閑話その14 夏祭りだよノブサダさんSP①
やらないか(・∀・)
「夏祭りやっ!」
部屋へと駆け込んでくるなりフツノさんは鼻息荒くそう言った。
俺としては一体何がなにやら分からない訳でぽかんとしている。一緒にポーション作成に精を出していたセフィさんでさえ似たようなものだ。
「あれ? ノブ君ノリが悪いで。一月後に迫る夏祭りに向けて準備せんでええのん?」
「は? そんなのあるんですか? いやまったく何も聞いてなかったんですけど」
「そういえばもうそんな時期なのねぇ。ほんと年月がすぎるのって早いものだわぁ」
「セフィはん、年月が過ぎるの早いってとしよ「キッ」……いやなんでもないねん。せやけど和泉屋ではなんぞ屋台とか出さへんの?」
んー、扱っているものが出店向きじゃないからなぁ。それに過去どんな出店がでたか分からないからどんなものが売れるのかデータが欲しいところだ。
「いつもはどんな出店がでてるんだろ?」
「そうねぇ、昨年だとマニワちゃんのところが筋肉油そばだったかしらぁ。マッスルちゃんたちと一緒に小麦色の焼きそばを売っていたわよねぇ」
「せやったね。あとは食べ物の屋台はもちろんとして即興で木彫りの像を作ってくれる早業職人とか縄の早抜け競争とか筋肉自慢大会なんてのもあってん」
「だったわねぇ、師匠さんとかマニワちゃんとかマウちゃんなんか張り切って出場していたのを覚えてるわぁ。そういえば上位陣ってうちの関係者ばっかりねぇ」
師匠達なにやってんのよ。なんで夏祭りにボディビル大会があるのかは不問としてうちが屋台を出すなら他にないもののほうがいいよな。折角なら利益も出したいし。
んー、そういえば氷って貴重だよな。だったらシャーベットなりかき氷なんか出せば売れるんじゃないか? 俺かセフィさんが氷を作り出せば原材料費はほぼタダで賄えるだろうし。
「去年の屋台で冷たいものを売っていたところってあるかな?」
「……果実水やお酒くらい。食べ物も冷たいのはなかったよ」
うおう、びっくりした。ミタマいつの間に来ていたんだ。
「およ、ミタマもきててんか。ノブ君、ミタマの情報は正しいで。なんせ屋台全制覇を成し遂げてんからね」
ミタマの頭を撫でつつ誇らしげに胸を張るフツノさん。むうう、けしからん。いや、そうではなくミタマならばとつい納得してしまうのであるな。
「だったらさこの間作った棒アイスとかかき氷を屋台で作ったら売れないかな? 氷も俺かセフィさんが作ればタダだし暑いから飛ぶように売れると思うんだ」
「……賛成。あれは暑い日には最高だと思うの」
「せやね。うちにはマジックリュックが仰山あることやし保管も簡単やけんね」
「ん~、氷に囲まれているなら外でも暑くないわよねぇ。それならいいかしらぁ」
そんな感じで決まりかけた時だった。
「祭りと聞いて!! 妾を除け者にしないでほしいのじゃ!」
バーンと扉を開けてカグラさんの登場。そういえば最近影が薄いとお悩みだったとかそうでもないとか。
「屋台ばかりではなかろう。最後に各神殿の神輿がぶつかり合い各々の掲げる御旗を取り合う『神殿だよ全員集合 ポロリもあるよ』を忘れてはおらんかえ」
なんだその夜八時台にやっていそうな競技名は! ポロリもあるだと! けしからん、まっことけしからん。だがよく考えたら神輿を担ぐのは男どもばかりな気がする。
「あれなぁ。でもここ数年は毎回アーレン神殿の一人勝ちやろ? あの神官長が出るようになってから出来レースな感じが否めへんよ」
「アヴェサン神官長だったかのぅ。確かにやつが出るようになってからはそうじゃな。だがホレ今年はここにレベリット神の使徒である主殿がおるわけじゃし大穴が期待できるんではなかろうか。使徒となれば神輿に乗っても文句はでないじゃろ?」
キラリとフツノさんとセフィさんの目が光る。
「ふむむ、それならばレベリット神殿の一点買いって面白いやんな」
「そうねぇ、ちょっと血が騒ぐわぁ。奮発して買い占めちゃおうかしらぁ」
えーっと状況が読めないんだが……。やたらと鼻息の荒い酔っ払い三人衆が駄目な大人の代表格みたいな雰囲気を醸し出しておりますぞ。
「ちょっといいかい。状況が分からないんだがその競技ってなんか賭けたりする訳?」
「おお、主殿は初めてじゃったの。詳しく説明するとじゃな……」
カグラさんから説明された競技内容は以下の通り。
・各神殿から選抜された代表者が神輿の上に乗り他の神殿の神輿に掲げられた御旗を奪い合う。
・神輿の担ぎ手は定員20名までで男女は問わない。
・担ぎ手は武器や魔法の禁止。神輿の上に乗る代表者のみ完全武装可。
・全ての御旗を集めるか終了時間がきた段階で最も御旗の多い神殿が勝者となる。
・旗を奪われるか神輿を土につけた時点で失格。
・また見て楽しむだけでなく街主催による神殿トトカルチョも同時開催。
なんというかやたら規模の大きな騎馬戦みたいに思えてきた。
「ちなみにレベリット神殿の成績は?」
そう聞けば皆視線を逸らして苦笑いをしている。
「……開始5分でリタイアっていうのがここ数年の成績、かな?」
オーマイゴッド。だがさもありなんって感じだ。とりあえずこの件に関してはベルのやつに相談してみるか。
「とりあえず屋台のほうを先になんとかしようか。出す申請は商業ギルドでいいのかな?」
「そうねぇ。そっちのほうは私とフツノちゃんが行ってくるわぁ」
「お願いします。屋台は自分らで建てるの?」
「そうじゃの。妾も知り合いのところで手伝ったことがあるが屋台は場所が割り当てられてから自分たちで建てておったのじゃ。大体の大きさやなんかは覚えておるぞ」
「それじゃミタマとカグラさんは木材の手配をお願い。俺はシロップやなんかの食材を見てくるよ。そのついでにベルにも話を聞いてくるわ」
「……任せて」
という訳で『ヤオエイト』へと食材の選抜に来ました。果てさて何がいいかなっと。
「へい、らっしゃい。おおノブサダ。今日はなにをお求めだい?」
「くまはっつぁん。今が旬の果物って何があるかな?」
「そうさなあ。杏に無花果、キウイにサクランボ。あとはパイナップルにマンゴー、メロンなんかも美味いぜ、らっしゃい」
「ほうほう、確かに良い粒揃いだ。それじゃ今の全部かご一つずつ買っていくよ。それと砂糖を三袋」
「毎度! 相変わらずいい買いっぷりだ。おまけにちょいと時期がすぎちまったがこの枇杷をつけとくぜ」
「お、ありがとう。んじゃこれお代ね」
「ひの、ふの、みと、毎度あり。また頼むぜらっしゃい」
「あいよー」
結構な量だがシロップにしたり棒アイスの中に混ぜ込んだりそのまま凍らせたりと色々と使い道が考えられる。試作中にみんな食べられそうで怖いが……。
「おーい。ベルいるかー?」
気軽に声をかけて最近少し修繕されたレベリット神殿に入る。
まったく警戒していなかったところへシュンっとなにか小柄なものが俺の下腹部へとタックルしてきた。
「んごふっ」
強烈なヘッドバッドをくらいのた打ち回りたいところをなんとか我慢する俺にぶつかって来たソレが涙声で訴えかける。
「ノ゛ブザダザン゛ー。助けてくださいー」
お前はノ○太くんかベルよ……。
とりあえず縋り付くベルをなんとか宥めすかして離れさせる。そして落ち着いたところで事情を説明させた。
大体の予想はついていたが例の『神殿だよ全員集合 ポロリもあるよ』の件だった。実はレベリット神殿の神輿は昨年の競技の際にアーレン神殿の攻撃を受け大破しており修理するお金も無かったため放置していたという。それを一ヶ月前のこの時期に思い出しどうしたものかとオロオロしていたところに丁度よく俺が来たということだ。やれやれだぜ。
「まあ神輿はこれから作るにせよだ。ベル、それを担ぐ人員と上に乗る人は決まっているのか?」
「そ、それがそのぅ……」
うん、まったく決まっていなかった。
昨年はなんとかレベリット信者のうち6人ほど見繕い神輿を担いでもらったらしい。それも資金不足による極小サイズの神輿と上に乗ったベルが小柄だからできたことでありもはや参加するためだけのものだったようだ。開始五分もよく持ったと思うよ、本当に。
「神輿は……ま、なんとかしよう。ただし資材代は分割払いな。それと乗り手と担ぎ手は誰でも構わないのか?」
「うう、助かりますぅ。担ぎ手には特に制限はないはずです。ただ、乗り手は神殿の代表となるので信者か神官でないと駄目です」
「んじゃ俺が乗るのはありなんだな? それと担ぎ手を俺が集めても問題ないな?」
「はい、はいっ。寧ろ願ったり叶ったりですよぅ。去年、アーレン神殿の神官長に圧し掛かられて酷い目にあったんです。神輿はそれで壊れちゃうし」
いよっし、ならば出来レースを覆し大穴を引き当ててやろうじゃないか。ちょっとお祭り男の血が騒いできたぞ。




