第12話 ギルドとエレノアさん
扉を開けて中に入るとそこには酒場のカウンターに荒くれ者……なんてことはなくふるーい役所って感じの空間が広がっていた。それはそうだ酒飲んで仕事の話なんかできるわけがない。依頼者も依頼取り下げるよな。
開いてるカウンターがあったのでいそいそと向かってみる。カウンターをひょいと覗き込むと、うむ、美人受付嬢というのがしっくりくるお姉さんが微笑みをたたえていた。見事な営業スマイルである。
どんな人かな?
名前:エレノア 性別:女 種族:普人族
クラス:魔拳士 Lv30
称号:【戦姫】
【スキル】
拳術Lv6 身体能力Lv4 闘気Lv4 回避Lv4 危険察知Lv4 接客Lv4 生活魔法
スリーサイズ:まてっ! 命を捨てるにはまだ早い!!( ・᷄д・᷅ )
うおお、ギルド受付嬢の強さが半端ねぇ。あの細腕で拳術Lv6だと!?
とてもスレンダーで凛々しい感じなのだが怒らせたらとんでもないことになりそうである。
丁寧な対応を心がけるとしよう。
「ギルドの受付はこちらでよかったですか?」
「はい、こちらで承っておりますよ。初めての方ですか?」
「ええ、田舎から出てきたばかりなんです。分からない事だらけなんで詳しく話が聞きたいんですがいいですか?」
「それでは私、エレノアが受付させていただきます。まず登録料として1,000マニーかかりますがよろしいですか?」
OH、何もしてないのにどんどんお金が目減りしていく。仕方ない初期投資は大切だ。
リュックから1,000マニーをとりだす。
「はい、それじゃこれでお願いします」
「確かにお預かりしました。それではこちらのステータスボードへ手を置いてください。こちらで読み込んだデータをもとにギルドカードを作成します」
ぬ、勝手に読み込まれるのか。固有スキルとかばれたらやばいような気がする? 偽装スキル使えば隠せるんだろうか? 偽装スキルさん、異世界人と固有スキルだけは隠してくださいな。スキルLv2だけどがんば!
ステータスボードに手を置くとぼんやりと光りだした。
フィィィィンと小さな異音が耳につく。
待つこと1分ほど、異音が途切れステータスボードの光が消える。
そしてボード上部に情報が浮き出した。
名前:ノブサダ 性別:男 年齢:15
種族:普人族 ギルドランク:F
称号:【マリモキラー】
犯罪歴:なし
ふう、スキルとかは表示されんようだ。ひとまず安心。というかマリモキラーだけ浮いてるな。そして年齢が15になっている。これは肉体年齢に引っ張られたということだろうか。これで安心して年齢も答えられるな。
「こ、これは……その年齢で称号をお持ちなのですね。将来が楽しみな方を当ギルドお迎えすることができて喜ばしいことです」
いえいえ、あなたほどじゃないですよ。マリモと戦姫じゃ月とスッポンです。
「それではこちらがギルドカードになります。無くした場合、再発行に50,000マニー掛かりますのでご注意ください。金額が高い理由は以前紛失が多すぎて収集がつかなくなった為です。意識改革するには厳しい規制が必要なほど荒くれ者ばかりだったようで……」
50万円相当か。たっかいな。無くさないように首からぶら下げておこう。ギルドカードは一応防塵防水仕様だそうだ。わりかしハイテクだな。
「それではランクの説明に入ります。ギルドランクは下からF,E,D,C,B,A,Sとランクが上がっていきます。依頼の達成数などを加味して昇格が決まります。Dランクからは昇格に試験が加わります。Cランクへ昇格するには試験の他に必要な依頼任務があります。Cランクより護衛任務が追加されるため達成度、人格、パーティを組んでいた場合はその仲間についても評価の対象になります。ですので意図的にランクをDで止めている冒険者も多いです」
ダンジョンをメインにしてるならそれでもいいのか。ランクが上がればいいことあるのかね?
「まず、ランクが上がることにより高報酬の依頼を受けることができます。また、名が知れることにより指名依頼が来ることがありますがランクが上位であるほど国や貴族からの依頼が舞い込む事が多いです。デメリットですが上位のランクほど緊急依頼での拘束が発生します。これは魔物の大量発生など緊急な依頼の際には強制参加が義務付けられます。これを断る場合、最悪、除名処分が科せられる事となりますのでお気をつけください」
むー、いずれは保留か昇級か決めないとだな。
ぶっちゃけ貴族とかと付き合うのは御免被りたいところだ。俺の交渉能力じゃ丸め込まれていいだけ使われてポイっとされそうだしな。
「ダンジョンに入るにはランクは関係ないんでしょうか?」
「街の中央部にあるフォンブランの迷宮であればランクは関係なくはいることができます。それ以外であればギルドが指定した危険度ごとにランクもしくはギルド評価による制限があります」
なるほどね。一攫千金狙うならランクをあげろということか。
「税金についてですが冒険者がギルドへ登録しているなら納税の義務はありません。ですが、依頼達成した際の報酬から税は引かれておりますのでご了承ください」
ふむ、異世界に来てまで確定申告したくないから楽ではあるか。
「以上で簡単な説明を終わります。何か今までご質問はありますか?」
「あ、この街へ来る途中大イノシシ退治したんですけど毛皮や肉を買い取ってもらえそうなところってどこでしょうか? あと西の森で採取した果物なんかも引き取ってもらえそうなところがあれば助かるんですけど」
「大イノシシですか!? 下手な魔物より危険なのですが大丈夫でしたか?」
「ええ、一緒にいた冒険者と協力してなんとか倒せました」
「そうでしたか。買取ですが買い取り用のカウンターがあちらにありますのでそこで清算をお願いします。果物については物によりけりでしょうか。係りのものに確認していただければ買い取れるものは教えてくれるはずです」
「ありがとうございます。それと駆け出しに丁度いい宿ってありますか? 街に詳しくないので教えていただきたいなと」
「それであればギルドと提携している新人用宿があります。こちらは朝夕2食の食事つきで1日300マニー。ランクFの方なら部屋さえ空いていればご利用可能ですが条件として週2件はFランクの依頼を受けていただくことになっております」
Fランクの依頼は雑用も多く慢性的に放置されることがあったらしい。これらを効率よく処理するためこういった条件を課したらしい。まぁ初心者が依頼に慣れるにはいいシステムだな。雑用系は1日や半日で片付くものも多いらしく数はこなせるしな。
「利用の手続きをお願いできますか? っとその前に仮登録証の払い戻しに行って来たいんですがいいですか?」
「はい、それでは手続き進めておきますね。戻られたらこちらのカウンターへお並びください」
「ありがとう、エレノアさん。買取の手続きが終わったらすぐにいってきます」
「はい、お待ちしております」
微笑むエレノアさんに礼を言ってカイルの所に向かう。
じゃない、その前にイノシシの部位を買い取りカウンターにもっていかんと。
買い取り用のカウンターにいたのはごっついおっさんだったので買取の様子は省略省略! 毛皮や肉の状態はいいんでそこそこの金額になるとのこと。果物に関しては薬の材料になるランプトゥンの実だけは引き取って貰えるそうだ。それ以外は直接店に持ち込みになるらしい。
そして、今日は色々と立て込んでいるので明日査定が完了するらしい。仕方ない明日また来ることを約束してさっさと西門の詰め所へ向かおう。
◆◆◆
「エレノアせんぱーい、交代ですよー。休憩どぞー」
「あら、もうそんな時間なのね。それじゃここ、お願いね」
「はーい」
後輩と交代して席をはずす。ギルドの奥にある休憩室に入った私はさっきの新人さんのことを思い出した。
黒髪黒目、この公国では珍しい容姿。15歳だそうだがどう見ても幼く見えた。
『やーん、やんやん。可愛いわぁぁぁぁぁぁぁ、できるならお持ち帰りして抱き枕にしたい』
エレノアは一人もんどりうっていた。普段のクールな受付嬢の面影は微塵もなく後輩が見れば本当に本人なのか疑うほどだろう。
『ちゃんといつも通りに対応できてたかしら思わず抱きしめちゃいたい衝動に駆られたもの! 黒髪黒目なんてここら辺ではちょっと見ない感じだから印象的よね。くりくりとした瞳とか15歳にしては随分と童顔なところもポイント高いわぁ』
顔は緩みきりちょっと涎もたれている。
『おじさんたちに囲まれる中、彼は私のオアシスよね。こっそり助言してケガなんかしないようにしないと!』
ぐっと拳を握り締めたエレノアは心の中でそう誓うのだった。
◇◇◇
「うっ、なんか一瞬寒気が……」
西門に向かうノブがそう呟いたのは同時刻だった。