第113話 目覚め
前回までのあらすじ
・ミタマさんピンチ! 助けてー助けてー。
そして颯爽と現れた黄金の鉄の塊!
サポシでとんずら。カカっと惨状。
実際の人物、物語にはなんら関係しない表現が含まれております。
さぁ、本日ののぶさんがはーじまーるよー。
余計な獲物、俺登場で随分とカッカしているご様子の敵さん。
「ギギギギギ、貴様ハイラヌ! 死ネエェ」
女王蟻の魔力が膨れ上がり周囲に浸透していく。
ドボオ
不意にノブサダの周囲の砂が意思を持ったかのように襲い掛かる。
ノブサダはミタマを抱え回避しつつ瞬時に飛び立ち離れた。
「砂を操るか……もしかして乱流砂に干渉して長引かせたのはこいつかね?」
ボソリと呟き事態を整理する。
「いや、それよりもまずは足場か。ストーンウォール!」
流砂の中から巨大な岩の柱がせり上がってきた。その直径たるや10メートルはあるだろう。もはや壁というよりビルである。
この場所までくるうちにノブサダの魔力はほぼ満タンになっていた。彼が自重せずに試作したマナポーション改は魔力の自然回復量を増大させる。元々の回復量が桁違いなノブサダが服用することにより劇的な効果をもたらすのだ。
「ミタマはここで待機してて。ここなら簡単に手出しは出来ないからね」
ハイヒールをかけつつ落ち着くようにモフりと一撫でし諸悪の根源へと向き直る。
マザーアnト Lv7?
状態:????
HP:1,299/1,5XX MP:687/99Q
蟻型の魔物no頂点に立ツ存在。そノ大きさは様々で最大で体長1キロメートルに及ぶ個体mo存在した。その巨大ナ体躯から放たレる蟻酸は広範囲を汚染シ次々と産み出される兵隊は驚異以外の何者でもなイ。
というかまた微妙にバグってるし。識別先生の調子が悪いのかそれとも……。
高台から見下ろす巨大な蟻はノブサダの作り出した重力下でもなんら変わらず動いている。単純に力が強いだけなのか魔法の抵抗力が強いのか測りかねていた。だとすれば近づくのは得策ではない。そう判断したノブサダは次の一手を打ち始めた。
フッとグラビトンが解除されるともがいていたアイアンアント達は我先にと岩の柱へと向かい走り出した。ノブサダのいる場所から見ればまさに黒い絨毯のようであっただろう。
――波の谷間の命の華よ、波に揉まれ逆巻き咲き開け。全てを飲み込み母なる海へと還るがいい。
―― 凍えるその身に追い撃つようによされよされと雪が舞う。雪は舞いて風と共にあり。吹けよ荒べよ白銀の景色へ世界を変えよ
制御力を上げる為に修正した完成版鳴門海峡渦景色と風雪雪崩旅がノブサダの脳内で詠唱され組み上げられる。二つの改変魔法はその姿を変え一つの魔法として新たに産声を上げる。
「二呪混合! 津軽海峡大氷海!!」
ノブサダを中心に発生した大量の水が波となり柱を伝い広場内へと溢れていく。柱に取り付こうとしていたアイアンアント達はそれに抗うことも出来ずに飲み込まれていった。やがて広場いっぱいに広がる水の波。
砂に吸い込まれること無くまるで意思を持っているかの如く蟻達を蹂躙していった。
「ギギ、ギギギギ。タカダカコレシキノ水如キデェェェエ」
マザーアントは再び流砂を操り押し寄せている水へと対処しようとする。
だがそこで異変が起こる。もはや湖と化しつつある様相から一変。柱の付け根辺りからビキビキビキビキと一挙に凍り始めそれは広場全体へと伝う。マザーアントが操ろうとした砂ごと凍らせ氷の大地にその姿を変えていく。更にその上から水が走り巨大なマザーアントの体を徐々に徐々に氷が多い尽くしていった。既にアイアンアントたちは氷漬けになっている。
「バカナ! 身動キガトレヌ。柔肉ノ塊ゴトキガコレホドノ魔力ヲ持ツナド、オゴォ」
ノブサダの放った魔法はマザーアントの首から上のみを残し全てを凍りつかせた。砂に覆われた広場はあっという間に氷の大地へと変貌していたのである。
岩柱の上から飛び出しマザーアントの前に着地するノブサダ。
ズリッ
着地した瞬間、ずるりと滑って転んだのはご愛嬌である。
尻を押さえながらマザーアントへ向き直るノブサダ。
「さて喋れるなら丁度いい。どうせなら異変の張本人らしきのに話を聞こうか」
「馬鹿メ、素直ニ話ストデモ思ウタカ! 死ネェ」
マザーアントの口から勢いよく蟻酸が吐き出される。
が、それは空中でなにか透明なものに当たったかと思えばそのままマザーアントの胴体のほうへと流れていく。己の蟻酸でジュワアアと焼け爛れるマザーアント。
「キ、貴様、何ヲシタァア」
「教えてやらん!」
男らしくきっぱりと言い放つノブサダ。
降り立ってすぐだがノブサダはマザーアントの頭部周辺に球体の結界を張っている。内側のものが外へと出ないように。それ故、吐き出された蟻酸はマザーアントのほうへと流れていったのだ。
「まあ、素直に話すとは思ってないけれどもな。魔物が相手なら容赦なく使える魔法もあるんだがね」
魔力を練り上げ脳内で詠唱を組み上げる。
――田舎のお袋さん……元気だったよ。いい加減白状して楽になりな。カツ丼食うか?
「私がやりました」
これは以前ジャミトーへと使った自白用の呪いの改変魔法を完成させたものである。詠唱といい魔法名といいツッコミどころしかないが本人は真面目に考えているらしい……徹夜四日目に考えたらしいが。
マザーアントの顔の周囲が陽炎のように揺らいだかと思うとその目がどんよりと曇ったような気がする。
先ほどまでの覇気が失われとろんと揺れていた。
「お前はいつからここに住んでいる。先の乱流砂に関係しているのか?」
「ギギギ、我ガ生マレタノハ二月ホド前。流砂ノ波ハ我ガ住処ノ砂ヘト干渉シ狂ワセタ」
「たかが二ヶ月でこんなに成長したのか?」
「生マレテ七日目、奇妙ナ石ヲ見ツケタ。ソレニ触レタ瞬間、石ハ我ノ手ヲ取リ込ミ始メ同化シ気付ケバソレマデヨリモ一回リ大キクナッテイタ。ソレカラハタダタダ喰ライ産ミ、産ンダ子達ガ集メテクル魔物ヤ柔肉ヲ喰ライ更ニ成長シタ」
奇妙な石? 融合同化って最近聞いたばかりだがやはり関係あるのか?
「その石の特徴は? どこで手に入れた?」
「石ハ金色ノ……イヤ、アノ時ナニモノカニ渡サレタ? 違ウコレハ我ノ記憶ジャ、ガ、ガガガ、ギャアアアアアアアアアア」
マザーアントが叫びを上げた瞬間、その頭の所々から幾本もの金色の触手が突いて出てきた。
それはノブサダ目掛けて押し寄せる。
ドチュン、ドチュン、ドチュン
結界は突き破られ次々と襲い来る触手が後方へと下がるノブサダへ追いすがる。その数は時を進めるごとに増し現時点で百に届こうかという触手が溢れかえっていた。
「まったく気色の悪い。くっ、さっさと称号を変更しないと……」
キャアアアア
ノブサダの背後から悲鳴が木霊する。慌てて振り向けば金色の触手は氷の下を這い出し岩柱を登りミタマへと近づこうとしていた。
「しまった!」
慌てて飛び立つノブサダ。
ミタマにソレが飛びつこうとした瞬間、ノブサダが間に滑り込む。
「なんとぉぉぉぉ!」
月猫を振るい触手を切り裂く。だが息もつかせぬほど次々と襲い来る。
「なっ、くそ! グラビトン!」
重力にてその動きは僅かに減衰したものの触手は悠然と動いていた。だが多勢に無勢、やがて四肢を掴まれカラーンと月猫を取り落としてしまう。
そしてギュイギュイと体からなにかが抜けていくような倦怠感。以前も味わったことのある魔力を吸い出されているときの感覚だ。じわりじわりと捕まれる手首が焼け付くように痛い。
「……ノブ、ごめんね。私のせいで……」
ミタマもすでに触手に捕まり魔力を吸われているせいか顔色が悪い。
またか! また護れないのか!?
そんなノブサダの脳裏にフラッシュバックするある光景。
あの日、全てを流され失い一人立ち尽くすノブサダ。
●●●の背後から突き出される両手剣。それは心臓を貫きゴポリと血を吐く●●●。
せめて遺体だけでもと懸命に探し回るが誰一人として見つからない。
○○○○は目に涙をためつつ自ら己を封印した。何も出来なかった自分のせいだというのに。
遠縁の親戚すら無くし天涯孤独の身になる。
金髪の勇者との死闘。そして切り裂かれる己をどこか遠くから見ているものがいる。
『同調』が発動しました。
一時的に時空間魔法Lv9まで解放されます。
一時的に刀術Lv9まで解放されます。
一時的に魔力纏Lv9まで解放されます。
「『これ以上、失ってたまるかぁぁぁぁぁぁ!!』」
ノブサダが吼える。
纏った魔力は硬質化し腕を振るえば先ほどまでいいようにされていた触手を細切れに切り裂く。
「『いつまで俺の大切な人に絡み付いている!』」
両手を振るい爪のような魔力纏が次々と触手を切り裂いていく。細切れになった触手の中からミタマを抱えだすと時空間魔法の『空間転移』を使いその場から消え去った。
出現した先は触手の影響下に無い離れた場所。ミタマを降ろすとすぐ様戻るべく背を向る。
おぼろげな意識の中、ミタマが見たものは先ほどまでと違うノブサダの後姿だった。
「……綺麗な……銀色……」
そう、ノブサダの髪の左半分が銀髪になり左目は紫に輝いていた。150センチメートルそこそこしかなかった身長は180センチメートルを超える偉丈夫に変わり纏う魔力も濃厚で周囲の空気が歪むほどである。
フシュンと再び空間転移で消え去れば広間の中央へと現れる。
それを期に再び濃厚な魔力を吸収すべく触手が一斉に踊りかかった。
ノブサダはそれを次々と細切れにしていく。まるで魔力纏がこうあるべきと分かっているかのように使いこなして。
「『ちまちまやってられん。物質転移!』」
物を瞬時に取り寄せる時空間魔法を使い引き寄せたのは月猫。
「『月猫、いつまで猫を被っている。そろそろ起きろ!』」
ニャアアアアアアン
猫の鳴き声が響いたと思えばノブサダの魔力を吸い込みながら刀身は青白く輝き小さく甲高い音を上げた。月猫の波紋が波打つ魔力を吐き出しながら揺らめいている。
するりと流れるように振れば近づく触手がバラバラと刻まれ氷の上へと落ちた。
だが、それらは再び一つに纏まり触手の形を成す。刻まれつつも周囲へ放たれている俺の魔力を喰らい再生しているようだ。どうやら元から断たないと駄目らしい。
ならば……。
月猫を一旦鞘へと戻し深く構えるノブサダ。ふうっっと一息吐くと同時にそれを発動した。
「『武技・七天抜刀!!』」
鞘から引き抜かれた刃から七匹の龍が飛び立ち触手を喰らいながらマザーアントへと一斉に襲い掛かる。
異端の伝書に記される武技へと封印されし七匹の龍。
火を司りし焔龍・火薙
水を司りし霧龍・水薙
風を司りし嵐龍・風薙
土を司りし轟龍・土薙
光を司りし聖龍・光薙
闇を司りし冥龍・闇薙
力そのものを司りし帝龍・神薙
各々が属性を身に纏いマザーアント目掛けて襲い掛かる龍たち。解き放たれたその龍の顎に喰らいつかれ触手の抵抗も虚しく触れた瞬間から塵へと化していく。
かつて魔王が放ったといわれるその武技は一片の肉すら残さずマザーアントを消滅させた。マザーアントの消滅とともに龍たちも姿を消す。
それを確認したところでがくりと膝から崩れ落ち俺の意識は暗転した。
トゥルースセラムはまんま自白剤の意味です。




