第16話 あ~かいオヤジとみどりのオヤジ♪
ヨシ! エレノアさんだ! エレノアさんの顔を見て癒されよう!
そして依頼を受けてみるのだ! やなことは忘れるんだ!
「エレノアさーん。洗礼いってきましたー」
エレノアさんが目を白黒させている。
「の、ノブサダさん、洗礼でなにかありましたか? そんなにご陽気で……」
「洗礼のことは忘れましょう。そうしましょう。依頼を受けたいんですがどこで確認すればいいですか?」
強引に話題をそらす俺に怪訝な表情を浮かべるも空気を読んだエレノアさんはいつものように説明してくれる。うん、なにかしらを察してくれたらしい。
やっぱりエレノアさんは美人だよね。改めて見るとその美しさが際立って見える。うん、癒される、心が。
さらさらの金髪をポニーテールに纏めていてうなじが色っぽく見える。さらにメガネの奥に柔らかな微笑みを浮かべられるとカイルみたいにのぼせてしまうのもわかるな。
スタイルもよく……胸の辺りはちょっと残ね……ちょっとした殺気を感じたのでこれ以上は考えるのをやめた。
よし、俺の砕けたガラスのハートはエレノアさんという接着剤で貼り付けられたよ。さ、お仕事の時間だ。
「依頼の受け方ですが、向かいのボードにランクごとに張り出されている依頼書を私たちへ提出し受理されれば依頼開始となります。アイテム等の納品ならこちらへ直接持ってきていただきますし依頼主に直接報告するタイプですと達成票を貰ってこちらへ届けてもらった時点で達成となります」
「ふむふむ」
「受けられる依頼はワンランク上までです。ワンランク上の依頼を受注する場合はギルドの承認が必要になります」
「ふむむむ」
「お気をつけいただきたいのが依頼のキャンセルや失敗です。その場合、予め決められたキャンセルの手数料を支払う必要があります。そういった詳細も依頼書に記載されているので必ず確認したほうがいいでしょう。ギルドのほうでチェックはしておりますが稀にそれが元でトラブルへと発展する場合がございます」
「なるほど、よくわかりました。では早速依頼みてきます」
エレノアさんの忠告を胸にボードの前に立つ。あれ? あんまり数がない。うーん、時間のせいか。もう昼過ぎだもんな。
まぁ残り物に福があるというしなにかないかなっと。
そんなわけで残っていたのからチョイスしてみたのがこの依頼である。
《 鉱石の輸送 》
鍛冶ギルドから街のはずれにある鍛冶屋へ鉱石の輸送を依頼します。
できるだけ迅速で丁寧な輸送を心がけてください。
報酬:3,000マニー
依頼主:鍛冶ギルド
輸送先:鍛冶屋『焔の槌』
「エレノアさん、この依頼を受けたいんですが」
「はい、確かに承りました。鍛冶ギルドは南区域の工業区の中央にあります。工業区で一番大きな建物なのですぐ分かるでしょう」
「分かりました。ではいってきます」
この街って標識やら街の案内図が結構あるもんだから迷わなくていい。比較的新しいもののように思えるけどこれをやった人には感謝しないとだな。
迷うことはないがやはり徒歩。大きな街なもんだからそれなりに時間がかかる。鍛冶ギルドについた頃には3時を知らせる鐘が鳴り響いていた。
「すいません、冒険者ギルドから依頼を受けてきたんですがこちらでよかったですか?」
受付の娘さん……娘さん? 子供と思われる方が受付しておりますが?
「はいはーい、依頼書を確認するよ。ああ、これかー。結構な重さがあるけど大丈夫? これって屈強かつ器用な人をよこしてーって頼んでおいたんだけどなぁ」
「それはまた人を選ぶ依頼を……」
「重さもなんだけど輸送するのにちょっと特殊なコツが必要でね。混ぜて合金にすると丈夫になるんだけどそのままだと非常に脆いんだ。だけどそれなりに重さもあるからやっかいなんだよ。いつもなら専属の配達人がいたんだがこの時期はちょっと皆出払っているんで冒険者ギルドに依頼したってわけさ」
「合計の重量ってどれくらいです?」
「とりあえず今回は30kgかな?」
「それじゃこのリュックに入るので輸送の問題はないです」
「ほえ、それってばマジックリュックかい? それは便利なもの持ってるねぇ」
「これにいれて届けたら、えーっと、受付嬢さん(?)に終了確認してもらえばいいんですか?」
「……あー、言ってなかったね。ワタシはここのギルド長でピーティアってんだ」
……鍛冶ギルドの長は合法ロリでした。なんでギルド長が受付にいるのさ!
「冒険者なりたてのノブサダです。よろしくお願いします、ギルド長」
「堅っ苦しいのはなしなし。ピーティアでかまわないよ。今すぐ鉱石準備するからちょっと待ってな」
そういうと回りに発破かけながら指示を飛ばした。しかし、気風のいい姐さんである、ロリだけど。焼けた肌が健康的な魅力を引き立てている、どうしてもロリだけど。悪いとは思いつつちょこっと覗き見してみる。
名前:ピーティア・プリティス 性別:女 年齢:28 種族:ドワーフ族
クラス:鍛冶師Lv32
称号:【鍛冶ギルドのアイドル】
【スキル】
槌術:Lv5 鍛冶:Lv5 彫金Lv4 カリスマ 生活魔法
さすがドワーフ。どう見ても28歳にはみえん。【鍛冶ギルドのアイドル】? 28歳で? ボクニハナニモミエナイヨ。
「はいよ、こいつをよろしく。届け先は『焔の槌』って鍛冶屋さ。冒険者ギルドよりに店舗はあるから依頼書の終了印は店主に貰っておくれ。そのまま冒険者ギルドに戻ってもらって構わないよ」
「たしかに鉱石受け取りました。早速むかいます」
「ほいほい、しっかりやっといで」
さてノブサダ君はじめてのおつかい(依頼)中であります。
いまさらだがこの街は広い。東西南北の四区域に分かれており各区域ごとに特色がでている。西区には冒険者ギルドグラマダ支部があり付随するように歓楽街など賑わいをみせている。南区には鍛冶ギルドや商業ギルドなど中心の商業区、東区は神殿や農業ギルドの農業に携わるものが多い、北区は行政の本部や領主を筆頭に貴族の屋敷が立ち並ぶ。ちなみに東門を抜けると田園地帯が広がっている。そして中央にこの街最大の特色たるダンジョンの入り口がある。
考えごとしてるうちに目的地が見えてきた。たぶん、あそこの赤い屋根の建物だろう。こっちの世界の鍛冶はどういう感じなのかなーと考えながら近づいたその時だった。
ばきゃーーーん ゴロゴロゴロゴロ
俺の目の前を緑色の物体が吹っ飛んで転がっていった。
「な、なにごとだ!?」
「ジルーイ! もういっぺん言ってみろぉぉ」
鍛冶屋(?)の中から赤いツナギを着たガタイのいいヒゲをたくわえたおっさんがぬっと出てくる。ってことはさっきの緑色の物体は!? 振り返ればそこに細身の緑のツナギを着たおっさんが尻餅をついている。
「何度でも言うさ。俺はもう鍛冶屋をやめる。来る日も来る日も槌を打つのにはもう疲れたんだよ!」
「代々続いた家業をそんなことで捨てるのか!?」
「兄者はいいさ。恵まれた体を受け継いだんだからな。俺には……もう、無理なんだよ。分かってくれ、兄者」
「ジルーイ……」
「店においてある俺の私物は好きに処分してくれ。家も出て行くから。荷物はもうまとめてあるんだ」
「これから……どうするつもりだ?」
「知り合いの伝手で酒場のマスターをすることになっている。兄者も落ち着いたら飲みにきてほしい。兄者が嫌になって辞めるわけじゃないからな」
「そうか……そこまで考えているならもう何も言うまい。達者でな」
「兄者も……」
目の前で修羅場が繰り広げられている。俺っていま路傍の石のごとく固まっているんだけど。なんで配達にきたら家族ドラマ繰り広げられているのでしょう。あ、ヒゲのおっさん、店にひっこんでいった。
え? 緑のおっさんもどこかいった??
一人残されてしまいもやっとした気持ちでいっぱいになる。
もやもやしつつも依頼をこなさないといけない義務感から鍛冶屋の扉を開ける。
「鍛冶ギルドから配達依頼の鉱石届けにきました。ご店主いらっしゃいますか?」
真正面に不機嫌まるだしのヒゲのおっさん。きっとこの方が店主だろう。
名前:マウリオ 性別:男 年齢:32 種族:ドワーフ
クラス:鍛冶師Lv44
称号:なし
【スキル】
両手斧Lv5 槌術Lv6 鍛冶Lv6 木工Lv3 頑強Lv6 頑健lv5 生活魔法
強いよっ! この街、おっさんの強さの比率がおかしい。
「おう、俺が店主のマウリオだ。すまんな、とんだ現場に遭遇させちまって」
「いえ、お気になさらずに。こちらがピーティアさんから預かってきた鉱石です」
「確認する。……たしかに頼んでおいたニトロマイト鉱石だ。そいつはマジックリュックか。こいつを運ぶにはいいもんだな」
ニトロマイトって名前だったのか。なんて危険な名前だ。ありがとう魔法のリュック。ありがとうグネ。これはいいものだ。
「うむ、状態も量も問題ない。受領印を押すから依頼書をだしな」
依頼書をだして受領印をもらう。思ったよりあっさり終わったな。どうしよう、ちと気まずいが、例の件頼んでみようかな。
「マウリオさん」
「どうした坊主?」
「俺、昨日冒険者になったばかりなんですが武器の手入れが自己流なんですよ。もしできるなら鍛冶師さんからちゃんとした手入れの仕方を教わりたいと思ってたんですが……厚かましいお願いですけど教えていただけませんか?」
「ふむ、確かに厚かましい願いだな」
すっと目を細めてこちらを窺うマウリオさん。
「だがな、武器の手入れを正しく学ぶという姿勢は好感が持てる。近頃の若いのは自分の身を預ける獲物だってのに半端な処理しかしねぇのが多いからな」
そう言ってニカっと笑う。おお、気難しいのかと思ったが思った以上に面倒見の良い人のようだ。
「それじゃ……」
「いいだろう、今日はさすがに槌を振るう気分にゃならんからな」
「ありがとうございます! それと坊主じゃなくてノブサダと言います」
「まだ半人前だからな、坊主でいい。一人前になったら名前で呼んでやるよ」
「むむむ」
「で、坊主の獲物はなんだ?」
「さし当たってこの鉄の剣を使っていました」
「ふむ、まぁまぁスジはそれほど悪くない。少し修正すれば手入れはすぐ実用的なレベルになるだろう」
おお! ちょっと褒められた気がする。本職にこう言われると素直に嬉しい。
「だがこの剣だけだといざという時に困るぞ。大概の冒険者は予備の武器を準備しておくもんだ」
「田舎からでてきたばっかりだったのでこれから揃えようと思っていたところです。教わった後、武器を見せてもらっていいですか?」
「ああ、自分の戦闘スタイルにあったもんを選ぶんだな」
それから小一時間ほどマウリオさんから手入れの仕方の他、武器に関することを色々教わった。
さすがに本職。細かいところだがこれがどう作用してくるのかというように自己流では分かり得ない事をたくさん教えてもらった。
「これで手入れは一通り仕込んだ。あとは坊主の予備の武器だな。どういったものが欲しいんだ?」
「んーそうですね」
戦士としては片手剣を主体としていくのはいいだろう。でも中距離用に槍とかあってもいいかもしれん。クラスとしてもってたのは他に拳士か。他のクラス開拓の可能性を探すなら弓とかもありだな。暗器として棒手裏剣とかもあったらいいんだがなぁ。
現在残金324,400マニー。だがもしもに備えて金貨は温存しておきたい。となると使えるのは24,400マニー。
それらを踏まえ懐と相談したところ店に並べてあった武器の中で候補としたのは以下のものである。
鉄の槍
品質:良 封入魔力:1/5
値段:5,600マニー
一般的な鉄の槍。マウリオの技量により通常よりも品質が向上している。
ナックルガード
品質:良 封入魔力:0/3
値段:3,400マニー
拳を覆う部分と小手の部分が取り外し可能。はずせば普通に小手として使えるお得な武器。
ショートボウ
品質:並 封入魔力:0/1
値段:980マニー
弓初心者に最適な入門用の弓。マウリオさんは鍛冶に比べると木工は低めなので品質が高くない。矢は一束10本20マニー。
スローイングナイフ
品質:良 封入魔力:0/1
値段:300マニー
投擲用の小型ナイフ。魔物というより対人用かもしれない。
予備の矢を2束、スローイングナイフは5本購入。
しめて11,880マニー也。
「予備の武器は模索中なので練習込みでこれらを買いたいと思います。あと防具って置いてますか?」
「お、おう、随分太っ腹だな。防具は……フルプレートとかならあるんだが、坊主にゃちとでかいな。ふーむ、お、そうだちょっとまってろ」
そう言ってマウリオさんは店の奥のほうで何かをごそごそと探し出した。
「あったあった。こいつは昔、試作で作ったやつなんだが結局お蔵入りになっててな。せっかくだから坊主にやろう。駆け出しの冒険者なら十分使える範疇なはずだ」
取り出したのは鉄の胸当てっぽいもの?だった。
「見たところ坊主の戦闘スタイルはガチガチに身を固めて戦うタイプじゃなさそうだし軽い防具のほうがいいだろう。他のパーツも含めてサイズを調整してやるから明日にでも取りにきな」
「ちなみにお代はいかほどで?」
「試作品だからな代金は別にいい。そのかわり使い勝手などを報告してくれ。うちも色々あって職人が一人減ったからやり方を変えていこうと思ってな」
さっきの緑のおっさんのことか……。あまり触れないほうがいい話題かもしれんな。
「分かりました、お言葉に甘えさせてもらいます」
「あと予備の武器だがな。命にかかわることだからちゃんと使い物になるようになってから実践で使うようにしろよ?」
「ええ、まだまだ死にたくないですからね。これからもちょくちょく顔を出せるように頑張りますよ」
「がはは、お得意様が増えるのは大歓迎だ。坊主、簡単に死ぬんじゃねぇぞ」
マウリオさんにお礼を言って『焔の槌』を後にする。いやぁ有意義な時間だった。結構長い時間入り浸っていたのかもう日が暮れようとしている。さっさと報告しに戻ろうか。
報告しにいったらもうエレノアさんはいませんでした━━━(゜ロ゜
そりゃそうだ、もう日は暮れてるしな。夜の担当はおじさまである。名前? 覚えてない。
そういえば冒険者ギルドは24時間営業ということが確認できた。これは良い事だ。
さ、今晩はあのイノシシ肉をシェフが美味しく調理してるはず! 楽しみだな。