閑話その20 あの時、ポポトは? 前編
流れをぶった切り閑話でGO。ポポト君が家を追い出されてからのお話。
「ポポ兄ちゃん、ここ教えて欲しいの」
「はいはい。いいかい、手元の箱にリンゴが30個ありました。パンヤ達が三人で分けるとしたらどうなるか。順番に分けていくと、ほら10個ずつになるでしょ。つまりこの割るっていうのはこんな風な考え方なんだ」
「うん、分かった~」
幼い彼女らも今勉強に励んでいる。そんな日常を迎えられていることがすごく嬉しいし充実していた。
僕はポポト。父ドルヌコと……あの女の間に産まれた一人息子。父に捨てられあの女に家を追い出されてすでに一年余り色々とあったし思い出したくないようなことは沢山ある。それでもここ数日の激動ぶりは驚きの連続だった。
僕が住み慣れた家を追い出されたのは一年ほど前。その二月ほど前には父も同様に追い立てられていた。その頃の僕はそのへんの事情を知らなかったから両親をこれ以上ないほど恨んでいた。同時に全てが無価値に思えて行くところもなくふらふらと街中を彷徨っていたんだ。よく人攫いなどに連れて行かれなかったものだと今なら思える。
そんな幽鬼のような僕を拾ってくれたのはアリナだった。最初はアリナのことを普人族だと思っていたのだけれどふとしたことで彼女が獣人だと知ったんだ。僕も学習所に通っていたからわかるけれど今の王都は獣人にはとても住みづらい。亜人を差別することがさも当然という有様だからだ。今思えば父がその考え方は間違っていると教えてくれていたからそんな考えに染まりきらなかったのだと思う。
そんな中、アリナは家族となった身寄りのない子供たちのために自らの耳と尻尾を切り落とし普人族と偽って働いている。そんな彼女を支えたいと同じような境遇の三人と協力していろいろと頑張った。力仕事の下請け、ゴミ拾い、下水掃除、時には悪いと分かっていたけれど盗みまでやってたよ。
ライマン、クリフ、ムライ。はじめは普人族ということで反発されたりもしたけれど身を寄せ合っているうちに今では種族は違えど兄弟のようなものだと思っている。一緒に行動し始めて半年ほど。いつしか僕にはシーフのクラスが開眼されていた。その頃から冒険者として臨時パーティのみに入って活動し始めた。僕だけが普人族だったから少しでも稼ぎを良くしたいと思ってのことである。
小銭を稼ぎギルドで罠解除や鍵開けのスキルを学びようやく一端の冒険者となって来た頃。僕はレベル10になって『トレジャーハンター』を習得した。これがまさかあんなことになるなんてその時にはまったく思わなかったんだ。
「よう、ポポト。あれからレベルは上がったのか?」
「ええ、やっとレベル10になりましたよ」
ギルドに立ち寄ったところに話しかけてきたのは剣士のゲンドー。今まで何度か面倒を見てもらったことのある人だ。
「それで何かスキルは覚えたか?」
「はい、トレジャーハンターというクラススキルを習得することができました」
その時の僕は気付かなかった。彼が目の色を変えほくそ笑んでいたことなど。
数日後、僕は彼らと共にダンジョンに挑んでいた。彼らとはゲンドーとその相方であるリッコさん。彼女は水と風の二属性を操る魔術師だ。彼らの連携で次々と魔物を倒して進んでいる。正直僕は場違いな気がしているんだけれどせめて荷物持ちや罠解除などで役に立たないとと焦っていた。なぜかと問われれば固定パーティとして組まないかと打診を受けていたからだ。本来ならもう一人いたのだが怪我のために先達て離脱せざるを得なかったらしい。もともと体が強くなかったため休む期間を設けていた間のヘルプとして僕を何度か誘ってくれていたようだ。
トレジャーハンターが上手く働いてくれたのかその日の稼ぎは上々で三人とも気分良く地上へと帰ることができた。宝箱もあけることが出来たので中身がギルドでどれだけの値になるか楽しみである。
――あれは嘘だったんだな――
ふっと何かが聞こえたような気がする。だが気のせいだろうと足早に王都へと戻る僕がいた。
固定パーティに入ってから二週間。僕らはダンジョンのとある一室を拠点として何度か出たり入ったりしている。いわゆるそこは安全地帯であり魔物が湧くことのない地点だ。3日ほど詰めて王都へ戻る。そんな生活を繰り返していた。このままいけば皆の装備を買い揃えることができるだろう。そしたら休みに僕らだけでダンジョンに潜れると思う。こっそりとだけれど。二人には助けられているけれど将来的にはあの面子で潜ろうと思っていた。
今日はここまでと安全地帯へと戻る間、そんな事を考えていたんだ。
僕は後方の安全を気にしながら二人の待つ小部屋へと足を踏み入れる。
ドゴオオオオオオオオオオオオン
踏み入れた瞬間、視界が真っ赤に染まったかと思うと熱風が押し寄せた。思わず手甲で顔を覆うも荒れ狂う熱風は僕を襲う。ターバンが外れた箇所からまるで熱湯をかけられたかのような痛みで思わず倒れそうになる。倒れこまなかったのは前を歩いていたゲンドーが吹き飛ばされ巻き込まれる形で僕も反対側の壁へと打ちつけられてしまったからだ。
ゴハッ
強かに打ちつけたせいで体がうまく動かない。下手したら胸の骨にひびが入ったか最悪折れているかも……。そして先ほどから僕へとのしかかっているゲンドーの身体はピクリとも動かない。これだと先に入っていたリッコさんは……。どう考えても無事ではすまないだろう。
カツンカツン
意識を留めるために考え事をしていれば何者かが近づいてくるような足音が聞こえる。おそらく靴を履いたもののようで魔物ではないようだ。だが、人だからと言って安心はできない。幸いゲンドーの身体で僕は隠れているから息を潜めて様子を窺おう。
カツン
僕らのいる手前で足音は止まり辺りの様子を窺っている。痩せ型の小柄な普人族で見た感じ僕と同じような軽装であるからシーフかそれに順ずるクラスじゃないかと思われた。
「あはははははは、死んだ死んだ死んだぁぁああああ」
開口一番の絶叫に思わずビクリとしそうになるも懸命に堪えた。
「ゲンドーもリッコも! 解散して冒険者を引退すると言っておきながら未だ続けているじゃあないか! いくら俺が邪魔だったとはいえ騙すことはないじゃあないか。幼馴染だっていうのにトレジャーハンターが発現しなかったばっかりに使えない! そういってくれれば素直に引き下がったさ。だのにだ。だのにだぁぁぁ。二人が恋仲だってのも知っていた。そんなに邪険にするならなんで誘った。俺は、俺は、もう、もうう、あははあああ」
言動が途中から支離滅裂になっている。口からは涎と共に泡も吹いていた。目はどんよりと曇っており隈も酷い。もしかしたら何かしらの危険な薬を服用しているのだろうか。
「だからぁぁぁぁ、非合法の罠使いから買い取ったあれでぇ殺した! 殺してやったさ! あはははは、ひいひひひいひ。死んだら今度こそ俺も一緒にいくからさ。今度こそはトレジャーハンター身につけるからさ。だったら邪魔じゃないだろぉう? ……そう、トレジャーハンター! 一緒に連れていたガキが持ってるんだよなあああ。そいつを殺せばきっと次は俺のものになるよな、うんうん。ひひひひ、どぉこだぁ」
ギョロギョロっと目を見開き僕の姿を探している。もはや狂人。このままじゃ僕も殺される。なんで? なんでなんでなんで? 僕が何をしたっていうのさ。痛みと衝撃的なあれの言葉でこれ以上無いほど動揺している。心臓は早鐘のようにドックンドックンと鼓動を繰り返していた。




