第119話 和泉屋繁盛記その一
更新遅れました。すいませぬ。
ダンジョンから帰ってきてさぁ休息だ……そう思っていた頃もありました。
戻ってすぐに和泉屋業務が待っているとは思わなかったぜ。
なんでも今回の異常事態で騎士団、衛兵隊が動くことが決まり備蓄のポーションを出すことになった。なったのだがそのうちの何割かが保存状態が悪かったらしく駄目になっていたらしい。ということで師匠経由で急遽うちに発注が回ってきたそうだ。
「ごめんねぇ、ノブちゃん。作成だけじゃなく事務処理まで滞っちゃってもうてんてこ舞いなのよぅ」
「いや、まさか1,000本以上発注入るとは思わなかったよ。うーん、増員したばかりだけれど事務処理と作成できるような人員を増やすべきかな、こりゃ」
「そうねぇ。ノブちゃんの試作したアクセサリなんかも随分と売れているしあの3人だけじゃ売り子も足りないかもしれないわぁ」
会話をしつつもせっせと和泉屋ポーションを作成しまくる俺達。後にはキュアポーションとマナポーションの作成も控えているのだよ。
てってれ~♪ 錬金術のレベルが上がりました。
うひい、嬉しいけどそれどころじゃない。
納期が近すぎるって。たぶん、またセフィさんが100本と間違えて軽く受けちゃったんだろうな。
というかこりゃ本格的に徹夜コースだ。疲れているところ悪いが他のみんなも総動員して作成しないといけない。和泉屋のほうは予約分以外は臨時休業にしよう。
フツノさんとガーナ、マーシュが滞った事務処理。
俺とセフィさんが薬液作成。ついでに俺は石器も作成。
ミタマ、カグラさん、オルテア、ディリットさん、ティノちゃんは瓶詰め作業。
――せっせと作成中――
あーー、あれだ。セフィさんには申し訳ないが注文受ける窓口をきちんとしないとやばいね。グネとの約束を果たすには資金力も大いに必要だからこの和泉屋の躍進は必要不可欠だもの。
セフィさんと相談してちょいと考えてみよう。OKがでたらキリシュナさんのところで商人経験者がいないか探してみようかね。
そんなことを考えつつもなんとか夜明け近くには全種完成に漕ぎ着ける。だが全員ベッドへ戻る気力が無いのでその場で死屍累々の雑魚寝と相成った。
皆が未だ目覚めぬ朝。俺は書き置きをしたあとこっそりと部屋を抜け出し納品へと向かう。頑張った皆を起こすのは忍びない。リポビタマアゲインをぐいっと飲み干し師匠の待つ衛兵隊本所へと歩き出す。
帰りに冒険者ギルドに寄って魂石や素材の売り上げを回収してさらにそれを分配しつつ和泉屋の売り上げも確認せねば。はっはっは、やることだらけですわい。うん、俺の取り分突っ込んででも有能な事務員か商人を雇おう。今は体の性能で疲れ知らずだけどもこのままいったらきっと早死にするわ、もしくは禿げる。
それはさすがに嫌だ。
そうだ、折角臨時休業にしたんだし増員の相談も兼ねてキリシュナさんのとこに顔をだそうか。ミタマたちや三連娘も会いたいだろうしな。
「おはようございます、師匠。ご注文の品持ってきましたよ」
「おお、すまんな」
「しかし、なんでまた補完していた薬品が駄目になったんですか?」
「それがのぅ……」
師匠も報告を受けて唖然としたらしいのだが騎士団、衛兵隊両者共にくそ不味い旧来のポーションより後から仕入れた味の良いうちのポーションを先に使っていたらしい。つまり古いのは在庫のまま倉庫に眠っているわけでそのうちに賞味期限切れ(表示されているわけではないがもはや飲めたものではない)をぶっちぎったしまったそうだ。うーむ、先入れ先出しはコンビニの基本ですよ。うちのだって数ヶ月も放っておけば味は悪くなるし効力も落ちるさ。
とりあえず管理担当者に特大の雷が落下し現場の連中もしばらく減給だそうだ。そんなんでこれから士気は大丈夫か訊ねたらその分迷宮の調査で張り切ればその素材等で減給分を相殺してやろうとの事。それは気合も入るだろうね。でも冒険者が割り食うかもしれない。組織だって調査できるくらい協調性が無いのだから仕方ないけどさ。ダンジョン以外にも依頼はあるから調査が終わるまでそっちで足りない分食い扶持稼ぐしかないね。
納品を済ませてお代を頂いた俺はさくっと次の冒険者ギルドへ向かう。
歩きながら考える。お昼は適当に済ませて夕飯は全員引き連れてどこか外食するのもありか。皆良くやってくれたし労いは必要だよね。
「よく来たのである。査定は終わっている故に詳細を説明するのであるな」
久しぶりに会った気がするランバーさん。あ、昨日も会ってましたね。いけないいけない。
さてさてお楽しみの査定はどうなったかというと
赤の魂石×98個×490マニー
橙の魂石×306個×970マニー
黄の魂石×3個×5,000マニー
緑の魂石×1個×10,000マニー
藍の巨大魂石(王母蟻)×1個×1,000,000マニー
鉄蟻の甲殻×100個×1,000マニー
藍色の魂石は通常サイズなら10万マニーほどなのだが今までにない大きさと希少性から大盤振る舞いの査定となった。多分、職員救出などで色つけている部分も大きいのだろう。
しめて総額1,469,840マニー! はっはっはっ、苦労した甲斐があったってもんだぜ。
しっかりと貯蓄するがな!! 勿論、収支の内容は嫁さんズにはフルオープンにするけれども。
でも気分がいいので飲兵衛にはお酒の追加と他の皆にはデザート追加の権利が進呈されます。
そうそう、エレノアさんに確認してもらったんだが『白の運び手』のマルチダさんとウッドさんに遺族はいないらしい。装備の処遇は帰ってから話し合うとするか。エレノアさんをお食事会に誘ってギルドを後にする。
午後は大勢引き連れて奴隷商館『獣人演義』へ。当然、裏口からの訪問です。表から行くには有り得ない面子だもの。どこかの塾へと子供を送るほのぼの夫婦にしか見えないはずだ。たぶん。
「急にアポを取って会いたいっていうから何かと思えば全員揃って来たのね。まったく、私だって暇ではないのよ?」
俺に対してちくりと嫌味を飛ばすキリシュナさんだがさっきから口角が緩みっぱなしだ。親戚の叔母ちゃんが可愛い姪っ子を可愛がりたいその姿がありありと見える。嫌味のほうも形だけのもので内心は歓喜に震えてるように思える。まさかのツンデレおばさまなのであろうか。
「それにしてもこの子たちも随分と見違えちゃったわね。肌艶もいいしいい服も着せてもらって……君に預けて正解だったわ」
そう言って頂くと世話した甲斐があるってもんです。その分、ちゃんと働いて貰っているしね。和泉屋はとても灰色な会社なのです。突発的にブラックになるから真っ白とは言い切れない悲しさよ。
あ、これつまらないものですがと化粧水の詰め合わせをお渡しすれば随分と食いつきが良かった。うん、お肌の曲がり角だっていうのは分かるんです。怖いから口には出さないけどな。
三連娘とミタマ達がキリシュナさんと戯れること30分ほど。
皆満足したのかソファーに座ってゆったりしている。そして徐にキリシュナさんが俺に話しを切り出した。
「それで? 態々ここにきたのはこの子たちに会わせるためだけじゃないんでしょ?」
話が早くて助かります。ま、八割方は会わせるためなんですけどね。家族サービスってやつですよ。
「これからうちで話して煮詰めるんですがもう2,3人ほど従業員を増やそうと思っています。できれば商人のクラス保持者あたりで交渉事に強そうな人が一人欲しいところなんですけどね。何日か後にまた訊ねるので条件に合いそうな人がいれば気に留めておいてもらえればと思いまして」
「なるほど。確かに随分と繁盛しているって聞くわ。いいわ、選りすぐっておきましょう」
「ありがとうございます」
「ただ、私からもお願いがあるのよ」
むむむ? なんじゃろか??
「申し訳ないけれどまたアレをお願いしたいの。面倒なものを貰っちゃった子がいてね」
あ、そっちですか。納得です。
「ああ、なるほど。それじゃ俺が残ってやっていきましょう。悪いけどミタマ達は先に戻っててくれるか?」
「……いいけど。何か意味深な会話?」
「せやねぇ。なんやいつの間にか随分仲良ぅなってるねんな。ええことなんやけどなんでやろ。なんや釈然とせんわ」
「いやいや、仕事だから。前に依頼された件と同じものだからね」
「……ふむぅ、なら良し」
ふう、焼きもちかねミタマ君。焼かれるのも悪くないのだがね。思ってても言っちゃいけない。炎上の可能性がありますからな。
さてミタマ達が帰った後、俺は『獣人演義別館』へと来ております。実はキリシュナさんは奴隷商館のほかに娼館も経営されてるんです、はい。んでアレっていうのは病気の治療なんですな。貰っちゃったっていうのは性病ってやつです。
この世界ゴム製品ってやつがまだ普及していないので当然コンドー○は見たことない。だから合体はすっぴんでやるわけで病気が移りやすいんだよね。現に北門のおっちゃんは安い娼館で何度もハッスルするもんだからよく貰っちゃっている。たまに見かけると内緒で治療してやるけどもさ。今のところ遭遇した病気はキュアシックで一発治療が可能なんだ。
だが、やはりというか娼館まで出張ってくる修道士やら神官なんてのはいないかいても非常に少ない。飯の種である神聖魔法をこういうところで無駄撃ちすることはそうないんだそうだ。
三連娘を購入した直後にいまはこんな感じで過ごしてますよーと報告に来たんだがその際に別館のほうでキリシュナさんと会ったんだよね。ちょっとした好奇心で鑑定したわけなんだが結構病気をお持ちの人がいたんで三連娘の割引もあったし治療をさせてもらったのだ。
識別先生に出張ってもらい病気の子を順番に治療していく。発端となった症状の酷い子もあっという間に治ったので目に涙を浮かべて喜んでいた。『獣人演義別館』ということで働いている娘のほとんどは獣人であり大量のけもみみやしっぽがふりふりされている空間は幸せではあるが気を引き締めないといけない。顔が緩んだのをキリシュナさんに悟られてはいけないのだ。般若心経を心の中で唱えながら黙々と治療、たまに怪我をしている子にヒールもかける。まったく乱暴なプレイはご法度なんだぜ。
因みに今回の御代は今度購入するときに割引してもらうことになっている。他ならしないがキリシュナさんの依頼だから問題ない。彼女はミタマ達に不利益になるようなことはしないだろう。それに俺に取っちゃ一時間ほどの簡単な作業だしね。
すっかり癒した後、ちょいと急ぎ足で『炎の狛』へと歩を進める。
今回の会場は久々の『炎の狛』なのだ。お昼に予約しにいったんだが運良く懐かしの宴会場を借りることが出来た。今日は俺も純粋に食べるのを楽しみたいので全部料理はオーダーしてある。ま、きっと酔いつぶれる人がいるだろうから白米号は準備してあるけどね。




