第129話 和泉屋繁盛記その11
人気のないここは北の森の奥。そう、俺が初めて人を殺めた場所でもある。
かつてあの冒険者たちを生き埋めにした場所は既に草木が生い茂り土肌などは見えなくなっていた。
こっそりと夜中に空間転移で家を抜け出し今に至る。
器を作る要領で石の棺を作った俺は二人の遺体をそっと納める。
『大地掘削』で墓穴を掘り棺を設置して自らの手で土をかけて行く。軋んだ体が悲鳴をあげているが自らの手で埋葬するのが俺の手で命を奪った二人へのせめてもの誠意だ。ギルドマスターたちは? 敬意がないのだから仕方あるまいて。
墓石にしては簡素だが大小二つの削りだした石を並べ持ってきていた花を献花する。バンジロウのほうには清めとして俺謹製の日本酒をワンカップほどかけておいた。
「死んだ後くらいは安らかに……」
あとはせめてもの慰めとして周りに花の種を蒔いていく。花屋で一山いくらの花の種。物がなんだか分からないけど色々と混じっているらしい。周囲を魔法で耕しふかふかにしたので芽吹く確立は高まるはずだ。
おっといけない危うくわかもとサンの種を蒔いてしまうところだった。墓守のわかもとサン二号は賑やかしすぎるので却下だ。特に幼女のほうには安らかに眠ってもらいたいのだから。生み出した濃魔力水を散布したので近いうちには花で一杯になるだろう。
両手を合わせて冥福を祈る。こっちの世界の作法は知らないけれど祈るという行為に違いは無いと思う。
空間転移で戻ってきたのだが目が冴えてしまって眠れないな。
流石に療養中ということもあって部屋には俺一人である。
そういえば覚えた魔法とか確認していなかったな。えっと確か刀術、忍術、神聖魔法だったよな。
『有揉不断』
闇が刀身を包み込み斬っても相手を傷つけることはない武技。だが、痛みや感覚は伴うためショック死する場合はあるので注意が必要。発動すると解除するか刀を放すまで効果は持続する。
その昔、リューヘイという中年の鳥好きの侍がひょんなことから『どうぞどうぞ』とDAバードという鳥の処刑を押し付けられ執り行わねばならなかったんだと。なんでも領主様のカツラを啄ばんでしもうたのだとか。リューヘイは大層困惑したそうな。大好きな鳥を自ら殺めねばならんのかと。悩みを抱えたままの処刑当日。悩む心そのままに刀を振り落としたそうな。するとあんれま不思議なこと。パタリと倒れたはずのDAバードがすぐにむくりと起き上がったんだと。一度死んだものを再び殺すのは忍びないと領主様はリューヘイに鳥をくれてやったそうな。それから死ぬまでDAバードはリューヘイと一緒に暮らしたそうな。めでたしめでたしヤー。
なんという拷問用! もしくは鍛錬にぴったりですな。怪我の心配なく思いっきり戦えるなら嫁さんたちとの鍛錬も本格的に出来るね。
というか説明長いよ。どうして日本昔ば○し風なんだよ。
忍術Lv2
房中術
男女の和合により体力、魔力、生命力を与えたり貰ったりする秘術。
……ぇー……。
いや、うん。レベル2だと初級だよね。なんでこんなん出るんでしょう、わてくし。誰にも言えんがな!
神聖魔法
Lv6
リジェネーション 再生の魔法。欠けた四肢や臓器なども復元することが可能。ただし失われた欠損部分を復元するともなると儀式の形態をとらねばならないほど魔力の消耗が激しい。
ストレングスアップ 一時的に筋力を増強する。
バイタルアップ 一時的に耐久力を増強する。
アジリティアップ 一時的に敏捷性を増強する。
デクスアップ 一時的に器用さを増強する。
インテリジェンスアップ 一時的に知力を増強する。魔法威力も併せて上昇。
メンタルアップ 一時的に精神力を増強する。魔法耐久力も併せて上昇。
おおお、随分と盛りだくさんだ。アップ系は暗黒魔法のメルト系と対になるような魔法だな。そしてリジェネーション。タタカの火傷跡を治してやれるかもしれない。自由になったら時間をみて練習するとしよう。
ふむ、なんだかんだで粒揃いの成長だったようなきがしないでもない。よきかなよきかな?
……そして暇だ。
ならばと作業台を取り出し鉄蟻の甲殻を魔工を用いて加工していこうと思う。
魔力を指先へと集め湾曲した甲殻を平らになれと念じながら伸ばしていく。徐々にだが魔力の浸透と共に平たく伸びていく甲殻。それをただただ延々と繰り返すだけ。魔工とは忍耐力が求められるのだ。そして事単純作業において俺は無類の集中力を発揮する。
伸ばす伸ばす伸ばす伸ばす
伸す伸す伸す押忍
こうして出来上がったものが鉄蟻の甲板となりこれを基点に色々な物へと作り変えるのだ。
延々と作業を繰り返すこと二時間ほど。作業台に置ききれなくなり床へとぽいぽい積み上げ始めたのはいつだったか。それに結構前に一度魔工のレベルが上がっていたっけ。鉄蟻素材の加工は結構な経験値をもたらしてくれるらしい。
さてこいつらをどんな風に売り物へと作り上げてやろうか。とりあえずまだ複雑なのは無理なんだよな。うん、細くカットして指輪や腕輪に加工してみようか。消費する素材も少なくて済むし数多く作れるってのは魅力的だ。それだけ経験を積める。
作業台に加工用の専用マットを敷き準備完了。これがないと作業台は傷だらけどころか下手をすると切断されてしまう。
先ほどまでは指先へと溜めていた魔力を薬指の爪の先へと一転集中する。定規を使い指先をあてがうとシュピっと爪を一閃した。これで既に切れているのだ。
先の加工で隅々まで行き渡った俺の魔力へと反応させ集中させた爪の先で分子を瞬断するという説明すればすごいが実際は勘でやっているという技術だな。ジルーイさんもそうだったし。
シュピッシュピッと蕎麦切りのように鉄蟻の甲板を加工していく。もうここまで来ると眠気なんておさらばしていた。
切り出した素材を単純に繋げてしまえば指輪の完成となる。これはまるで溶接のように端と端を繋げるのだが繋ぎ目が分からない程しっかりと繋がる。原理? よく分からないな。師匠風に言えば細かいことはいいのだよ。
ちなみに魔工で加工した指輪や腕輪にはサイズの基準は無い。なんせ使用者の魔力を注ぐと自然とその使い手に合わせたサイズへと変化するからだ。それ故に大きく作ってあることが多い。魔法って不思議よね。
しかしただ繋げてはい終わりでは味気ない。
なんかいいアイデアはないものか? 記憶の引き出しを片っ端から開け放つ。
そうしているうちにあっちでの仕事中、本の品出しをしている中でゼ○シィなどに代表される女性誌に記載されていた記事について思い出した。宝石やらなんかを据え付ける他に幾重にも巻かれたリングやそれの余った部分をくりくりっと捻ったり加工したりした見本をちょっとだけ覚えていたようだ。
あまり関心が無かったせいか消えてしまいそうなほどおぼろげな記憶をなんとか呼び起こしつつ数うちゃ当たるの精神で羊皮紙へと書き留める。掛かったのはものの十分程度だが何時間にも感じられるほどぐったりしていた。縁のない知識ってのは覚えているのが難しいよね。
大量に書き出されたデザインを元に一つずつ丁寧に加工を開始した。
魔工は専用の加工機材もあるらしいのだが俺の手元にはない。ジルーイさん曰くそれらは専用の職人が作るものでギルドに加入している人しか買えないそうだ。とりあえずまだ熟練度も低いので指先でなんとかしよう。
くにんくにんと格闘すること数時間。すでに夜は明けうちの屋敷でも誰かが食事の支度に走り回っているようだ。
段々と楽しくなってきた俺は捻じりを加えて内側を慣らし人差し指の先だけだった切断加工も何本かの指を使い分け細工を施せるまでになっていた。纏め切りはね花細工のようなものからかもめや小鳥、にゃんこの顔なんかを模したものなんかも量産していく。
台座を作って研磨した宝石を乗せても面白いかもしれない。お高いものじゃなく何かしら付与したものをつければ指輪自体に施す付与と重なって増幅とかしないもんかな。うむ、夢が広がりますなあ。
ま、細工したとしても指輪自体の性能は素材が同じなので変わらないのだが見栄えを良くすれば売れ行きに関わるものな。ちなみに付与前の指輪自体の性能はこれ。
鉄蟻の指輪
品質:高品質 封入魔力:13/13
アイアンアントの甲殻を加工して作った指輪。黒光りするその指輪は無骨なものだが丈夫で軽く指先の仕事も妨げない。
うむ、見事に何の変哲も無い性能である。
コンコン
「主殿ー。朝食じゃぞ……ってなにをしておるのじゃ。安静だと言っておったじゃろう」
「おはよう、カグラさん。いや、なかなか寝付けないから手をつけたらついつい熱中しちゃって」
「ということは徹夜したのかの。まったく折角我らが休むように取り計らったのに無駄になるではないか。ほれ、他の連中に見つかる前に仕舞っておくのじゃ」
「う、うん」
「今回は内緒にするゆえ朝食を食べたらちゃんと休むんじゃぞ。妾とて主殿が無理して倒れたら心が痛むのじゃ」
「ごめんね、カグラさん」
「朝食はおむすびじゃからこちらに置いておくのじゃ。食器はあとで妾が下げにくる故にな」
「ありがとう」
にっこりと微笑を浮かべカグラさんは部屋を後にした。うーむ、心配かけちゃったか。ここは大人しく朝食食べたら休もうかね。作った物や素材を次元収納に仕舞ってっと。
ぱくり
頬張ったおにぎりには鮭が入っておりいい脂と塩気をだしている。うむ、やはりおにぎりには鮭か梅干がいいやね。持ち込まれたそれをペロリと平らげごろりと横になった。
ふう、余は満足じゃ。
出来た指輪に付与を施すにしても触媒も買いに行かないといけないな。何度か使えるが駄目になるまではランダムだしこれからレベルが上がったら違う触媒も必要になるしな。たしか能力値上昇の付与だったはずでこれらは一発こっきりの使い捨て。かなり値が張る代物だったはずだ……おっと徹夜したぶん今頃眠気が襲ってきたようだ。とりあえず今はゆっくり休ませてもらいますかね、おやすみなさい。
次回から夏祭り編入りますよ!
早ければ明日の朝には上げれるはず。




