第158話 戦場と狼たち
スー○ージョーは関係ありません。
ボス部屋に入るとお馴染みの黒い靄っとしたものが入り口を覆う。同時に魔素が部屋内部に集中し魔物が形取っていく。そこには3匹の動物型の魔物が今まさに襲い掛かるべく身構えていた。
名前:ポーンウルフ Lv15
HP:49/49 MP:6/6
ウルフ種の最下兵。ドッグ種と違い雑兵とはいえ統率に優れているため連携攻撃には注意が必要。
【スキル】
威圧 遠吠え
情報どおりなら魂石すら落とさずドロップ品も宝箱も落とさないらしい。それでも何かあるんじゃないかと倒し続けた物好きもいたらしいのだが10戦ほどやってもずっとウルフばかりで止めたのだとか。生活がかかっている冒険者が見向きもしないのも分かる話だ。
「二匹受け持つから先ほどまでのように一匹ずつ仕留めて。連戦していくのだからペース配分も考えて欲しい。そこら辺はシャニアとヤツフサに任せる。いくよ!」
「「了解!(ワォン)」」
まずは俺が真っ先に飛び込み挑発してターゲットを固定させる。3匹のポーンウルフは我先にと俺を目掛けて飛び掛ってきた。雄曼酸棍を一振りして出鼻を挫くと共にこちらの戦闘エリアを築く。その間にヤツフサが側面から一匹の首筋へと噛み付きそのまま力任せに振り投げた。
ここに来るまでにヤツフサのクラス異世界犬のレベルは25にまで上がっている。俺の駄女神の加護があるとは言えハイペースで上昇していた。身体能力は格段に上がり小さな柴犬の身で魔物を圧倒するまでになっている。ヤツフサ、恐ろしい子!
念のためにと二人一組で戦ってもらったが一対一でも十分かもしれない。シャニアもいくつかレベルが上がっているので今のところは余裕のある戦いを繰り広げている。今回はフルプロテクションだけはかけてあるが身体能力を強化するブースト系の魔法はかけていない。地力を上げるためには強化なしのほうがいいのだが如何せん彼女らに怪我をさせる訳にはいかないから防御魔法だけはかけたのだ。
そんなわけであっさりとポーンウルフを降す。実質5分ほどで。
倒してすぐに入り口の靄っとしたものは完全には晴れず薄らとなっている。これで出て行けるってことなんだろう。そのつもりは毛頭無いが。そのまま休憩をかねて待機していると数分足らずでまた靄っとし再び魔物が湧き出る。出る魔物は全く同じ。先ほどと違い今回は一対一で戦ってもらう。
そして特に変わった変化も無く淡々と魔物を屠っていく。作業のようではあるが実戦である故に手を抜くことはしない。まさにキリングマシーンと化した俺達は延々とポーンウルフをのしていく。
戦い始めて16戦目。そこでついに変化が訪れる。
湧き出た魔物は相変わらずウルフなのだがその体格は一回り大きく眼光も鋭い気がした。
名前:ナイトウルフ Lv20
HP:64/64 MP:12/12
ウルフ種の騎士兵。ポーンウルフを束ねる指揮官。キングに従う忠誠心溢れるもの達。キングの盾となるべく己の皮を硬化させる術を身につけている。
【スキル】
威圧 遠吠え 皮質硬化
予想外だったがこれは連戦することで魔物の質が上がっていくボス部屋なのかもしれない。このまま戦い続けて説明文にあるキングとやらまで到達すればなにかしらの宝なりドロップなりが出るかもしれない。これはちょっと気合が入るな。そこら辺を説明し改めて強化をかけ殲滅力を強化した上で挑むことにする。連戦のため武器の耐久は大丈夫なのかと思ったのだが良く考えればシャニアの手にしているレイピアはおやっさんが頼まれ俺が自重しているなかで限界値まで魔力をつぎ込み硬化を施したものだった。あれが回りまわって今役に立っているのはなんとも不思議なことと言える。なんせこんなことになるとは当時思いもよらなかったもんな。
皮膚が硬質化し身体能力も上がっているナイトウルフだが魔法でブーストしたことによりそのアドバンテージをあっさりと上回ってしまう。ポーンウルフ相手よりもあっさりと屠ってしまう事態にシャニアもポカーンとしていた。
だが仕方の無いことだろう。通常の補助魔法を人数分かけるならば精々が一つか二つがいいところである。それ以上かけるのならばその使い手の魔力はごっそりと減り戦闘中はほぼ無力となってしまうかもしれない。結構な魔力を消費することから回復手段を持ちたい故に強化はほどほどとなってしまう。
それと筋力や敏捷力を単体で強化した場合、慣れが無ければその上昇具合に振り回されてしまうのだが併せて他の能力も上昇しているため判断力等も冴えていることから単純に力量が一段階上昇したようなものなのだ。その強化魔法全てを途切れることなく維持し続けている。戦闘時間が短縮されるのは当然の結果だ。
只ひたすらに狼達を屠ること数時間。何度も根を上げるシャニアを鼓舞しつつ補助魔法をかけ回復魔法をかけ前線へと送り込む。求道者のように半ば虚ろな目になりつつも彼女は折れることなく戦い続けた。ヤツフサ? なんだかんだで戦うことが好きなようで血まみれになりつつもどんどん敵を屠っていたよ。
ポーンウルフ、ナイトウルフ、ビショップウルフ、ルークウルフと連戦を重ね変わって行く対戦相手。何度目か数えるのも忘れた頃、集まる魔素の量が格段に増えそいつらは姿を現した。
名前:ルークウルフ(解放) Lv34
HP:223/223 MP:44/44
ルークウルフがキングとクイーンを護るため秘められた力を解放した姿。
【スキル】
威圧 遠吠え 皮質硬化 守護 防衛
【固有スキル】
キャスリング 再生(微)
名前:クィーンウルフ Lv39
HP:140/140 MP:101/101
ウルフ種の女王。全体が真紅なその毛並みは魔力保有に優れ夫であるキングを支えるに相応しい能力を持っている。同種を強化する能力を所持しているため注意が必要。
【スキル】
威圧 遠吠え 鼓舞 風魔法
【固有スキル】
同族強化
名前:キングウルフ Lv45
HP:200/200 MP:100/100
ウルフ種の頂点に立つ王。金色に輝くその体躯はまさに王の威厳に満ちている。女王同様に同種族を強化する能力を有するも常に先陣を切り敵を蹴散らしていく。
【スキル】
威圧 遠吠え 皮質硬化 威厳
【固有スキル】
王の風格 金剛狼皮
いかにも最後の相手だといわんばかりに金色を中心に白いのと真紅のが鎮座していた。こちらも随分とレベルが上がっているが後ろの二人にとっては格上の相手である。俺もクラスを元へと戻し万全の体制で挑むことにした。武器などはそのままだが梃子摺るようであれば月猫をすぐに取り出すつもりだ。無論、魔法もここまでくれば出し惜しみするつもりはない。ないのだがフレンドリーファイアが怖いので主に強化と回復面で全力投球させてもらおう。
「相手は今までとは違う。白色と金色は俺が受け持つからまずは赤いのから落としてくれ」
「任せてくれたまえ。ノブサダ君こそ二匹受け持って大丈夫かい?」
「コイツは両手刀より防御に向いているからね。いざとなれば色々と手はあるからなんとかする。ヤツフサもしっかりお目付けよろしく」
『任しておくんなせぇ。オヤビンも御武運を!』
「ちょっ、ヤツフサ君がお目付けってどういうことだい! 私だって「それじゃいくぞっ!」あああ、もう!」
段々とシャニアの扱いが雑になっているのは否定しない。少々面倒臭いところがあるんだもの。このまま話続ければ緊張感が途切れそうなのであえて話をぶった切った。
キングウルフとルークウルフの真ん中へ突っ込むよう斜めに移動しつつ挑発をぶちかます。うまく決まったようで俺のほうへと向きを変え一斉に飛び掛ってきた。雄曼酸棍を振り回しつつ防衛圏を築き二匹を相手取る。
◆◆◆
クィーンウルフと相対するシャニアとヤツフサ。
クィーンウルフは勇猛果敢に飛び出るようなことは無く距離を保ち続けている。膠着するかと思われた戦線を拓いたのは……ヤツフサだった。改良前の風の爪を繰り出しクィーンの足を薙ぎ払おうとしたのである。
なにか来ると獣の本能で感じ取ったクィーンは即座に飛び上がりそれを回避する。それに反応したシャニアは空中に浮いたクィーンへとウェポンスキルを発動する。
「いけっツインスラスト!」
二つに重なった刺突がクィーンを貫く……かに見えたのだがクィーンは風魔法をシャニアに向けて使いそれを推進力として後方へと飛びのいた。思いも寄らぬ風の砲撃に二歩三歩と後ずさるシャニア。
ワォォォォン
クィーンが着地した瞬間、茶色の物体が追撃を仕掛けている。ダンッ、ダンッと駆け抜けたそれはクィーンの首筋へと噛み付いた。ヤツフサの牙はしっかりと食い込み皮膚をつき抜け鮮血が噴出す。クィーンは引き剥がさんと壁へとヤツフサを叩きつけるべく駆け出そうとしたのだが進路はシャニアによって塞がれた。
忌々しげに唸りつつシャニアを睨みつけているが横にヤツフサが齧りついている為、威圧的なものは薄れていた。重りがついているようなものでバランスを崩しているクィーンにシャニアは好機とばかりに連撃を叩き込む。ウェポンスキルと通常の突きを混ぜ絶え間なく打ち込まれるそれを風の壁を繰り出しつつなんとか耐えしのぐクィーン。
不意に風の壁がクィーンを飲み込みその体を数メートル浮き上げる。制御ミスか!? シャニアはそう思ったのだがそれは間違いだとすぐに気付いた。浮き上がったクィーンはそのままグイっと首の筋肉の動きだけで体勢を変えヤツフサを下敷きにするように床に叩きつけた。その衝撃でヤツフサの顎の力が緩み体を捻ることでその束縛から解放される。
叩きつけられたものの防御魔法「フルプロテクション」のおかげでヤツフサにダメージはほぼ無い。お互い睨みつけるように向かい合い仕切り直しの様相となっていた。
アオーーーン
切り結ぶ最中、突如すぐ近くで狼の遠吠えが唸りをあげる。
視線だけをずらして見ればキングウルフが大きく吼えていた。それを受けルークウルフとクィーンウルフの動きが明らかに変わる。瞬発力、反射速度、そして牙、爪を盾で受ければ思わずよろめいてしまうほど威力が上昇していた。
シャニア達は受け手に回ればこちらが危険だと判断し勇猛果敢に打ち合うことを選択。最小限の回避で攻撃を繰り返すことにより相手の攻撃を封じるためだ。数の有利をうまく使うことで状況を打開するつもりである。
それから打ち合うこと十数合。数の上で有利なのにも関わらず未だトドメをさせないでいる。最も威力があるであろう『次郎長旋風斬り《じろちょうつむじぎり》』をお見舞いしようとしたこともあるが風魔法を巧みに使いそれをかわすクィーン。シャニア、ヤツフサ共に隣で戦っているノブサダの様子が気がかりで少し焦っていた。
ドゴァン!
大きな鈍い音と共に何かが吹き飛んできたことでその状況は一変する。飛んできたそれはクィーンを巻き込み壁へと激突した。よく見れば真っ白な体躯のルークウルフである。シャニアもヤツフサもこれは好機と一気に駆け込みお互いの進路で蹲っている狼達に大技を仕掛ける。
「いけっ勇ましき記憶と共にっ! スカーレットコメットォォ!」
『お控ぇなすってお控ぇなすって。ヤツフサここにまかり通るでござんすよ。『大切断落とし』でござんすぅ!』
シャニアは一筋の彗星の如くレイピアを突き出しクィーンウルフへと突貫する。摩擦熱なのかはたまたウェポンスキルの効果からなのか剣の尖端は真っ赤な線を描きその眉間へと突き立った。
壁を駆け上がり真上から風の爪を叩き落すのはヤツフサ。やっていることは『次郎長旋風斬り《じろちょうつむじぎり》』と同じであるが真上から叩きつけることで幾分威力が上昇している。それは衝撃から身動きの取れないルークウルフの胴体へと容赦なく飲み込まれていった。
それが止めとなり二匹は光の粒子へと分解され霧散した。ノブサダは? そう思い至ったシャニアたちはすぐさま身構え残る一匹へと向き直った。




