第133話 残念令嬢現る
めんそーれ
新章開始です
早めに出てきたせいか冒険者ギルドに着くとまだ出発の準備は出来ていないようだ。
俺同様に準備を終えていたエレノアさんが真新しい装備と共にお迎えしてくれた。白銀の装備に身を包んだエレノアさんは他の冒険者とは一線を画す美しさである。うん、俺の装備やのっぺりんとした顔がみすぼらしく見えちゃうな。そのうちなんか素材を手に入れたら新調しちゃおっかな。顔はどうしようもないからね!
おっと、変えようも無い顔を諦めつつついついエレノアさん鑑賞に精を出していたらどうやら見つめすぎたらしい。顔を赤らめ小突いてきたぞ。まってまって、普通の冒険者だったらくらえば蹲るレベルですから。俺も随分と打たれ慣れたもんだ。喜んでいいやら悲しいやら。
「まだ時間はあるみたいですかね。準備がまだ終わってないようですが」
「ええ、ですが傭兵部隊は既に街の外にて待機しています。あとは護衛対象である皆さんだけだと思いますよ」
公爵令嬢か……。片方は一度会ったことがあるけれどもう一人はどんなお方なのかね。
「傭兵部隊以外だと俺とエレノアさん、あとは何人くらいつくんですか?」
「総数が……」
公爵令嬢二名(一人は冒険者の扱い)と御付の侍女が一名、近衛の女性騎士が四名と俺たち二人。傭兵部隊『マハル・マリーン』が総勢32名。内女性は一人だけ。ほかは皆屈強な男たちだそうな。むさ苦しい事この上ない。俺には絶対傭兵なんて無理だ。
「失礼。エレノア殿でよろしいか。私は此度の道中の責任者を務める近衛騎士のローヴェルという。」
俺たちが話している後ろから貫禄のある女性騎士が話しかけてくる。振り向けば同様の装備を着た女性が3人その人の後ろに控えていた。
「はい、お初にお目にかかります。久々の現役復帰ですが足を引っ張らないように気をつけさせていただきます」
「ははっ、戦姫の強さは我々女性騎士の間では知らぬものがいないくらいです。此度の任務中に是非とも一手お相手願いたいものですね」
「時間があれば構いませんよ。それとこちらの方が同行する冒険者のノブサダさんです」
おお、もはや空気と化していた俺を引っ張り出しますか、エレノアさん。うーん、あえてスルーされていた気もするのだが挨拶は大事だしな。
「初めまして、D級冒険者のノブサダです」
ぺこりと頭を下げればなんとも微妙な表情をする女性騎士、もといローヴェル氏。
「いや、失礼した。魔獣と噂の冒険者がこれほど小さな、いや若いとは思わなくてね。テムロ様と同じく戦拳殿のお弟子さんだから実力は折り紙つきだとは思うがよろしく頼むよ」
「ええ、師匠に恥をかかせないように頑張ります」
言ってる言ってる。言い直した意味ないですから。むぐぐう、身長のことは言っちゃ駄目です。あれからほぼ毎日計っているんだが伸びていないのですよ。グネよ、第三次成長はいつなんだぁぁぁぁ。
様子見がてら彼女たちのレベルを識別先生に見てもらったところ騎士の上位職である近衛騎士の16~18ってところだ。ローヴェル氏だけは23と少し高い。ちなみに32歳、実は編み物が得意らしいぞ。なんかスキル持ってたしな。
事務的な手続きを終えたところで馬車が数台、冒険者ギルドの前へと到着した。っておいおい。御者をしている人物を見て俺は思わずお茶噴出しそうになったよ。含んではいないけれどもさ。
確かに冒険者としてついてくるって言っていたがまさか御者で登場するとは思わなかったよ。公爵次女シャニア・アズベル(本名:キャスカ・タイクーン)。
「やあやあ、久しぶりだねノブサダ君。随分と名を売っているようで同じレベリット信者として鼻が高いよ」
うん、血は繋がっていないと思われるがこのテンションっぷりはあの公爵と同じノリである。横目に見ればローヴェルさんはちょっとだけため息をついていた。恐らく彼女が無理矢理御者でいくとねじ込んだのではないかと推測される。俺が変わってあげたいところではあるが御者のスキルは持っていないんだよね。機会があれば触らせて貰おうかいな。
そんなシャニア嬢が御者をしてきた豪華な馬車からキイっと扉を開けて出てくる二つの影。一人は余り派手派手しくない清楚な感じの気品ある服に身を包んだお嬢様らしき人物、もう一人は侍女風の装いの姿だ。姿なんだが……。本当にこの一族はこんなノリが好きだな、おい。
「お初にお目にかかります。戦拳マトゥダが十番弟子ノブサダと申します。身に余る大役なれど此度の護衛、全力を持って遂行させていただきます」
頭を垂れつつそう言ったのは、そう侍女風の女性へと。確かにお嬢様な感じのほうが公爵令嬢って気がするが識別先生のお仕事は騙せませんぞ。ちなみにこんな感じ。
名前:エトワール・アズベル 性別:女 年齢:19 種族:普人族
クラス:風魔術師Lv22 獣使いLv12 状態:病気
称号:【残念令嬢】
【スキル】
風魔法Lv3 魔法知識学Lv4 薬学Lv3 礼儀作法 生活魔法
ふむ、セカンドクラス持ちか。
それにしても称号が……。
あと病気をおして参加しているのか。これは気をつけておくべき案件だな。
侍女風の女性、いやエトワール嬢とシャニア嬢、ローヴェルさんと後ろの女性騎士もそんな俺の行動に驚いていたようだ。だがエトワール嬢がすぐに復活して唇をかみ締めていらっしゃる。
「くうう、折角の変装だというのにあっさりばれてしまいましたわ! シャニアがきっとこれなら驚かせられると太鼓判を押してくれましたのに!!」
「私も驚いているよ、姉上。こんなにあっさりとばれてしまうとはね。ノブサダ君は姉上と面識があったのかい?」
「いえ、初対面です。ですがなんといいますか目元のあたりなど公爵様によく似ていらっしゃいますからそれで気づきました。それにうちで販売している化粧水を使用されていることは公爵様自身から伺っておりましたのでその肌の潤いからそうだと判断いたしました」
うん、識別先生以外にもこれだけヒントがありました。お嬢様風の女性よりも明らかに侍女風の方のほうが潤っていらっしゃる。販売元としてこれは外せませんな。ローヴェルさんの俺を見る目がちょっとだけ見直した感を漂わせていることに少し嬉しかったりする。どうせなら仲良くいきたいじゃないか。
「ふうむ、伊達に名を馳せている訳ではないということですのね。流石エレノアを落としただけはありますわ」
あ、エレノアさんとお知り合いですか。公爵様と師匠の付き合いは長そうだし面識があっても不思議じゃないか。
「ああ、それは私も聞いていたよ。まさか5人一緒に娶るとはね。まあ、公式にそう言えないのが残念なところではあるけれどそこら辺はどうなんだい?」
からかうような声でそう訪ねるシャニア嬢。本当に面白そうだね。
「いずれは実も伴うつもりではあります。とはいえまだ地盤固めですけどね。こうしてランクアップのために依頼を受けている身ですから」
「そういえばまだDランクだったね。手加減しているとはいえ祭りでアヴェサンに競り勝つほどだからすっかり忘れていたよ」
ははは、忘れたいんで掘り返さないでくださいな。グラマダ市民の前でのポロリは結構なトラウマなんですよ?
「ええと、シャニア様。そろそろ宜しいでしょうか。外で傭兵部隊の面々も待っておりますし取り急ぎギルドでの最終的な手続きをしませんと」
「ああ、ゴメンねローヴェル。それじゃちょちょいと手続きをしてくるからノブサダ君たちもすぐ発てるようにしていてくれたまえ」
「はい、承りました」
シャニア嬢とローヴェルさんは連れ立って冒険者ギルドの中へと入っていった。その場に残された公爵家長女とお約束に付き合わされた侍女、そして俺とエレノアさん。
「そういえばまだ自己紹介していませんでしたわね。私はアズベル公爵家嫡子たるエトワール・アズベルですわ。それと今更ながらですけどエレノア。ご結婚おめでとう。うふふ、まさかあなたに先を越されるとは思いませんでしたわ。てっきり男に興味がないとばかり思っていましたもの」
「エト様。私だって人並みに結婚願望はあったのですよ。ノブサダさんに会うまでそう思える方がいなかっただけです」
「ま! 惚気ですわ。惚気ですわね! 私もいずれは誰か婿を取る身ではありますから好いた殿方と結ばれるというのには羨ましさを感じますわ。今夜からそこらへんを詳しく聞きだしますわよ。覚悟してらっしゃいなエレノア?」
にんまりと小さな口元を吊り上げながら愉快そうに笑うエトワール嬢。ふわりと風で髪が揺れる。ちょっと癖のある感じだが艶のある金髪だ。どんなトリートメントしているのか興味があるね。ちょっと吊り目気味で気の強い感じがするが楽しげに砕けた調子で笑うその姿から威圧感は感じない。寧ろ話していれば付き合いやすそうな印象を受けるな。胸部装甲はちょっと残念でエレノアさんといい勝負かもしれない。キュっとしまったヒップとすらっと長い脚は脚フェチにはたまらんだろうて。
「ところで御付の方はずっとその格好ですか? むしろ公爵令嬢として接したほうがいいのですかね?」
あ! と今更ながら気づいたエトワール嬢。称号は伊達ではないといったところか。
「そうですわ。道中は私の侍女であるエトルシャンを令嬢として扱っていただきますわよ。私を呼ぶときはエト様でよろしくてよ」
それだと二人とも呼ぶことになるんじゃ?
本人がいいと言ってるからいいか。影武者たる侍女さんを呼ぶときはお嬢様、エトワール嬢を呼ぶときはエト様と言う様にしよう。




