第131話 和泉屋繁盛記その13
そしてぇぇぇぇ本日二話目だどーーーん!
最新話からお越しの方は一個前へお戻りくださいまし。
本日俺は冒険者ギルドのギルドマスターの部屋へ呼び出しを受けていた。
あれ? 最近なにかしたっけかな……うん、してます。もしかしてバレましたかね?
目の前に佇むダンディなアミラルさんが徐に口を開く。
「今日ノブサダ君に来てもらったのはちょっと他のものへとは聞かせたくない指名依頼が入ったからだ」
そう切り出すと俺の横、上質なソファへと腰掛ける人物へ視線を移す。
ああ、やっぱりそちらさんの御用でしたか。そうじゃないかとは思いつつも現実逃避をするように敢えて視線を逸らしてましたが駄目ですか。そうですよね。
そこには何度かお会いしたことのある身なりの良いおじ様が座っていらっしゃる。金の髪を短く刈り揃えたサングラスをかけたやたらとフットワークの軽い公爵様がそこにいた。そう、この街のトップである クアントロ・アズベルその人である。
「やあ、久しいねノブサダ君。あれからも随分と君の噂は耳に入っているよ」
「お久しぶりでございます。マニワさんの店で会って以来でしょうか」
「そうだね。今日来てもらったのは是非君に私からの依頼を受けて欲しかったからだよ」
意訳『色々仕出かしているのは耳に入っているよ。それらを掘り起こされたくなかったら依頼受けてくれるよね』って言われているように聞こえるのは俺の気のせいでしょうか。
「改めて自己紹介しよう。私はクアントロ・アズベル。一応、公爵なんて受け賜わっておるが今までどおり気安く接してくれると嬉しい」
いやいやいや、改めてそう言われてしまうと身構えてしまいます。俺って結構小心者ですよ?
「は、はい」
「そうしゃちほこばらんでかまわんよ。それでだ。君に依頼したいのはな。これから半月後に娘二人が私の代理で王都へと赴くのだがその護衛の一人として着いて行って欲しいのだよ」
公爵の娘ってあの人ですか。ああ、今まで出来るだけ会わないように気をつけていたが関わっちゃいますか。
「護衛の一人としてということは俺個人のご指名ですか? パーティではなく?」
「それについては私のほうから説明しようか。公爵様から指名されているのはノブサダ君だけだ。本来なら要人の護衛依頼はC級冒険者以上なのだが今回は特例だ。そして君のC級への昇進試験も兼ねている。他のメンバーにはこちらから別件の依頼を用意してあるのでこれらが成功すれば晴れてパーティそのものがC級となる手筈になっている」
アミラルさんの口から衝撃の事実が挙げられた。
おうふ、もはや逃げ隠れできないように全部手を回されているのですね。
「本来ならば騎士団を護衛に廻すべきなのだが先達ての一件以来色々と立て込んでいてね。今回の護衛に関しては傭兵一個小隊と冒険者を雇うことになったのだよ」
そりゃまあ公爵の娘さんともなれば相応の護衛は必要でしょうな。それでも騎士団が同行しないってのは立て込んでいるとはいえ異例のような気がする。
「それでだ。表向きは長女のみが向かうことになっている。次女に関しては訳ありでね。冒険者の一人として同行する手筈になっているんだよ」
ナ、ナンダッテーーー。横から公爵がとんでも発現を加えてくれました。次女ってつまりあの仮面の公女様ですか。なんともややこしいことになりそうな気がしまくりやがってます。
「無論、侍女と近衛の女性騎士は数人つくから世話までは考えなくて構わない。それと冒険者ギルドからエレノア君を現場復帰させて一緒に行ってもらうことになっている。それも含めてノブサダ君に白羽の矢がたったというわけだ」
なるほど。たしかにエレノアさんと組むのであれば俺のほうが都合がいいだろう。
「護衛は行きと帰り。それと王都では色々と用事が入るかもしれない。それら込みで報酬は10万マニー。それから結果次第で何かしら追加するだろう。それと道中の宿代などは全てこちら持ちだから安心してくれたまえ」
ふうむ、馬車を使って移動するのであっても傭兵なんかも込みであれば移動速度はさほど上がらないだろう。つまり王都までの道のりは片道20日ほどは確実。行きと帰りで結構な日数を拘束されることになる。その間、和泉屋をどうするか。まあ、色々とやりようはあるんだけどもさ。
エレノアさんが現場復帰するのは確定のようだし心配するのもおこがましいがあっちの連中がどんなことをしてくれるかも分からないから俺自身行かないと納得できないだろうな。
それにたかだかD級の冒険者に対しては破格の依頼料だ。ぶっちゃけ和泉屋のほうが儲かるっちゃ儲かるが王都の方へは色々とちょっかいかけてくれた事だし情報の収集と出来るなら報復までしてやりたいところだったから渡りに船といってもいいかもしれん。
色々と考えたが受けることにしようか。そうと決まれば色々と聞いておこう。
「アミラルさん、色々とお伺いしたいのですがよろしいでしょうか?」
「構わないよ。何かな?」
「エレノアさんの現場復帰ということですが一体どうしてでしょう?」
「そうか君は知らなかったんだな。王都ではこの時期に武闘祭が開かれる。様々な土地から腕自慢が集まっているのだ。そして貴族にはお抱えの冒険者や武道家がいる。それらを参加させ優勝でもすればその貴族の名は跳ね上がる訳なんだ。参加資格が30歳以下ということのためマトゥダやテムロが出場できない中、昨年優勝したのは何を隠そうエレノア君なんだよ」
そいつはびっくりだ。ちなみになんで30歳以下になったかというと師匠がブッチギリで優勝しまくったせいらしい。師匠ェ……。
世に知れている達人の多くはやはり40を超えた人が多いらしく30以下となると達人クラスは数が絞られる。その中でも苦戦しつつなんとかエレノアさんが優勝を果たしたってことらしい。エレノアさんが行くのはグラマダの代表として今年も出場するためだ。
「同行する傭兵隊というのは?」
「うむ、『マハル・マリーン』という一級の傭兵部隊だ。隊長がアーサー・クーラ、副長にティーナ・ガラファウ。隊長よりも副長のほうが有名かもしれないな。獣人で女性ながら傭兵隊を率いているのだから。以前は略奪や破壊活動などあまりイメージが良くなかったが彼女が副長に就任してからは打って変わってクリーンな部隊へと変化している」
傭兵というからには冒険者と違い魔物などより対人戦が得意そうなイメージだな。絡まれる可能性は低くはなさそうなので気をつけておこう。
「なるほど。こちらで用意すべきものを教えてもらってよろしいですか? なにぶん初めての護衛任務ということなので」
「確かに。半月もあれば十分に準備できるだろう。難しいことはない。普段通り薬品や個人持ちの食料、武器防具に予備の武器。特に予備の武器は道中で補充できるとは限らないから確実に持ったほうがいい。今回は公爵家の移動ということから全員馬車もしくは馬での移動となる」
おお、流石公爵家。大盤振る舞いである。一応、白米号も持っては行くけれど俺が引くってのはどうしても目立つものな。いざというときにしか使いたくない。他の持ち物は次元収納にこれでもかと入っているからそっちは問題なしである。月猫はある意味目立ちそうだし魔霊銀の脇差をメインで使っていってみようか。何かいい刀があれば買うのもいいな。
「分かりました。この依頼受けさせてもらいます」
「ありがとう、助かるよ。それと後ほど残りのメンバーへ別個の依頼については連絡しよう。副リーダーはいるかね?」
「いえ、そうですね。フツノさんを俺不在の間の代表として扱ってください」
「分かった。それでは半月後、ここ冒険者ギルド前に集合でよろしく頼む」
「あ、すいませんが一つお願いがあるんですけれども……」
ちょっとしたお願いをしたんだがなんとか了承を得ることに成功。さーて、忙しくなってきましたよ。半月しかないから色々と準備を急がないとな。
◆◆◆
「二人ともよく聞きなさい。護衛の件は希望通り叶った」
グラマダで最も大きな屋敷、いや城と言って過言ではない邸宅の一室でそう告げるのは公爵であるクアントロ。
「父上、ありがとうございます。姉上にも無理を言いました」
「シャニア、気にすることはなくてよ。私もそれで良いと思ったのですから」
「本来ならば私が行くべきなのだろうが如何せんグラマダは未だきな臭い雰囲気だからね。お前たちを送るのは断腸の思いだがどうか無事に帰ってきておくれ」
「お父様、公爵家の子としてしっかりと役目を果たして参りますわ。病に侵されたこの私をこの歳まで生き永らえてさせてくださったお父様のためにこの命喜んで捧げましょう」
爛と輝くその決意を秘めた瞳はまっすぐに公爵を捉えている。
「娘よ。死地に赴くわけではないのだからそんな悲壮感を漂わせるんじゃない。仮になにかあってもお前たちを守るのが近衛騎士であり護衛たちなのだから。端から命を捨てるのではなく帰ってくることを考えておくんだよ。そしてもし万が一があった場合はエレノア君ともう一人を頼りたまえ」
「シャニアも推薦していましたがその彼がそれほど頼りになるのですか? お父様の判断を疑うわけではございませんが騎士たちを差し置いてその人を頼るということに些か疑問がでるのですが……」
「うむ、そう思うのは当然だろう。だが彼の実力はマトゥダ、アミラル、テムロの三名が太鼓判を押すほどだ。それでいてまだ底を見せていないとまで言っている」
その言葉を聞いて令嬢のその瞳に僅かに驚愕の色が浮かんでいた。このグラマダで屈指の実力者、それも三人に認められている。シャニアの話では令嬢よりも年下のはずだというのにそこまでとは思いもよらなかったようだ。
公爵家令嬢である彼女はとある病に侵されている。幼い頃に受けた事故の後遺症なのだが未だ完治する術は見出されず延命措置だけを施して現在に至っていた。それ故、公爵家の嫡子という身分を慮りつつもずっと支え続けてくれた父と妹のためならば命を投げ出すことを厭わないという性格に育ってしまっている。
「姉上、御身を大事になさってください。いざとなれば私が担いででもお守りしますから」
「あらいけませんわ。愛しい妹にそんなことを言わせてしまうとは私もまだまだですわね。大丈夫よシャニア。私は覚悟の程を示しただけですもの。そんなにこの命お安くなくてよ?」
そんな姉の姿を見てシャニアは心の中で嘆息をつく。そう言いつつもきっとこの姉は何かあれば自身の命を軽視し自分たちを守りたがるだろうと。
「(やれやれ。ノブサダ君、しっかりと守ってくれたまえよ)」
シャニアは一度しか会ったことのないノブサダに対してなぜか一定の信頼を置いていた。同じレベリット神を選んだ酔狂な同好の士。友としても接点がそれだけでしかないのだが彼女にはなにかしら響くものがあったようだ。
三者三様の思惑が絡みつつノブサダは巻き込まれていく。だが全員に共通していることは一つ。この旅路には何かがあるだろうと各々確信している。それが吉なのか凶なのか、それは誰も分からない。




