第147話 武闘祭開幕!
『紳士淑女老若男女お待たせしました。今年もやって参りました、武闘祭。今年から競技の仕様が変わり魔法が解禁。そのため今までに無い参加者も多く集まっております。そのため今回は男性のみの大会となりましたがド派手な戦いを期待したいところ。本日はまず予選から始まり勝ち抜いた面々が明日この会場にてくじ引きしトーナメントの組み合わせが決まります。明後日よりいよいよ本戦の開始です。戦って戦って戦ってぇぇぇ戦い抜いた最後の一人が優勝の栄冠に輝くのです』
わああああああああああああああ
闘技場は熱風が吹き荒れるんじゃないかというような熱気に溢れている。広さは東京ドーム並はありそうな規模であり観客席は満員御礼。国内外問わず様々な地域から足を運んでいるようだ。そして見下ろす先には四角い試合場が4つほど作られている。
予選は一組から二名、四組×四戦繰り返され合計三十二名が本戦へと選出される。そこから一対一のトーナメント戦。因みにシードはなしであの勇者もきっちり予選から戦うようだ。どこかで下工作はしてそうだけれども。
試合場の上に集まる出場者をざっと見てみれば二十代後半が主だな。見渡した限りシャニア嬢の言っていた物騒な面子はいないようである。それでも油断は出来ぬと識別先生に出張ってもらい鑑定を繰り返す。俺の組には上級職でも目に見えてレベルが高そうなやつはいないようだ。エレノアさん並の手合いどころかローヴェルさんやティーナさんと比べても劣っていそうではある。スキル構成もぼちぼちかね。
だが識別先生が見抜けない偽装をしていないとも限らないので気づかれぬようじんわりと空間把握を広げておく。不意打ち対策だな。
それにしても説明やらお偉いさんの話やら長いわぁ。そこらへんはどこでも共通だ。
そうそう、ヤツフサは部屋への持込OKだった。貴族もペットを持ち込むことなどがあるそうで料金は割り増しになるものの問題はないそうだ。エレノアさんやティーナさんもヤツフサの愛らしさにノックダウンしていたようで撫ですぎて逃げ出される始末。この調子なら屋敷のほうでも受け入れてくれそうだと一安心していたよ。
それとヤツフサのスキルで分かったことが一つ。あの子の持っている念話はヤツフサからの一方通行な語りかけみたいなもんだということ。念話はイメージを送って受け手がこんな事言ってるよと判断する感じみたいだな。ざっくりとした話だが現時点で検証した限りではこんなもんだろう。
そもそも異世界言語が理解できていないため俺以外が話しかけても言葉が分からないそうだ。よく考えれば日本語を理解している時点でとんでもないことなんだけどね。というわけで俺以外の日本語話すやつには注意するように言い聞かせておいた。将来が楽しみな逸材なんだろうけど今はまだ雛みたいなもんだからね。今度一緒に狩りに行こうと言ったら興奮してまた粗相してしまったのはご愛嬌だ。
『尚、優勝者にはこちらの装備一式が贈られます。剣、盾、全身を覆う鎧一式ですがなんと全てが国宝級のレアリティ! 難関ダンジョン「アーク・シーズン」より発見され献上された逸品です。参加者の皆さんには是非とも優勝目指して頑張っていただきたい』
おっと長い話は終わっていたようだ。見上げてみれば専用に造られた台座に収められている装備一式は日の光を反射し煌びやかな青が目に眩しい。どれどれどんな性能なのかね。
オ・レツエーの剣
品質:国宝級 封入魔力:109/118
付与:『鋭化』 『呪い』(隠蔽中)
光の力が込められた霊銀の魔法剣。鋭さを増す付与が付けられており天恵と相まって魔物に対する攻撃能力が高い。鎧と併せて装備することで互いの能力を増強する効果が発揮されるようだ。
また、剣の持つ魔力を利用した従属化の呪いが付与されている。(隠蔽中)
天恵:【神聖】
ウハオ・ケーの鎧
品質:国宝級 封入魔力:117/125
付与:『硬化』 『呪い』(隠蔽中)
闇の力が込められた強化魔鉄鋼の魔法鎧。装備した者を[闇の力で](隠蔽中)再生する天恵と硬化の付与で継続戦闘能力の向上が期待される。剣と併せて装備することで光と闇が合わさった感じがして最強に見える。
また、鎧の持つ魔力を利用した従属化の呪いが付与されている。(隠蔽中)
天恵:【暗黒】(【再生】 に偽装中)
バッ・チコーイの盾
品質:国宝級 封入魔力:101/130
付与:『調整』
相反する力を調整し使いこなす中庸の力が込められた強化魔鉄鋼製の盾。
封入された魔力を使い品々に偽装、隠蔽を施すことも出来る。(隠蔽中)
天恵:【中庸】 【偽装】【隠蔽】(隠蔽中)
はっはっはっは、徹底しているなー、もう!
仮に優勝したらその場で真っ二つに叩っ斬ってやろうかね。やっぱりこの国の上層部は敵だと再認識した次第である。期待しているのは勇者の優勝なんだろうけれどもこれは酷いな。
識別先生の能力がなければ周りの連中のように目を輝かせていたのかもしれない。俺以外の面子はごくりと唾を飲むものや鼻息荒く興奮するものなどが多々見受けられる。ただ、俺は内情見えちゃってるしそのうちもっといいものを作れそうなのでまったく盛り上がらない。だから開始に備えて得物の再確認とおかしな動きをしているやつはいないか辺りの警戒をしておこう。
『それでは公王様より開始の宣言をいただきます』
アナウンスの男性がそう言うとざわつく会場の喧騒がぴたりと治まる。皆の視線の先には小さな体に王冠を載せた子供の姿が見えた。公王専用に誂えた席から立ち上がる短く切りそろえた金髪で少女のような面影の少年王。あれがシャニア嬢の弟か。
『タイクーン公国公王アルティシナ・タイクーンである。今年も国としてこの武闘祭を開催できることをうれしく思う。此度は魔法技能の解禁もあり様々な試みが詰め込まれている。出場者の皆には全身全霊をもってその実力を世に知らしめて欲しい。余はそれを切に願う。また此度は騎士団などの代表者も来ておる故仕官の機会もあるであろう。それではこれより武闘祭を開催することを宣言する』
拡声器のような魔道具から透き通った幼い声が会場全体へ響き渡る。9歳の子供ながら読まされているという感じではなく一句一句自ら話していると感じた。将来が楽しみな逸材かもしれない。
喋り終えると同時に観客席から大きな歓声が上がりいよいよ武闘祭が開幕するようだ。みんながそれに沸き立つ中、俺は遠目にだが識別先生を発動して好奇心から公王のデータを閲覧していた。
名前:アルティシナ・タイクーン 性別:男 年齢:9 種族:普人族
クラス:公王Lv10 状態:呪縛
称号:【孤独な公王】
【スキル】
鼓舞Lv1 神聖魔法Lv1 カリスマ
【固有スキル】
王錠生耶
『王錠生耶』
特殊な鍵を生成する固有スキル。これで生成した鍵でしか開かない扉が存在する。
一目見たときに思わず己が目を疑ったけれども公王ってクラスなのかい。それにしてもまた呪いか。どんだけ好きなんだ、呪い。そもそも呪いと呪縛ではなにかが違うのかね? 色々と突っ込みどころ満載ではあるが公王と宰相他家臣との関係はうまくいってないのだろうか。そうでなきゃあんな称号はつかないと思うんだがな。おっとそろそろ開始になるか?
『現在各試合場には第一組の出場者が20人ほど分かれております。開始の合図と共にバトルロイヤルが始まりその場に立っていた2名が本戦へと進むことになりますがここでご注意を。予選では保護結界を張っていませんのでお気をつけください。それではぁぁぁぁぁぁぁ』
言葉尻を受けて試合場に並ぶ出場者全員に緊張が走る。俺も雄曼酸棍を返しの型で構え備えた。
『タイクーーーンファイトォォォォ、レディィィィゴォォォォォ!!』
グラマダの祭りの時と合図が一緒じゃないか! というかあのアナウンス、あの時の人にそっくりだな。兄弟かなにかだろうか?
ゾクッ
嫌な予感が背筋を駆け上がり反射的にその場に屈む。先ほどまで俺の頭が胴体があった場所に槍の穂先が突っ込んでいる。あぶなっ、油断大敵だ。
牽制と迎撃の意味で目の前の槍使いに氷結弾を4発立て続けに放つ。無論俺が放ったとは分かりにくいように離れた位置からタイミングをばらけてだ。
なんせ今俺の両側から同時に襲い掛かってきているから前のに構っている暇はないのだよ。
一気に押し切ればなんとでもなると思っているのかね。バレバレなんだよ、甘い、甘いぞ、砂糖たっぷりのマジパンよりも大甘だ。
屈んだままの姿勢から低空を滑空するかのように左手の相手の背後へと回り込む。右手からの相手はそのぬるんとしつつも目に終えぬ速度で動いた俺に目を見開いているがそんなのはお構いなし。左手のやつの背中へヤクザキックをぶちかまし右手のやつへとランデブーして貰おう。鎧の背中に足型がきっちりつくほど思い切り蹴飛ばしてやれば二人は絡み合うように転がっていった。めり込むほどに抱き合っていますな。念のため追い討ちで頭部へと雄曼酸棍をお見舞いして戦線離脱してもらう。
先ほどの槍使いは……あ、全弾命中してその場に蹲っていらっしゃった。かわすとかしようや。ま、楽でいいけどさ。こちらもガツンと突きをお見舞いして崩れ落ちてもらった。
俺の周り以外でも潰しあいが継続されておりその数を減らしていた。
そんな中に背後から忍び寄り不意打ちを喰らわせていく。卑怯という無かれこれは作戦、作戦なんだってば。
足を薙いで顎を蹴上げワンツーワンツー休まないでこなせーっと。両手棍の武技の一つである足払いを背後から決めれば面白いように転倒するな。隠遁と幻術を組み合わせてなるだけ存在感を出さないようにしているのもあるだろう。
ゴスン
振りかぶった雄曼酸棍を打ち下ろし気づけば死屍累々と言わんばかりに大の大人がゴロゴロと転がっている。これで残りは……そう思った矢先にヒュルっという風切り音がうっすらと聞こえた。空間把握は飛来する物体を捉えており雄曼酸棍で飛んできたものを打ち払っていく。おいおい、放っておいたら周りに転がっているやつに突き刺さっていたぞ。弾き飛ばした物体は矢でありその軌道を辿っていくとターバンのようなものを頭に巻き顔の下半分をスカーフのような布で隠した小柄な男がこちらを鋭い目で睨んでいた。手には小型の弓を持ちいつでも撃てる様に矢を番えて構えている。
『第三試合場、残り二名になったのでそこまでです』
おっと俺らの会場これで終了か。果たして相手のアレは終わったことが分かった上で放ったのか。やれやれ、どうにも一筋縄ではいきそうにないねぇ。




