまんな。ついつい寝食を忘れて没頭してしまうのが俺の悪いクセでな」
串焼きに齧り付きつつおやっさんが装備についての説明をしてくれた。
「喰いながらですまんがこのまま説明してしまうぞ。小手の部分はナックルガードのほうを流用してある。拳部分を取り外して使ってくれ。材質は全てアイアンアントの甲殻を使っているから堅いし軽い。初級ダンジョンならそう傷つくことはないだろう。動きを阻害しないように最低限の部位しか装着しないから回避には気をつけろよ」
鉄蟻の胴当て・鉄蟻の脚絆・鉄蟻の小手(ナックルガード小手部位)
品質:並 封入魔力2/2
備考:アイアンアントの甲殻を加工した防具。
「いいんですか? こんなに立派なもの」
「かまわんさ、元々俺は金属加工が主体だから魔物素材はそう扱ってはいなかったのよ。こいつも弟がやろうと言い出して加工したもんでな。今思えばもっとちゃんとあいつの意見を聞けばよかったのかもしれん。まぁそういうわけで本来なら売り物にしてなかった物だ。坊主に使われるのなら問題なかろう」
「ちゃんと生きて帰って使い勝手を報告しますよ」
「はは、その意気だ死ぬんじゃねえぞ」
「はい!」
よし! これで準備は万全だ!
これで初のダンジョンへ挑戦だ!
水魚のポーズをとりながらネタをひねり出す今日この頃(lll-ω-)