第118話 会議はギルドで
ボス部屋から降りるとおなじみのポートクリスタルがある大部屋へと辿り着いた。ここまでくると冒険者の姿がちらほら見える。
ふう、随分と遠回りした気がするがやっと10F突破だな。
今回の大雑把な取得物は以下の通り。
赤の魂石×98
橙の魂石×306
黄の魂石×3
緑の魂石×1
藍の巨大魂石(王母蟻)×1
鉄蟻の甲殻×356
白鋼蟻の甲殻×2
希鋼蟻の甲殻×1
王母蟻の甲殻(巨大)×1
王母蟻の毒針×1
魔法剣ミデア×1
ファンファンシールド×2
翡翠の原石(宝箱より)×1
シルバーインゴット(宝箱より)×1
オークのゴールデンボール×42
換装の指輪×1
ゴーレムコア×3
大豚医散はゴールデンボール一つで10袋作れる計算だけに結構な売り上げが期待できるだろう。
魔法剣ミデア、ファンファンシールド、希少な蟻の素材各種、シルバーインゴット、換装の指輪とゴーレムコア、オークのタマタマは取り置きである。巨大魂石も取り置きしておきたいところだが冒険者ギルドにてマザーアントを討伐した証明にお買い上げされる心配があるので含めていない。王母蟻の甲殻か毒針が要求されたらどうしようかなぁ。ま、そこは交渉次第となるだろう。アミラルさんならそんなにご無体な要求はしてこないと思いたい。
ポートクリスタルに触れ地上へと帰還するともうすぐ夕方になろうかという時間だった。遅い時間ではあるが戻ったらすぐギルドへ顔を出して欲しいと言われていたので疲れてはいるが冒険者ギルドへと向かう。
ギルドへと顔を出した俺達はエレノアさんに案内されるまますぐにギルドマスターの部屋へと案内された。そこにはアミラルさんとなぜか師匠とテムロさんまで同席している。おお? 何か会議中でしたか?
「よく戻ってきてくれた。マッスルブラザーズから事の次第は聞いているが君の口から状況のほうを我々に説明してもらいたい」
アミラルさんに促されると9Fに入ってからのことを順に話していく。
9F到着後、異常なほど現れる蟻達を殲滅しながら『ブーンブーン』へ着いた事。
内部で倒れていたギルド職員の回復を待ちながら再び蟻を狩っていた事。
ダンジョンの罠にはまりマップに記されていない場所へと流された事。
そこで蟻の頂点たるマザーアントと遭遇しそれを撃破した事。
そして10Fを攻略し戻って現在に至る。マザーアントを倒したという証明に巨大な魂石と毒針を次元収納から出して確認してもらった。甲殻は広さ的に出せなかったよ。
全て(グネとの同調などは内緒だが)を話した後、3人は唸りつつ何やら考え込んでいる。出した物の証明のため急遽呼び出されたランバーさんが鑑定した結果、王母蟻の物と判定されたためそういった魔物がいたことだけは証明されたわけだが街の防衛などを任される身ではこんなものが居た事自体問題なのだろう。
「何とも信じがたい内容ではある。だがこうして物品的な証拠がある以上本当なのだろう。そしてノブサダ君。これに相対したものとして此度の件をどう考える?」
うーむ、推測でしかないが言っちゃっていいんだろうかね。
「まず推測でしかないことを申し上げておきます。そして以前報告した寄生粘菌の件と今回の一件は無関係ではないと思っています。両方に共通していたことですが寄生された魔物の周辺には通常ではありえないほどの魔素が溢れていました。前者は取り付いていた魔物から奪って放出されていました。今回のマザーアントは融合が進んでいたためか抗う気がなかったためか分かりませんが衰弱することなく成長することで場の魔素を高めていたような気がします」
そこで一区切りして乾いた喉を出されていた果実水で潤す。ふう、この三人に凝視されていると緊張して仕方ないね。
「幸い、と言っては語弊がありますが俺が接触したマザーアントは言葉を理解し話す固体でした。なんとか手を尽くして聞き出したことは生まれてすぐ何者かに接触したそうです。その際に石へと擬態した寄生粘菌と融合したのではないかと思われます。接触したのは2ヶ月ほど前らしく乱流砂へと干渉したことも白状しました」
「なんじゃと!?」
「実はだね、ノブサダ君たちが9Fで足止めをされている間に低階層での魔物の凶暴化が確認されているんだ。倒した連中の話によると凶暴化した魔物には一部体色が変化している共通点があったらしいよ」
テムロさんがそう説明してくれた。
その件もあり街の防衛を担うものとしてダンジョンの一斉調査をすべきか話し合っていたらしい。そこへ俺が帰ってきたものだから急遽の事情聴取と相成ったわけだ。
「ふうむ、何やら人為的なものが絡んでくるとなるとやっかいじゃのう。ノブサダが言うとおりならば誰かの思惑でこの異常事態が引き起こされているということになる」
「念のため11F以降の様子を確認してもらったが今のところ異常な個体などは確認されていない。逆に低階層にて逃げ帰った冒険者の話など多数報告されていることから10Fより前の階層に寄生粘菌というのを撒かれたと見るべきかな」
ふむふむ、そういう状況か。あ、一応オークなど手当たり次第シバキ回したのは報告しないといけないか。
「あ、10Fに着いてから俺達でオーク、ゴブリンを百五十体ほど殲滅してます。その際には異常個体は確認していません。それと9Fにいた4日間に蟻達を400体近くは倒したと思います。」
「「「は?」」」
あんぐりと口を開けて呆けてしまう3人。うん、俺も驚いたけれど大体それくらいは狩ってたんだよね。マザーアントの背後に100体くらいいたのはあっさりお亡くなりになったしさ。
栄養剤を飲みながらだと疲れもなく次々狩り続けられたんだ。これ飲みすぎての副作用ないよね? ないといいなぁ。
「う、うーん、これでまだDランクなんだよね? アミラルさん、ちょっとおかしくないですか?」
「いや、私もここまでとは聞いていなかったんだが……。マトゥダの弟子だから規格外だとは思っていたが」
「はっはっは、細けぇこたぁいいんじゃよ。それだけ狩って遭遇しないのであれば低階層を重点的に調査すべきじゃな。9Fに関しては、うん、儂も驚いたが」
ノブサダ、殲滅戦には定評があるんですにょ? ガチンコだとふるぼっこにされてばっかりな気がするけどね。
「確かにな。冒険者にも十分注意するよう喚起しよう」
「騎士団としては衛兵隊と協力して不審人物の割り出しとダンジョン内部へ調査隊の派遣を確約します」
その場で色々なことが取り決められていく。俺達は完全に蚊帳の外だ。
仕方ないので小声でエレノアさんへと相談している。『白の運び手』に遺族がいるのかという事、もしいるのであれば遺品を渡したい事を伝えた。確認して後日お伝えしますねと話がまとまったところでアミラルさんから俺達へ話が振られる。
「話が逸れて待たせてしまったね。すまないがノブサダ君が手に入れたその魂石だが調査の意味もありギルドの買取でお願いしたい。素材のほうは持っていて貰って構わないし素材として買取するならばこちらとしても大歓迎だ」
ふむ、概ね予想通りか。素材が任意なだけいい条件だな。
「魂石の買取に関しては問題ないです。申し訳ないですが変異種の素材のほうは我々の武器防具へと加工したいので今回は買取見送りさせてください。通常のアイアンアントの素材は指名依頼で受けている分以外をギルドに卸したいと思います」
「うむ、構わんよ。よくこのような状況から生還してくれた。ギルド職員の救助に関しても礼を言うよ。君たちがいなければ危機的状況だったと聞いている。此度の一件でギルド側としても人員に随分と大きな痛手を負ったからね。君達の今後の活躍には大いに期待しているよ」
それから師匠たちに挨拶したあと部屋を後にする。三人はまだまだ会議を続けるようだ。
仕事に戻ったエレノアさんと別れて俺は買取を頼む前におやっさんのところへと足を運ぶことにした。他の皆はそのまま家へと帰宅してもらった。
おやっさんに今回手に入れた甲殻を渡そうとするとあまりの量にストップがかかる。ですよねー。
差し当たって100ほど買い取ってもらい残りのうち100はギルドで買い取ってもらうことにした。あとは150ほど残るわけだが俺用の魔工の修練用素材とする。何かしらいいものができたなら和泉屋で販売することにしよう。
マザーアントや変異種の素材だがおやっさんが是非加工させてくれと鼻息荒く頼むので完全にお任せしてしまった。俺達の寸法はすでに測ってあるので手が空き次第加工に入ってくれるそうだ。どんなものが出来上がるのか楽しみだな。
それから冒険者ギルドに舞い戻り魂石、甲殻を買取にだしたが量が多いため後日、エレノアさんが持ってきてくれることになった。
さてさて、色々とあったが目標だった10F踏破までいけたので良かった。これでしばらくは加工や素材集めに奔走しようかね。
ま、その前に休息だ、休息。




