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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第六章 和泉屋繁盛記
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第125話 和泉屋繁盛記その7

穴があったら入って引きこもりたいでござる。詳細は活動報告にて。



「そい、そい、そぉぉぉぉぉぉい」


 袈裟切り、切り上げ、打ち下ろし。


「よっ、はっ、ほいや」


 避けて、受けて、切り結ぶ。


 ギリギリと鍔迫り合いとなり肉薄するバンジロウと俺。


「おんしぁ力の抜ける掛け声ばかりあげよってからにっ」


 失敬な、至極真面目にやっているよ。ただそこらへんまで気を使えるほど余裕がないだけだ。

 時折、バンジロウのように通常の攻めの他に無言発動の武技を混ぜ込んでみるも『轟刀・銀光』は通常よりもまったく速度が出ないし『魔刃・絶刀』はいまいち飛ばない。やはり熟練度がまったく足りない為、うまいこと使えないようだ。


「確かに面白ぅ小僧じゃったがおいも雇われの身、そろそろ仕舞いにするがじゃ」


 すぅっと目を細めて先ほどまでの遊んだような気配は消え去り押しつぶさんばかりの威圧がビリビリと俺を刺激する。


「たしかに。俺も本気で行くとしますかね」


「はっ、何を今更。もうおんしの底は……見えてるがじゃ!」


 ズドンと一気に踏み込んで渾身の突きを放つバンジロウ。

 そしてその刃はいとも容易く俺の胸元に吸い込まれていき貫き通した。




 その瞬間、俺の姿は掻き消える。話の最中に練り上げていた忍術の幻術を発動させていた。バンジロウには何もいない空間に俺の姿が見えていたのだ。


 横っ面からどんっっと低空を飛ぶように駆ける。今までに無い速度で一気に詰め寄る俺に顔だけ振り向いて眼を見開き動揺するバンジロウ。その隙を見逃さず足首を切り落とすべく勢いを乗せたまま月猫で横薙ぎした。


「なんちゃぁぁぁ」


 不意の一撃に飛び上がりながらかわすバンジロウ。だがそれは愚策。こっちが体勢を立て直せないと思ったら大間違いだ。いつでもどこでもほいほい方向転換自由自在なんだぜ。

 すり抜ける寸前、自分自身と刀身に『空気推進エアスラスタ』で急ブレーキをかけると共に勢いをつけて下段から斜めに伸び上がるように切り上げる。

 正直、無理な体の動かし方で関節が軋むは腿の辺りが万力で締め付けられたような痛みでひどい。それでもここで決めねばと我慢していた。努めて涼しい顔を装っていたが正直、バンジロウの猛攻と識別先生による見取り稽古で俺自身の体力も気力もかなり一杯一杯なんだ。なんせずっとヒールをかけっ放しだったもの。前のように一日中動けないってのはないだろうけれど反作用がでるのは明日以降覚悟しておこうか。


「ぐお」


 バンジロウは驚愕しつつ身を捩り刀で受け止めようとする。


 ギイン


 金属音が鳴り響き刀身同士がぶつかり合う。

 それに僅かに表情を緩めるバンジロウだが俺のターンはまだ終わってないんだよ?

 ここまでは思惑通り。たとえ達人でも飛び上がった後、武器で受け止めればそれ以上の手はそうそうないだろうとふんでの事。


「『震刀・滅却』!」


 ヒィィィィィィン


 月猫の刀身から耳障りな音が発せられたと思えばあっさりと切り結んでいた刀を両断したばかりかそのままバンジロウの胸から肩口まで一気に切り裂いた。


 ドチャッ、ゴロゴロゴロゴロ


 鮮血が飛び散りりつつ転がるその体は壁へ叩きつけられることで止まる。


「げはっ、がっはっ」


 赤黒い血を吐き出し苦しそうに顔を歪めている。呼吸も困難なのかゼヒーゼヒーと荒く息をしていた。先ほどの一撃は肺をざっくり斬りつけたのだろう。


「く、ははは、まさか『震蔭流』の技を使うてくるっちゃ思わんかった。まったくもって予想のつかん小僧っちゃ。おんしは『震蔭流』の手のもんか?」


 首を振りそれを否定する。


「そうか、はははは、なんとも面白い死合いじゃった。げふっかはっ。『震蔭流』の技でおいを斬るとはなんとも因縁めいたもんば感じるがよ」


 もはや視線も定まらないのか虚空を見つめ尚も語るバンジロウ。その間もどくりどくりと赤黒い血が衣服を濡らしている。


「おいはな大恩ある御方から依頼されて幾人もの人を斬ってきた。だがその御方も自らが使うたように刺客に討たれてしもうた。その仇はそう『震蔭流』。おいはやつらを追って追って斬りまくったがじゃ。やがてその仇ば討つことができたがもはや為すべき事もありゃあせん。目的も無いままこんな西の果てまで流れてきて……こげん最後ば迎えるっちゃあ物語としちゃできすぎばい。小僧、名はなんちいうがじゃ?」


「俺はノブサダ。あんたは強かったよ。その技術は確かに俺の糧となった」


 これはまごう事無き本音だ。識別先生と魔法がなければ十中八九、俺は殺られていただろう。そして魔物相手に戦っているだけでは到底得ることのない技を知ることが出来た。


「ふ、ふはは、よか、よかよ。『震蔭流』ではないと言うくせにその技を扱う。だが、気ぃつけぇ。そいつを使えることが知られればやつらは執拗に追いかけてくるがよ。やつらの性根はおいがよぅ知っとるきに。おんしはおいに勝った身ぞ。つまらん死に方ばせんようにな。ほんなら冥土でおんしが来よるのを楽しみにしちゅうがじゃ、たんと武勇伝ば積み上げてきぃ」


 その言葉を発した後、ガクリと首が項垂れその口も動きを止めた。


 俺は次元収納に新たなスペースを作ってバンジロウの遺体を抱え上げて保存する。せめて墓でも作ってやろう。何となくそう思った。



 てってれ~♪ 刀術のレベルがあがりました。

 てってれ~♪ 受け流しのレベルが上がりました。

 てってれ~♪ 神聖魔法のレベルが上がりました。

 てってれ~♪ 忍術のレベルが上がりました。


 おお、刀術上がったか。神聖魔法に忍術まで! ま、確認は後だ。


 それにしてもミタマはうまいこと見つけたかな?


 先ほどから俺の背後にいたのはレコだけ。

 実はミタマはすでにギルドマスターの部屋へと潜入していた。先ほどの戦闘中、夢中になっているバンジロウを尻目に忍術を使って移動していたのだ。


 部屋に踏み込めば本棚の奥に配置された隠し金庫らしきものに苦戦しているミタマがいる。

 すでに通常の金庫は開けられており俺が希望していた書類やら何やらは机の上に並べられていた。どうやら隠し金庫のほうは魔法が掛かった鍵で施錠されており鍵開けのスキルでは難しいようだ。


「レコ、こういうの開けれるか?」


 神妙な表情で鍵穴から金庫全体を眺めている。金庫自体はさほど大きいものではない。現代日本で見たことのある物に近いのだが細部は結構違うようだ。というよりもどうやって作ったんだか分からないレベルの代物だ。


「ごめんなさい、これは私の手には負えないです」


 レコはあっさり降参。ミタマも御手上げのようだ。んー、これ材質はなんだ?


 鋼の錬金庫

 品質:高品質 封入魔力:20/20

 高度な錬金術で加工された金庫。魔法を施された鍵が使われており専用の鍵でないと開かない。


 OH、なんてハイセキュリティ。


 ……


 …………


 よし! 斬ろう!


 魔法的な高度防衛システムよ。蛮勇の力技に屈するがいい!


「『震刀・滅却』」


 狙うは右サイドぎりぎり一杯を両断。呼吸を整え震動する月猫を上段に構える。

 目を瞑り邪念を振り払う。精神は研ぎ澄まされ鼓動だけが一定のリズムを刻んでいた。


「ふっ」


 金庫の端へと垂直に振り下ろされた刀身は……何の抵抗もなく床へストンと突き立つ。


 ゴトン


 支えを失った金庫が倒れこみ中から書類らしきものが顔を出している。どれどれどんなもんを隠したがっているのかね?


 そこに記されていたのは錬金術ギルドの金の流れから王都からの指令書、粉飾決済の書類などやばいものの目白押しだった。特に目を引いたのが錬金術店の有名どころ数店とギルド上層部の連判状でありそこにはジャミトーの名前もあった。ふむ、どうやら王都からの指示をうけて他の錬金術店を囲い込んでいたのかな。わざわざ『誓約の証書』まで使っているのだからよっぽどの事だろう。『誓約の証書』というのはこれに記してあることに違約すると相応の報いがもたらされる魔道具のひとつだ。制約次第では命を獲られることもあるらしい。とりあえず机の上にあったのとここらの書類および壊した金庫はぽいぽいっと次元収納へ放り込んでと……。


 そして取りあえず何もなかったかのように片付けて二人は戻ってもらおう。





 案の定、ミタマは渋っているけれどもここは聞き分けてもらおう。俺一人なら瞬時に戻れるからと説得してなんとか納得してもらった。二人には屋根伝いに離脱してもらい俺は地下へと足を向ける。

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