第136話 料理戦士ノブサダ
脂肪フラグが止まるところを知らない!
おなかすいたでござる(書いていたのは深夜2時)
追伸:みなさまのぽちりに感謝を! 日間にランクインしておりました。
護衛生活8日目。
じゅわああ
じゅわああ
大きな中華なべに注がれていた黄金色の油が音を上げる。
マウリオ特製穴あきお玉が揚がっていた唐揚げを素早くすくう。油きりの上にはすでにいくつもの唐揚げが山積みになっていた。
そして温度が下がったら半分の大きさにカットカット。
流石に人数分の米を準備するのは無理があったためパンを予め焼いておき自分の手で唐揚げサンドにしてもらうのだ。マヨネーズやケチャップは無論俺特製である。マヨネーズなんかの撹拌には魔法を使っているので材料さえあれば大量生産が可能だ。
同時に俺謹製の味噌を使った豚汁のほうもいい感じに煮えてきている。悲しいかなこんにゃくなどは入っていないけども。
「お、今日のも美味そうな匂いだな!」
「おーい、ボウズ。こっち汁大盛りで頼むわ」
「あ、てめ、ずりぃぞ。俺も、俺も頼まぁ」
そして唐揚げサンドセットプラス豚汁は次々とはけていく。
俺は声を大にして言いたい。
オイコラ、傭兵団! なんでお前らも配給の行列みたく並んどるんじゃい。
自分で用意せぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!
事の始まりは3日前。
昼飯時に今日の行程についての再確認に傭兵団副長のティーナさんが来たことに始まる。
ローヴェルさんと話し込んでいるときからなにやらチラッチラッと俺のほうを見てきてた。先達ての人形の件か? そう思いもしたんだがその視線は俺の手元、本日の昼食であるカルボナーラに向いている。
獣人って食いしん坊が多いのかと笑いをこらえつつ多めに作って保存しておいた皿を取り出してティーナさんの前にすっと置いた。
「いいのかい?」
「ははっ、彼のほうで気を使ってくれたようです。冷める前にいただいてしまいましょうか」
二人とも腰を下ろして食べながら残りを詰める様だ。
ソロモン亭にいたときからだがある程度のパスタ料理、ミートソースやボンゴレなどはあった。でもナポリタンやカルボナーラといったものは無かったんだよね。地域によってはあるかもしれないし今後色々な場所へ食べ歩きで旅するのもありかもしれんなぁ。
くるくるっと巻いたパスタをぱくりと頬張り味を確かめるかのように咀嚼するティーナさん。
「はああああああん!」
そして上がる嬌声のような艶かしい声。ちょ、昼間からなんて声あげてるの。俺以外の面々もなにごとか把握できずに目をぱちくりさせている。
「濃厚なソースが口の中いっぱいに広がってもう堪らなぁい。卵と牛乳? なにかもう一つ入ってそうだけれどもアタイの舌じゃまだ分からないねえ。時折感じるピリっとしたのは胡椒、いや黒胡椒かい? こっちの干し肉らしき肉も堅いどころかほどよい弾力で噛めば噛むほど肉汁が溢れて来るよ。こんなのはいままで食べた事がない。本当にアンタが作ったのかい?」
「え、ええ」
あまりに喰らいつきが良くて生返事するしかできなかった。早口で味の感想をまくし立てるもパスタが口へと飲み込まれていく速度も変わらない。はやい、はやいよ。
ほふぅと恍惚の吐息をつくころには皿がまるで洗い立てのようにぴかぴかになっていた。舐めたのか!? いや、違う! 現在進行形で舐めている!!
それに気づくと同時にガヤガヤと何か近づいてきた。
「おい、こっちだな」
「ああ、姐御の声は確かにこっちから聞こえたぜ」
「確か一人だけ男の冒険者がいたはずだよな。そいつか? 姐御に手を出したのは」
「聞いたことも無い嬌声だったらしいからな。お前らボコる準備は万端か?」
「「「おうよ」」」
オイイイ、なんて物騒な会話だ。というかターゲットは俺じゃないか。俺がなにをした!
そして彼らは見てしまう。恍惚の表情で皿を舐めているティーナさんを……。
それはそれは意気込んできた傭兵団男衆であったが至極残念そうな顔になりお互い顔を見合わせている。時折こっちに視線が飛んでくるが俺にだってどうしたらいいかわからん。とりあえずこっち見んな。
「あ、姐御? 一体なにしてらっしゃるんで??」
勇気を持って声をかけた手下からの一言で正気に戻ったらしいティーナさん。ハッという擬音が聞こえてきそうなほど驚いたように手下たちを見る。
「お、おたつくんじゃないさ! 毒見、そうこれは毒見だよっ!」
いや、むしろお前が落ち着け。なんというか俺が出会う女性のポンコツ率が高くなってきた気がする。年上になるほど……。筆頭は駄女神だが。
ああ、もう、唇にソースついているし。ハンカチを取り出しそれらを拭ってやる。羞恥に顔が真っ赤だが油断しているあなたが悪い。もう少しお行儀よくしなさいな。見た目はロリだがいいオバ……いや、なんか殺気がしたからこれ以上は思考するのもやめておこうか。
そんなこんなでその場はお開きになったのだが次の日には味を占めたティーナさんが来るようになりさらに次の日には傭兵団の連中がちらほらつまみ食いにくるようになり本日、傭兵団のもっさい連中が大量に並んでいやがる現状と相成っています。
お前ら俺は食堂のおばちゃんじゃないんだ!
ほらそこ、喧嘩しない! まだ揚げてるから大人しく待ってろ! 豚汁は一人一杯までだよ、そこっもう一回並ぼうとしないの!
というか傭兵団の半分以上こっちきてないか? 一度も来てないのは団長とその取り巻きの連中くらいな気がしてきた。なんというかティーナさんを姐御と慕う連中ばっかりこっちに来ている気がする。もしかして団長と仲が悪かったりする?
まぁ、材料費は公爵家が面倒見るからいいっちゃいいんだがそれでも食材が不安になってきたな。特に肉。こいつら良く食うし行く先々の村や町で都合よく量が手に入るとは限らないからな。今度は時間を空けてもらってグラマダへ転移し食材を買い込むか、それとも大々的に狩りをして集めるか。それくらいしないと腹を空かせたこいつらの消費量は賄えないかもしれん。
ど う し て こ う な っ た !
その夜。
それなりに大きい町での宿泊だったのでこれ幸いにと大量の食材を買い込んだ俺。エト様に確認したところ傭兵団の希望者連中の食事も頼むとの事。もはや食料班です、俺一応護衛ですよね?
その分道中も食材の下処理とかしてていい許可は貰ったしまだマシか。手持ち無沙汰の御者助手席よりはだいぶいい。空中に浮かべて風の刃で野菜を切り刻んでいたら白い目で見られたけれどな!
そして現在も宿の厨房を間借りして下準備をしている。興味深々に調理場のおばちゃんに眺められつつ酒場から傭兵団の連中にツマミのリクエストをかけられつつという現状だ。
くそう、調理場に入るところを見られたのがこんなにダメージになるとは。
お前ら、俺は安くないんだぞ。作るんだったら時間外手当として金取るからな!
え? 望むところ? 待て! どんどん注文入れてくんな! これは明日の昼飯にするんだってば! 言うんじゃなかったぁぁぁぁぁぁあ。
己の失言に後悔しつつ大量の銀貨と引き換えに大盛りのツマミを作成させられるのだった。流石は傭兵、酒のあてになるものに関しては金を惜しまない。
おばちゃんたちすいませんが手伝ってくれます? こちらの食材を使ってもいいですかね? 勿論、手間賃と材料費は支払いますから。ええ、営業妨害してすいませんね。とほほほん。




