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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第七章 レェェェェッツ、王都インッ!!
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第149話 タンテは婆といる

本日2話目でござんす。最新でこられたかたは注意!



 貴金属店の店主から情報を得て現在魔道具店を探しております。ドーモ、ノブサダです。


 どうにも入り組んでおります魔道具エリア。おつかいクエストも大変ですわ。こんだけ迷ったのは秋葉の裏路地以来だな。ダンジョンのほうが楽ですなーと思いつつうろうろしていたらやっと見つけました。

 魔道具店『オーハタ』

 見るからに怪しげな二階建ての建物で店に入るのにも躊躇する。それでもと意を決して扉を開ければギギギイと非常に耳障りな音をたてつつ開く。建てつけ悪いぞ、油を引きたまえ。


 薄暗い店内には何に使うんだか分からない目玉の標本やら切り取られた何かの腕、オークか何かの竿が玉ごとなどホルマリン漬け(?)でガラス瓶に入ったものが並んでいる。うーん、ぐろいったらない。オークのゴールデンボールは本当に金色しているからここまで生々しい感じはしなかったんだよね。


「ひゃっひゃっひゃっひゃ、お客とは珍しいねぇ。こんな怪しい魔道具屋になんのようだえ」


 見た目からしたらもう魔女だろうって雰囲気の老婆が店内を見渡していた俺に突如話しかけてきた。思わずびくっとしてしまったのは不可抗力だ。だってこの婆さん、まったく気配がしなかったんだよ。


「ウラガン貴金属店の店主さんからこちらに情報を売ってくれる方がいると聞き及んで来たのですが」


「なんだい、あの穀潰しに用かい。ちょっと待ってな」


 老婆は黒いベルのようなものを片手で叩きつけるように鳴らし……いや音が鳴ってないんだが。何かしらの魔道具なんだろうかと詮索するのをやめてしばし待つ。


 待つこと30分。

 長い、長いよ。ついつい老婆と話し込みつつ付与魔法の触媒があったから買い込んでしまったじゃないか。


 トントントントンと階段を降りてくる音が上から響いてきた。俺のいる位置からでも見える店の奥の扉が開きそこからもじゃっとした頭の中年男が顔をだした。


「ケラー婆さん、俺に用事ってなこの坊主かい?」


「ああ、そうだよ。あっちこっちふらふらしているお前さんに珍しい依頼だわさ。きっちりと稼ぐんだよ。今月の家賃は待たないからねぇ。ひゃっひゃっひゃっひゃ」


「ふらふらしてるは余計だ! よう、坊主。俺はタンテ。しがない情報屋だ。お代次第でどんな情報もっと言いたい所だが精々この王都の情報が関の山ってところだ。それでも聞いていくかい?」


 俺はこくりと頷き言葉を繋げる。


「ええ、この王都であったことを知りたいのです。『ポポルトン商店』について。かの店の元店主ドルヌコの息子ポポトの行方を知っているのなら教えていただきたい」


 左手で口元を覆うようにして考え込むもじゃ男、もといタンテ。ん? 気のせいか、タンテの眼が微かに光っている? なんだろう細かい線、いや文字か? それがまるで某動画サイトの弾幕のように光っているように見えた。


「待たせたな。情報は出揃った。こいつを聞きたければ銀貨10枚ってところだな。どうする?」


「お代はこちらに。是非聞かせてください」


 正直、俺の足で探すのにも限度がある。情報の精度によっては次も頼むかもしれないのでここはお金を惜しまないでおこう。


「おほっ、気前がいいねぇ。金払いのいい客は大歓迎だ。ほんじゃあお求めの情報だが……」


『ポポルトン商店』

 ドルヌコが立ち上げ元妻のフディコが潰した雑貨店。ドルヌコを追放した後は元従業員のルヴァンと爛れた関係のまま経営を続けていた。だがルヴァンは地元のマフィアな連中と繋がっておりフディコに近づいたのもこの店を手に入れるためだった。その計画通り店は地元マフィアの体のいい隠れ蓑として機能していたのだ。フディコは結局ここでマフィア相手の娼婦のように扱われていたらしい。

 そしてその後、表向きは売り払われたことになっているが王都の警備隊によるカチ込みで建物そのものは接収、関係者は全て奴隷落ちになったようだ。なんでもご禁制の薬を取り扱っていたとか。


 で、問題のポポト君だがヤクザな連中が入ってきたあたりの時期に捨てられ家を追われたらしい。その後はというとスラムへと流れ紆余曲折あり現在は冒険者として活動しているそうだ。ただ、今どこにいるかまでは分からなかったようである。


 それでも十二分に前進した。情報が確かかの確認はまだできないが正確だとすれば銀貨十枚分の仕事はしてくれたと思う。ただ立っていただけでなんでこんなに情報が出てくるのか。そしてそれが信用できるものなのか。そう思われなくも無いが識別先生から入ったデータから信用に値すると判断する。


 名前:タンテ・ウォイズミ 性別:男 年齢:43 種族:白澤(はくたく)

 クラス:識者Lv44 状態:健康

 称号:なし

【スキル】

 護身術Lv4 神聖魔法Lv4 暗黒魔法Lv4 回避Lv5 逃げ足Lv6 変身Lv6


【種族固有スキル】

 知識の泉Lv4


『識者』

 白澤族の固有クラス。年齢と経験を重ねたもののみがクラスチェンジ可能。種族固有スキルである知識の泉を使うには必須のクラスとなる。


 マーシュと同じ白澤族。さっきの瞳の件は知識の泉を使ったからだろう。そうか、マーシュがまだ固有スキルを使えないのはクラスのせいだったか。気にしているようだったし帰ったら教えてやろう。ついでに同胞がいたことも。


「ちょいと中途半端な情報ですまないな。今んところこいつで精一杯だ」


「いえ、思っていたより細かな情報まで聞けたので問題ないです。あとは冒険者ギルド経由で色々と探して見ようと思います」


「ま、何かあったらまた来てくれていいんだぜ。昼は大抵『魔道具屋オーハタ』にいる」


 どこかのプライベートアイみたいだが昼夜逆転してるよな。なんだか夜勤やってた頃が懐かしく思いだされた。


「ええ、その際にはまたお邪魔します。それではこれで」


 ぺこりと頭を下げて店を後にした。探すあては冒険者ギルドかスラムだな。大規模市場で雇用はあるはずだがやはりそういったスラムはあるみたいだ。追われた獣人などが隠れて生活しているって話もあった。とりあえず今日のところは一旦戻りますかね。



 ◆◆◆



 寂れた酒場に独りポツンと杯を傾ける男がいた。


 辛気臭さの中にも剣呑なものを潜ませているためかその一角だけ誰も近寄ろうとしない。そんな事も男のささくれ立った心を更に苛つかせる。乱暴に杯の中身を喉へと流し込めば安酒が酩酊具合を加速させた。


「おやおや、随分と無茶な飲み方をしているようで」


 そんな男に声をかける物好きが一人。遠巻きに様子を伺っていた人の突然の乱入に眉を顰める男。

 ローブの下に黒服を着た物好き。影からちらりと見えるのは赤毛。よく見えないが鋭い眼光を思わせる雰囲気を肌に感じる。長年の経験から男の勘が油断の出来ない存在だと警鐘を鳴らす。


「ああん? 俺がどんな飲み方をしようが関係ないだろうがよ!」


「いえ、それがね。あるんですなぁ、関係。これからあなたにとある依頼をしたいものでして」


「はっ、それなら無理だな。俺ぁ未だ依頼の最中だから余計な依頼なんざ受けれる訳がないのさ。それにこんな酔いどれに依頼するなんざ目が曇っているとしか言えねえなぁ」


 両手を広げてオーバーリアクションをし首を振る男。


「そんなことはありませんよ。私も職業柄そういったものを見る目は肥えていまして。酔いどれているのは上辺だけのこと。今、あなたの心の中はいかにいい条件を引き出すか。そう考えているのでしょう? マハル・マリーン団長アーサー・クーラ殿」


 先ほどまでの自暴自棄気味の態度は也を潜め腕を組み背中を壁へともたれ掛かっていた。


「ちっ、お見通しかよ。で? あんたの素性は? 内緒のお話にしたって情報の共有がなけりゃ動こうとは思わんさ」


「これは失礼。私はこういった者でして」


 黒服の男は小さな四角い紙を差し出す。訝しげにそれを受け取って見て見れば……。


「何々、タイクーン公国軍諜報部長官サーシェス・アリエール? 諜報部が身分を示すものを持ってていいのかよ!?」


 至極真っ当なツッコミを入れるアーサー。そんなツッコミにもまったく顔色を変えないサーシェスという黒服の男。そもそも顔が見えないのだけれども。


「それで? 長官様が直々に動くってなどんな事態なんだぁ」


「まぁまぁ、そんなに声を荒げるもんじゃありませんよ」


 辺りを見渡せば何事だといわんばかりにこちらのテーブルを注視していた。アーサーが殺気を込めてキッっと睨んでやればそそくさと顔を引っ込める。無論、表面上ではあるが。


「それでね、あなたに依頼したいことというのがですね、ゴニョゴニョ」


 耳元で囁くように依頼内容を伝えた。彼が話す内容があまりのことなのかアーサーの瞳は驚愕に見開かれる。


「し、しかし、これは成功しようとも依頼の規約違反により俺達は奴隷行きになっちまうんじゃねぇか。それに団長の俺が自ら……」


 その言葉を待っていたのかしめたとばかりにサーシェスは見えぬよう口元を綻ばせる。


「それについては此方から手を回しておきますのでご安心を。作戦成功の暁には貴方達の身分は公国軍の一部隊へと編入されます。無論、貴方は隊長への就任ですな。それに……」


 一旦言葉を切り意味ありげに呟いた。


「団を裏切っているのはお宅の副団長さんもそうじゃないですか。なんでも公爵家お抱えになるそうですな」


「なっ!? もうそんな話にだと!」


 明らかに動揺の色が見える。随分と自信家なくせに感情の操作もできないようでは所詮は二流どころか。やはりあの副団長を取り込みたかったがアレはそう動かぬだろうし仕方ない。そもそも下を掌握していれば公爵お抱えなんてでまかせを信じるはずもないのだろうがな。まぁ、使い捨ての手駒としては優秀だろう。内心をそんな感想で埋めていたサーシェスは動揺するアーサーを更に畳み掛ける。


「こちらは国の庇護を得ています。いくら公爵家が訴えようが信用性が勝ることは有り得ません」


 幾分逡巡するも暗い暗い感情に支配されたようなその表情は決意を固めているように見える。


「内容は分かった。こちら側につく奴を見繕っておく」


「ええ、首尾よくいったらその名刺を持って王城へとお越しください。それを見せれば衛兵も無碍なことをしない手筈ですから」


 コクリと頷き店をそのまま去っていった。酔いは醒め決意を秘めた足取りで帰路に着く。




 アーサーを見送ったあとの店内。先ほどまでいた筈の客は全て白い面を被ったものたちへと姿を変えその場の痕跡を消滅させていた。


「いやはや、随分と乗り易いバカで助かったぜ。これならわざわざ店を拝借して仕込む必要はなかったかね」


 先ほどまでとは打って変わり軽い調子で首を振るサーシェス。店の中に異常はないように見えるが無味無臭の香が焚かれていた事をアーサーは気付いていなかった。判断力を低下させるその香はご禁制の品物だが国の指示で裏を暗躍する彼らにそんな道理は通じない。そんな彼の傍へすっと跪く白い面。


「長官、撤収準備完了しました」


「おう、ご苦労。店主には念のため改竄香を嗅がせておけよ」


「ハッ!」


 白面たちは姿を消しその場に残るのはサーシェスのみ。ローブを外せば黒服は赤い衣へと姿を変える。その顔に浮かぶ笑みは一見すれば柔和なものに見えるが怖気や恐怖を感じさせる邪悪さを秘めていた。


「さぁて、そろそろグラマダの仕掛けも動き出す頃合い。演劇の幕が開くまではあと少しってところだ。主演の皆さんには狂おしいほど踊ってもらわんとなぁ。それこそ死ぬまでってな。くはははははははは」

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