第163話 あ゛あ゛っ駄女神様っ!?
ノブサダのズボンは2,000マニー(二万円)。傷にもならない撫でるだけの攻撃でも破れてしまうのは仕方ない。
てれれってってって~♪ てれれってってって~♪ てれれれれれてって~♪♪
ノブサダさんのお昼WOクッキング~。
まずは作り溜めしてあるあめ色になるまで炒めた玉ねぎちゃんにニンニク、ショウガ、みじん切りしたニンジンとルイヴィ豚の脂身の少ないところの挽肉を入れて炒めていく。挽肉の色が変わったらスパイスを投入。ここら辺はうろ覚えなので少しずつ手探りで。ターメリックなどメインのは分かっているからそこまで酷いことにはならないはず。そしてこれまた作り置きしていたゆで剥きトマトを刻んで入れ塩等で味を整える。水分をとばし最後にガラムマサラで調整したら完成なり。
本日の昼食はルイヴィ豚の挽肉のキーマカレーにパンとナン、デザートにはヨーグルトムース(作り置き)でございます。
妊婦にカレーはと思われるが辛さと塩分を抑えたものならば体には良いってパートのおばちゃん達が言っていたからセシリーナさんにも大丈夫だろう。従業員を含めて6人だがティーナさんが少なく見積もっても2,3人前はぺろりと平らげそうなので10人前作ったがこれでも足りるかちょっと不安だったりする。
「ん~、いい匂いね。食欲を刺激されるわ」
「そうだねぇ。一頻り暴れた後だからもう腹がぺこぺこだよ」
シボックさんたち従業員はまだ店内にお客さんがいるため休憩には入れないので先にこちらの食事をすませてしまおうかね。
ちなみにパンのほうはふわふわもちもち食感、ナンのほうはちょっとカリカリにしてアクセントをだしてみました。ヨーグルトムースは甘さ控え目にして上にブルーベリーのジャムが乗っていますのよ。
パンを千切りキーマカレーをつけて食す二人。口に入れた瞬間、二人とも大きく目を見開いた。あれ? 辛すぎた? 味見はしてたんだけどな。
「美味しいわ。程よい辛味でついつい手が止まらなくなっちゃいそうね。それにこんなに柔らかくて食べやすいパンは初めてよ。ノブサダ君、これの作り方……教えてくれない?」
流石共同経営者。しっかりと情報収集しておりますな。シボック夫妻ならば構わないからお教えしますよと快諾する。これで王都で自分で焼かずとも好みのパンが食べられそうだ。ついでにカレーパンの作り方も教えておこう。人によって随分味に差が出るからどんな昇華をしてくれるのか非常に楽しみだったりする。これで稼ぐわけじゃないから気前良くいきませう。
それにしても……。
さっきから一言も発しないと思ったらティーナさんは一心不乱に食べ進んでいなさる。よっぽど気に入ったのかね。
「ノブサダ! 御代わり!!」
はいはい、三人前突入ですな。これ、足りるか分からなくなってきたからシボックさん達の分は退避させておこう。ミタマと二人置いておいたら俺の次元収納内の食材全部食いきりそうな予感がするのは気のせいだと思いたい。
結局、追加で作り置きのモツ煮を二杯平らげて食欲魔人二号の胃は落ち着いたのであった。
「ほうほう、これをノブサダ君がね。うん、こりゃ美味い。それにしてもいいのか? 簡単にレシピを譲ってもらって」
休憩中の看板を出した後、従業員の妹さんたちと共に舌鼓を打っていたシボックさんが素朴な疑問をぶつけてきた。
「いいんですよ。料理はあくまで家事の一環で商売にしているわけじゃないですから。むしろシボックさん達にアレンジしてもらった方が今後の楽しみに繋がるんです。期待してますよ?」
「ははっ、そりゃ責任重大だ。そのうちあっと驚くようなメニューを増やしておくから楽しみにしていてくれ」
勿論、カレーのレシピも渡しておいた。これもまた家庭や店で味が大きく変わるからね。家庭の味、洋食屋の味、ジャンクなコンビニの味、中でも思い出深いのは給食のカレーだったりする。大量に作ることから中々真似できない味わいなんだよねぇ。
食べた後は運動のお時間。今回は格闘でお相手です。これはもう防戦一方でしたわい。師匠と相対していたシボックさんだけになまじっかな格闘性能では攻め立てることすらできない。だから受けいなすことで見極める事を優先したのだ。俺の強みの一つ識別先生による見切りというか録画に近い記憶能力。それを使いこなせないつんつるてんの脳みそなのが残念です。でも頑張るよ、死にたくないし守るものがあるからね。
それともう一つ。魔力纏に乗せる改変魔法などのバリエーションも増やそうと試行錯誤していた。今乗せられるのはサンダーなどの改変前の魔法のみ。これが両手に氷結系を乗せられれば火魔法などを掴んで消し飛ばすことだって夢じゃない。なんでロックハンドスマッシュができていてそれが出来ないのかってのは自分でも謎なんだがあれはもうそう言ったものだと一連の動作が一つの技として固まっているからイメージしやすいのかねぇ。ファンタジーのFは不思議のFらしいからそんなもんだと思っておこう。
~~それからそれから~~
ボロ雑巾のようになった俺が宿へと戻ったのは日も落ちかけた頃。なんでそんな様なのかといえば今度は樫パンが飛んでこなかったせいかシボックさんが例のウェポンスキルを放ってしまったからだ。手加減はしていたとはいえ直撃しぶっ飛んだ俺は壁へとしたたかにぶち当たってしまったよ。喰らった直後体に風穴が開いたんじゃないかと思ってしまったほどだ。あれが真剣を使い本気だったらと思うとゾっとする。
バイル戦のあとに二連戦なんてしたもんだから疲れ果てておりあやうく浴槽で寝こけてしまうというミスをおかしたりしたがリポビタマDXを服用した後、ベッドへと倒れこむ。そしてそのままあっさりと意識を手放すのだった。
――ノブサダ君、ノブサダ君、聞こえていますか~?
緊張感の欠片もない声が頭に響く。
目を開ければそこは一面の青。まるで海の中にいるようである。あ、こりゃ夢だなと直感的に思った。目の前にいつもの二頭身とは違う黒髪の女神っぽい服装のあいつがいるからだ。
――レベリットちゃんから大事な大事な神託なのですよ~。
結婚式のときも思ったんだが誰かに似ているような気がする。性格から顔立ちまで。ん~、おかしいなもやっとして思い出せない。そんなに昔だったっけか?
――あの~、聞いてますか~?
ん、ああ、聞いてる聞いてる。
――なんかすごく投げやりな気がするのですが時間もないのでちゃちゃっと説明しちゃうのですよ。明後日いや日付変わったので明日の夜、この王都で最も高き塔へと向かうのです。捕らわれのショタっ子のお願いを叶えて欲しいのですよ~。
ショタっ子か……。正直そっちの気はないんだ。悪いが他を当たってくれるか?
――いやいやいやいや、そういう意味じゃないですから。これはきっとノブサダ君の未来にも関わる事なのです。たぶん損はさせないと思うのでなんとかお願いしますよ~。
駄女神は土下座の構えを見せている。どこまでも腰の低いやつめ。女に土下座させ続ける趣味はないので仕方ないから依頼されてやるかね。それにしても塔ってな王城のあれか? 見張りとか厳しいんでないの?
――そこはほら便利魔法を駆使してなんとか?
お前さんも無計画かい! んー、空間迷彩使いつつ空中から接近するか地中からってのが定番か。
それと夜って言ったがいつでもいいのか?
――できれば日付の変わる直前までに行くのがベストでしょうか~。下手をすれば変わってすぐに押し込まれる可能性もありますし~。
って問題事ありきかよ!? 潜入後に入り口を封鎖、強化しておくのがいいか。それにしてもなんでまたお前さんが個人を助ける? 腐っても神が手を出していいのか?
――腐ってませんよ。薄い本は持っていないので~。使徒経由なら問題はないのです。そもそも使徒は神の代弁者ですから。実はですね~。そのショタっ子の祈りがあまりにダイレクトに他の女神と私に届くものですからお前がなんとかしなさいと皆に押し付けられちゃったりしちゃったり……。
オイィィ、ぶっちゃけすぎだろう。それと他の女神に使徒はいないのか?
――今はいませんね~。候補はいたんですがノブサダ君が縁を結んじゃって大きく手出しできなくなってたりするのは恨み言じゃないんですよ~?
げ、もしかしてもしかする?
――しますします。かといってノブサダ君が悪いわけじゃないんですけどね~。神ですら見定めるのが難しいのが縁というものですし~。おっとそろそろ時間なのです。そうそう、私も久しぶりにカレーが食べたいので次のお供え物はあれでお願いするのですよ~。それでははいちゃらば~い!
あ、おい! まだ聞きたいことが……。
チュン、チュン、チュン
ガバリと起き上がればそこは宿のベッドの上。駄女神と会っていたことなど嘘のようだがただの夢ではないらしい。なんせベッド脇にある机の上に「カレー、カレーをぷりーづ!」って血文字っぽいもので書かれているからだ。ホラーかよ! クリアで即消し去ったけども。百倍カレーをお見舞いしようと心に誓ったのは言うまでもない。
寝起きで血文字があったらドン引きします。鼻血が出ていて枕が真っ赤だったことはあることぶきですが……。




