第123話 和泉屋繁盛記そのGO
更新遅れに遅れております。
病院からの薬を塗ったり飲んだりしていますがいまいち効き目が薄いです。痒み止めで多少は楽ですが。
というわけで更新でござる
皆が寝静まった深夜。
私はむくりと起きる。ターゲットの懐には飛び込めた。
あとはさっさと目的の品を奪い逃げ出すだけだ。
物音を立てないようそっと廊下へと出る。
――ん、くっ、あ、はあん
悩ましい声が治まるとじっとりと濡れた水晶玉が手の平にのっていた。体の中に隠し持っておいたソレを奴隷紋へとあてる。そして起動用の呪文を唱えると魔道具『身請けの水晶』はちゃんと機能し奴隷紋を吸い取って無効化し砕け散った。
ふう、予めレクチャーは受けていたもののちゃんと動いてくれて良かった。いかに潜入任務とはいえ奴隷になんてなるのは心が落ち着かないものだ。ずっと濡れていたから壊れやしないかと不安もあったし。
さてターゲットは複数。
最優先は新薬などのレシピ。それが無い場合はサンプルそのものを奪うこと。最悪開発者をかどわかしてこいとか言われたけど流石にそれは無理だろう。非力なシーフの私にそこまで求められても困る。
幸いあのノブサダという店主から倉庫や開発に使っている部屋をバカ丁寧に説明された。あんな若くて小さな少年が店主っていうのも変な話だ。普人族だと聞いているし年相応の姿だろうから開発者を雇ってうまく使っているのだろうか? まあ、そこは私が関与すべき話じゃないか。フリーランスの私に舞い込んだ美味しいお仕事、きっちりこなすわ。
辺りに気配はなし。物音を立てないよう細心の注意を払いながら屋敷内を進む。
私の売りはこの潜伏と隠密を兼ね備えた潜入能力だ。同世代と比べても一つ抜きん出ていると自負している。能力を伸ばすのに夢中でパーティを組みそこなったり婚期を逃したりしたが気にしていない。気にしていないんだからね!
おっといけない。私は誰にものを言っているのだろう。集中しすぎるとたまにあるから困る。
やはり最初に探りを入れるのは開発室だろう。それにしてもいくら奴隷相手とはいえあんなあっけらかんと手の内を見せるとは随分と甘ちゃんだと思う。仕事が楽でいいのだけれど。
鍵は……かかっていない。無用心にもほどがあるわね。
するりと部屋の中へ入り込み目的のものを探す。いくつかマジックリュックがあったけれどこれに入っていたら厄介ね。数がある分持ち出せるのは限られている。できれば外に出ているといいのだけれど。
そうしている中、ふと目に留まった複数の小瓶。石でできているようだがその表面には精巧なマンドラゴラらしきものが描かれている。事前に聞いていた情報になかったもの。蓋が黒と緑の物があるが……鑑定してみるとその品質に絶句する。なんなのこれ!? なんで高品質品や特上級のが無造作に、しかも大量に置かれているのよ!!
しかも封入魔力も効果も見えないし……。
私の鑑定のスキルがおかしくなったんじゃないかと不安になったが何度鑑定しても同じ結果だ。これが目的の品として扱えるとは分かったが空恐ろしさで一杯である。得体の知れない恐怖。まさにこれだ。急いでこのまま逃げ去ろう。そう思ったときだった。
ぼそりと小声で何か聞こえたかと思うと私の手足は拘束され宙に浮いていた。
◆◆◆
いやはや初日から動き出すとは思わなかった。俺の防音結界とフツノさんの潜伏結界を重ね合わせて開発室と説明した部屋に潜んでいたのだ。ちなみに倉庫のほうにはミタマとわかもとサンが詰めている。
レコはマーラサマをじっと見つめた後なにやら驚愕していた。恐らく鑑定でもしたのだろう。おっといけない。足早に逃げ出そうとしていたのでエアバインドで捕獲することにしよう。こっちにはまったく気付いていないようだから至極あっさり捕まえられるだろう。
「エアバインド」
ヴォンと空気がうねったかと思うとレコは宙に浮いたまま固定されている。
服装はここに来る前に買った衣服だが肩口から少し見えていたはずの奴隷紋が見当たらない。ステータスを確認しても状態は健康だ。うお、奴隷商人が解除する以外に解放するような手段があるっぽいな。
「初日から動いてくれるとは楽で良いけれど詰めが甘いね。シーフのレコ?」
「な、なんで私の名を!?」
「偽装を超える鑑定を使った、それだけだよ。さて身動きがとれないならもはや観念するしかないだろう? 誰に頼まれたか教えてくれないかな」
「ふん! そう言われてほいほい喋るとでも思ったか。命乞いなんてしないよ。殺すなら殺せば良い」
結構強情っぽい。ま、あっさり手の平返すやつよりは好感もてるけどさ。『私がやりました』を使ってもいいんだけれどこれはまあ最終手段だ。
「フツノさんどうする?」
なんとなくフツノさんの意見を聞いてみようと思って目配せしたらしばし思案したあとになにやら閃いたようだ。そしてにっこりと満面の笑みを浮かべながらこう言った。
「ノブ君が昨日使うたソレ。この子にも飲ませてみたら面白いんちゃう? うちらは怖くて飲めへんかったけど」
ふむ、折角だし試してみようか。女性に投与するとどうなるか? 興味があります。
マーラサマ・漆黒を一本開けレコの口に当てる。だが口を開かず抵抗された。仕方ないので鼻を塞いでフツノさんにくすぐってもらうと耐えかねたのか口を開く。すかさず流し込めば勢いでごくんと飲み干してしまう。
そしてその効果はすぐに現れた。
顔が上気しなにやら下半身をもじもじさせている。レコは鼬の獣人だがそれなりにでるとこは出ているスレンダーな美人さんだ。それが悩ましい吐息をあげて身悶えしている。おかしいな媚薬の効果はないはずだぞ? あ、でも獣人だから不妊治療=発情とかの図式になってたりするんだろうか?
なんかフツノさんがつんつんつついて遊んでいる。こらこらやめなさいって。
「さてもう一度聞こうか。 誰に頼まれたか教えてくれないかな?」
「うう……喋ったらこの切ないのなんとかしてくれるの?」
俺がコクリと頷くと彼女は途切れ途切れに話し始める。
最初に話を持ちかけてきたのは錬金術ギルドからの使いだった。こう見えて裏の世界ではそれなりに名前を知られたフリーランスのシーフだったらしい。報酬も良い、たかだか一軒の商会に忍び込んで依頼を達成するだけで結構な金額になる。だがあまりに美味しい依頼に裏があるんじゃないかと勘繰り返事を待たせて後日確認すると言いその場は解散。と思いきや使いをしっかりと尾行し着いた先は錬金術ギルドのギルドマスターの自宅だった。こっそりと潜入し聞き耳を立てれば依頼自体は罠ではなく問題はなかった。
そして後日、依頼を受け潜入するまでの手順を説明された。
まず奴隷として目標の店主の懇意にしている商館へと入る。
かの店主が欲しがっている奴隷の特徴を掴む情報源は確保しているためそれに偽装して入れば間違いなくその場に立てるはずだ。
そして貴重なものではあるが奴隷紋を解除できる使い捨ての魔道具を預けるという。
仮にその場で買われなくてもすぐに買い戻す手はずは整えているから安心するといいと言われた。
だが疑問に思っていることがひとつ。私の潜入の腕を知っていて声をかけたのだろう? なんでここまでまどろっこしい手はずを整えるのか。
何でも普通に潜入させようとしたことは何度かあったらしい。その度に返り討ちにされしかももう裏の世界からは足を洗いますと改心してしまったとか。おかしな話もあるものだ。喋る植物がどうとか呻いていたやつもいたっていうし思ったよりも難しい依頼なのかもしれない。
だが好奇心と高い報酬に釣られて結局受けた。買い戻した際に必ず解放する契約を『誓約の証書』へしたためて。
そして目論見どおり潜入に成功するものの今まさに捕らわれたと。
ふーむ、また錬金術ギルドか。たしかギルドマスターは王都のほうから派遣されたやつだったはず。冒険者ギルドの不正していたクズ共同様に碌なやつじゃないようだ。ジャミトーの一件から大人しくしていたと思ったんだがどうやら痛い目をみないと反省はしないらしい。
「お、お願ぁい。これなんとかしてぇ」
はぁはぁと息も荒くもじもじしているレコ。フツノさんと顔を見合わせお互いコクリと頷く。
防音の魔法と結界を厳重に張り巡らせた後、鼬は狐に捕食された。それを更に美味しく頂いたのが俺だが。
フツノさんって実は百合百合しいのもいける口だって知ってた、うん。皆でハッスルするとき楽しそうだったもの。
夜も明ける頃、すっかりへたりこんだ二人を尻目に汚れを落とした俺は部屋を出る。
なんというかマーラサマの効果が強すぎたので効力を落として販売することにしようと思っていた。質が良ければいいもんじゃないって反省点だな。漆黒を飲ませたレコが息も絶え絶えになるまで求めるとは思いもしなかったからな。これが悪用されたらやばいので新緑を弱めたのを基本としよう。そして加工の手間を考えて一種類に絞るとするか。
って違う違うそうじゃなーい。スパイを送り込んでくれた連中をどうしてくれようかってことだ。屋敷ごと吹き飛ばすのは簡単だがそれをやってしまうとまずいにも程がある。潜入して不正やらなんかの証拠を掴んで師匠へこっそり押し付けるってのが妥当かね。起きたらレコにあっちの間取りとか聞いておこうか。
因みにレコはアレから随分と懐いた。獣人らしく屈服した相手にはちょっと弱いらしい。というかフツノさんをお姉様と呼んでいた。ぶっちゃけフツノさんたちより年上だけども。ま、結果オーライってことでアリだと思うことにしよう。ちょっと残念系だができる子だしな!
あ、すっかり忘れていたミタマたちに一時間ほどお説教をいただいたのは余談である。
正直すまんかった。足がしびれてへとへとじゃよ。
カタン
おや? エレノアさんとセフィさん、どうしたのかね???
あ、ちょっ、まっ、ッアーーーーーーーー。
そういえば鼬の天敵は狐だったよねというお話




