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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第六章 和泉屋繁盛記
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閑話その15 夏祭りだよノブサダさんSP②

 ちんちっちちんちっち、ドンドントンテカトン♪


 太鼓や楽器の音が弾むように街中を覆いつくしている。

 大通りには様々な屋台がひしめき合い道行く人々を目で耳で胃で楽しませていた。


「いらっしゃいいらっしゃい、射的はいかがかなー。的に当たったポイントから景品色々用意しているよー」


「グラマダ名物クレーター焼きはどうだい。そこの美丈夫なお兄さんお連れの美人さんと一緒に食べてみないかい」


「ダンジョンより直送のシデン貝のつぼ焼きはうちだけだよー。サザエにツブ貝、夜光貝まであるよー」


「よってらっしゃい見てらっしゃい。祭りの間だけの超特価! びっくり鈍器ーな売り出しだよー」



 数多の掛け声が飛び交う中。


 俺たちは……。





「はいよ、マンゴーあがったよ。次は?」


「メロンが1、サクランボが2やで」


「カグラさん、削って削ってぇぇ」 しゃこしゃこしゃこ


「ひいぃひぃっ。さ、流石に妾もこれだけ削るとしんどいのじゃ」  しゃこしゃこしゃこ


「…………あふぅ」 しゃこしゃこしゃこ


「あははははは、なんか楽しくなりすぎて笑いが止まらなくなってきたよ」 しゃこしゃこしゃこ


「オルテア、目を覚ませ。終わらない仕事は無いはずだ。もうすぐもうすぐだからっ」 しゃこしゃこしゃこ



 氷を削る音をバックに地獄の販売闘争の真っ只中にいた。



 俺たちが販売しているのは当初の予定通り各種氷菓子とカキ氷。


 カキ氷削り機は本来ならば鉄で作るものだろうが今回俺は石でパーツを作り出し組み立てるという荒業で4台もの数を揃えた。本体に【硬化】と削り刃に【鋭化】の付与まで加えたので道具としての能力は折り紙つきだ。それでも石だけに強度が不安だったので予備にと4つも拵えたのだがまさかのフル稼働中である。

 俺、ミタマ、カグラさん、オルテアがガリガリガリガリと必死にハンドルを回す。


 氷菓子は何種類か用意してきたが作り置きのみである。




「らっしゃい。カキ氷3つやね。味はどれにするん? そやね、一番人気はメロン味や。次点でマンゴー味がようでとるで。えっ、ウチがいいって。あかんよ、これでもうちは人妻なんやさかいに」


「はいはい、御代はこっちでお願いしますよー。はーい、40マニーです。ふぅふぅ、これじゃ寝る暇もないですねー」


「はい、こちら『月見タマ福』が3つに『マンドラさんの生足バー』が4本ですわ。あ、こちらの氷菓『白ねこ』は完売ですの」




 店頭ではフツノさん、マーシュ、ガーナが延々と並ぶ客を捌いていた。セフィさん、ディリットさん、ティノちゃんは先ほどまで店頭に立っていたが今は撃沈して後ろで休んでいる。


 すでに作り置きしてきた棒アイスはほぼ完売に近い。ほぼカキ氷オンリーになっているものの客足が途絶えることは無い勢いである。やはり貴重な氷をこの暑い最中に食べられるというのはありがたいものだのだろう。








「申し訳あれへんけどこちらのお客様で完売でございます。あ、すんまへん。用意していたシロップの在庫があれへんのですわ」


「おまたせしましたわサクランボ味ですのよ。えっ? こちらの氷菓子は? 申し訳ないですがこちらはすでに完売いたしましてよ。ごめんあそばせ」


 おふう、やっとか! とはいえ必死に削っていたからどれだけ出たのかなんて分からないんだけどね。


「ラストオーダーやで。あと氷7つで終了やわー」


「いよっし、あとひと踏ん張りだ。頑張れみんな」


「「「おー」」」





 そして削りきった後、後片付けを済ませて売り上げの計算をする。想像以上の売り上げにほくほくだ。


「えー、予想以上の売り上げ速度により完売しました。片付けも終えまだ昼過ぎということもありますので……各々自由行動で祭りを楽しんできてよろしい。はい、これは売り上げがよかったから特別手当てです」


 大人には銀貨10枚、子供には銀貨5枚を進呈する。おおおと歓声が上がり興奮しているのがわかる。特に奴隷である三連娘の興奮度合いが激しい。自由行動を許されたばかりか小遣いを渡されるとは思ってもいなかったのだろう。


 子供たちはカグラさんとディリットさん引率の元、屋台やイベントを見てまわるらしい。こんな大きな規模の祭りは初めてらしく非常に喜び勇んでいる。ミタマとフツノさんは同じく屋台めぐりではあるが今年も全制覇を目論んでいるようだ。フツノさんは『びっくり鈍器ーな売り出し』に心惹かれていたけれど。うん、俺もちょっと興味があります。



 そんな俺はどうするのかといえば……。



「ノブちゃん、ごめんねぇ」


 屋台にて具合を悪くしたセフィさんを看病していた。

 魔道具を使ってはいたのだがやはりこの熱気にやられてしまい体調を崩してしまったのだ。お手製の団扇でゆるやかにセフィさんを扇ぎつつ日陰にてのんびりしていたりする。


「気にしない気にしない。たまにはこんなのんびりするのもいいもんだよ。ほら無理に起き上がらずに横になって。冷えたパイン食べるかな?」


「ありがと」


 シャリっと口に含みつつ照れたように顔を背けた。額に乗せていた手拭いをとり氷水に浸して絞りのせてやる。


「夕暮れまでには何とか体調を回復させるからぁ。ノブちゃんの勇姿をちゃんと見なきゃいけないものぉ」


「ははは、そう言われちゃ頑張らないとね」


「うふふ、そういえば二人きりでこんなにゆっくりするのも久しぶりに感じるわぁ」


「そう言えばそうか。最近ずっと慌しかったから」


「随分と昔に感じるけれどもノブちゃんに出会ってからまだ半年もたっていないのよねぇ」


「それだけ内容の濃い時間だったもの。俺の人生の中で一番濃い期間といって過言じゃないね」


「ね、ノブちゃん」


「どうしたの?」


「今、幸せ?」


「そうだね、胸を張って幸せだと言える。たぶんグラマダで一番幸せなのは俺じゃないかな」


「うふふ、どうかしら私かもしれないわよぉ」



 そんなやりとりをしている中、両隣の屋台ではちょっとだけ塩味のきつい料理が出されていたという。決して血の涙を流していたとかそういうわけではない。いくら幕を下ろしているからといって音は結構筒抜けだということを忘れていた俺が悪かったのだけど。







 夜の帳が落ちる頃。

 普段と違い今日この日のグラマダは昼日中のごとく明るさを維持していた。

 街中に設置された魔道具から光が溢れ道行く観客たちはこれから始まるイベントの主役たちを今か今かと待ちわびていた。


『紳士淑女の皆様、爺ちゃん婆ちゃんお子様たちよ、お待たせしました。これより『神殿だよ全員集合 ポロリもあるよ』を開催するぜぇぇぇぇぇぇ!!! 司会はお馴染み商業ギルドよりフールタチがお送りするぜぇぇぇぇぇ』


 オオオオオオオオオオオオオオオオ


 天にも届かんばかりの歓声がグラマダ中に響き渡る。









『今回はアドバイザーとして鍛冶ギルドからみんなのギルド長ピーティア氏と冒険者ギルドより氷の受付嬢エレノア氏をお迎えしてお送りするぅぅぅぅ』


『はいはい、よろしくね。まさかコレに駆り出されるとは思わなかったよ、まったく』


『宜しくお願いします』


 面倒くさそうに頬杖をつきつつ右手を振るピーティアさんと普段と変わらず冷静に対処するエレノアさん。

 なんでそこにいるのか知らないけれどいつのまに!



『それでは各神殿より抜擢された面子を紹介するぜぇ。まずはお馴染みこれまで4年間連続勝利、常勝不敗のアーレン神殿から!』


 ドーーンと大きな太鼓が打ち鳴らされ入場口より煌びやかな神輿が担がれ現れる。

 ふんだんに金箔や宝石があしらわれその財力が窺い知れる。悪趣味ではあるけどな!


『乗り手は神官長たる『アヴェサン』。担ぎ手は神官のなかでも親衛隊と呼ばれる筋骨隆々の選ばれしものたちだぁぁ。前評判はダントツの一位。愛用の武器である『漢槍ゲイ・ホルグ』はやはり使用しないようですがそれでも今年もド本命のこいつら。アヴェサン曰く『逃げも隠れもしない、やらないか!』。この肉弾要塞相手に各神殿勢がどこまでくらいつけるのかが見ものとなりそうだぁあ』


『しっかし毎年思うけれど毎回金かけてるよねえ。随分と景気がいいこった』


 冒険者やアーレン神殿関係者が一際大きな歓声を上げる。アーレン神殿は司るものが武と戦だけに信仰する人口も多い。しかも担ぎ手は誰も彼も美丈夫でうほっいい男であるからして観客の女性男性問わず黄色い声が上がり続けている。



『次いで登場するのは前回二位。鍛えられた肉体に魔法で対抗。オルディス神殿からは信者たる魔術師ギルド所属で冒険者でもある『シュトローイム』。昨年惜しくもアヴェサンに敗れたことから肉体も鍛え上げ再びの参戦となります。前回と別人じゃないかと思われる皆様もいるでしょうが本人曰く『健康な食事と適度な鍛錬を課していたらこうなった』との事、いままでどれだけ不健康だったのかと問い詰めたい』


『ただあの筋肉の発達具合ですと戦闘で培ったものではなく鍛錬のみで鍛え上げたものだと推測されます。どこまで戦えるかは未知数でしょうか』


 魔術師らしからぬ肉体美を露にした男が神輿の上に乗りアヴェサンを睨みつけている。どうやらあの二人にはなにかしらの因縁があるようだ。そしてエレノアさん、筋肉みただけでそこまで判別つくもんなんだ。


『三番目に登場するのはアメトリス神殿代表『リサリ』。今回唯一の女性の乗り手です。手に持つ豊穣のメイスは女神よりの賜り物だとか。担ぎ手も半分は女性です。というか残りの男性陣よりもガタイがいいぞ。なんて包容力だ』


 テムロさんの持っていたモーニングスターに負けないサイズのメイスを片手で軽々と振り回し観客や信者にアピールするリサリ。しなやかで躍動的なその肉体からどんな攻撃が飛び出すのやら。担ぎ手のおばち……お姉様方も随分とガタイがいい皆様である。先ほどの殺気はいったいなんじゃろねー。


『ハディン神殿からは漆黒の全身鎧に身を包んだ狂戦士『エンディシ』。昨年は両手斧を振り回し善戦したと思われたのですがその衝撃に担ぎ手が耐えられず撃沈。今年は担ぎ手をさらに屈強な男たちで纏め上げリベンジを狙います』


『ちなみにあの全身鎧は鍛冶ギルドにて総力を挙げて鍛えられたもんさ。ご注文お待ちしております』


 2メートル近い長身の全身鎧男が両手斧を振り回している。シュコーシュコーと人ならざる呼吸音が聞こえてくるのは俺の気のせいでしょうか? ピーティアさんは何気に営業しているし……。


『五番目はルーティア神殿から神殿騎士『ストレイツ』。甘いマスクで女性の観客から黄色い声が絶えません。担ぎ手も全て美丈夫で揃えてきております。この神輿を倒したものは女性陣からの敵意は確実なんじゃないでしょうか。違う意味で恐ろしい』


 なにこのホスト集団。神輿も非常に軽い造りになっており本体もそれを担ぐものたちもキラキラして目に痛い。アーレン神殿の連中とは違いえらいなよなよしているな。


 そして紹介は最後の俺たちへとまわってくる。


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