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新説・のぶさん異世界記  作者: ことぶきわたる
第五章 そうだ! ダンジョンへ行こう!!
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第112話 迷宮旋風


 シルバーアントから繰り出される技はかつてミタマが師事を受け尊敬していたマルチダの技そのものであった。考えたくもないが女王蟻の言う腹を使って産ませると強い固体が生まれる。その冒険者の経験を継承してしまうのではないだろうか。


 まともに受けたら新調したばかりのこの短刀でも無事にはすまないかもしれないと思いつつ避け滑らすように受け流し反撃の機会を窺っていた。これだと思う瞬間、切りかかっても着かず離れず行動しているメタルアントに攻撃を阻まれてしまう。


 そのコンビネーションもまたかの夫婦が得意としたものでミタマは知らず知らずの内にギリっと歯噛みをしていた。


 ミタマの持ち味は勿論素早い動きにて相手を翻弄すること。それを生かせない今の状況下において彼女がとりうる手段はとにかく冷静に相手を分析しその隙を突くことだった。


 そして彼女の切り札はあと二つ。いずれも先ほどのアイアンアントを狩り続けるうちに習得したものである。


 それを生かすために二匹の蟻の動き、足運び、癖、それらを見極め記憶していく。


 ギリギリの体力の中、それでもミタマの目から光が消えることはなく、そして反撃の兆しを見せた。



 シルバーアントが魔剣を振りかぶった瞬間、一呼吸の間に隠し持っていたナイフに持ち替えそれを投げ打つ。メタルアントは切れ味の良い魔霊銀の短刀を投げつけられたと錯覚しシルバーアントとミタマの間に躍り出た。


 二つの大盾でガッチリと防御されキインと弾かれるナイフ。


 この際、一時的にとはいえメタルアントの視覚は塞がれており背後にいるシルバーアントも同様である。

 そしてミタマはすでに動いていた。ぼそりと何かを呟くとその姿が掻き消える。


 しるしとしたナイフが当たった大盾。瞬時にその位置まで転移・・したミタマはその大盾の下へ屈んだかのような格好から技を繰り出す。


「……ウェポンスキル『シャープエッジ』……」


 足への隙間目掛けて魔霊銀の短刀が振るわれた。ウェポンスキルによって更に鋭さを増したその刃はメタルアントの両足を寸断する。


 急にバランスが崩れ何事かと慌てるも動いたことで足首から先が離れ尻餅をつく形で倒れこむメタルアント。痛覚が無いのかそのまま動こうとするもそれを待っているミタマではない。既にその場から離れ距離をとっていた。



 魔霊銀の短刀は一風変わった特性を持っている。それは片手刀でありながら短剣でもあるということ。それは両方の技を十全に繰り出せるということだ。


 そして先に繰り出した転移。それは彼女が習得した忍術によるものである。

 ノブサダよりも適性が高いのか下忍の時点での忍術習得である。何匹目か分からないがアイアンアントを屠った際に無機質なアナウンスがミタマの脳裏に走った。


『忍術Lv1 飛天を習得』


 それは印とするモノに魔力を送りそれを当てることでマーキングする。一度限りだがその物のそばへと瞬間的に移動するという忍術。ものすごく有用な術だがこれを使うには印をつけるにも移動するにもかなりの魔力を必要とするのだ。ミタマが平然と使えるのはノブサダからの魔力供与ありきである。それとミタマは知る由もないことであるがこの忍術、とある忍びの里の奥義だったりするのであった。ノブサダの『震刀・滅却』同様、見付かれば困ること請け合いである。



 這いずる様に忙しなく動くメタルアント。

 シルバーアントは同胞のそんな姿を煩わしげに見つめ……ぐしゃりとその頭を踏み潰した。

 そしてぶるっと何か震えたかと思うとミタマを無機質な目で見据える。


「ギギギ、オマエツヨイ。ワタシオマエキリサキトラエル。母上ヨロコビワタシ肉クラウ。ギ、ギギギギギ」


 下顎を鳴らし喋り出したシルバーアント。メタルアントにトドメを刺したということで進化したのだろう。その事実にミタマは驚きつつもやることは変わらないと泳ぐ目線をシルバーアントに向け直す。先ほど整えたばかりの息は荒い。技を放ててもあと一撃がいいところだろう。


 ……フーッ、フーッ



 先に動いたのはシルバーアント。先ほどまでの大振りから一転細かく突きながらミタマを攻め立てる。


 キンキン、キィン、シュザッ


 捌ききれない剣戟がミタマの頬を切り裂く。


「ギギギ、ドウシタ。攻メテコナイカ」


 余裕を見せ挑発するもミタマは至極冷静である。最小限の動きで的確に捌いている。自分が傷つくのを恐れず敢えて受けている傷すらある。


 ズリッ


 不意にシルバーアントの体がバランスを崩した。その足元には先ほどメタルアントが落とした大盾がある。


「……今!」


 左手から魔霊銀の短刀がシルバーアントに向かって投げられた。ミタマの尻尾が跳ね上げられ一気に攻勢にでるつもりらしい。


 シルバーアントはバランスを崩したと思いきやすぐに建て直し魔剣で弾く。巧みにミタマの攻撃を誘ったらしい。


「……『飛天』!」


 それでもミタマは術を発動する。弾いたその場でシルバーアントが振りかぶっているにも関わらず。


「ギギ。ソレハサッキ見タ。ココニ飛ブノダロウ? マズハ右手カラ斬リ落トソウ、ガウァッ!?」


「……武技『鋼氣刀雷《こうきとうらい』」


 確かにミタマは飛天で跳んだ。ただその出現位置がシルバーアントの目論見とは違っていた。


 ミタマが跳んだその先はシルバーアントの背後。そこには尻尾に持っていたはずの短剣が地面に突き立っている。魔霊銀の短刀は囮で印として放っていたのは尻尾に掴んでいた短剣だった。投げる動作と共に尻尾で背後へと高めに放っていたのだ。そしてそのまま一気呵成に片手刀の武技を発動する。鋭さを増しさらには雷まで纏った魔霊銀の短刀はシルバーアントの延髄へと突き刺さった。瞬間、甲殻を伝って雷が流れたのかビクビクンと痙攣し、やがて内臓の焼け付く臭いが漏れ出してくる。


「……これで終わり」


 ミタマはそのまま短刀を横薙ぎしシルバーアントの首を切り落とした。



 同時に彼女も膝をつきその場に崩れ落ちる。もはや汗も出てこないほどミタマは疲弊していた。だがあと一匹。それも尋常じゃない相手が残っている。どうするどうすると思考を巡らせているところ、女王蟻がパシンパシンと前足を打ち合わせている。拍手のつもりだろうかといぶかしむミタマ。


「ギ、ギギ、面白イ。マサカ、アレラガ敗北スルトハ思ワナカッタ。オ前ノ戦イ方、欲シイナ」


 そう言い放ったあと下腹部がガパリと開きそこにはなにやら肌色の肉壁が見える。


 目を凝らしてソレをミタマは絶句する。




 そこには人間の下腹部と思わしきものがいくつも取り込まれていた。男女関わりなく取り込まれていて時折ひくんひくんと動いていることから半ば同化しているのだろう。先ほどの言葉である程度の予測はついていたものの実際に目の当たりにすると吐き気をもよおすほどおぞましかった。


「コレラハアト数回モ使エバ壊レルダロウ。ダガオ前トイウ新タナ苗床ガ手ニ入ルナラバ問題ハアルマイテ」


 そしてさらにミタマを追い込む光景が展開された。


「サア再ビ産マレ出デヨ」


 取り込まれている下腹部がビクリと痙攣するとそこからゴトンと卵が転げ落ちる。どこからか染み出した黄金色の粘体が卵を覆うとありえない速度で巨大化していった。やがて2メートルほどのサイズまで大きくなったソレはビキビキと音を立てて割れ始める。そこから顔をだしたのは……なんと先ほど屠ったばかりのシルバーアントだった。


 さらには女王蟻の背後にあった無数の卵が次々と孵化し始めアイアンアントが続々と並び立っている。

 その数たるや200を超えるだろう。

 そしてシルバーアントを先頭にそれらがザッザッザッとミタマ目掛けて進んできた。



 その光景を見て……ミタマの心は折れかける。



「……ノブ……助けて……」



 か細いその声は一縷の望みを賭けて放たれたのだろう。








「グラビトン!!!」


 その声に応えるかのように待ち人の声が蟻の巣に木霊する。


 放たれた魔法は一面の蟻をグシャリと叩き潰し身動きをとらせない。

 宙を駆けスタっとミタマの目前に降り立ちニカリと笑みを浮かべる。


「端から端へ行く人の依頼背負って魔物の始末。愛する人のお呼びとあらばダンジョンの壁もなんのその、俺、即参上!」


「ギギギギ、何者ダ貴様ァァァ」


「貴様なんぞに名乗る名前はない!! よくもまあ俺の大事なミタマに変なもの見せ付けてくれたりしやがって。今、俺の怒りは有頂天だ、こんちくしょう!」

有頂天のくだりは誤字ではないのです。

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