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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第七章 レェェェェッツ、王都インッ!!
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第161話 武闘祭本戦第二回戦



 短時間の睡眠でもすかっと爽やか。こんちくわ、ノブサダです。嘘です、結構おねむです。


『本日の一戦目は相手を寄せ付けずに倒してのけたノーヴ選手とヒノト皇国の震陰流を無傷で降したバイル選手の注目の一戦です』


 俺の目の前には……金色のエリンギがいる。いや、あれが相手のバイルなんだろう。独特の髪型である。俺にはエリンギにしか見えないが。前情報どおりローブの前を大きく開いてタンクトップなどが見えているのだがその盛り上がった筋肉は下手な前衛など及ばないほどの重厚感で知らなければ魔術師と言われても首を傾げてしまうだろう。


 そういえば杖とか持っていないな。代わりと言ってはなんだが両手首に腕輪のようでもあり小手のようでもある代物をつけている。魔法の補助に使うんじゃないかと思われるがどんなもんなのかね?


 ソニックバンド

 品質:特上級 封入魔力:60/64

 風魔法の親和性を高める補助魔道具。威力強化と魔力消費低減の効果がある。また、何かしらの術式が付与されている。



 名前:バイル 性別:男 年齢:29 種族:普人族

 クラス:風魔導師Lv12 状態:健康

 称号:なし

【スキル】

 格闘術Lv4 身体強化Lv4 風魔法Lv5 魔道具作成Lv4 生活魔法


【クラススキル】

 エレメントセレリティ


『エレメントセレリティ』

 各魔術師共通のクラススキル。得意属性に応じた魔法を短い詠唱で使用できる。



 非常にシンプル。遠距離では風魔法、近距離では格闘術で迎撃か。気になる一文があるのだが詳細は不明だ。


 識別先生を発動して見つめる俺に対してやつは非常に冷めた目で見ている。そして腰から取り出したものを指へとはめ込みゆったりと戦闘態勢に移行していった。はめ込んだのはメリケンサックとしか言いようのない代物。両手を二度三度打ち合わせ具合を確かめるバイル。ヤる気は十分のようだ。



 ソニックメリケン

 品質:特上品 封入魔力:62/62

 風魔法の親和性を高める効果を持ったミスリル製の拳闘具。同様の装身具同時に装備することで効果は単体よりも増幅される。


 とことん風魔法特化らしい。しかし、あのトウゴウを倒したからくりがステータスなんかでは説明がつかない気がする。


『時間一杯です。それではぁぁぁぁ!』


 すぅっと息を吸い込み雄曼酸棍を構える。バイルも同様にファイティングポーズをとる。ベタ足のボクシングスタイルみたいな構えだな。


『トーナメント二回戦第一試合! レディィィィファイッ!!』


 無策での突貫は危険と判断し受けの型にて様子を見つつじりじりと前に出る。あちらさんはどうやらその場を動く気はないのか? ファイティングポーズをとったまま例の冷めた目線でこちらの様子を窺っているようだ。


 にじりよることしばし。俺とバイルの距離は畳み一畳分というところまで近づいた。もう少しで雄曼酸棍を振りぬけばやつに当たるという距離だ。いくか? 少し逡巡した時だった。


「ソニックボゥ」


 バイルが両手を交差したと思ったら俺の体に強い衝撃が加わりバランスを崩してゴロゴロと転がってもんどりうってしまう。突然のことに何が起こったのか理解できず衝撃から雄曼酸棍を手放してしまった。魔獣装備と多重に張り巡らせた魔力纏のおかげでダメージこそほとんどないが衝撃は殺しきれなかったようだ。


 推測でしかないが恐らく風魔法。それも強化した風の矢っぽいな。いや、あんな衝撃と速度のがくるとは思いも寄らなかったが。例の装備で親和性を上げて強化と無詠唱を両立させたんだと思う。


 だがこれくらいの威力ならば押し通れる。さっきは不意だったのでまともにくらってしまったがエレノアさんの本気突きに比べればどうにかなるレベルだと思う。目で追うな。体で感じろ。あの二人の容赦ない拳を思い出せ。


 今度はジグザグにステップし的を絞らせないよう距離を詰める。当たった感じだとさほど範囲は広くないはずだ。


「ソニックボゥ」


 落ち着いていればヒュゴっという風の流れが肌に感じられる。見えない攻撃であるがヒットするポイントさえずらせば吹き飛ぶほどの衝撃は……受けない! 両手を交差させた直線上が軌道となりおまけにある程度のタメが必要なのか連発はしてこないとみた。ならば!


『だらっしゃあぁぁぁぁ』


 ロシアの胸毛たっぷりなプロレスラーばりの両足をつかったドロップキック(『空気推進エアスラスタ』による加速付き)で意識を刈り取る!


 だが滑空する俺が見たのは両手のファイティングポーズそのままに屈んで待つバイルの姿であり次の瞬間にはまったく予期しない衝撃を受け再びゴロンゴロンと転がりつつもんどりうつのだった。雄曼酸棍はその場にカラリと転がってしまっている。


 げっはげっはと息をするのもしんどい。一体今のはなんだ?

 相手に両足が着弾すると思った瞬間に意識が危うく飛びかけたぞ。転がってばっかりでズボンは破れるし擦り傷だらけだ。衝撃に強い作りになっているマニワさん特製で2,000マニーもしたのに!


 ん?


 魔力纏があるはずなのにズボンが破れて擦り傷を負った? 意識が飛べば消えるのはわかるが転がっているときもちゃんと意識は保っていたはず。それで魔力纏が切れているのはおかしい。あの屈んだ瞬間になにかしらやっていたか屈むのが条件で予め準備しておいたものが発動したかといったところだろうか。


 考え込んでいる時間もないか。俺が何かに気付きかけているのを警戒してかやつもついに動き出したようだ。


 ダムッ


 速い!?

 俺と同じく風の魔法の力を借りているんだか分からないが驚きの突進力で間合いを一気に詰め寄るバイル。そしてローキック。脚絆をうまく使いそれをガード。だがすぐに逆からのローキック。更にローキック。おまけにローキック。


 しつこい! しかも地味に足にくる。このまま受け続けるのはやばいのは理解しているのだが止まらんよ、こいつ。通常ならストーンウォールでも繰り出して距離を取っているところなんだが今それをする訳にもいかない。あくまでノブサダとノーヴは別物じゃないとあまりよろしくないからな。避けようにも出だしが速いからタイミングが取りづらいしさ。っつう。段々と足が痺れてきた。無駄に考察とかしている場合じゃない。ダンジョンで編み出したアレをお見舞いするぞ。牽制にはなるはずだ。


 パチン! パチン!


 唸りを上げる指先から風の矢を改変した風の刃にバイルも動きを止める。瞬間的に受けてはいけないと判断したのかあいつも同種の技を繰り出してきた。


「ソニックボゥ! ソニックボゥ!」


 俺の出した刃はハンマーのようなそれに打ち砕かれ効果を失う。だが速射性能ならば遅れはとらん!


 パチンパチンパチン!


 舞を踊るかのように曲線的な動きでバイルへ次から次へと風の刃を放つ。流石に素晴らしき真っ二つとはいかないが当たれば切り傷が増えていく。随分と姑息だと思うなかれ。今さっき気付いたんだが例のダメージによる魂石消灯ってやつがすでに俺のは1つ消えているんだ。ダメージ肩代わりって言ってた割には十分衝撃受けたりしているんだがどうなってるんだこのシステム。小さな切り傷はついているし欠陥品なのかね?


 それは置いておいて実際のところ体格での不利に変わりはない。己の背の低さが恨めしい。だがあっちのねちっこい下段攻撃に付き合う義理はないんだ。出血もしているようだし地味に削らせてもらおうか。


 パチン、パチン、パッチパチン!


 やはり遠隔攻撃ならあの不思議防御はこないようだ。バイルのほうは風魔法が打ち止めなのかそれとも小さな傷などお構いなしなのかローキックから右フック、左フックと当初の待ちが嘘のように攻め立ててくる。まるっきり攻守が逆になっているが俺はそれを避けつつただひたすらに指パッチン。俺は某路上格闘ゲームで必殺技を出せずに通常攻撃のみでエンディングまで見た男ぞ。削りに対しては微妙な定評があるのだ。


 パチパチとマンネリ化しそうなところだが俺だって考えなしな訳じゃない。本当だよ?

 回り込みつつある場所まで誘導していたりする。攻撃を上段へ集中して注意を足元から逸らすのも忘れない。風の刃の間を縫って再びバイルが攻め込んでくるタイミングにあわせてそれの頭を蹴り上げた。


 ゴスン


 まるでつっかえ棒の如く腹へと突き入れられる雄曼酸棍。無論衝撃が逃げぬよう下側は足で固定している。くの字に曲がり苦悶の表情を浮かべるバイル。そこへ追い討ちとばかりに両手棍を振り下ろ……そうとしてやめた。

 バイルは苦しそうな顔をしつつも屈んで右手からなにかを撒いている? 白い粉のようなものがやつの周囲を囲むように撒かれていた。識別先生、マッハでお仕事よろしく。



 夏塩

 品質:高品質 封入魔力:38/49

 東方で特殊な結界の触媒として重宝される希少な塩。夏の魂が集い現れる精霊の体内で生成されるという。



 暑っ苦しそうな名前の素材。こいつと例のソニックバンドを組み合わせる事でなんらかの結界を張っていると見るべきか。屈むのは範囲が狭いせいかそういった動作が必要なのかってところだろうかね。



 ポクポクポク、チーーン!



 だったら屈めない様にしてやればいい。雄曼酸棍を持つ手に今まで以上の魔力を内包しそのまま敷石へと突き立てる。それを察知したのかバックステップで距離をとるバイル。勘がいいな、おい。


『土墾杖!!』


 ビキビキビキと再び敷石に亀裂が入り両手棍の突き立てた場所から一気に広範囲に盛り上がっていく。それもポルポト戦で見せたような生易しい盛り上がり方ではなくトゲトゲしい隆起の仕方。座れば尻に刺さりそうなほどである。その隙間を駆けるのではなくすり足の要領ですいすいっと進んでいった。


 バイルはあまりに変化した足元のせいかその場を動かない。むしろ動かず冷静にこちらを迎撃するべく風の矢を放ってくる。


「ソニックボゥ! ソニックボゥ!」


 雄曼酸棍は突き立てたままのため両手はフリー。こちらも迎撃と指パッチンを繰り返す。どうやら予想通り交差した両手の直線上に発生するようなので軌道を読むのはなんとかなる。相殺されていたことを踏まえて少し溜め一撃の重さを上げるイメージを持って放っていた。


「ソニックっ……」


 手が届くまでもう少しって距離なんだが何やら溜めに入ってないか?

 やつは手首のバンドを重ね魔力を集中しバッと離したところでメリケンをぶつけ合った。その途端、荒れ狂う風の壁がやつの目の前に出現する。巻き上げられる風の奔流により進む足も止まる。広範囲に放つ大技と判断し回避を諦めフルプロテクションを発動、防御能力を上げた上で魔力纏を多重展開し衝撃に備えた。


「タイフゥゥゥゥン!!!」


 まるで風の奔流を殴り飛ばすように突き出せば囲みこむように集まる風が集約し足を掬うようにして俺の体を天高く跳ね上げた。でかい風の矢が来るかと思っていた俺の予想は思いっきり見当違いだったようで空高く錐揉みに舞っている。このまま叩きつけられればタダじゃすまないだろう。普通の人ならば。


空気推進エアスラスタ』にて姿勢制御。目標はバイル!

 足へとサンダーを纏わせる。キングウルフのときは幾重に重ねたが今回は二重発動に抑えた。

 いざ、ノブサダ空を翔る!


『ノーヴ錐揉み黒電キィィィィィィック!!!』


 錐揉みから回転を加え一気に急降下し強襲する。空中で軌道を変えてくることに思いもよらなかったのか慌てて結界を発動すべく屈もうとしていた。だがそこには土墾杖でできたトゲがある。思い切り尻へと突き刺さり思わずバランスを崩すバイル。再び構えようとするももはや俺の右足は目の前だ。


 ゴギャン


 流石格闘術を修めているだけあって瞬時にクロスアームブロックの構えをとっていたのだがそれくらいで止まるほど生易しくはない。纏ったサンダーの放電のせいか両手首のソニックバンドは脆くも崩れ去る。ベキリと腕の骨をへし折る鈍い音が聞こえると同時に今度はバイルが宙を舞い場外へと放り出された。


 一瞬会場が静寂に包まれる。


『バイル選手場外!! ノーヴ選手の武技で勝負は決まったぁぁぁぁぁぁ! 勝者、ノォォォォォヴ!!!』


 おおおおおおおおおおおお


 静寂から一転。一気に歓声が上がり会場全体に広がった。

 それとあの魔武技を通常の武技と判断してくれたので重畳である。にしてもあの反転結界(便宜上こう呼んでおく)は厄介だった。結局詳細は分からず仕舞いだったけれども結界術のスキルを持っていない者でも使えるのであれば結構洒落にならないと思うんだよね。あれが量産されたらたまったもんじゃないな。

くにへかえるんだな おまえにもかぞくはいるだろう?

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