第166話 武闘祭本戦準決勝①
書き上げたので本日二話目っ!
次の試合は午後。次の試合の勝者がその相手となる。リョ・オウマと王都の冒険者ギルド所属Bランク冒険者。名前……なんだっけ? えーっと、ああ、対戦表があった。そうそう、ザックバランだ。
おっと急がねば。選手用に誂えられた観戦席を使い彼らの戦いぶりをじっくりと見させてもらおう。
試合場には世紀末にいそうな素肌の上にヒャッハーなトゲ付きアーマーをつけた男とハルバードを一本ずつ手に持った男が相対していた。なんだありゃ? まさかハルバードで二刀流なのか。
「隣、いいか?」
ん? 誰かと振り向けば……アジマルドだった。早いな、もう魔力切れから回復したのか。
『ああ、構わない』
それにしても案の定というか彼の背では窓代わりの木枠(ガラスははめ込まれていない)へと届かなかったらしい。試合を観戦しながら……横目でチラッと見ると必死に飛び上がりながら見ている。今の俺だとギリギリだから彼からすればバッチリアウトか。
ポーチから木製の椅子を取り出しそっとあてがってやる。なんだとばかりに一瞬怪訝な顔をしたが意図を理解し少しだけ申し訳なさそうな表情になった。
「すまない、助かる」
『気にするな。俺もその気持ちは良く分かる』
それからはしばし無言のまま観戦していた。ヒャッハーな彼も結構やるようだがリョ・オウマのほうが一枚上手か。自在に二本のハルバードを振り回し終始圧倒しているように見える。試合が決まらないのは試合を楽しんでいるから。悪く言えば嬲っているからだとしか思えないけどな。
「ちっ、相変わらず嫌な戦い方だな」
『知っているのかライ……いや、アジマルド』
「ライ? まあいい、昨年、ここでやりあった。相打ちで引き分けたけれどもな。戦闘狂ではあるが弱い相手は心の芯まで玩んでから潰す」
それを言う顔は非常に憎憎しげであり思い出すのも不愉快なようだ。
「ツインハルバードォブゥゥゥメラン!!」
バキャアア
ガキンと組み合わされた二本のハルバードが回転しながら弧を描きザックバランへとぶち当たる。刃の部分ではなく柄の部分に当たったのだがあまりの勢いに場外へとその身は吹き飛んでいった。
『決まったー! リョ・オウマ選手のウェポンスキルでザックバラン選手は対面の壁まで吹き飛んだーーー! 勝者リョ・オウマ!!』
「やっぱりか。あんなのに負けるんじゃないぞ。あんたは俺に勝ったんだからな。それと……」
ゴニョゴニョと耳打ちしてくる。
「そのまま優勝してくれ。そうすれば負けて食い無しって言えるからな。それじゃ午後の試合を楽しみにしている」
『無論。負ける気は毛頭無い』
そう返せばニッカリ微笑を浮かべるアジマルド。どうやら満足したようだ。そのままスタスタと去っていった。耳まで真っ赤だったけれども激励一つで大げさである。だが多少高飛車だが悪い奴ではないらしい。
なんともツンデレなその性格に思わずクスリと笑みを浮かべてしまったのは仕方の無いことだろう。
勇者アルス(笑)対モブラーさんの戦いは一方的な蹂躙に終わった。
火の矢を数十本作り出し逃げ場のないところへ一斉に放った上、追い討ちで火球をお見舞いする。なんともエグイ戦い方をした勇者は薄気味の悪い笑みを浮かべ勝利を収めていた。識別先生を発動することも忘れなんともいえない戦い方に眉を顰めるばかりだ。
さて最後の一試合はどうでもいい。どうせアレが勝ち上がってくるだろうからだ。その間に装備の点検をしておこうか。
斬られてしまった雄曼酸棍はご存知の通り片手棍になってしまった。これであのハルバード二本と対峙か……うーん、リーチ的に非常に不安である。急ごしらえではあるが予備の鉄蟻製両手棍を付与魔法で強化しておくか。幸いまだ時間はあるし。
どこに人の目があるか分からないのでこっそりと行き止まりに壁を作って個室を完備。その中でひたすら『硬化』を付与しただただ硬い代物に仕上げる。ついでに簡易のホルダーを縫い合わせて作り腰の後ろに二本納めることにした。更に小手の裏、脚絆の裏に投げナイフを仕込み予備の武器も準備完了。小手、兜の具合も良好。準備万端いざ戦場へ!
『いよいよ、準決勝。グラマダからの刺客『ノーヴ』対オロシナ帝国の暴風『リョ・オウマ』の対決です!』
おいおい、いつのまにやら俺が刺客になっているよ。地味な嫌がらせだな。少しずつ悪いイメージを刷り込みに来ている気がするわ。
リョ・オウマか。目の前にいる筋骨隆々であり体中に無数の傷を持つこの男は不敵な笑みを浮かべたまま鋭い眼差しを崩さない。オロシナ帝国の暴力装置である「機甲戦隊」の第二部隊隊長であるヤツは戦いに明け暮れる毎日を過ごしているって話だ。
名前:リョ・オウマ 性別:雄 年齢:28 種族:普人族
クラス:狂戦士Lv36 状態:健康
称号:【破壊者】
【スキル】
戦斧術Lv6 闘気Lv4 身体強化Lv4 頑健Lv5 頑強Lv5 再生Lv3 悪食Lv3 生活魔法
【クラススキル】
挑発 バーサーク
【固有スキル】
三位一体
おおう、やっぱり何度見ても近接特化してるな。しかも悪食と再生つきだからどんなところでも生きていけそうだ。……本当に普人族か??
『トーナメント準決勝第一試合! レディィィィファイッ!!』
ズドム!!
開始の合図と共に俺の掌底打ちがリョ・オウマの胸板へと突き刺さっている。カランカランと鉄蟻棍はその場に転げ落ちていた。
アジマルドのアドバイス。試合開始直後のヤツは相手を見定める為にじっくり動き出すクセがあることから目にも留まらぬ速攻が有利だというもの。それを信じ今までで最速の突進力で『乙女傷心爆裂弾』をお見舞いしたわけだ。いかに肉体が強化されていても精神まではどうにもできまい。
あまりのことに観客、果ては審判までも固まったまま状況を飲み込めていない。リョ・オウマの眼は白目を向いてこちらへと倒れこんでくる。
そう思われた。
ゴスン
顎を思い切り殴り上げられ俺の身体は背後へと吹き飛ばれる。意識が飛びそうになるほどの衝撃を受けるも歯を食いしばりなんとか耐えるのだが一体何がといった思いで一杯である。たしかに渾身の一撃を決めたはずだ。魔法もアジマルドのときよりも出力をあげキッチリ発動した。そのはずなのにヤツは動いている。理解が追いつかぬまま地面へと着地し相手を見やる。
首をコキコキ鳴らし手首を振っている。その動作には大きな余裕を感じると共に得体の知れない気配を感じる。
「くっくっくっく、まさか一撃で意識を飛ばされるとはな。俺らがいなければ負けていたぜ」
カランとハルバードはその場に落とされ一気にこちらへと詰め寄ってきた。鉄の味のする唾を吐き出し守の型で構え迎え撃つ。
「シャアアアアアア」
指先に装着された鉄の爪のようなもので切り裂き突き立ててくる。明らかにステータスに反映されていない攻撃に戸惑う。受けるのが手一杯の猛攻だがこれほどの攻撃でスキルとして反映されていないのはおかしい。それにさっき俺らって言っていたな。それと関係あるのか?
キインギイン
魔獣の手甲で爪を受け流すも次第に傷が目立ち始める。これに硬化などが付与されたこいつに傷を入れるってのは一体どんな硬度をしているんだ。
「ヒョオオオウ」
再度振り下ろされた爪に対して魔力を流し手甲のギミックを始動する。装飾だった部分が盛り上がり刃へと形を変えた。キイイインと金属同士がぶつかるような音がなりギギギとどちらが押し込むのか力比べとなる。となれば必然と肉薄する訳であり自然と顔が近づくのだが……。
「小僧の割りに随分とやる。俺を引きずり出すんだからな」
随分と人相の変わったリョ・オウマがギリギリと押し込みながらそう話しかけてくる。狂相と言ってもいいほど口角は釣りあがりさも楽しげである。明らかにおかしいソレに思わず識別先生にお出まし願う次第。
名前:ハ・ヤゥト 性別:雄 年齢:28 種族:普人族
クラス:狂闘士Lv36 状態:健康
称号:【殺戮者】
【スキル】
殺爪術Lv6 暗器術Lv5 回避Lv5 受け流しLv4 身体強化Lv3 暗視Lv3 楽器Lv5 絶対音感 生活魔法
【クラススキル】
浸透術 バーサーク
【固有スキル】
三位一体
は?????
人が入れ替わった時間なぞなかったはず。それに人相が変わったとはいえ肉体はヤツそのものだと思う。考えられることといえば……。
『多重人格?』
思わず口を突いて出た言葉にヤツは思わぬ反応を示した。
「ほ? 僅かの間にそこに行きついたとはな。面白い、ただの小僧とは違うようだ」
あっさり認めた!? それにしたってこの世界に多重人格なんて言葉があったのか。そう感心するもののこのまま硬直したままでいるわけにもいかないと思案する。だが手は受けるので手一杯。足は片方でも軸がずれれば押し込まれることは必然だ。
『サンダーハンドォ!』
バチンっと弾ける電流に……バっと身を翻して飛びのいた。どうやら俺の戦闘を眺めていたか今までの歴戦の勘がそうさせたのか何かが来ると思わせたらしい。
とはいえヤツを下がらせることには成功した訳でありこのまま追撃に移る!
帯電したままの手で攻の型を取り攻め立てていく。
裏拳、正拳、抜き手に手刀。フェイントも挟みつつ攻め立てるもクリーンヒットはなし。受けるどころかかすりもしない。なぜだろうあのニヤニヤが常に浮かんでいるのだけははっきり分かる。非常に不愉快だ。
放っておけばいずれリョ・オウマのほうも復帰してくるかもしれない。どうするどうする。焦燥感だけが募っていく。




