第14話 やっぱり最高美味い飯
日も暮れ始めた夕方。俺はギルドへ駆け込んだ。
そういえばギルドって何時までやってるか知らなかったんだよね。閉まってたらどうしようかと道中慌てたよ。
いそいそとエレノアさんのカウンターへと向かう。この時間だとギルドに来ている冒険者もまばらでそれほど待つこともなく自分の順番が回ってくる。
「エレノアさん、戻りましたので手続きよろしくお願いします」
「はい、ノブサダさん。お待ちしておりました」
営業用トークと分かっていても美人にお待ちしておりましたと言われるとちょっとドキっとするよね?
「この建物の裏手にある『ソロモン亭』という宿がギルドと提携を結んでおります。この札を受付で渡してもらえれば新人用の料金で利用することが可能です」
「ありがとうございます。すいません、ついでに質問があるんですがいいですか?」
「はい、何でもお聞きください」
「実は俺、まだ洗礼って受けてないんですがどういった手続きが必要ですか?」
「洗礼ですか? 失礼ですがどういった事情があるかお伺いしてもよろしいでしょうか?」
俺はフツノさんにしたように『西の森の中で捨てられていた赤子だったが森に住んでいた爺様に拾われて育ててもらった。先達て爺様が亡くなったのをきっかけに街へ出ようと思った。ずっと森の中にいたので洗礼は受けてなく常識もちょっと危うい』とざっとした説明をしておく。
「そうだったのですか、お辛い事情があったのですね…」
いや、うーん、でまかせ設定なんで正直申し訳ない。
「洗礼についてはご存知ですか?」
「ええ、この街に来る道中知り合った人から話は聞きました」
「そうですか、本日は時間が遅いので日を改めてとなります。お時間よろしければ明日にでも洗礼を受けれるように手続きを行いますがいかがしますか?」
「はい、明日で大丈夫です」
「それでは洗礼を受けたい神様を教えていただけますか?」
「『成長と才能の女神 レベリット』様でお願いします」
俺は迷いなく選択した。エレノアさんは一瞬『えっ!?』という顔をしたがすぐに平然とした態度に戻る。
「レベリット様ですか。冒険者の方は『武と戦の神 アーレン』様が多いのですが本当によろしいでしょうか?」
レベ神様よ、どうしてこんなに評価低いのですか? なんかやらかしたの??
「ええ、レベリット様でお願いします」
「承りました。それでは明日に洗礼を受けれるように手続きをしておきます。お昼ごろまでにはこちらにおいでください」
「ありがとうございます、エレノアさん。それでは今日は早めに宿で休もうと思います。また明日よろしくお願いします」
「はい、よい夢を」
ギルドを出ると早速裏手にあるという『ソロモン亭』へ向かう。
数分歩くと結構な大きさの建物のところに『ソロモン亭』という看板がでかでかと出ている。これなら駆け出し冒険者でも迷わないだろう。うん、俺だ!
それなりに歴史が感じられる大き目の扉を開けて中へ入るとそこは食堂だった。宿泊部分は上の階層のようだ。早速受付をしようと受付のカウンターを探していると年のころは10歳前後に見える少女が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ~。『ソロモン亭』へようこそ~」
うん、美少女といって差し支えないショートカットの小柄な女の子である。
名前:ミネルバ 性別:女 種族:普人族
クラス:商人Lv5
称号:【看板娘】
【スキル】
算術Lv2 接客Lv3 家事Lv3 生活魔法
看板娘って称号なの!? 年齢を考慮するとすごく優秀な娘さんだな。
「ギルドから紹介を受けてきたんだけれど部屋は大丈夫かな?今日冒険者に登録したばかりなんだけど」
「は~い、ギルドから預かった札をお出しください」
「ああ、これで」
エレノアさんから受け取った札を女の子へ差し出す。
「はい、確かに受け付けました。Fランクのノブサダさんですね~。何泊するか予定はありますか~?」
「それじゃとりあえず一週間で」
「一週間ですね~。あ、Eランクへ上がった場合、その時点から一週間までは初心者値段で宿泊できますがそれ以降は正規の値段になりますのでお気をつけください~」
正規の値段だと朝夕の食事つきで600マニーのところ、Fランクの新人割引だと300マニーという半額で泊まれるらしい。なんて良心的なんだろう。
「ノブサダさんのお部屋は2階の端の210号室になります。夕食は1階の食堂でおすすめ定食が寮食として提供されています。それ以外のメニューやお酒は別料金になりますからご注意ですよ~」
なるほど、提供するメニューを絞って数を出すから安くしているのか。酒やサイドメニューを別料金にすることで回収するとこはちゃんと回収すると……。娯楽といえば酒か女だろうからな、こういった世界だと。
「俺のことはノブでいいよ。長いことお世話になりそうだし」
「はい、ノブさん、私のこともミネルバと呼び捨てで結構ですよ~」
「いやいや。いきなり呼び捨ても悪いからミネルバちゃんって呼ぶね」
「は~い、それではノブさん早速ですが今晩の夕食はどうしますか?」
「部屋に荷物置いたらすぐ食べたいな。あとお風呂とかってある?」
「流石にお風呂はないですね~。あれは王侯貴族とかじゃないとそうないですよ~。お湯でしたら桶一杯分は無料ですのであとでお部屋にお持ちしますよ~」
「それじゃ夕食食べた後にお願いするよ」
「は~い、それでは準備しておきますね~」
俺は一週間分の料金を渡しミネルバちゃんから鍵を受け取って2階へ上がる。部屋へ入ると、うん、あれだ。内装のイメージは学生の学生寮ってとこか。分かりづらければ手狭なワンルームマンション? まぁでもこの閉鎖空間嫌いではないのだ。小さいけど俺の城って感じがする。
「ふぅ、ようやっと落ち着いた」
荷物を降ろし(リュックサックだけだが)一息つく。ようやっと着いたな。
怒涛の数日間だった。これからが本番だけどさ。
とりあえず明日はイノシシ等の代金を貰って洗礼を受けてとやることは満載だな。ついでに依頼がなんかいいのないかも確認しておこう。個人的には錬金術か鍛冶の依頼があればいいんだがな。
いよっし、夕飯食べに行くか。どんなメニューかなーっと。
1階に降りて食堂へ向かうとだいぶ賑わいを見せていた。客の多くは若い連中で駆け出し冒険者向けの宿って感じだな。ここで仲良くなってパーティーを組むとかいった出会いもあるんだろうなぁ……。ま、しばらくはソロでやっていこう。なんせ知り合いは少ないもんな。
そんな事を考えながらキョロキョロと空いている席を探す。
お、カウンター席もあるんだ。こっちの世界の調理風景もみれるしこっちにしよう。
「あ、ノブさん夕食ですね~」
カウンターからひょっこり顔をだしているミネルバちゃん。
「うん、おすすめ定食お願い。一緒に果実水も貰おうかな」
「は~い、おすすめ1、お願いしま~す」
「おう」
野太い声で奥から声が聞こえる。背中しか見えないがかなり大男のシェフのようだ。大柄の体だが素早い身のこなしで調理を進めていた。すげぇ、これは参考になる。動きに無駄がないよね。
名前:ドヌール・ザヴィニア 性別:男 種族:普人族
クラス:料理人Lv48
称号:なし
【スキル】
格闘術Lv4 関節技Lv5 肉体強化Lv4 料理Lv7 生活魔法
ってかこの世界のお父さんは最強ですかい。おかしいってなんでこんなに肉体派なんだよ。よく見たら料理のレベルもすごい。王級の料理人ってどんだけなんだ……。
そういえばこの世界の人で初めて苗字持っている人をみたな。ミネルバちゃんに苗字継がれてないところみると没落した貴族とか深い事情がありそうだね。
「おすすめ定食お待たせしました~。本日の定食は鶏のソテーとサラダ、パン、ポタージュスープです~。果実水は桃の実を絞ってあります~」
「おお、これは美味そうだ」
うっは、これはたまらん。特に鶏のソテーの味付けがいい。ガーリックと何かの香辛料が効いてて食が進む。サラダのドレッシングも初めて食べる味だがサッパリしていてソテーの口直しをするのに最適である。最後に飲んだ果実水は冷えてこそいないものの桃の果汁多目ですっきりとした味なところが飲みやすくていいな。
夢中になりすぎてあっという間に食べてしまった。しまったな、もうちょっと味わって食べるんだった。
「むはー、大満足だ」
「あらら、ノブさんもう食べてしまったんですか。早いですね~」
「いやぁ、すごく美味しかったよ。特にソテーが絶品だったね」
「そうですか~。お父さんもそれ聞いたら喜びます」
「へ、あの奥のシェフが親父さんなの?」
「はい、うちで経営してる宿ですから~。父が厨房を私が接客と清掃を母が経理を担当してるんです~」
「そうなんだ」
そこで俺はひとつ思いついた。
「もしよければコレあとで使ってって親父さんに渡してくれるかい?」
そう、ひと包みだがイノシシの肉を残しておいたのだ。こいつを親父さんがどう調理するのか興味がありまくる。一緒に西の森で採った果実類も渡しておこう。こいつが依頼料ってことで。
「こ、これってイノシシのお肉ですか~。それに果実もたくさん。いいんですか?」
「うん、親父さんがこいつをどういう風に調理するのか興味があるんだ。果実はその依頼料代わりにでもなればなーと」
「分かりました、渡しておきますね。たぶん、明日の夕食にはお出しできると思います~」
「ああ、楽しみにしているよ。それじゃ部屋に戻るんでお湯のほう後でお願いするね」
「は~い、ありがとうございました~」
果実水の分、20マニーを渡して部屋へ戻る。
部屋に戻ってベットにごろんと横になる。ふぅ、やわらかいベットに美味い飯、この宿は当たりだなぁ。ギルドが勧めるだけあるわ。新人に手厚いですな。
その後、ミネルバちゃんの持ってきてくれたお湯で体を清めて床についた。
いい夢が見れそうである、おや……す……みぃ……。




