第137話 火種
展開を予測されていた方! その通りでございましたわい。
あちゃあと頭を抱えていました、とほほん。
それに懲りずに本日もドーーン!
護衛生活10日目。
もはや護衛らしいことはしていない。やっていることはおさんどんである。
いや、ここは前向きにみんなの食の安全を守っているのだ。そう考えよう。そうしないと切なすぎる。
夜も明けきらぬド早朝。俺はいつもの日課である素振りをしていた。こればかりは欠かさずやっている。それに道中身体をあまり動かさないのでこうでもしないと鈍って仕方ない。そして色々と試したりできるようにこんな時間を選んでいるというのもある。
月猫を握り締め何度も武技を繰り出す。念のため結界も張ってあるし周囲への警戒も万全である。
前々から思っていたことがある。この世に数多ある武技。これって編み出した人、次代に受け継いだ人、さらにはそれを元に新たな技を生み出した人など色々な人の手により変化してきたってことだと思うのだ。
つまり何が言いたいのかというと俺でも武技を改変できるんじゃないかという可能性。魔法ができるなら武技もという至極真っ当なご意見である。
とはいえ何をどうすればいいのかって言われるとどうしたらいいんだろうねとしか答えられないのが現状だが。今は数を撃ち熟練度をあげることしかできていない。それでもバンジロウ戦では無言発動でしょぼいものしか出なかった『魔刃・絶刀』が今では威力はかなり落ちるもののちゃんと飛んでいき木の枝を落とせるくらいにはなった。俺の場合、『魔刃・絶刀』の使用には魔力を用いているので魔力操作のスキルを得たというのも大きいのかもしれない。
魔法でいくらでも代用は効くのだがそれが使えない状況がなきにしもあらずなので日々の研鑽を怠るわけにはいかないのだ。俺の仮想敵はなにしてくるかわからん王都の連中やチート持ちであろう勇者連中だしね。
同時に魔力纏の使用方法も色々と手を加えている。マザーアント戦において寄生粘菌を切り裂いた形状変化。あれを今の俺でもやれないかと試したところ見事に失敗。が、ただの失敗では終わらず刃の形に生成までは出来なかったが伸ばす、掴む、厚みを増して堅くするなどその手前の手前くらいの変化はできるようになった。集中してやらないと解けてしまうのが難点だが。これも今後の努力次第だろう。
1時間ほど密度の高い訓練をこなしクリアで汗などをとばして部屋へ戻ったらちょっと驚いた。部屋にエレノアさんが来ている。ああ、俺の荷物は全部次元収納だから開けっ放しでいったんだったわ。
「エレノアさん、こんな朝早くからどうしたんですか?」
「そ、それがですね。その……」
もじもじしながら顔を真っ赤にしている。いつも冷静沈着なエレノアさんにしては珍しいな。
なんとも煮え切らないところを促しながら事情を話してもらえば……。
それは昨晩のこと。公爵家のお嬢様でありながらすっかり宿の相部屋生活を満喫しているエト様、シャニア嬢の二人。今回はローヴェルさんも交えて大部屋で女子会という名の暴露大会をしたようだ。ちなみに本当は侍女な影武者さんは残りの近衛騎士と共に一番いいお部屋に泊まっている。
その女子会で話は夜の武勇伝的なお話に移ったそうな。あれだな、男だろうが女だろうが何人か集まればそういった話になるのは必至なのだね。
とはいえあの面子で経験者はエレノアさんのみ。色々と聞き出されたそうな。されど侮る無かれ女子を。耳年増となっているエト様と年mゲフンゲフン、ローヴェルさんの二人はエレノアさんをずっと拘束していたことに危機感を持ったそうな。主に俺の下半身事情に。魔獣と呼ばれた男が何日もそういった行為なしで果たして持つものかと。下手に誰それに手を出されてはまずいのではとあの二人の中では大事になったらしい。至極大きなお世話である。なんか見境無く襲いだす獣だと思ってるふしがあるなあの二人。
そんな訳でなんやかんやでエレノアさんがここへと派遣され後顧の憂いを断とうとしたらしい。つまり貴女方ずっとそんな話してたんですかい。まったくもってけしからんことです。居眠りしてもしらんよ、本当に。
「それでいざ部屋へとお邪魔してみれば鍵もかけておらず旦那様の姿は無く途方にくれていた訳なんです。そうなってくるとまさか他の女性のところになど不安な考えが一杯浮かんできてしまって……」
語尾に力なく俯いきしょぼくれてベッドの上で項垂れてしまった。
そんなエレノアさんの姿を尻目に扉へ向かう。
ガチャリ
「えっ? あれ? 旦那様??」
次いで背を向けたまま防音用の結界を張る。時間を確認すれば出発まであと2時間ほどか……。
「あの??」
くるーりとエレノアさんへと向き直った俺。その瞳は爛々と輝いており鼻息は荒い。エト様容認の下なのだから思い切りはっちゃけよう。そしてそのまますぽーんとベッドへとダイブ。着ていた服はまるで人が着たままのようにその場に残っている。
「ひゃああああああ、あ、はああん」
エレノアさんに圧し掛かるように重なり合うと衣服を掻き分けノブサダハンドが弄り弄り弄り倒す。
それから一時間ほどねっちょりしっぽりハッスルしました、まる。ぶっちゃけそんなに溜まってはいなかったけれどももじもじするエレノアさんを見てしまったら滾ってしまったと言ふわけです。種火にニトロをぶち込んだようなものですな。え? 種火が無くても爆発するだろうって? そらあんなに可愛いこの人をみちゃったらそうなりますがな。
お互いの身体をお湯で拭き取りクリアできれいにした後は皺になってしまった衣服を手にスチームアイロン的な効果を持たせる改変魔法を使って伸ばしていく。
シーツに包まってちょっとだけ恨みがましそうに見つめるエレノアさんの視線が心地よかったりする。どっちかというと俺ってSかもしれない。
「むう、酷いです旦那様。あんな無理矢理……」
「さっきも言ったでしょう? エレノアさんが誘ったのと夏祭りで大暴露しちゃったお仕置き込みです」
「……(でもこれがお仕置きならまたされてもいいかしら)」
「ん? 何かいいました?」
「い、いいえ。なんでもありません。さあ、今日は長丁場になりそうですし準備しましょう」
うん、エレノアさんの服を綺麗に伸したので終了なんだけどね。俺のほうは着るだけだったし。
少しだけ腰の辺りを押さえつつ艶々のエレノアさんは自分の部屋へと戻っていった。きっと根掘り葉掘り聞かれるんだろうな。
さて、俺も朝飯食べて馬車のほうへと行きますかね。
その日ものんびりスタートし特に問題なく次の村へと着くかと思われていた。
が、前方から物見が必死な形相で緊急を伝えに戻ってくる。
「急報だ。先の村が魔物に襲撃されている。それも結構な数だ。ざっと見た限りでも3,40匹はいやがるぜ」
「お頭、どうしやす?」
「雇い主次第だな。ティーナ、あのお嬢様に確認してきな」
「あいよ。お前たち! いつでもヤれるようにしておきな! こっちに向かってくるようなら遠慮なく八つ裂きにしておやり」
「「「「合点だ」」」」
というような指揮がなされているのだがあんたら声でかいって。全部こっちまで筒抜けになっているよ。
ティーナさんが来る頃にはこっちも準備万端になっている。
「お嬢様、前方の村に魔物が……って随分とやる気一杯みたいだね」
「無論。お嬢様より現地の者を救うべく急行せよと指示を受けている。この場は我ら近衛騎士が守る故、君たち傭兵団には存分に魔物を駆逐して欲しい」
「あいよ、任せときな」
ふむ、どれだけ中に食い込まれているか分からんが救うのなら急いだほうがいいようだ。お嬢様たちは近衛騎士とエレノアさんがいれば大丈夫だろう。万一あらば瞬間転移でいつでもエレノアさんの側へ戻れるしな。
「俺も行ってきます。お嬢様、ご許可いただけますか?」
コクリと影武者さんが頷く。ここはお任せしましたとエレノアさんに目配せして駆け出す。
『空気推進』を使い加速しながら進んでいけば先に行ったティーナさんを追い抜いていく。
「お待ちよ! あんた一人で向かう気かい!?」
「一人で全部倒してしまってもいいんでしょう? お先に!」
一迅の風となり駆ける俺の目に煙の上がる村の姿が見える。空間把握を使い村の状況を感知すれば何人かは魔物相手に奮闘しているようだ。その後ろには幾人も固まっていることから避難している場所を守っているのだろう。こりゃ急がないとな。




