第164話 武闘祭本戦準々決勝①
書きながら少しだけ懐かしくなった。アカウントハックされてやめたんだったなぁ。
『さぁさぁいよいよ準々決勝! 本日第一試合は無名の強者『ノーヴ』選手と連邦の天才剣士『アジマルド』の一戦です!』
駄女神のせいで寝覚めが悪くいまいち気分の乗らないノブサダです。既に対面にはちゃっこい子供に見える対戦相手がおりますわい。阿呆なこと言ってる場合じゃないね。昨日も識別先生にお出ましいただいたのだがまさに天才なんだって思うのよ、この対戦相手。
名前:アジマルド・カラバルハ 性別:男 年齢:24 種族:幼人族
クラス:魔法剣士Lv38 状態:健康
称号:【魔導の天才】
【スキル】
剣術Lv5 小盾術Lv4 回避Lv3 属性魔法適性Lv5 重力魔法Lv2 神聖魔法Lv3 加速詠唱Lv4 生活魔法
【クラススキル】
テナシティ 魔法剣
【固有スキル】
魔導の天才
『魔導の天才』 クラススキル・称号共有
全ての魔法を習得できる才能がある者。魔法発動に必要な魔力は半減、威力も三割り増しになる。
現地産チートキャラと言ったところでしょうかね。彼なら勇者も相手取れるかもしれないな。
『再度経歴を説明すればアジマルド選手はかの有名な『連邦の黒い魔女』の直弟子であり現魔法兵団の副団長を務めております。土水火風の属性魔法を自在に操るのに加え剣術盾術も専門職に劣らないというマルチアタッカー。それに対しまして非常にトリッキーな戦い方に見えるノーヴ選手は未だ底が見えておりません。ノーヴ選手が彼を相手にどのような戦い方をするのか非常に注目されるところです』
うへ、連邦の黒い魔女って確か師匠と三日三晩戦い抜いたって話のある女傑らしいじゃないの。それの直弟子ってことは生半可じゃないわな。
「ふっ、棄権するなら今のうちだぞ。俺は手加減なぞできんからな」
鼻にかかったメガネをくいっと押し上げそう言い放つアジマルド。随分と高圧的だな。棄権する気なぞさらさらないが。
『その気はない。師の名に泥を塗る訳にはいかんからね』
「ほぅ、中々骨があるようだ。それが見せ掛けでないかどうか。戦って証明してもらおう」
そのまま鍔の辺りに羽の生えし二匹の蛇が巻き付いた様な装飾を施された片手剣を抜き放つ。傷一つない白銀の刀身には何らかの魔力が作用しているのかうっすらとぶれて見えた。
魔導剣カドゥケス
品質:国宝級 封入魔力:113/113
偉大な錬金術師が作り上げた魔法の片手剣。魔力の伝導率が異常なほど高い。主と認められたもののみが使用できることが有名であり適性のないものが手に持てば柄から猛毒を放つと言われている。
天恵:【魔伝導】
あのぶれて見えるのは漏れ出た魔素かなにかなんだろうかね? やれやれこっちは魔法を制限してるっていうのにな。
『トーナメント準々決勝第一試合! レディィィィファイッ!!』
開始の合図と共にアジマルドは時計回りに走り出す。
「火よ、矢を形取りて目標を破砕せよ! ファイアアロー!!」
走りながらの詠唱。アジマルドの周囲に6本の火の矢が現れ一挙に俺の元へと飛来する。横っ飛びして避ける俺にその中の一本がぐいんと曲がり追尾してきた。なんと器用なことを!
――酸撃発現!
強酸を利用しての消化活動。雄曼酸棍で一薙ぎしてやればじゅわっと火の矢は消え去った。
「火よ、槍を形取りて目標を貫き滅せよ! ファイアジャベリン!!」
俺が炎の矢を消したと同時にアジマルドの詠唱が完了する。今度は四本の火の槍が現れ間隔を置いて次々と飛来した。
ちくしょう、どうせまた追尾効果がついているんだろう。うらやましい、今度絶対に開発するんだからねっ!
避けるのを諦め雄曼酸棍をバトンのように回転し前面に壁となるよう酸を撒き散らす。手のほうは魔獣の小手で酸に強くなっているからできる事である。
ジュワッジュワッと酸の壁へと火の槍が突き刺さった。危うく貫通するところだったがなんとか堪える。
「水よ、泡沫の存在となりて……」
そうそう詠唱終わらせて堪るか。こちらは無詠唱で対抗だとばかりに右手のみだが指パッチンにて風の刃を連射してやる。放たれた風の刃は10センチメートルほどの小さなもの。目には見えぬはずだがアジマルドは器用にバックラーで全て受け止めていく。あっさりと魔法を受け止めるそれは魔道具なのかもしれない。その間も集中力を切らさなかったようで魔法の詠唱は完成した。
「……在るもの全てを弾き飛ばせ! バブルボム!!」
ボァァァァァ
無数の泡がアジマルドを中心に発生したかと思えばゆらりゆらりとこちらへ向かってくる。この魔法、速度はないのだがまるで水中の機雷の如くその辺りを漂いなにかしらに触れれば破裂するという厄介なものだ。
魔法を制限したままの俺にとっては厄介だった、一昨日までは。
『棍電砂!』
ダフったような振りで敷石に両手棍を打ち付ければ石は砕け砂となり正面へと吹き飛んでいけばパパーンパパーンとバブルボムが次から次に破裂していく。砂粒一つ一つに電気が封入されこれに触れた物体は僅かながら感電するという一昨日習得したばかりの非常に地味な技。勿論原理は不明。なんに使うのよと思っていたが思わぬところで役に立ってくれた。
「なかなかにやる。面白いな!」
不敵な笑みを浮かべながらこちらをまじまじと見つめてくる。こいつも戦闘狂かよ……。こっちはこんなことをしてるより嫁さんたちとにゃんにゃんしてるほうが良いってのに。どいつもこいつもこんな感じなもんだからなんか腹が立ってきた。
『空気推進』
ボソリと発した魔法で加速をつけて間合いへと飛び込めば雄曼酸棍を鳩尾狙いで突きこんだ。
「ぬ、速い」
バックラーで受け流しつつ己の体は横へとずらし手に持つ片手剣をカウンターのように突き入れてくる。突きの体勢から無理矢理盾ごと振り払えばアジマルドは体ごと吹き飛ばされた。予想以上に軽い。だがこれじゃ距離を取らせただけで意味がないだろう。
「風よ、壁となりて全てを阻め! ウィンドウォール」
風の壁をクッション代わりにしてふわりと着地するアジマルド。こいつ魔法を連発しているがどれだけ魔力を内包してるんだか。いくら半減とは言え総魔力次第ではすぐに枯渇してしまうんじゃないかと思われるがあいつにそんな素振りは一切見られない。
「遊びはここまでだ。常夜なる魔よ、俺と共に在れ! 雷よ、剣に纏いて全てを滅せよ! サンダーウェポン!!」
バヂン! バヂバヂバヂバヂ!
弾けるような音がカドゥケスを中心に響き渡る。そして、やつは俺へと突貫してきたのだがその速度たるや先ほどまでの比ではなかった。目で追うのがやっとという速度でこちらへと詰め寄ったと思えば真っ二つに断ち切らんばかりにその片手剣が振るわれる。
ガギン!
雄曼酸棍の中心にてガッチリと受け止め……んが、半分くらいまで刃で切り裂かれんばばばばばばばばばばば。ぐ、ぎぎ、これは感電か。魔力纏を伝わってくるほどなのかよ。いや、これがあの魔力伝導率云々の効果なのか? あばばばば、やられたらやり返す! お・ま・え・も・感・電・しろっ!
『チェーン、ジ、サン、ダー、ハン、ドォ!』
それを合図に押さえつける俺の手が多重発動したサンダーに包まれる。
「なっ、なにぃ!?」
アジマルド自身の耐え切れる電気量を超えたのかそれとも相互に流れる分には抵抗がないのか知らないが我慢比べといこうじゃないか。
「がっ、あああああああ。くそっ!」
電気が流れてすぐに剣を引っ込め後方へと下がるアジマルド。おいおい、根性足りないぞ天才?




