第151話 武闘祭本戦第一回戦
ポポトのステータスをちょこっと変更
本戦第一試合。俺はすでに壇上の人となり試合開始の合図を待っていた。
魔獣装備一式に身を包み雄曼酸棍を片手に試合場の上に佇む。向かいには相手となる冒険者ポルポトがキッと俺を睨みつけている。相変わらずターバンとスカーフっぽいもので目の辺りだけしか出ていない。確かに対戦相手ではあるのだが親の仇のように睨まんでもええやねん。
アナウンスが再度ルールなんかの説明をしている。一応、ルールブックは頭に入れてきたので華麗にスルー。敵を知り己を知れば百戦危うからずということで識別先生GO!
名前:ポルポト 性別:男 年齢:10 種族:普人族
クラス:シーフLv27 状態:不健康
称号:なし
【スキル】
短剣Lv3 弓術Lv3 体術Lv3 投擲Lv2 毒物知識Lv2 回避Lv4 罠Lv2 開錠Lv2
【クラススキル】
トレジャーハンター
10歳!? 目元しか見えないがえらい老けて見える。どれだけ苦労してきたんだと少しほろりときてしまう。おっといけない。たとえ何であれ手加減など出来る身ではないのだ。しっかりしろ、俺。
『それでは準備はいいか!』
お、始まるか。両手棍を握る手に力が入る。腰を落とし先端を相手に向け身構えた。ポルポトも矢をつがえてこちらの様子を窺っている。客席ではざわざわとざわめいているのだろうが今の俺の耳には入らない。ただただ呼吸音と心臓の脈打つ音だけが聞こえる。
『トーナメント第一試合! レディィィィファイッ!!』
開始の合図と共に『空気推進』を使いジグザグに駆けて行く。ヒュヒュンと一本、二本と矢が放たれてきたがかすりもせず突き進む。その速度にポルポトも目を剥きつつバックステップで後退した。が、それをそのまま許すはずも無く捻りこむように鋭く雄曼酸棍を突き入れる!
ヒュゴッ
ポルポトは半身を捻ることでなんとか直撃を避けるもののぐらりと大きく体勢を崩した。それを好機と判断し追撃に大きく踏み込みながら『足払い』の武技を発動する。この武技は発動すると格闘ゲームの投げのようにある程度の吸い込みが発生し足を払う。無論、初歩的な技なので吸い込みは結構あっさりと無効化されるのだが発動の速さと技の名前を叫ばずとも連撃のなかに組み込めるといった利点がある。
踵のほうから一気に払う算段だったのだがポルポトはそれを辛うじて飛び跳ねてかわす。が、それだけに止まらず投げナイフを投擲してきた。足払いを繰り出していたため反応が一瞬遅れてしまう。こちらもなんとか体を捻って直撃は避けるものの太ももの防具の無い部分を掠め僅かに血が滲んだ。
淡々と行動していた彼の表情が僅かにだがにやりと口角が上がるのが見える。む? なんだ?
そのままかわしながらアクロバティックに幾本のナイフを投げつけてくるがそれらは両手棍を用いて弾いているのだがステータス上のスキルレベルと違いにかわし難い軌道だ。経験から来る軌道予測かなんかだろうかね。
弓からナイフ、短剣への切り替えが速い。流れるように次々となにかしらが飛んでくるな。ミタマよりもその一連の動作の流れは上手いかもしれない。ただ、矢の速度などは彼女のほうが上か。何度も模擬戦をしているので対処には余裕があるんだ。先ほどからかする度に相手の表情が微妙に変わっているのが気になるけども。やっぱり両手棍だとまだまだ取り回しがよくないな。両手刀だったら全部叩き落しているんだろうけどね。
カスッ
お? なんかピリっとしたな。
てろりん♪ 麻痺毒の抵抗に成功しましたよー。
駄女神アナウンスが頭の中に響く。そうかさっきからにやっとしたりしていたのはこいつが原因か。矢もナイフも短剣も麻痺毒が塗られているらしい。ポルポトも俺にコレだけ耐性があるとは思ってもみないだろうな。ありがとう、ミタマとエレノアさん。
一向に体が麻痺する様子の無い俺に少し痺れを切らしてきたか? 幾分、動きが乱雑になってきたように感じる。
そこっ!
拾ったナイフを再利用して投げつければ寸でのところでかわされた。惜しい!
ピッ
はらり
が、ターバンの結び目に掠っていたようではらりと頭からはずれて地に落ちた。
……そして、俺も観客も息を飲んでしまう。
ポルポトの頭の大部分には髪がない。ただの禿という訳ではないのだ。その皮膚には焼け爛れたであろう跡が広がっていたのだから。いや、違う。それもあるのだが俺の視線はその首筋に釘付けになっている。角度的に見え辛いのだが黒子がいくつも並んで見える。そういえば残っている髪の毛はドルヌコさんと同じ色だ。もしかして?
視線に気付き直ぐ様拾い上げ巻き直すも俺を見る目がそれはもう怒り心頭である。いや、落としたのは悪かったが戦闘中なのだから仕方ないだろう。
その後の攻撃は激しさを増すポルポトの攻撃。だが感情的になったせいか如何せん単調すぎる。
「何で当たらないっ! こんなところで負けられないんだよぉ!」
弓を仕舞い短剣を構えながら叫ぶ。彼にも譲れないものがあるらしい。
そろそろ武器の在庫が切れたか? さっきから回収されないように落ちていた矢やナイフは場外に弾き飛ばしているからね。
頃合かな。すまんが決めさせてもらう。10歳でこれは驚異的だが惜しむらくは昔のミタマと戦闘スタイルが被っていたこと。俺にとっては慣れ親しんだ動きなんだよ。
まず足を止める!
「土墾杖!!」
隙を突いて雄曼酸棍をズドンと敷石に突き立てて武技を発動した。魔力を糧に発動するタイプの武技で突きたてた箇所から扇状に激しく隆起していく。ポルポトの足場が隆起した敷石に覆われ思わず足をとられそうになっていた。慌てて左へ横っ飛びして範囲内から抜け出ようとしている。
だがそれはこちらの想定内。敢えて左側に空きができる様に発動したのだから。両手棍を手放し風の推進力を受けてそのまま一気に詰め寄る!
対人制圧用に師匠と密談し試行錯誤していた魔武技の詠唱を開始。
――ときめくぞハート! 燃え尽きろイケメン! 爆ぜて吹き飛べリア充達よ!
『乙女傷心爆裂弾!!』
構想はあったのだがどの魔法を使えばその効果がでるかで開発途中だったこの技。先達て暗黒魔法のレベルが上がったことで完成に漕ぎ着けることができた。暗黒魔法のレベル4で習得したのはマナドレインとライフドレイン。MPかHPを吸収するというもの。そこでマナドレインをベースに相手の魔力や精神力を攻撃して外傷なく攻撃する改変魔法を組み込んだ掌底打ちが『乙女傷心爆裂弾』である。
色々と試していたのだが暗黒魔法だけに暗い感じの詠唱のほうが調整しやすいという不思議現象が発見された。一昔前の暗黒時代を思い出しつつ作り上げた一撃ですわい。地味に心が痛い……。
胸へと突き当てられた掌からズンと背中へ突き抜けるような衝撃と共に魔力などが体から霧散していく。ポルポトは崩れるように倒れ掛かってきた。
「な……んで……こんな手練れが……無名な……んだ」
俺にギリギリ聞こえるくらいの声で問いかけてくる。意識があるか分からないが一応答えておこう。
『噂とかされると恥ずかしいし』
そしてあんぐりと呆けたような顔をしたまま気を失ってしまった。冗談だったんだけれどいまのがとどめ? 南無。
次回! 男二人涙橋!
君はときめきの涙を見る!(嘘




