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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第七章 レェェェェッツ、王都インッ!!
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第155話 ああ愛しきその名は……。



「ふっ、ふえええええええぇぇぇぇん」


 感極まったアリナちゃんが声をあげて号泣する。

 獣人が差別されはじめ小さい皆の生活を支える為に彼女は自らの耳と尻尾を切り落とし普人族と偽って働きにでていた。獣人にとってそれらを触らせるのは恋人や夫婦のみということで非常に特別な意味を持つ。誇りと言っても過言ではなく耳などが傷ついたものは結婚できないといった風習のある部族すらいるらしい。


 獣人としての誇りも幸せも身を寄せ合う家族のために捨て去ったが思いもよらず戻ってきたことに様々な思いが弾けてしまったようである。

 それを知っていた他の子供達も皆一様に目尻に涙を浮かべていた。ここは気の済むまで泣かせてあげよう。俺だけちょっと場違いなのでそっと席を外しておいた。


 ぐすんひくんと隣の部屋から聞こえてくる中、俺は魔法のすごさを実感していた。集中力と魔力は必要だが欠損した部位が完全に復元できるのだからな。やってみた俺もびっくりだ。


 さて、それはともかくとして彼女らをどうするかだ。流石に公爵家の一行に加わっていくのは無理だろうなぁ。一応、聞いてはみるけれども……。エト様はともかくもローヴェルさんたちがあまりいい顔をしないだろう。俺も護衛の身でありながら結構好き勝手動いているしな。平民であるからして城とかいけないから仕方ないのだけは分かっていただきたい。


 トントントントン


 グラマダへ向かうキャラバンみたいなのが出てないのかあとで確認してみようか。それとこのままここに居させるのかってこともある。回復してきているようだし俺の底上げと一緒にパワーレベリングするのもありかな。自衛の力をつけて貰えば幾分安心できる。アリナちゃんとあの幼女たちはどこか獣人でも大丈夫な宿を探してつめててもらえば何とかなると思う。


 スパスパスパスパ


 なんせ対戦相手であるバイル戦にしたって情報が皆無だからなぁ。


 …………


 ん? 情報??


 あ、いたね。そういえば居たじゃないの情報通が。この子らの装備を整えるついでに情報収集しちゃおうか。

 エト様の許可が得られればティーナさんとヤツフサも連れて行こう。ストレスを発散させてやらないとそのうち暴発しそうだし。


 ぐつぐつぐつぐつ


 ポポト君から聞いた話では大小3つのダンジョンが存在しているらしい。あの呪われ賞品である一式装備が発掘された高難易度ダンジョン「アークシーズ」、中難易度ダンジョンであり様々な獣系の魔物が出現する「ソロモンス」、鉱物をドロップする魔物が豊富に出現する「キケロ」。


 ツキジオンヌで貴金属の値段設定ができるのは「キケロ」の存在が大きいのだろう。また「ソロモンス」のおかげで肉などの供給が安定しているらしい。更には高レベル冒険者向けの「アークシーズ」があることでレベルの高い面々を招集できる。


 くつくつくつくつ


 これを聞いて特筆すべき産業はなかったという話は嘘じゃないかと声を大にして言いたい。とはいえお高い鉱物は奥の階層へ行かねばドロップしないし魔物の強さも段違いだから仕方ないか。店によってはパーティと専属契約を結んでいるようだし。これは貴金属店ウラガンで小耳に挟んだんだけど国軍に採掘部隊というダンジョンアタックを繰り返す部隊があるって話だ。その為に獣人や魔族を奴隷化して使い潰しているという黒い噂も一緒に聞いた。


 ふわ~~~~~~~ん


 考え事をしながらおでん、ポトフ、肉じゃが、もつ煮と煮込み料理をくつくつと煮込む。蓋を開けたら美味そうな臭いが部屋一杯に広がる。混ぜるな危険ということで一気には開けないよ?

 たまに作り置きしないとあっというまに食べつくされてしまうからね。考え事をしながらでも大丈夫なように鍋自体を風魔法を使って回転させている。傍目から見たら異常と言っても過言ではないけれど。だって俺の目の前で四つの鍋が回転しているんだものさ。


 そろそろ昆布の在庫がやばいなぁ。無くなったら自作の鰹節と干した小魚で代替するしかない。帰ったらウズメの様子も確認しなきゃだし7Fいかないといけないね。密かにヤツフサと一緒にわんにゃんの競演を楽しみにしているんだ。タマちゃんにも会いたいし少しだけホームシックかもしれない。


 ガタン!


 ん?


 振り向いてみれば物欲しそうな顔で全員揃って顔を出していた。君達あれだけ食べたじゃないの。苦笑しつつ小鉢に小分けして手招きしてやる。おかしいな、尻尾がないはずのポポト君にまでふりふりと勢いよくふられる尻尾が見える気がした。


 そうそう、ポポト君に生活魔法が無かったから気になっていたのだがあそこに居る子全員洗礼は受けていないらしい。神殿に納める金が無いという至ってシンプルな理由だったのでレベリット信者へと勧誘してみたら生活魔法が使えるならなんでも大丈夫ですとすごく打算的にOKを貰ってしまったよ。それでも駄女神、ポポト君たち共にWin-Winだから問題ないだろう、多分。

 呼び出したアレにはアイアンクローでお仕置きをしつつ洗礼を施してもらった。鞭の後には飴ということでお供え物のパンとプリンを捧げておく。中に樫パン入っているから気をつけろよといい忘れたのは故意ではない、たぶん。





 翌朝、エト様から許可を得た俺はダンジョンへと向かうための準備をすべく再び『鈍器混具』を訪れていた。フードを深く被っていたポポト君たちは目を輝かせながら防具なんかを見つめている。一緒になってティーナさんも目を輝かせていた。あなたは引率のために頼んだのだからしっかりしてくださいよ?


「ティーナさん。俺はこの子達の武器を調達してきますからこの場をお願いしますね。クランキーさん、お騒がせしますがよろしくお願いします」


「あいよ、アタイに任せておきな。ほら、坊主共。しっかりと自分に見合ったものを見繕うんだよ」


「ウホゥホゥ、儂はかまわんよ。常連のやつら以外はそうそうこんからのぅ」


 お願いしますよ二人とも。俺はヤツフサを伴なってクランキーさんから聞いた武具店に向かう。ポポト君以外の三人は衰弱毒を盛られて動けなくなってから武具は売りに出し生活費と薬代へ変わったため今彼らは装備を持っていない。仕方ないのでこれは先行投資だと俺が資金を出し買い求めることになったのだ。ま、そのうち成長したら返してくれたらいいさ。


 武具店では愛想の良い店員が朝早いにも関わらず丁寧に対応してくれた。おやっさんの店のように一点ものが多いわけでなく駆け出しにも優しい手ごろな価格の量産品が多い店だ。確かに初心者向けだわ。本当なら使い手の子供達に手に馴染む物を選んでもらうのが一番いいのだがこれからタンテのところに向かうから時間が限られているんだよね。なので手ごろなものを複数まとめて購入し好きなものを選んでもらうことにした。残ったのは予備の武器として使ってもいいし。


 買ったそれらをマジックリュックへと詰め込み店を後にする。このリュックごと貸し出すつもりなのでそのまま渡すのだ。そうあくまで貸し出しである。出世払いということで特に期限を決めないある時払いだが。できるなら彼らを育ててうちの店の専属とかになってもらえると助かるっちゃ助かるんだけどもね。ドルヌコさんとのこともあるしどうなるか分からないが。



 そして最後の目的地『魔道具屋オーハタ』は目の前。少し前に来たばかりだがやはり妖しい店構えであるな、うむ。


「おはようございます。ケラーさん、タンテは居ますかね?」


「ひゃっひゃっひゃっ、さほど日を空けずあいつに会いに来るとは随分と物好きな。これ、穀潰し。またお客だよ!」


 店の奥からなぜか鍋を片手にのっそり現れるもじゃ男。今度は30分かからなくてよかったよ。


「あんだぁ婆さん。やっと飯ができたってのに……おお、この間の。また何か依頼かい?」


 ずびーっと鍋から直ですすっている。行儀悪いな!

 すんすん、この臭い……スープカレーか……。


 ……………………


 スープカレーだと!!


 グラマダでカレーを再現すべく一時勤しんだのだが香辛料が限られておりどうしても出来なかったのだよ。特にターメリックが見付からなかったのが痛い。


「タンテ。その食べ物は?」


「んあ? こいつはしばらく飯にありつけなかった時にケラー婆さんから廃棄寸前の素材を貰ってごった煮にしたもんを再現したもんだ。あれ以来どうにもクセになってな」


「ケラーさん、その素材見せてもらっていいですか!!!」


 鼻息荒く詰め寄る俺に驚いたのか思わず後ずさる婆さん。すまなんだ。驚かすつもりはなかったんだよ。


「あ、ああ、構わないよ。元々識別布の色付けに使う素材だからたんまりあるさね」


 なんてこった錬金術の素材だってか。こりゃ盲点だ。セフィさんこんなの使ってなかったものなぁ。

 ホクホク顔で大量のスパイスを買い込んでいるとタンテはぽつりと呟いた。


「で、俺に用事って?」


 あ、スパイスでがっつりぶっ飛んでいたわ。ほったらかしにしてすまんです。じつはかくかくしかじかうまうまうほうほで魔術師ギルドのバイルの情報が欲しいんだがいけるかな?


「ふうむ、ちょいと探してみるがあんまり期待しないほうがいいぞ。流石に個人の所持するスキルやら道具やらまでは分からないことの方が多いんだわ。すぐってなると尚更、な。それでもいいかい?」


「ああ、それでいい。今のところまったく情報がなくてさ。手慰みでも問題はない。お代は前と同じかな?」


「んー、今回は出来高でいいか。満足のいく情報なら前回同様の満額でいこう。こいつでどうだい?」


 二つ返事で了承すると前と同様にしばしのシンキングタイム。もとい検索開始である。


 なにがでるかな なにがでてくるのかな それは検索まかせなのよーいとくらぁ


 ヤツフサをもふりつつ鼻歌を歌い検索が終わるのを待つ。それにしても知識の泉ってのは一体なんなのだろうなぁ。それに答えてくれる人はいなさそうだけどもね。お、どうやらそろそろ終わりかな?


「待たせたな。そんじゃお披露目といこうじゃないか」


『魔術師バイル』

 身長:183センチメートル 体重:95キログラム

 独特な髪型の金髪がトレードマークの29歳。魔術師ギルドに所属し自らの研究部屋を持っている新進気鋭で上級職の風魔導師。29歳で新進気鋭扱いと疑問に思われるだろうが魔術師ギルドで研究部屋を持てるのは彼より前で最も早くて36歳だったのだから十分に若手といえるだろう。魔力を多く持つものほど老化が遅くなり寿命も延びる傾向がある為、魔術師ギルドの平均年齢は高いのだ。

 バイルの研究内容はギルド及び国から秘匿されており外部でそれを知るものはいない。逆に言えばそれほど重要なものであることを示している。

 また、バイルは魔術師でありながら公国軍で共通の格闘術を修めている事から軍属ではないかという噂もあるが憶測の域を出ていない。

 魔法は風魔法を使うことが確認されている。魔術師ギルドが魔法の成果を発表する機会がありその場で振るった両手から放たれた風の矢が的を貫通する様を多くの人が目撃した。



「こんなもんだ。どうだい?」


 んむ。格闘技と風魔法を使い国で管理されるような研究をしている。それが何か分からないがどうにもそれがブリフを倒したカギっぽい気がするよね。やはり遠隔攻撃で様子見しつつ突破口を探すという手でいくしかなさそうだ。


「十分だ。銀貨10枚ここに置くよ」


「おお、助かる。どうにも物入りでなぁ。これで随分と楽になるわ」


 銀貨を懐へ仕舞い込んだタンテは残りをずびっと啜りつつにっかりと笑っていた。


 いよっし、情報も得たことだし『鈍器混具』へと戻ろうか。バイルの情報もそうだがどっちかといえばスパイスを手に入れることができたのが大きな収穫だったりする。カレーうまー。

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