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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第六章 和泉屋繁盛記
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第128話 和泉屋繁盛記その10

まだだ、まだ終わらんよ!


 施設を大地に埋め込んでいる間先ほどまでのことを考えていた。


 ・組織ぐるみでやっているかは不明だが時空間魔法を使える者を強制的に拉致し奴隷として扱っていた。

 ・ギルドマスター(そういえばいまだに名前を知らない)は地下施設で人造の魔族を造り出す研究をしていた。

 ・それには協力者か支援者が存在している可能性が高い。テラーズ閣下と言っていたくらいなので身分が上のものであろうと推測される。

 ・研究に寄生粘菌を使用していることからダンジョンに関する事件への関与も疑われる。


 現状分かっているのはこれくらいか。あとは戻ってから回収した資料を紐解くとしよう。




 マナポーションをぐい飲みしつつ3人の亜人の女性が囚われている部屋へと戻る。


 あのとき話していた女性は扉を開けたときビクンと反応していたが相手が俺だと分かるとほっとした表情を浮かべる。残りの二人も似たような反応だった。恐らく目覚めてから俺のことを話したのだろう。

 そういえば彼女たちの奴隷紋が消えていない。あれ? たしか契約主が死んだら解除されるもんじゃなかったのかね。俺が不思議そうな顔をしていることから何かを察したのか女性が口を開く。


「ご無事でしたカ。奴隷紋を見て不思議そうな顔をサレていましたが今現在ワタシたちの主はあなたになっていまス。無理矢理奴隷紋を受けた際に複数人で契約していたのを覚えていまス。現にワタシは何度か主人が代わっていますカラ。恐らく前の主が死んだことでアナタに契約が移り変わったのだと思いマス」


 そうなのか。そんな契約もあるんだな。


「すぐに解放できるけれども君たちはどうしたい? 君たちの希望を叶えよう」


 俺の言葉に激しく動揺する3人。こんな風に言われるとは思ってもみなかったんだろう。戸惑いと幾ばくかの疑念で俺を見る眼差しが不安定だ。


「よ、よろしいのデスカ? 普人族にとってワタシたちは大きな財産なのでショウ?」


「故郷に帰りたいと思わないのか?」


 俺がそう言ってすぐにその瞳から雫がぽろぽろと流れ落ちる。ずっと溜め込んでいたものが堰を切ったかのように溢れ出ているようだ。


「……帰りたい、帰りたいデス。あの時、村には両親と生まれてすぐの幼い弟がいましタ。ワタシは野草の採取に村を出たところを攫われたのデス。この子たちも似たようなモノ。もう一度、両親や弟の顔が見たいデス」


 その言葉を聞いてすぐに準備する。

 隷属魔法はLv1で奴隷化と限定解放の二つを覚える。限定解放はその名のとおり自分がかけた奴隷化しか解けないという制限がある。そこで奴隷化がほとんどカースと同じ魔法構成なことを利用しディスペルカースと組み合わせて改変することでその制限を解除することに成功していた。


 ――理不尽な契約にお困りのアナタ! 困ったときには法律相談所にお電話を(力技で叩き壊す)!!


「『契約不履行クーリングオフ


 詠唱? 俺には何も聞こえんな。

 魔法を発動した俺の左手は緑色の光に包まれていた。指先ですうっと奴隷紋をなぞれば波が引くようにそれは消えていく。女性たちはその光景を見て互いに抱き合いながら歓喜していた。


「これで解放は済んだ。故郷へ帰るのに馬車とか手配するかい?」


「いえ、奴隷契約から解放されたのナラばワタシが『空間転移』を使えマス。村への道しるべはありますからこの子達も連れて跳ぶことができるでショウ。この子達には帰ってから互いの村へと送ろうと思いまス」


「そうか」


「アナタには返しきれない恩ができましタ。コレを受け取ってくださイ」


 そう言って次元収納からビー玉大の黒い玉を取り出す。黒真珠に似て見えるが随分と大きいな。


「コレは『時空宝玉』。時空石を圧縮し魔力をさらに多く封じて出来上がるモノでス。アナタの魔力は覚えましたからコレに魔力を通せば転移座標として使えマス。そしてコレを目標に転移門を開いたりして手助けができるはずデス」


「貴重なものなんじゃないのか?」


「村に10個しかなかったモノではありマス。それでも今ワタシがアナタに報いることができるのはコレくらいしかないのデス」


 うむう、お礼を言ってくれただけでも今の俺は満足なんだがな。さっきの無力感が少しは薄れたから。

 だが、折角だから貰おうか。彼女の厚意を無碍にするのも悪いしコレが量産できれば転移が楽になるのかもしれない。


「ありがとう。そういえば名を名乗っていなかったね。俺はノブサダ、ノブって呼んでくれ」


「ワタシは撫闇族なでやみぞくのチルハでス。またいつかお会いしまショウ。ノブ、その日まで健勝でありマスように」


「ああ、また会おう」


 そして空間転移を使うと彼女たちの姿は瞬時に消え去った。色んな種族がいるもんだな。って識別先生に見てもらうのをすっかり忘れていた。残念です。あとでマーシュにでも聞いてみようか。知識の泉で何か分かるかもしれない。




 さて、あとは最後の後始末だけだ。



 再び血まみれのギルドマスターの部屋へと戻る。

 ギルドマスターの死体をベッドへ腰掛けさせて冒険者の死体を取り出し剣を握らせてギルドマスターへと突き刺す格好で固定。一人は首をなぎ払う格好になってもらう。最後の一人は羽交い絞めしている格好でいいか。死後硬直が始まっていないからなんとかなった。


 そして……。



「ファイアストーム」


 ゴオウと部屋一面を炎が覆う。あとは酸素が無くなるまで燃えていてくださいな。

 荒っぽいが冒険者三人がギルドマスターに反乱。だがギルドマスターは道連れに魔道具による自爆を試みた的な状況……というのは無理があるか? でもこれくらいしかできないわな。それじゃ人が来ると拙いので俺はここで失敬しますよ。一応、俺の魔力で発動したものらを解除し瞬間転移で予め確保しておいた安全地帯へ転移した。






 後日、街中では錬金術ギルドのギルドマスター『タンスコン』が雇っていたならず者に襲われ亡くなったとの噂で持ちきりになっている。自宅は地下より燃え上がった炎で半焼しており火元と見られる地下室にはおそらくギルドマスターと思われる遺体と犯人であろう3人分の遺体が発見された。物取りと被害者の反撃で火事が起きたのではないかという線で話は固まっており物証など火事で燃えてしまっていたためこれ以上の捜査は難航するであろうというのが騎士団などの見解らしい。



 その頃、俺はというと……。


「こーらノブ君! 起き上がってどこへ行こうとしてるんよ」


「いや、ちょっとトイレにね……」


「あかん。下の世話はうちらが交代でするって言うたやないの。さ、大人しく横になって。ゆっくり休まんと治るものも治らへんよ」


 諦めと絶望が入り混じった顔で俺は泣く泣く起き上げた身体をぼふりとベッドへ倒した。

 んふふ~と鼻歌を歌いながら嬉々とした表情で尿瓶を手にするフツノさん。もうどうにでもしてください、しくしく。


 はい、やっぱりでました反作用。それでも起き上がれないってほどではないんです。もんのすごい筋肉痛みたいな感じですね、今。やっぱり無理してとミタマたちにベッドへと括り付けられておりましたがようやっと動かせるようになったのでトイレにと脱出しようとしましたが失敗したようです。


 ま、両手は動かせるのであの時拝借した資料を読み漁りつつ体の回復を待っているしかないね。はふう。

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