第110話 ミタマを追って
あらすじ?
タマちゃんを置いて壁を破壊するボン○ーマンになれた……っていう夢を見た。
「あ、ノブ君。丁度いいところに。一人意識が戻ったで」
『ブーンブーン』の中へ戻るとフツノさんが朗報を届けてくれる。おお、それは良きかな良きかな。
状態の良かったスーズィーさんが意識を取り戻しぺこりと頭を下げた。まだ体は横になったままだが。
「助がりました。わっちはスーズィー。あんだらは噂のイズミノカミの面々だって聞いておどろいたべな。いやいや、鉄血のエレノアを射止めたっちゅうお人だけん、前からよく噂に上ってたべな。あ、話かだっすか? 子供の時分に色々と旅をさせられたっけこげな風に方言が混ざってしまったっちゃよ」
随分と愉快な人らしい、うん。ちょっとクセのある赤毛を三つ編みにした純朴そうな女性だ。それにしてもエレノアさんの呼び名はまだあったのか。
「なんぬすてもまんずありがとごぜなす。あと、エレノアはわっちの大事な友人ですけん泣かせたりしたらだめですよってにな」
発する無言の圧力。
あ、はい。それは勿論。寧ろ俺が色々と鳴かされて、いえ、なんでもありません。
「エレノアさんのご友人が無事で良かったです。少しこちらからも伺いたい事があるんですがよろしいですか?」
こくりと頷きなにやら覚悟を決めた目でこちらを見つめる。
「まず、護衛の方がいると聞いていたのですがその方々はどこに?」
「まんず2週間くらいした時だべか。護衛のうち2人が一向に止む気配のない乱流砂に痺れを切らして周囲の探索に向かったきり戻ってこねがったなす。のごった二人とわっちら三人で協力してなんとか耐え凌いでいたんだども食料の不安がでてきたんだでば。意を決した護衛の二人ば食材を落どす砂蛇とサボルッテンダーを探しに外さでだんだげっちょも……」
この分だと生存は絶望的だな。それにしても他の種類の魔物はいるはずなのか。だが空間把握を広げてみるもアイアンアントらしき姿しか見当たらない。一体、何が起きているのだろうか。
「この3日間、ここ周辺の魔物を間引きしていたのですがアイアンアントかスチールアントしか遭遇していません。以前はこんな状態でしたか?」
「いんや、アイアンアントは確かに多かったけんども比率で言えば5割いがないくらいだべ。わっちもここの担当になって3年になっぺがこげなことば初めてだなっす」
そうか、やっぱり異常事態なのかもしれない。一度街に戻ろうにもまだ意識の戻らない二人と弱ったスーズィーさんを連れて行くのは危険が大きい。幸い俺達で対処できているし食料も1年は持つほど持ってきている。もう少し様子を見てからにするか。
「分かりました。とりあえず3人がもう少し回復するまでここに逗留することにしましょう。食材や水は十分持ってきているのでスーズィーさんはゆっくり休んで回復に専念してください。調子の良いときにもう少しお話を伺うかもしれませんが」
「分がったっす。んだば申す訳ねえげっちょ、休ませでもらいまっす」
結構無理していたのだろう。横になってすぐすーすーと寝息が聞こえてきた。
夕食の鍋を囲みながら4人で今後の方針を決めようと話を振れば皆一様に渋い顔をしていた。
「んー、なんやきな臭い話になってきた気がするわ。あん人らの意識が戻り次第一旦戻ったほうがええんやない?」
「それに妾も賛成じゃな。昼過ぎにミタマとここ周辺を偵察してきたがおるのは蟻蟻蟻じゃ。先ほどスーズィー殿が言うておった魔物の姿かたちも見えん」
「……それにこのアイアンアントの数は異常。夜の間はなぜか大人しいけれど間引けども間引けども一向に減る気配がない」
「そうだな。あの二人の意識が戻り次第、街へ帰ろう。そもそも俺達より先に出たはずの先発隊が姿を見せないっていうのもおかしい。ミタマ達の知り合いで実力は折り紙つき、9Fに来るのもさして問題ないはずなのにだ」
結局、決まったことは今までと変わらず。
夜の間は俺が『ブーンブーン』を覆う結界を張っているのだが先ほどミタマが言ったとおり襲ってくる雰囲気がない。油断せず毎夜張ってはいるがどうなってるのだろうか。情報が少なすぎて判断もできやしないな。
翌日。俺とミタマはルーチンワークとなりつつあるアイアンアントの殲滅に精を出していた。
ミタマのセカンドクラスはすでに下忍になっている。それはそうだろう、連日これだけ狩っていれば15はすぐである。シーフさんお疲れ様。
俺は俺で幻術を試してみたのだが蟻相手にはどうにも効いているんだかわからない。ウズメの幻影を走らせれば蟻は気づきはするのだが向かってくるのは俺にである。うーむ、猿でも分かる幻術の巻物とかないもんだろうか。
しかし、これだけ狩っているとドロップアイテムを回収するのも飽きてくるな。俺とミタマが組むとドロップの確立が目に見えて上昇しているのが良く分かる。これ白米号何台分になるかねぇ。ある程度売ったら俺も魔工で加工してみるのもありかもしれんな。あるだけギルドなどに流してたら絶対に相場が崩れるどころか爆発炎上するだろうし。
「ミタマ。ちょっと休憩しようか」
「……ん」
壁を背に結界を張ってどっこらしょいと座り込む。いやあ、若返ろうとも一度おっさん色に染まったらどうしてもどっこらしょとか言わずとも思ってしまうな。
本日のおやつはレーズンパイとミルクセーキ。サックリしっとり、甘さ控え目で小腹が空いたときにはいいもんだ。
「……ん~♪」
さくさくさくさく。すでに二人分をぺろりと平らげているミタマ。幸せそうな顔である。
「ミタマ、武器の使い勝手はどう?」
「……ん、いい感じ。すごく手に馴染んでる。切れ味も今まで使ってたのがナマクラに思えるほど」
ミタマ先生の太鼓判いただきました。先ほどまで両手に持ってスパンスパンとアイアンアントの甲殻を切り裂いていたもんね。壁に寄りかかるミタマは満足そうににっこり笑っている。
「……ふう、美味しかった……えっ?」
ガゴン
不意にミタマの声と何かが動く音がして後ろを振り向く。俺の目に入ったのは寄りかかっていたはずの壁がなくなり倒れこむように背後へ消える彼女だった。
「……ノブ!?」
ゴガン
すぐに手を伸ばすもそれを遮断するかのように壁がせり上がりミタマの姿を隠す。ちらりと見えたのは河の如く流れる流砂。
「ミタマっ!」
壁を叩きつけるもびくともしない。
焦る気持ちを押さえ壁に向かってフレアボムを連発する。
爆裂音が流砂洞内に響き渡る。爆煙が消え去ったその壁には傷一つすらついていない。
そういえばいつぞやフツノさんが言ってたか。「ダンジョン内部の壁はそうそう傷つかへんよ。うちが聞いたことあるんは魔鉄鋼やら伝説金属で作った武器なら傷つけられたって話やわ」って。
つまりそれくらいの威力を叩き出せれば壊せるってことだ。
「ロックハンドスマーーーッシュ、バージョンドリル!!」
キイイイイイイイイ
俺の形成したドリルのほうが削れていくのを魔力が修復していく。完全に力負けしてやがる。まだまだぁぁぁ。
「チェーンジアイアン! スイッチヴォン」
ギイイイイイイイイン
サーチメタルや魔工の修行で金属の扱いを熟知した。それに伴なって岩の塊だったドリルを根元から黒光りする鉄の塊へと変化させていく。ガリガリガリとほんの僅かだが削れていくダンジョン壁。だがこれじゃいつまでかかるか分かったもんじゃない。空間把握により得られるミタマの位置がどんどんと離れていく。マップの外へと。隠しマップだかなんだか分からないが時間がない!
「もっと、もっとだぁぁぁ! 魔鉄鋼だか伝説金属だか伝説巨人だか分からんがなんでもいい! 惚れた女を助ける為ならどんだけ魔力を注ぎこもうが構わん! ぶち抜けぇぇぇぇぇ!」
ありったけの魔力を注ぎ込みドリルを強化する。黒光りしていた鉄のドリルが光沢を失い深遠な凄みを持つ漆黒の金属塊へと変化していった。
ビキリ!
ビキビキビキビキ
突き立つドリルの先を中心に壁へヒビが走る。俺はここが正念場とばかりに『高機動兵装』を併用し加速をつけてこれでもかとドリルをねじ込んでいく。
ガキイイイン
ガラガラガラ
何かが突き抜けた音と共にガラガラと壁に人一人が通り抜けれそうな穴が開通する。
右手に形成されたドリルはそれと共に消し去った。得体の知れない金属へと変化したドリルだったがもはや維持するのもしんどかったのだ。無理矢理つぎ込んだ魔力はおよそ総量の8割以上を消費していた。
腰のベルトから試作品のマナポーション改を取り出して一気飲みしすぐさま壁の外へと躍り出る。
そこは流砂の大河。『高機動兵装』で流砂の上を滑り突き進む。
ミタマ! 必ず助けるからな!!




