閑話その11 和泉家の人々 フツノ編
一発目はフツノさん。
ずぼらに見えて案外女子力高いんです。
あ、一応報告をば。連載中断していた恋愛モノだったものを装いを新たに再開しました。こっちはまったりした更新になる予定です。
夜が明けるころ、むくりと起き上がる人影一つ。
んーーーーと伸びをするとたゆんと揺れる乳房。
「んー、今日も気持ちええ朝や。なんぞええ事あるあるかもしれへん」
素っ裸で朝日に向かって仁王立ちしているのはうち、フツノ。
基本、うちが寝るときは生まれたままの姿や。だってそのほうが寝付きがええやろ?
なんだか昼過ぎまで寝ていそうなイメージあるって言われがちやねんけどうちの朝は早いんやで!
……酒さえ飲まな。
こう見えて何気に炊事、洗濯、マッサージに睦言まで器用にこなすんやで!
……酒さえ飲まな。
ええやん! ノブ君はそんなとこも可愛いって言うてくれるしっ。
――可愛いと思うよ。それにフツノさんはうちのパーティのムードメーカーだからね。(トラブルメーカーでもあるけど) ノブサダ談
未だベッドで丸くなっている最愛の妹であるミタマをその場に置いてうちは手早く着替える。今日はうちが朝食を作って女子力の違いをアピールするんや。
そして厨房にてテキパキと朝食を作り始めた。
うちの料理の腕は幼い頃、おかんが存命の間に教わったものと極貧の冒険者時代に培った知恵の賜物なんや。愛する妹にお腹一杯食べさせるため自らを実験台として食べれるキノコや野草を探し回った経験があるねん。せやからうちは食べれるか否かにおいての動植物知識は家の誰よりも優れているんよ、たぶん。
本日のメニューは銀シャリに鮭の塩焼き、味噌汁に焼き海苔と出汁巻き卵や。ノブ君は納豆がええいうとったけどアレはあかん。腐った豆を食べるなんてできひん。あ、味噌も発酵させとったわ。それはそれ、これはこれや。うちが作る朝食には断固拒否の構えやねんで。でも、ミタマが美味しそうに食べているのを見てフラっときたんは内緒や。
ノブ君たちと生活するようになってから食生活が豊かでええわぁ。うちら二人だけやと持ち運びできる量に限界があったし依頼をこなすだけでそういった採取する余裕もあれへん事も多かってん。ほんま、人の運命なんてどうなるか分からんもんやね。あの時、あの森で出会わなかったらどうなてったやろ。
……あかん、あの腐れボンボンの手に落ちてる酷い未来が思い浮かんでしもうた。
やめやめ、気持ちのええ朝になんであんなやつの事思いださなあかんねん。おっとと、あかん、鮭が焦げるとこやったわ。
「ふあぁぁぁ、あれ、何かいい匂いがする」
およ、ノブ君も朝食作りにきたんやね。せやけど今日はうちの独壇場やで!?
「誰かもう作って……うぉぅ、フツノさん、なんて格好してんの!!」
えっ? 前にノブ君がぽろっとこれは新婚さんの夢だねって言うとった格好やん?
今、うちが羽織ってるんは一枚の布地。そう裸エプロンとかうやつや!
どやっ! ノブ君、夢叶ったやろ!?
「……あー、その、いいからちょっとこっちへ来なさい」
えっ? えっ? えっ?
―― お説教中 ――
ううう、酷い目におうた。あれは夜の奥義やなんて一言も言うてなかったやないの。
せやけど新しく仕入れた情報もあるし今度はうちの魅力にメロメロになってもらうんやで!
「……フツノさんがミタマを好きなくらい俺はフツノさんのこと好きだよ?」
ちょっ! それは卑怯や。ぐぬぅ、うちかてミタマとノブ君どっちをとるかって質問をされたら両方奪い去るって答えるんやで。あ、ノブ君の顔が真っ赤なゆでだこみたいやん。ちょっと一矢報いた気がするわ。
今日はパーティとしての活動も休みやし溜まった洗濯もんでも洗いまくろうと思うんや。
そう思ったんやけど……ノブ君が30分も立たないうちに洗濯から乾燥まで全部やってもうた。あんな魔法の使い方するなんて! なんでも全自動洗濯機(?)みたいなもんや言うとったけどそれってなんやのん?
むうう、手持ち無沙汰になってもうた。何か無いかと薬草園のほうへ向かえばなにやら生垣の外からにぎやかな声が届く。
お、なんや、近所のお子さん方が集まってはる。
「フツノお姉ちゃん、遊んで~」
「俺、姉ちゃんの歌聞きたい~」
「僕も僕もー」
なんやのん、随分なつかれてしもうたもんや。確かにこの間、暇なときに構ってあげたんやけどこんなに懐くもんかいな。
しょうがない、特別やで。
うちはマジックポーチから一つの手鞠を取り出してリズム良く弾ませながら自作の手鞠歌を歌う。
てんてんてんまり、まりもはタマちゃん♪
弾むよ、体はぽよんぽよん♪ つつけば揺れるよ、ぷにんぷにん♪
はじめは緑のまりもやねん♪
せやけど今度は真っ白や♪
真っ白思たら羽生えた♪
お次は何になるんかな♪ お次は何になるんかな♪
歌の終わりとともに弾んだ手鞠がうちの手の平に収まる。
それと同時に子供たちからわぁっと歓声があがったんや。んもう、あんまり褒めてもなんも出えへんよ。
それから子供達にせがまれるまま手鞠を教えたりリクエストを受けて手鞠歌を披露したんや。子供の前やからまだええねんけど他の人のおる前でなんて歌えへん。こう見えてもうちは繊細なんやで?
子供達と別れるころにはもう夕暮れ時。今晩の献立は何にしようかいな。
そう思いながら厨房へといけばすごい思案顔のミタマがおった。
随分と悩んどるけどどうしたんやろ。
「……姉さん。私に簡単なのでいいから料理を教えて」
な、なんやってーーー!?
あ、あのな、ほら、以前オークを悶絶させたこともあったやん、なんとか穏便に誤魔化すには……。
「……うん、前に酷いの作っちゃったのは覚えてるよ。でも、私もノブに手料理を作ってみたいの。だから姉さんに教えてほしい」
ううう、目に涙をためてお願いされたら断れへん。分かった。お姉ちゃんに任しとき。
出来るだけ作業工程の無い簡単なもんにしよう。銀シャリ炊くんはうちがやるさかいミタマにはノブ君の分をおにぎりにしてもらえばええか。おかずにはルイヴィ豚のええとこを焼きシンプルに塩で味付け。味噌汁はワカメとネギだけのお手軽仕様。あとは付け合せにうちがホウレンソウのおひたしとジャガイモの煮っ転がしを作っておけばええか。
出来た。これが『ミタマ御膳』やで。
出来上がりの見た目は何にも問題あれへん。香りのほうもええ匂いしとる。味見は……すまん、ノブ君、頑張ってや!
せやけど油断はせえへんよ。念のため、キュアポーションを準備してノブ君だけ別室で食べてもらう。いざって時にはすぐ介抱せなあかんからね。
ガチャリ
緊張した面持ちでノブ君が部屋へ入ってくる。
誰が作ったものかは事前に伝えてあった。その指先には複数の指輪がはめられている。多分、耐毒、耐呪なんかのやと思う。出来うる限りの準備をしてきてくれたようや。下手に倒れたらミタマが悲しむ。うちら二人の共通な意見やってん。頼むでノブ君! 耐えて、耐えてや!!
御膳に並べられた料理はシンプルながらどれもおいしそうにみえてる。せやけどノブ君が見た瞬間ちょっとくらっとしたのが分かった。あ、鑑定してもうたんやね。その顔をみればどんな結果がでたかはよう分かるわ。そわそわと落ち着かないミタマは気付かへんかったみたいでよかった。
そっと箸を進めながらおもむろに御浸しを摘む。あかんよ! それうちが作ったやつやん。分かってるんやろ、もう。
それを噛み締めながらおにぎりへと手を伸ばす。数瞬躊躇ったけど一気に齧り付いた。
――はぐお!?
声にならない声がうちにまで聞こえた気がする。
ノブ君はビクっと体が硬直しつつもそのまま飲み込んだ。そして更に残りを一口で頬張る。
――あべしっ
あ、一瞬気絶してたように見える。が、我慢や、ほら、ミタマに感想を!
「う、うん。味はすごく美味しいよ。ありがとう、ミタマ」
先ほどまでの重苦しいのはどこへやらミタマの顔がぱあっと明るくなり尻尾がふりふりと激しく揺れている。ノブ君、ようやった。それでこそ漢や!
その後も適度に悶絶しつつノブ君は全部平らげた。
ミタマは空になった食器を膳ごと抱え上げるとにこやかに片付けに走る。
ミタマが出て行った後、ノブ君はテーブルへと突っ伏した。随分と無理してたみたいで息は荒く顔色が悪い。
うちはすぐさまベッドへ運んで横にさせる。
ノブ君のリクエストから壁に背をつけてうちの腿へ頭をのせた。膝枕ならぬ腿枕やて。
ちょっと恥ずいけどしゃーない、ご褒美やねんな。
「味は……本当に美味しかったんだ。アレの加護のせいで付属効果がとんでもないだけで。まあ、フツノさんとミタマのためなら耐えるよ。なんか耐性スキルもあがっているしね」
んもう、嬉しいこと言ってくれるやないの。ええの? うちはそんなん言われたらほいほい着いていってしまいそうなんやで。
限界だったみたいでノブ君はそのまま寝てしもうた。すうすうと寝息をたてるその姿は夜の荒くれ状態とは程遠い可愛いもんやってん。本人にそう言うたら複雑な表情浮かべるから内緒やねんけどな。
ちゅっ
ふふっ、ゆっくり休んでや。うちらの愛しい旦那様♪
因みに識別先生の鑑定結果とノブサダの成長はこのとおり。こっそり魔法で治療してました。
ミタマ御膳
品質:??? 封入魔力:???
ミタマが愛情を込めて作り上げたおにぎり御膳。
女神の加護により影響が及ぼされた逸品。
天恵:【毒】【呪】【石化】【気絶】【魅了】
てってれ~♪ 耐性:毒のレベルが上がりました。
てってれ~♪ 耐性:呪いが解放されました。
てってれ~♪ 耐性:石化が解放されました。
てってれ~♪ 耐性:気絶が解放されました。
てってれ~♪ 耐性:魅了が解放されました。
てってれ~♪ 多数の耐性を獲得したため【全耐性】へと統合しました。表示されるレベルは平均値となります。




