第156話 ひと狩り逝こう☆ZE
ロリ巨乳BBAの教官……はぁはぁ。
ことぶき は こんらん している。
今回、出先に選んだのは「ソロモンス」。王都からほんの30分ほどで辿り着くダンジョン。内部がかなり広いためよほど人気のあるスポットくらいしか同業者とかち合うことは少なくあまり目立たないという点を考慮したからだ。それにポポト君たちも通っていたらしく5Fからすぐに始められるし食材も収集できるという利点がある。
それは別としてポポト君達は初めて持つ新品の武器と防具にちょっとだけ浮かれているようなのだが君達浮かれている暇は無いぞ? 今日はティーナ教官にしごいてもらうからな。俺から言えることは一つだけだ。生きろ!
ちなみにアリナちゃんと獣幼女三人は裏で獣人OKな数少ない宿に移ってもらった。念のため部屋に結界も張ってきたし食料も十分置いてきたから今日一杯平気だろう。リハビリを頑張って欲しい。帰ればポポト君たちもこの宿に泊まってもらう。自己防衛できるまでに今日は頑張ってもらわないとな。ティーナさんの指揮能力と彼らの食に対する執念に期待しよう。
さっきからお任せコースでお前はどうするんだって感じなのだが俺はヤツフサと一緒にとある場所まで行こうと思っている。いざとなれば空間転移で宿へと戻れるしね。彼らには時間になったら俺を放置して戻るように言ってあるから問題ない。
◆◆◆
「さぁさぁ、あんたたち! グズグズしている暇はないよ! 今からアタイの指示に従ってもらうんだからね。ノブサダからポーションをたっぷり預かっているからどんどん敵を倒していくよ!」
ティーナの掛け声に先ほどまで新品の武具に目を輝かせていた4人はビクリと体を強張らせる。それもそのはずノブサダから彼女が傭兵団の副団長だと聞いておりこの行軍は一筋縄ではいかないと思い直すのであった。
ティーナはティーナで新兵の訓練は久々だと血が滾っていた。壊さぬよう壊れる寸前まで極限に追い込むことで確固たる芯を作り上げる。匙加減を間違えれば心を折ってしまうため絶妙な加減が要求される。
「ポポトって言ったかい。目に付く敵を片っ端から釣ってきな。多けりゃアタイが引き受けるから恐れずにいくんだよ」
実際のところ彼らの実力はポポトが抜きん出ているだけでさほど高くはない。それこそ傭兵団の新兵とも比べるまでもないだろう。
「いいかい? あんたらの実力なんざ未だ毛の生え揃わないマリモみたいなもんさ。アタイが鍛えるからにゃ腹ばいから二足歩行まで一気に駆け上がっていくんだよ!」
「「「「はい、姐御」」」」
「なに、アタイの訓練は簡単、非常にシンプルな事さね。生き残れ! そうすれば必然的に強くなっている。どうすれば生き残れるか、そいつはあんたら全員で考えながら戦いな!」
「「「「は、はい、姐御」」」」
「そしてここでひとつ朗報がある。人によっては悲報かも知れないがねぇ」
一呼吸置いてにやりと口角を上げながらそれを言い放つ。
「ノブサダから昼飯を預かっているんだがひとつだけ特別な弁当があるんだよ。最も功績を上げたやつにこいつを渡すつもりだよ。さぁ、キリキリやっちまいな!!」
「「「「イエス、マム!!!」」」」
食糧事情の思わしくなかった彼らにとってノブサダの作った食事は何物にも変え難い至高の褒美と化していた。四人とも目の色が違っている。もしも本人がいたらやりすぎたと頭を抱えていたかもしれない。
常に早足で駆けながら魔物を見つけては襲い掛かる。全くもって襲うほう襲われるほうが逆転していた。罠は罠使いであるクリフが素早く見つけ出し我先にと解除していく。
ポポトとムライが弓と投石で牽制したところにライマンが片手斧でザクリザクリと首を落とし胴を切り裂き次々と屠っていく。クリフは金属製の片手棍を持ちトドメを差し損ねたものに最後の一撃をお見舞いしていた。戦士、罠使い、シーフ、水魔術師。決してバランスのいいパーティとは言えないがノブサダからの薬品の提供で多少の怪我はあっさり回復するためすぐに戦線へと復帰する。何よりポポト以外は獣人のため元々の身体能力が高くレベルが上がるごとにそれは優位を叩き出していた。
おまけだが洗礼の際に全員へと『レベリットの気まぐれ』という固有スキルが与えられていたりする。効果は経験値・熟練値の微増。これもまた快進撃の要因の一つではあるだろう。
安全面に関して言えば本人が言ったように多く引き連れてきた場合はある程度ティーナがひきつけ間引いていた。「よりどりみどり♪」と舌なめずりしながら嬉々として狩っていくその姿はまさに狩猟者。獣人族の中でも金獅子族や戦竜族などと並んで身体能力に優れ好戦的な王虎族の本領発揮であった。盾で跳ね上げ露わになった柔らかい喉元を片手剣で一突きにする非常に荒々しい盾の使い方が特徴的な彼女である。
元々は騎士としての精練された盾使いだったのだがとある理由から騎士団を追放され放浪している間に守るだけの動きから確実に相手を仕留める攻撃性を高めたものへと昇華されていた。それほど平坦な道ではなかったのだろう。苦労が偲ばれる。
「ほらほら、脇が甘いよ! そこっ、集中力を切らすな! 横から魔物が来ているのが分からないのかい! よくお聞き。一人の小さな失敗が部隊を壊滅に導く事だってあるんだよ。あんたの命はあんただけのもんじゃない。パーティ全員のもんだってことを覚えときな! それを覆したかったら戦略をぶち壊すほどの個の力を持つしかないんだよ!!」
「「「「姐御、そんな人いるんですか!?」」」」
「世の中にゃそんな輩がいるのさ。有名どころで言えば王国の勇者に獣魔将軍、皇国の剣魔、帝国の破軍、連邦の黒い魔女、それとこの国で言ったら戦拳、次点で剣王がそうかねぇ。……それに届きそうなのが近くにいそうだけどさ」
最後の呟きはポポトたちには届かなかったようだ。あの村で魔物の群れに嬉々として飛び込んでいったノブサダの背中にかつて見たことのある獣魔将軍の面影が重なって見えたのは彼女の買いかぶりだろうか?
「さぁ、休んでいる暇はないよっ! 坊主、次の獲物を釣ってきな!」
「イエス、マム!」
「それと! その掛け声は禁止!」
「は、はい、姐御!」
「……アタイはまだマムなんて呼ばれる歳じゃ……。歳、なのかねぇ……」
自分で呟いた言葉に少なくないダメージを受けているティーナだった。
阿漕なマフィアから狙われていたポポトのトレジャーハンターはその効果を遺憾なく発揮していた。ドロップ品の成果は非常に順調でノブサダから貸し出されたマジックリュックに肉や素材が次々と放り込まれている。このリュックはノブサダ自作の大容量であり入れても入れても底の見えない入り具合に全員目を見張る。
また宝箱にも2度ほど発見し中から『荒巻ジャケット』や『ムラムラっ気ハンマー』などという珍品を入手するといった一幕があったりなかったり。
狩り始めること数時間。リポビタマDXやポーションを飲みつつ絶えず狩り続ける彼らは完全に狩猟者の目になっていた。
「ひゃっはーーー、お次は鹿肉だー!」
「狩る狩る狩る狩る。血飛沫を上げハラワタをぶちまけろ!」
「目標を補足。これより殲滅する!」
「おむつ持参で突貫するとです!」
…………
「ちょいとやりすぎちまったかねぇ……」
冷や汗を流しこめかみの辺りを掻きつつ思わずそう呟いてしまうのであった。




