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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第六章 和泉屋繁盛記
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第124話 和泉屋繁盛記その6

お待ちの皆様、お待たせしました。

お待ちじゃない皆様、ごめんなさい。

更新ですがやー。


 レコの件もひと段落したので次の日の朝、全員揃って紹介しあうことにした。いてて、腰が悲鳴を上げている。


 ジャパネは気の強そうな釣り目の女の子。赤毛のショートカットでメガネをかけさせたら美人秘書って感じになりそう。

 タタカは姉の陰に隠れて引っ込み思案である。火傷のせいか人目を気にしてしまうようだ。姿も完全も小さな女の子なんだが特筆すべきは胸部装甲。すでにミタマクラスの厚みがある。恐ろしい子! 

 二人並べて見比べられ姉は完全敗北に唇を噛んでいた。いや、すまんかった。

 因みにジャパネとタタカを揃えても北の街から南の街まで夢という名の荷物を届けることは無い。


 マウアフは緑色の髪をした落ち着いた女性。なんでも昔から貧乏くじを引いちゃうことが多いらしくもはや諦めの境地に達しそうらしい。ま、今は奴隷だけど前の職場並かそれ以上には優遇するんで頑張って欲しい。


 サーラには家事の責任者をお願いする。ディリットさんにはうちの従業員統括みたいな感じで動いてもらおうと思っているからだ。俺のほうでもいろんなレシピを伝えて食生活を豊かにしてもらおう。


 レコだが「私はもうご主人様とお姉様の愛の奴隷ですぅ」としな垂れかかって来たので再度隷属魔法で奴隷契約を結んだ。異魂伝心の契約でも良かったのだが一緒に身請けした皆の手前そうもいかなかったからである。そういや奴隷紋を消し去った件の魔道具についての詳細は得られなかった。とりあえずギルドマスター宅へ潜入したらそれも調べるか。彼女には普段は売り子を務めてもらいながら情報収集など裏方も任せようと思う。


 ともかくもこれでだいぶ補強はできたはずだ。

 店を空けても大丈夫だと思うがしばらくは素材の確保や人材の育成兼レベル上げに勤しむとしようかね。





 闇にまぎれて走る。俺達ゃ潜入捜査なのさ。


 したっと錬金術ギルドのギルドマスター宅に降り立つ俺達。全員、黒頭巾を被って忍者の格好である。あっちがレコの任務失敗に気付く前に先んじておこうっていう計画だ。

 メンバーは俺、ミタマ、レコの三人。本当はフツノさんの潜伏結界があれば尚いいのだが如何せん彼女は潜入任務には向いていない。いいタイミングで物音立てちゃったりするからだ。そういったフラグはきっと回収する定めを背負っていると思われる。


「レコ、今から空間迷彩をかける。外から姿が見えなくなるけどちょっとした衝撃で解けるから慎重に進んでくれ」


「はい、ご主人様。お姉様の妹様も申し訳ありませんが後ろを着いてきてください」


「……う、うん」


 お姉様の妹様って……。ミタマもちょっと顔が引きつっている。なんというか素直になったのはいいんだが随分と入れ込んでるな、おい。

 まあいい、空間迷彩をかけスニーキング・ミッションスタートだ!



 ギルドマスターの屋敷には流石金持ちと言わんばかりに衛兵が屯している。というか物々しすぎるぞ。常に複数人が見回りをしていた。こちらの潜入がばれたのかと思ったが平常でこんなもんらしい。なんというかいかにも何か隠してますって感じがするな。


 物音をたてないよう壁際をするすると移動する。

 識別先生のお仕事の結果、見回り、警護についているのはごろつきに毛が生えたくらいの面子だった。幸いにして直感などのスキル持ちもいないようだ。


 裏口へと回り周囲を確認。空間把握を駆使して中に人がいないことも確認した。防音魔法『無音空間サイレント』を展開してレコに鍵開けを頼む。


 カチリ


 問題なく開錠し中に入ればそこは厨房のようだ。

 慎重に慎重に進め。敵にばれたら隠れるダンボールはないのだよ。スニーキングミッション用に空間迷彩を付与した箱でも準備したいところだがジルーイさんの話では魔法をまるっと付与するには付与魔法のレベルが6にならないと無理だそうな。先が長いぜ。


 レコから聞いている情報ではギルドマスターの部屋は二階の奥らしいのだが……。でもすっごい気になる事があるんだよね、俺。

 この屋敷、随分でかい地下室があるっぽい。数人固まっているのからまったく動いていないし何かは分からないが生き物の反応もある。二階を探索し尽くしたら俺だけでも地下へ行くか。俺だけなら最悪閉じ込められても空間転移で逃げ出せるからね。修練の結果、俺単独で1キロメートルは跳べるようになったんだ。点滅修練結構効果ありますな。




 エントランスを抜けて階段を昇る。右に曲がった通路の突き当たりがギルドマスターの部屋だ。

 そういや名前すら知らないな。師匠たちの話では権力欲が強い小物でおべんちゃら一本でその地位まで上り詰めたとか。流石にそれだけではないと思うが総じてあまり評価はよくない。ジャミトーともずぶずぶの関係だったらしいしな。セフィさんが何度か会った事があるって言ってたが舐めるような視線で見られたらしい。あ、ちょっとイラっとしたので目に唐辛子汁をかけてやろうかな……。


 ゾクッ


 不意に嫌な予感が背筋をかけていった!


 先導していたレコの肩を掴み自分のほうへ無理矢理引き寄せる。

 その瞬間、先ほどまでレコがいた場所を一筋の剣閃が走った。



「なんちゃ変わった気配がすると思うたら侵入者かい。はっは、つい斬り込んでしもうたわいや」


 脇の通路から出てきたのはザ・用心棒的な中年の男。東方の装束に身を包んだその男の手には抜き身の刀が握られていた。眼光は鋭いが随分とやせ細っているように見える。何か病魔にでも侵されているのか? こいつは……。


 名前:バンジロウ・オカンダ 性別:男 年齢:42 種族:普人族

 クラス:武芸者Lv22 状態:梅毒

 称号:【人斬り】

【スキル】

 刀術Lv6 回避Lv4 受け流しLv4 威圧Lv4 身体強化Lv3


【人斬り】

 数多の人間を殺めた者が背負う業。人を斬る度に技量が上がりやすくなる。



 うお、こいつ、強いぞ。明らかに今の俺より技量は上だ。そして同情の余地のない病気持ちだった。


 とはいえここで暴れるには準備がいる。ミタマに合図を送り俺は魔法を練り上げ展開し始めた。


「はっはっ、おなごが前に出てきよるか。果てさてどんな塩梅かのぉ」


「……ふっ」


 一本、二本、三本と持っていた短剣を投げつける。最初の二本はキンキンと刀で切り払われ最後の一本は大きく外れ奥の壁に突き刺さっていた。


「ふっ、どこを狙っちうがか。ほれほれ、おいはこっちぞ」


 なんというか相手は遊んでいるようにしか見えない。

 だが流石ミタマさん。俺が言わんとすることを理解して短剣を投げた後は積極的に攻めるよりも回避に専念していらっしゃる。そして、全ての魔法を展開、固定し終える。展開後の維持にまで意識が回せなさそうなので多少時間をかけて固定することにしたのだ。


「ありがとう。あとは俺にやらせてくれ」


 こくりと頷き距離をとる。俺が相手になると言ったからかバンジロウはそのまま見逃したようだ。


「待たせたね」


「構わんがよ。何となくだがおんしのほうが斬り甲斐が有りそうな気がしただけっちや」


 全く持って物騒なことだ。次元収納から月猫を取り出し攻の型でもって構える。


「ふ、ふはははは、こげん西の果てに刀の使い手がおるんかい。ほんに面白いのぉ。おいはトサッチューマのバンジロウ。他んやつは人斬りバンジロウいいよる。今からおんしを斬り殺すもんじゃき」


 土佐なんだか薩摩なんだか知らないが凄腕の人斬りだって言うのは変わりようが無い。その技術、見せてもらおうか!



 バンジロウの剣技は荒々しかった。一刀一刀に必殺の気合を込めて振り下ろしてくる。振り下ろしたところで反撃を試みようと踏み込めば返す刀が俺へと斬り上がってくる。

 無傷で済ますことなんて無理だと悟り相手の刀目掛けてこちらも月猫を打ち付けた。刀は斬る物。わざわざ、狙って斬り付けてくるとは思っていなかったらしい。

 ちぃっと小さく舌打ちして範囲を広く取って斬り付ける形から突きなどを混ぜた捉え難い太刀筋へと移行するバンジロウ。その攻めに再び防戦一方になる。なんとか時に受け止め切り払うも少しずつ少しずつ生傷が増えていく。


「どうしよった。丸まって亀のごたるとすぱっと捌いて鍋になるとよ」


 それでも少しずつ、少しずつだが斬り合える回数が増え時には受け流せるようになっていた。

 魔法も使わずに防戦一方なのには訳がある。バンジロウが持つ人を斬る技術。俺は識別の魔眼を駆使してその一挙一動を観察していた。勿論、そんなに生易しいもんじゃない。なんせ刀術、戦歴共に格上なのだから。なんとか喰らいついていけるのは大量のクラス所持による基本能力の底上げと師匠たちによる指導の賜物だろう。それと魔力纏にハイヒールを混ぜ込んで斬られるとすぐに癒される状態になっているからってのもある。出血がない分長持ちするね。


 それにつけてもバンジロウの猛攻はやばい。月猫じゃなければ刃こぼれは必至。というかガリガリと刃こぼれしつつも修復されているのが現状だ。下手をすれば折られていたかもしれない。現にバンジロウが使っている刀には無数の傷と結構な箇所の刃こぼれが見て取れる。


「なんちゃ? こんだけ暴れまわっちうのに誰一人来やぁせん。おんしなんぞしよったか?」


「ああ、したよ。あんたの剣技を存分に見極める為にね」


 そう、展開したのは防音の改変魔法『無音空間サイレント』と結界術。範囲内の音は漏れることは無く仮に気付かれても侵入できない手筈になっている。


「ふっは、小僧が言いよる。確かにどんどん面白うなっちょるのは認めるがよ。ほんならこいつはどうじゃ?」


 バンジロウはその刀を上段……いや、あれって確かトンボの構えって言うんだっけか? 凄く嫌な予感がする。


「チェェェェェェェストォォォォォォォォォ」


 うわっ、今までよりも更に踏み込みが早い! あれはヤバイ。絶対にそのまま受け止めてはいけない気がする。


 ――月猫、喰らえ! リパルション!


 すると即座に月猫の刀身は淡い光を放つ。


 バンジロウが振り下ろす刀を守の型にて受け流すべく月猫を構えた。

 相手は月猫ごとたたっ斬る気満々なんだろう。

 ゴウっと空気を切り裂く音をあげつつ俺に迫る刃。だが、その刃は月猫に触れることなくグニリと軌道を変え間に空間を挟んだまま刀身をなぞるように床へと突き立つ。同時にバキンと刃が5センチメートルほどばっきり折れた。ここの床、石なんだもの。


 その隙に一旦距離をとる。


「…………今のは、武技なのか?」


 ぼそりと呟いたそれをバンジロウは聞き取ったらしい。呆れの混じった顔で溜め息をつく。


「なんじゃ? 武技は呼吸をするかのように自在に使えてこそ一人前ぞ。おんしも今避けるのに使っとったじゃろが。吃驚するほどちぐはぐな小僧っちや」


 ええい、悪かったな。そして俺にとっちゃ色々と方言が混じって聞き取りづらいったらない。

 それにしてもさっきの『魔法喰らい』を武技と勘違いしているのか。

 あれは月猫の天恵のひとつである【魔断】の副次効果だ。相手の魔法を切り裂き吸収するだけでなく俺自身が発動した魔法も柄を通じて吸収することができる。その魔法を喰らい効果を増幅して刀身に纏う。副次効果といったが今のところこっちのほうが俺にとっては有用なんだよね。


「さあさあ、どんどんいくがよ」


 先ほどまでと打って変わって武技を挟みつつ流れるように剣撃が飛んでくる。おいおい、まだ先があるのかよ。多少短くなった刀だが全然油断できない。

筆者は方言っぽい文章はニュアンスで書いております。高知や鹿児島や関西圏の方、実際の方言とは違うんじゃよと思っても笑って読み流していただければ幸いでございます。

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