第159話 決戦、そしてさようなら。
おーおー。二匹とも戦意旺盛なようで。
まずは白狼、ルークウルフから飛び掛ってくるか。ウォォンと唸り声を上げつつ牙を剥き出し襲い来るそれに雄曼酸棍を真横から叩き付けた。手ごたえが微妙!?
なんとルークウルフはどう進路を変えたか分からないが瞬間的に身を捩るかなんかをして雄曼酸棍へと齧りついている。ぐぉ、狼といっても結構な巨体なもんだから重いったらない。先端部分に齧りついているから尚更だ。
それを見て次いで襲い来るのはキング。そうそう引っぺがせないと思っているな。だがそれは間違いだ!
――酸撃発現!
雄曼酸棍の先端よりじゅわっと溢れ出るのは強酸。その濃度たるや鉄を溶かすほど。
ギャワン!
ルークウルフの牙どころか口元まで強酸を浴び溶け爛れ棍は無理矢理引き剥がされた。そしてそのまま飛び込んできたキングウルフの脳天へと叩きつける。
ゴギン
うおぁ、まるで鉄塊を叩いたかような衝撃で手がビリビリと痛む。思わず棍を離してしまいそうになるほどだ。さっき識別先生で見た金剛狼皮ってやつか。瞬間的か分からないが皮膚が堅くなるんだろう。が、堅くなっても衝撃は通っているようで少々足が覚束ない様子のキングウルフ。脳震盪でも起こしたか?
チャンスと止めを刺すべく動こうとしたのだがそこに横から邪魔が入る。顎の骨がむき出しのままのルークウルフだ。再生能力持ちだったが皮膚よりも先に牙が再生している。王を護らんとするその意思がそうさせたのかは謎だが戦闘能力は落ちていないようだ。厄介だな。
ちらりと横を見ればヤツフサたちは一進一退の攻防を繰り広げている。あれは結構長引きそうだな。ふうと一息吐き腰を落ち着けて事にあたるとしますかね。
脳震盪から回復したキングウルフとルークウルフは時に同時に時に連続で互いに連携しつつこちらを攻め立ててくる。上下に襲い来る狼を下段から掬い上げるようにして迎撃する。先ほど雄曼酸棍の能力で痛い目にあったせいか両手棍そのものには近寄ろうとはしない。両手棍の範囲を逃れ一気に俺の懐に潜り込もうとしている。それを蹴上げて飛ばすもくるりと空中で回転しスタンと着地していた。むぐぅ、しぶとい。
こちらも千日手になるかと思われたがそれを打開すべくスキルを発動した。
キングウルフがだが。
ウォォォォォォォン
部屋一杯に響く咆哮。ビリビリと皮膚を揺らすほどのそれはルークウルフに対して予想以上の効果をもたらしていた。何度か叩き折った筈の牙は再び生えそろいむき出しだった顎の骨の周りの皮膚は再生していた。再生能力だけでなく身体能力も向上しているようで初見でその動きに対応できず噛み付かれてしまう。幸いにしてストーンスキンが効力を発揮してくれたのでさらに力を込められる前に引き剥がすことに成功した。
消えたストーンスキンを張り直し再び中腰で構え相手の動きを観察する。ルークウルフ、キングウルフともに連続して噛み付いてくるのだがルークウルフだけでなくキングウルフも動きが速くなってないか?
おそらく王の風格ってのが関係しているのだろうが周りだけでなく自分まで強化するって随分と羨ましいスキルだな。手元にある物でなにか打開できるものは……。
ウォォォン
やばっ、少し意識を逸らしてたら肉薄された!?
ルークウルフの牙は俺の左の太ももへと思い切り突き立ち徐々に噛む力を強めている。いっ痛ぅ。先ほどより深く喰い込んでいる様だ。ちぃと舌打ちし裏拳で叩き飛ばそうと拳を振り上げる。
ウォォォォン
げ、キングウルフの追い討ちだと!
大きく顎を開け俺の喉元目掛けて飛び掛ってきた。飛びのこうと力を込めた瞬間、ルークウルフが思い切り噛む力を強めタイミングを逃してしまう。ええい、ままよとキングウルフの口内目掛けて拳を突き出す。
ガブリッ!
魔獣の小手に突き刺さってるんじゃないかと思うほど強い衝撃が右手の上下から響いた。苦し紛れに次元収納から小瓶を手へ落とし握りつぶせば口内へと中身がぶちまけられる。たしか駄女神のお仕置きに使ったそれはもう苦いセンブリだったような気がする。
ギャワンギャワン
思い切り飲み込んだせいかむせながら転がり落ちるキングウルフ。
その隙にルークウルフの右目へと指を突き刺せばこちらも痛みで顎が緩んだため左拳で殴りあげた。吹き飛ばされつつも少し離れた場所へと綺麗に着地しているがその目は再生されていない。血は止まっているものの部位再生まではしないようだ。
太ももへとヒールをかけつつ追い討ちとばかりにルークへと足払いをかける。とはいえ先ほどまでと同様かわされるとはふんでいた。それでも牽制にはなるだろうと。
その予測は見事外れることになりなぜか綺麗に決まった足払い。これはチャンスとばかりに雄曼酸棍を振り上げる。
『往生せいやぁぁ!』
往年のホームランキングと同様の片足で立つ構えから一気にルークウルフの胴体目掛けて両手棍を振りぬく。気持ちはレフトスタンド目掛けて一直線に飛んでいった気がするが実際は悲鳴すらあげる間も無くビタンビタンと跳ねる様に吹き飛んでいった。
げ、そっちはやばい、ヤツフサたちが戦っている方向じゃないか。やっちまったと思いつつ行く先を見れば……あ、クィーンウルフを巻き込んでもんどりうっている。け、結果オーライってことで!
それにしてもルークウルフの動きが強化前に戻っていた気がするんだがさっきのセンブリかなんかでキングウルフにダメージ入ったのかな?
先ほどから動きを見せないキングウルフはどうしたと意識を向けてみると息を荒げながら目元が虚ろになってフラフラしている。あれ? もしかしてセンブリじゃなかった?
あ゛……。
ある一点が見えた時点で何を飲ませてしまったか見当がついた。ついてしまった。
最初は足が五本に増えたって思ってしまったんだが後ろ足の辺りになにかが増えているんだ。それはもう動き辛そうに。たぶんだが封印していたアレを飲ませてしまったのかもしれない。それも希釈していない原液を。ははは、あれって魔物にも効くんだね……。少しだけ乾いた笑いが漏れてしまうのは仕方ないと思うんだ。
あああ、さようならシリアス。やってしまった感が半端じゃない。
もうこうなったら潔く散ってもらうしかないだろう。本調子ならば避けられていた束縛の魔法も効果があるはずだ。
『グラビトン! エアバインド!!』
ピンポイントでかけられた重力場に押しつぶされそうになりながら風の輪に拘束されるキングウルフ。雄曼酸棍を放り投げ助走をつけながら『空気推進』の力で更なる加速をつけ跳び上がる。
『黒電キィィィィック!!』
サンダーを重複発動させ右足の魔力纏へと集中。俺の右足が電気を纏いバチバチバチッと音を上げた。放った飛び蹴りはキングウルフの脳天を捕らえゴキリと鈍い音が聞こえる。そして着弾と同時に感電したその体は小刻みに痙攣したままゴロンゴロンと勢いよく転がっていく。壁にしたたかに打ちつけられやがて光の粒子へと分解され消えていった。
ふううう、倒せたはいいのだが何とも釈然としない最後だ。全部俺のせいではあるんだけどね。やはり俺の背に憑いているのはお笑いの駄女神なのかもしれない。
「ノブサダ君、無事だったかい?」
『お一人であれを何とかしてしまうなんて流石あっしのオヤビンでござんすよ』
やるせない気持ちのままだったがヤツフサたちが無事だったしまぁ良しとしようか。大丈夫だと意味を込めて手を振っていれば駄女神アナウンスが脳内に響き渡る。
てれれてってって~♪ 侍大将、武芸者、中忍、時空魔術師、異世界人のレベルが上がりました。
てってれ~♪ 両手棍のレベルが上がりました。
てってれ~♪ 魔力操作のレベルが上がりました。
てれれれ~れ~れ~てってれ~♪ ヤツフサのレベルが上がりました。セカンドクラス、サードクラスが解放されます。
おおう、軒並みレベルが上がったか。ヤツフサもしっかりと成長したようでなにより。時間のあるときにでも色々と確認してみようかね。
そして俺達の目の前、ボス部屋の中央には銀色に輝く宝箱がポップしていた。
「おおお、銀色に輝く宝箱なんて初めてだよ。うわぁ、楽しみだなぁ」
シャニアも興奮していなさる。だが、ちょっとした問題も発生していた。識別先生で確認したところこの宝箱の情報がこうなっていた。
【銀の宝箱】
罠:毒霧、麻痺毒霧 期待度:いい感じなのですよ~♪
期待度が高めというか駄女神め、あれほど言ったのにまた自己主張していやがる。識別先生に直接干渉しているのか!?
罠の度合いから見て鍵を開けれるかすごく不安だ。だってスキルレベル1だもの。だが俺が開けるしかあるまい。幸い毒に強くなったからね。開くまで粘る覚悟だよ。
明けの明星が輝く頃、一つの光が天に向かって飛んでいく。それが俺なんだ。
注)本作はまだ続きます。




