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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第六章 和泉屋繁盛記
143/274

閑話その13 な○○○り変

なつまつり編かと思った? 残念、なま物祭り変だったりします。

ごめんなさい、石を投げないで。ちゃんといま書いてますからぁ。


今回の更新はここまで! 連続で上げたので最新話できたひとはバックしてちょーだい!



 ~~side???~~



 これはレコが和泉屋へ潜入する前のお話。


 ホーホーホー


 フクロウが瞳を光らし獲物を狩るそんな真夜中。


 暗がりを音も立てずに走る影が和泉屋を視界に捉えていた。


「目標はあれだな。ふうむ、何の変哲も無い中堅の店といったところではないか。これであんな法外な報酬が出るとは罠ではないのか、蛇よ?」


 もう一人の影がその疑問に対し指向性を持った声にて答える。


「俺もそう思って裏を取ったんだがな。依頼主は間違いなく錬金術ギルドのお偉いさんだ。それにだ、甘く見るなよライドゥーン。情報が確かなら今まで三組は失敗している。俺らと比べても然程遜色の無い手ダレが……だ。それも失敗したやつらは裏の仕事から足を洗うっていうジンクスつきだとさ」


「なんだそれは? 大方こんなところで失敗して顔向けが出来ないからではないのか」


「俺も不思議に思ってな。その中の一人に伝があったから直に聞いてみたのさ。だがここに関しては一切喋ることを拒否されちまった」


「ううむ、ここは魔窟か? 今更ながら少々後悔してきた感が否めんな」


「受けちまったんだから仕方あるまい。さ、いくぞ」


「うぬ」




 厳重に締まった正面口から姿を隠し子供背丈ほどもある柵を難なく飛び越え中へと進入する二人。


 彼らが庭先へ足を踏み入れた途端、あたりの空気が一変した。何者かに絡め取られたかのような怖気を感じる二人。すぐさま外へ出ようと振り向こうとするがなぜかそちらに向かない自分の足。己の身体なのにまったく言うことを聞かないことに二人とも恐怖感で一杯になっていた。


『ふはははは、掛かったなゴロツキども』


 宵闇の空間に上がる野太い声。思わずあたりを見回すもどこにも人影は見当たらない。


「だ、誰だ! 何処にいる!!」


「あそこ! 屋根の上か!」


 3つの月明かりに照らされその姿が現れる。


『テンガ呼ぶ! 恥が呼ぶ! 俺っちを呼ぶ! 悪を倒せと泣き叫ぶ! 誰が呼んだか正義のナマモノ、わかもとサンここに見参!!』


 そこに居たのはつま先から指先までビシィっとポーズをきめたまんどらゴルァ。月の光が根毛一本一本を照らし出し夜露に濡れじめっとした表皮が怪しく際立っていた。夜露を吸収したためか頭頂部の葉は瑞々しく生い茂っており品質の高さをうかがわせる。


「なにぃ、マンドラゴラが機敏に動いているだと!?」


「解せぬ、なんであんな満足げにポージングを極めているのだ」


 すでに彼らの恐怖心はMAXである。アレ風に言えばまさにSAN値が大ピンチなほどだ。


『おいおい、こっちはまだなにもしちゃいないっつうの。だーがぁー、ここへ入ってきた以上はただでは帰さん、あ、とうぅ』


 屋根の上から軽やかに飛び上がったその身体は……ずぼっと地面へと突き刺さった。


『おおっとぅ、侵入者用の落とし穴に落ちちまったい。こいつぁいけねぇ』


 それを見て冷静さを幾分取り戻したのか二人はお互いを見合わせる。


「こ、こうなればこいつをヤって逃げ出すしかない」


「う、うむ、異存はない。穴に嵌っている今が勝機ぞ」


 後ろに下がれぬならと前へと駆け出す。


『させぬわぁぁぁぁぁ、わかもとサンフェェェスティバァァル!』


「「ほぐお!?」」


 いつの間にか足元に延びていた蔓が男たちの足を掬い上げる。


『わぁぁかもとサンカーーーーニバル!』


 そのまま足を吊り上げられる格好で干物の如く宙ぶらりんの逆さ吊りとなった。


『わかもとサァァァンハンニバル!』


 それは人名だと突っ込む相手もいないまま技は繰り出された。

 ぶしゅあっと霧のようなものがわかもとサンの両手から噴射され男たちの顔を濡らす。意識はあるため慌てて袖を使って拭き取るも目の前がぼやけて何やら夢心地になってきた二人。これ実のところわかもとサン自身の体液である。薄め加工して尚あれほどの効力を発揮するまんどらゴルァの汁、それを原液で浴びればどうなるか……なんとも恐ろしいことになること請け合いだ。


 そんな朦朧とした意識の中、彼らへ怪しく囁く声がある。


『よぉしよし、いい子だぁ。貴様らは今まで悪い子だったがそれは先ほどまで。だぁがぁ、これからは違う。清く正しく我と若ぇのを敬い奉らん』


 その身が怪しく揺れ動き視覚から催眠を誘導し心層のさらにさらに深い場所へと語りかける。


『そぉだぁ、さすれば良いことがあるんだぞぅ。具体的に言えば貢献度合いによって和泉屋割引サービス券が配布されるとかなぁ。貴様らは我が手足、多少汚い手を使おうが構わない。和泉屋を守れ、グラマダを守れ、罪無き人々を守るのだぁ、だぁ、ダァ、ダァ……』



 それはまるで天啓の如く二人の心の隙間に入り込む。見方を変えれば毒素のようであろう。実際、洗脳のようなものだし。







 チュン、チュン、チュン




 ――さ―


 ――さん


 お客さん!


 なにやら朦朧とした意識が覚醒を始める。目の前には心配そうな顔をした少女が不安げに二人を覗き込んでいた。


「お客さん、どうしました? うちの開店はまだなんですけれども」


 開店前に店先を掃除しようとしたティノが座り込むようにへたっている男たちを見つめる。


「も、申し訳ない。どうにも昨晩酔って寝こけてしまったようだ」


「そうなんですか。暑くなってきたとはいえ夜中はまだまだ冷えることもありますから気をつけてくださいね」


 見ず知らずの男に心底心配してくれる少女に若干キュンとしつつ慌てて未だ寝ぼけ眼の相棒をゆすり起こした。


「ああ、すまないなお嬢さん。今後はちゃんと気をつけるよ。おい、いくぞ」


「ふ、ふおう、おう」



 それらを地面に突き立ったまま感じる影が一つ。



『ぬっはっはっは、これでまた悪が一つ、いやさ二つ消えた』


 満足げにくつくつと笑うわかもとサン。


 やっていることは正に悪役だがそれは置いておこう。


 頑張れわかもとサン。行け行けわかもとサン。自力で脱出できないからとノブサダに引っこ抜かせる時は近い!



 こうして和泉屋魔窟説は徐々にだが裏社会へと広まっていくのだった。


















 ~~sideタマちゃん~~




 タマちゃんは悩んでいた。



 生まれてすぐに出会ったご主人様であるノブサダ。


 それからずっと一緒にダンジョンの中へと潜ったり一緒に寝たり触れ合ってきた。


 でも最近はちょっとだけ寂しい思いをしている。


 ご主人様であるノブサダの周りにはどんどん魔物や人が集まってきている。


 その中にはどんなに背伸びをしても勝てそうに無い髭のなまものや自分の専売特許であった薬の原料を作り出す魔物二号の存在がある。


 魔物三号にも随分とご執心だったのも覚えている。


 タマちゃんの中に嫉妬という新たな感情が芽生え始めていた。


「おーい、タマちゃーん」


 そんな折、自分を呼ぶ声がした。


 最愛のご主人様である。


 ヒュウウウウウン


 風を切り最高速度で彼の人の肩へと着地するタマちゃん。


「おお、流石どんどんレベルがあがっているだけあって早いね、タマちゃん」


 そう、弱かった当初に比べて随分と強くなった。ご主人様のおかげでこうして空を飛ぶことすらできるようになったのだ。


「今日はこれからやることもないしちょっとのんびりしたかったからさ。随分と行ってなかったけどタマちゃんの母親の墓参りでもしてそのあとは秘密のあの場所でゆったりしようか」


 ぽよんぽよんぽよよん


 先ほどまでの暗い感情はどこへやら肩の上で陽気に弾むタマちゃんがいる。




 ノブサダが最高速度で誰もいない草原を疾走する。いくら成長したとはいえまだタマちゃんにこの速度をだすのは無理なので今は大人しく懐の中へ収まっていた。



 そうして向かった先は北の森のなかにあるとある一角。そこは何種類もの花が咲き乱れる場所。いままで誰にも言っていないノブサダとタマちゃんの秘密の場所だ。


 その一角の隅のほうに小さな石でできた墓石がある。そこには日本語でタマ母ここに眠ると刻んであった。


 神妙な顔で亡きタマちゃんの母へと手を合わすノブサダ。それがどんな作法か分からなくとも死んだ母のために祈ってくれているのだとタマちゃんは理解していた。覚えているのはノブサダの前へと自分を守るように立ち塞がった大きな体。それもほんの一瞬だけの出会いではあったがそれはタマちゃんの心へ強く強く刻まれている。



 ゴロン



 花畑の端っこでごろりと転がり目を閉じるノブサダ。

 タマちゃんもそれに習ってその隣へと着地する。


 彼は日ごろの疲れからかやがてスースーと寝息をたてて眠りへと落ちていた。



 まどろみながらも彼女は思っていた。いつか自分も皆と同じように強く抱きしめてもらいたいと。だからこのまま成長を重ねていこうとも。いつか夢見た姿へと進化する希望を抱きながら。


 先ほど僅かに生まれた嫉妬などどこへやら。やがてタマちゃんも眠りの世界へ身を委ねた。今、この時だけは自分がご主人様を独り占めだという満足感を持って。



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